二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.94 )
- 日時: 2020/03/22 22:05
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: ktd2gwmh)
桜よ、彼女を攫わないで
事の発端は、容易な約束だった。
『次の出撃時、頑張ったらどこへでも付き合ってやる』
元々、ネリネが不安がっていたのを少しでも気を軽くしてやろうとした、それだけだった。しかしネリネはそれに喜んでいつも以上の成果を上げた。まさか頑張りはするだろうがそこまでになるとは思っていなかった不動は少しだけ驚いていたらしい。
とは言え、約束は約束。不動はネリネがどこへ行こうとも黙って着いていくと決めていた。
ネリネが提案したのは、デートスポット、そしてお花見スポットとして有名な公園だった。
「…………」
「け、結構埋まっちゃってますね……」
当日。ネリネは大きめのバスケットを持って、不動は飲み物が入った水筒とコップの入った袋を持って立っていた。
どこを見渡しても、人、人、人。近くには屋台があり、食べ物にも飲み物にも困らない。ほとんどは酒を片手に上機嫌だったり、スマホ片手に『映え』を目指していたり。ネリネと不動が座れるような場所は見当たらない。
「うう〜……ごめんなさい不動さん、私、場所取りしておけばよかったですね……」
「別に構わねえよ。……おい、こっち来い」
「えっ?」
不動がネリネの手を取り、そのまま歩き出す。突然手を握られたことにドギマギしながらもネリネは彼の後を着いていくことにした。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.95 )
- 日時: 2020/03/22 22:12
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: ktd2gwmh)
「わぁああ……すごいです!」
不動がネリネを連れてきたのは、桜の天井、とも言えるほどに桜が咲き誇っている場所だった。こんな良い場所なのに、人はほとんどいない。いたとしてもゆったりと歩く人くらいなものだ。
「こんなに素敵な場所なのに、どうして誰も来ていないんでしょう?」
「ここは地面が少しデコボコしてるんだよ。立ってたり歩いてるくらいなら気にならねえけど、座るとなるとまた別なんだろ。ほら、そこにベンチあるだろ。そこに座るぞ」
不動がそう言って近くにあるベンチに腰掛ける。ネリネもその隣に腰掛けた。
「じゃあ早速……じゃーん! ネリネ特製サンドイッチです!」
バスケットの中身を見せながらネリネは少し期待していた。ほんの少しの言葉だ。
「美味しそうだ」「見た目が綺麗だ」、そんな程度の言葉。
「ふーん……これ、菜の花か?」
「はい、エミヤさんに教わって作ってみたんです」
「へえ」
いくつか種類がある中で不動が手に取ったのは菜の花のサンドイッチ。定番のサンドイッチもいいが何か春らしい物を取り入れたいと考えていた時に彼に教えてもらったものだ。
不動はそれを手に取り、口に運ぶ。
「ん、美味い」
「! 本当ですか!? えへへ、良かったぁ!
まだまだありますから、どんどん食べてくださいね!」
「おう」
ネリネがついにこにこと不動が食べるのを見続けていると、不動がじとり、とこちらを見た。どうしたのだろうと首を傾げる。
「……お前は食わねえのかよ」
「あっ! そ、そうでした、忘れちゃいました……」
慌てて一つ、シンプルなハムとレタスのサンドイッチを取り、口に入れる。シャキシャキとしたレタスの食感がいい。ハムの美味しさが口に広がる。
そっと不動が差し出した物を見れば、水筒に入っていた紅茶がコップに入れられて緩やかに湯気を立ち上らせていた。ありがとうございます、とそれを受け取れば手にじんわりと温かさが伝わる。
ふぅ、ふぅ、と少し冷ましてから紅茶を一口飲む。紅茶の香りが鼻をくすぐった。
「美味しいですね……」
「俺は甘酒の方がいいけどなぁ〜」
「もう、不動さんってば!」
サンドイッチ片手に、いつの間にか持ってきていた甘酒をぐいと喉に流し込んでいる。多分、コップと一緒に袋に入れてきていたのだろう。
それでも、ネリネにとっては不動と一緒にいられるというのが何よりも幸せなことだった。もう、とむくれながらも心は温かい。
ひらひらと舞う桜を見ながら、このひと時を満喫する。少し離れた場所から人々の笑い声が聞こえてきて、何だかこっちまで楽しくなってきた。
時折少し話して、ゆっくりとサンドイッチを食べながら緩やかに流れる時間を過ごす。
「……ん? もうなくなっちまってる」
「あ、本当ですね……。うーん、ジャムを挟んだサンドイッチとかも、作ってくれば良かったかもしれないですね」
「別にいいだろぉ。……食いてえのか?」
「あっ、いえ! そういうわけではないんです!」
本音を言えば、もう少しあればそれを口実に不動を引き止められた。だが何を考えていようがもう何もない。残念だが、これでお開きだろう。
せめてゆっくりと歩いて帰れば、その分彼といられる。不動がさっさと歩いていかなければ、の話だが。
「……少し待ってろ」
「えっ、あの、不動さん!?」
ネリネが慌てながら止めようとするが彼は何処かへ行ってしまった。普段甘酒浸りでも、根は真面目な彼のことだからネリネを置いて帰ったりはしないだろうが、一体何処へ向かったのだろう。
しかしここで動いて合流できないまま不動がここに戻ってきたら。そう考えてネリネはそこで待つことにした。
さぁあ、と桜の花びらが舞う。それを見上げながら。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.96 )
- 日時: 2020/03/22 22:17
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: ktd2gwmh)
さて、不動はと言えば。
「クレープ二つ。っと、味は……聞いてくれば良かったな。あー……とりあえず、イチゴソースとチョコバナナで」
ネリネは甘いものが食べたかったのだろうと勘違いした彼は屋台でクレープを買っていた。持ってきている飲み物は紅茶だし、合わなくはないだろう。事前に見つけておいてよかった、なんて思いながら代金を渡し、クレープが出来上がるのを待つ。
しかし甘いものが食べたかったのに作り忘れるとは、ドジなやつ、なんて思いながら人々が騒いでいる方向を見る。正直、ネリネが場所取りを忘れていて良かったと思う。……ここにネリネがいたら、一体どれだけ騙されることか!
