二次創作小説(新・総合)
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.39 )
- 日時: 2019/04/13 13:53
- 名前: 内倉水火 (ID: fhP2fUVm)
暖かな日光が、窓の外から差し込まれてくる。
その心地よい明るさに、松田名作はそっと目を開いた。
先程床に就いたばかりと思っていたのに、もう朝がきた。昨日も無茶苦茶な1日だったから、夢を見る間もなかったのだろう。勝手に納得しながら、布団から身体を起こす。
いつものオーバーオールに着替え、いつもの帽子を被る。脱いだパジャマはしっかり畳んで、いつもの定位置に置いておく。4月から8年生になったが、この作業は今までと変わらない。
粛々と朝の作業を終えた名作は、朝食をとる為に、階段を下りていった。
自分の部屋と同じく明るい茶の間では、やはりいつも通り美味しそうな朝食が待ち構えていた。今日はジャムを塗ったトーストとコーンスープ。いただきます、と手を合わせると、大きく口を開けてトーストにかじりついた。
トーストとスープを交互に味わっていると、オーバーオールのポケットに入れていたスマホが、ピロン、とその存在を主張する。どうやら、LINEの通知が来たようだった。
残ったトーストの耳を口に入れてしまうと、名作はスマホを取り出して、送られて来た通知の確認を始めた。
『桜綺麗だから、皆でお花見しようよ!』
熊のスタンプと共にそう送ってきたのは、親友の御尻川スウィーツだった。まだ名作が目覚めたばかりの時間から提案をしてくるとは、彼らしいと言えば彼らしい。
確かに明日は学校も休みだし、丁度良いだろう。『いいね』と賛同の言葉を返そうとした名作だったが、続けて送られた文章に、送信ボタンを押そうとした手が止まる。
『という訳で、名作は今から広場で場所取りね!』
「いや、今から!? しかも場所取り!?」
その場で驚かざるを得なかったが、同時にこうしてはいられない、と思う名作。
急いで玄関で靴を引っ掛け、広場へと駆けて行った。
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.40 )
- 日時: 2019/04/14 14:01
- 名前: 内倉水火 (ID: w93.1umH)
靴をきちんと履かないまま、名作は行きつけの広場に辿り着いた。
ここの広場は、毎年桜が綺麗に咲く、竜宮町一を誇る花見スポットであった。今年も、優しいピンクに染まった花々が満開となって、花見にやって来る人を迎え入れる。
しかし、その桜を見るより先に、名作の身体は酸素を要した。ついでに脇腹も痛む。少し走り過ぎたかと後悔しつつ、深呼吸をした。
落ち着いた所で、改めて顔を上げると、満開の桜の美しさに心を奪われる。
溢れんばかりに枝に咲いた桜は勿論、風に吹かれてはらりはらりと散っていく花弁も秀麗である。まるで祝福の紙吹雪のようだった。何に対する祝福かは分からないが。
名作は花見にうってつけの場所を探すついで、皆より早めに桜を眺める事にした。
「わぁ、大きい…!」
暫く歩いた後、目前に見えたそれに、思わず感嘆の声を上げる。
それは、周りより一回りも二回りも大きな、立派な桜の木だった。大きさに負けず劣らず、花も多く、色だって鮮やかだ。
ここを集合場所にしようかと考えた名作だったが、その木の下には先客が座っていた。
パーカーを着て、青一色の電子端末を眺める彼には、確かに見覚えがあった。その事に気付くと、彼に声を掛ける。
「あの、奏助さんですよね?」
「え? あ、名作くん!」
彼_神楽奏助は、電子端末から目を離すと、驚いた様子だった。きっと、こんな場所で名作と出会うなど思いもしなかったのだろう。
彼は、よく音羽館に入り浸る男子高校生だ。名作から見ても少し頭の弱そうな少年。それが奏助だった。お陰で、館の面々からも良い様に扱われているらしい。
「あの、もしかして、奏助さんも場所取りですか?」
1つ尋ねる。館の面々に押し付けられ、ここにいるものと考えたのだ。
少し失礼かとも思ったが、奏助ならば気兼ねなく答えてくれるだろう。それに、自分も同じ立場なのだし。
すると、奏助は一度首を横に振ってにやりと笑む。
「んな訳ないっしょ? 未来のビッグミュージシャンとなる俺だから、このビッグな桜を1人で味わ…」
「名作さんの言う通り、単なる場所取りです」
何処からか聞こえた声が、奏助の声を遮る。その声正体とは_。
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.41 )