酒に酔った輩が彼女に酌をさせようとするかもしれない。それが花見のルールだ、なんて言われてネリネがそれを信じるのが容易に想像できる。最悪の場合、酔った振りをして近付き、疑うことのない彼女をあっさり丸め込む輩もいるかもしれない。
人間相手なら充分不動が対応できるが、あのネリネだ。悪人と決めつけるのは良くない、なんて言うに決まっている。
「(それに)」
……何故かは分からないが、二人きりの時間を邪魔されたくないと思ってしまう。だから、ネリネが場所取りをしてなかったと聞いたときは内心ほっとしていた。
とは言えだ、あちらに酔っ払いが行かないとも限らない。なるべく早く戻るべきだと考えていたらクレープが出来上がったらしい。丁寧に一つずつ袋に包み、その上でまた袋に入れてくれていた。それを受け取り、早足で戻る。
戻ればネリネはあのベンチの近くで、立って桜を見上げていた。周りに酔っ払いの姿も彼女を騙そうとしている輩の姿もなくほっと息を吐いた。
もう一度彼女を見て、つい見惚れる。
桜の淡いピンク色と、ネリネの水色の髪。儚く見えて、それでいて美しい。まるで一つの絵のようだ。
そっとネリネが、長く伸びた枝に手を伸ばす。その先に、桜の精霊でもいそうだ。けれど不動はダメだ、と思いながら少し走って、その手を握った。
「不動さん……?」
「……」
「あの、どうかしましたか?」
「え、あ……その。……お前が、桜に、攫われそうだったから」
「え?」
桜に攫われる、というのは都市伝説らしい。らしいと言うのは主に聞いてみたところ「なんかあるらしいね、私も詳しく知らないんだけど都市伝説なんじゃない?」という返答をもらったからだ。
不動はそれまでなんだそりゃ、と思っていたのだが、今のネリネを見て分かった。ああ、桜に攫われそうというのはこういうことなのかと。
今は不動が握っている手が桜の枝に伸びていた時、まるで桜の木の精霊に手を差し出されて、それを取ろうとしているように見えてしまったのだ。そんなもの、いやしないのに。
「もしかして、この桜の木に精霊さんが宿っているんですか? でも、大丈夫ですよ不動さん!
精霊さんが、悪いことなんてするはずないです! 万が一攫われても」
そこで一旦言葉を切り、ネリネは満面の笑みで言い切った。
「不動さんの所に戻りたいですって言えば、きっと戻してくれます!」
「……っとに、お前なぁ……!」
普通、そこは『元の世界』とか、『元の場所』とかだろうに。何故自分の所と言うのか。顔が赤くなったのが自分でも分かり、そっぽを向く。
ネリネは自分が何を言ったのか理解できていなかったのか首を傾げたが、すぐに気が付いたのか一気に顔を赤くした。
「あっ、あの、その! ええと、その、違くて、あ、いえ違くはないんですけど!!」
「あーもういいもういい! ほら!」
慌てるネリネの前に袋を突き出す。ふんわりと香る甘い匂いに癒される。
「えっ、こ、これ、クレープ、ですか?」
「……おう。食べたかったんだろ、甘いもん」
「不動さん……えへへ、ありがとうございます!
じゃあ、一緒に食べましょう!」
「言っとくけどなぁ、テキトーに買ってきたから文句言うなよぉ。
……苺のやつと、バナナのやつどっちがいい」
「えっ、迷っちゃいますね……じゃあ、苺の頂いてもいいですか? それで、お互い一口ずつ交換しませんか?」
「……お前がいいんならいいけどよ」
「ふふふ、やったぁ♪」
またベンチに戻り、二人でクレープを食べ始める。穏やかな時間は、ゆっくりと流れ続けた。
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