- 日時: 2019/04/15 17:22
- 名前: 内倉水火 (ID: w93.1umH)
『単なる場所取りです』_その一言で話を遮られた奏助は、先程まで見せていた笑顔を消し、思い切り眉を寄せて、自身の手元にある電子端末を睨み付ける。
釣られて名作も端末を覗き込むと、画面には可愛らしい顔が表示されていた。
『リストさんの言い付けを断れず、朝5時からここにいるんですよ』
自分を睨む持ち主を馬鹿にするように続けたのは、この端末にプログラムされたAI、パッド君だった。よく奏助にためになる話をしているが、会話の大半は、奏助への毒舌マシンガンである。嫌な性格のAIなのだ。
しかし、パッド君の話による光景は、名作にも安易に想像出来た。
何かと館の住人から使い走りにされる彼だ、恐らく気の強いリストには、特に逆らえないだろう。
年下からも無礼な想像をされているとも知らない奏助だったが、目の前の相棒には不満たらたらであった。
「本当、パッド君は一言も二言も余計なんだよ。こんなでっかい桜確保出来たんだから、少し位褒めてくれたって良いじゃん」
『まぁ良くやりましたよ、奏助にしては』
「また言った!」
会話を聞けば、奏助が如何にナメられているかが透けて見えた。
仲間からの扱いはあまり良くない名作だったが、たまに彼のようにはなりたくないとさえ思ってしまう。
やはり失礼な考えを持たれているにも関わらず、奏助は再び、1人の小学生に笑ってみせた。今度は妄想や自慢の匂いはしない、年相応の爽やかな笑みだ。
「そういえば、名作くんも場所取り?」
「まぁ、はい」
「…ならさ、俺達と合同で花見しようぜ! その方が楽しいし!」
それは明らかに、花見への誘いだった。
参加メンバーはかなりの大所帯となるだろうが、花見は大勢でわちゃわちゃやる方が、ずっと楽しいだろう。
その誘いに二つ返事で答えた名作は、直ぐ様グループラインのスウィーツ達に、その事を報告した。
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.42 )
- 日時: 2019/04/16 17:07
- 名前: 内倉水火 (ID: w93.1umH)
連絡を入れて間もなく、桜の大樹の元に次々と、友人達が集まって来た。
「おーい、名作ー! 奏助さーん!」
「今年も綺麗に咲いたわねぇ…」
「花見日和だな、今日は!」
此方の姿を発見して、楽しそうに駆けて来る者もいれば、絶景の桜に見惚れながら歩いて来る者もいた。中には、準備に張り切り過ぎたのか、重たげな荷物を引っ張ってくる者まで。
竜宮小の仲良しグループと、音羽館の住人達。この2組が集まると、特大サイズだったレジャーシートは、あっという間に満員となった。
全員が集まった所を確認すると、音羽歌苗は全員に紙コップを配り、それにオレンジジュースをなみなみと注ぎ始めた。これで乾杯の挨拶といくのだろう、と一同は推測する。
その読みは見事に命中し、彼女の掛け声に合わせて、皆がコップを高く掲げる事となった。
「「かんぱーい!!」」
すると、先程まで談笑するのみだった彼等は、更に騒がしさを増していく。こうなってくると、桜を見上げてしんみりとする場面は皆無だろう、とさえ思えてくる。
名作が呆れ半分で周りを見ていると、ふと、1人でスマホを弄るつる公の姿が目に映る。無性に気になって、声を掛けてみた。
「つる公、何してるの?」
「名作パイセン…あれっすよ、追メン呼んでるんす」
「追メン? 何それ?」
「追加で来る人の事っす」
相変わらずパリピの言葉は理解出来ないが、どうも彼は、新たに人を呼んでいるらしい。一体誰が来るのか気になっていると、数人の男達が、此方にやって来るではないか。
しかも、よく目を凝らしてみると、彼等の姿には見覚えがあった。
「あっ! あの人達!」
「おう! 来たぜー!!」
彼等とは、桐生戦兎、万丈龍我、墨野継義、憂城の4人であったのだ。
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.43 )
- 日時: 2019/04/19 18:14
- 名前: 内倉水火 (ID: GbhM/jTP)
4人の姿を見つけるや否や、名作は再び靴を引っ掛け、彼等の元に駆け寄る。近頃は戦兎達にべったりだと自覚してはいるが、それ程までに尊敬しているのだから仕方がない。
やや大げさに息をしながら、自身の様子に目を丸くした彼等に訊いた。
「もしかして、つる公が言ってた追メンって…」
「あぁ。俺達だぞ、名作」
戦兎はそう答えると、興奮気味な少年が落ち着くよう、その背を優しくさする。その顔は、まさか自分が来ただけでこんなにはしゃぐとは、と苦い笑みを浮かべていた。
彼等が大樹の下へ行くと、やはり一同は彼等を暖かく受け入れた。人数は増えた方が楽しい。それで意見は一致していたらしい。
そんな中、シューベルトがある事に気付いた。因みに彼の服装は、ザ・グレートのレゲエ調ではなく、館にいる時の、山吹色のクラシカルな装いである。
「大家殿、彼等が座る場所は無いようですが…」
「あっ!」
そこで歌苗ははっとする。予定より多くの人が参加したせいで、もうレジャーシートの空きがないのだ。このままでは立って参加させる事になってしまう。
しかし、4人は動じる様子がなかった。継義が、背負っていたリュックサックから何かを取り出す。どうやらそれは、音羽家のものより大きな、巨大レジャーシートだった。
「状況はつる公から聞いてたからさ、用意しといたんだ」
「いや、こんなにでかいのよく買えたな!」
思わずツッコんでしまう名作であった。
レジャーシートをより巨大な方に取り換えて、花見は再開された。ここまで人数が多いと、ドンチャン騒ぎは更に激しさを増していく。
それでは、花見の一場面を、台詞だけでお送りしよう。
「貴様ら! 花見に来たからには俺のギョーザーを食え!」
「「いただきまーす!!」」
「ちょっと待ってよボルト! 僕の分残しておいて!」
「幾つだ! 幾つ残せば良い!」
「んッ!? この餃子チーズ入ってんぞ!」
「チーズ!? 俺にも頂戴!!」
「あ、チーズと言えばー。とりま写真撮ろっす!」
「あら、良いわねつるちゃん。私の美貌をカメラに収めて頂戴」
「僕も写りたいなぁ。ねぇ、良いでしょお?」
「もちもちのろんの木っすー!」
「あれ、奏助、モツは?」
「そういえば見ないなぁ、何処行ったんだあの人?」
「…あっちで女の子口説いてる…」
「こらぁあッ! モツ!」
「いや、うるせぇ!!」
とても桜を見る会合とは思えない程の騒々しさに、名作は思わず叫んでしまう。
一瞬、辺りは水を打ったように静まりかえった。皆が驚いて自身を見てくるので、今のはいけなかったかと後悔し始める。
しかし、その言葉は意外な人物によって引き継がれた。
「全くだ、うるせぇったらありゃしねぇぜ」
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.44 )
- 日時: 2019/04/20 14:46
- 名前: 内倉水火 (ID: GbhM/jTP)
突如聞こえた、自分への同意の声。しかし、その言葉には、何処かしら冷たさがあった。まるで自分達を軽蔑するかのような、氷で出来た棘が生えているように思えた。
全員がその声の持ち主に注目する中、名作は恐る恐る振り返る。
其処にいたのは、2人の青年であった。透き通るような白い肌の美しい顔が、名作の眼前に"並んで"いる。そう、彼等は双子。双子の積田長幸と積田 剛保だ。
兄の長幸は、嫌味たらしく笑いながら続けた。
「おーおー、やけにうるせぇと思ったら、案の定てめぇらかよ」
嫌な気分だった。あれ程高揚していた気持ちが一気に冷めていく。名作自身も一同に注意はしたが、何もこんな風に言わなくてもいいではないか。
しかし、それで黙っているベト達ではない。直ぐ様長幸に反撃を仕掛ける。
レジャーシートから立ち上がったベトは、彼を睨み付けてこう言った。
「何だ貴様ら。花見の席に水を差しに来たのか」
餃子を口いっぱいに頬張りながら、ノキオも言い返した。
「ほうだよ、花見ではわいで何がわういんだよ!」
「いや、せめて飲み込んでから喋れ!」
その行儀の悪さに、反射的に注意してしまう。この状況にも関わらず、ツッコミの癖は抜けないようだ。
一方長幸は、引き下がらない相手に、大げさに肩を竦めて見せた。
「あのなぁ、俺様だって初登場がこれとは何とも不本意なんだぜ?」
「初登場って言うなよ…」
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.45 )
- 日時: 2019/04/23 18:16
- 名前: 内倉水火 (ID: b92MFW9H)
長幸とベト達の言い争いは長らく続けられた。時折名作のツッコミも入りながら、内容二転三転と変わっていく。
そして最終的には_ポテトチップス、餃子、カップラーメンのどれが一番美味しいかの論争と化していた。
「いや、何で!?」
争っている内に食べ物の話にすりかわり、同時に万丈もその論争に参戦した、というのが手っ取り早い説明だろう。
「ポテチが一番美味いだろうが」
「いや、ギョーザーだ!」
「カップラーメンに決まってんだろ!」
どれもジャンルが違うのだから、どれが一番と争っても仕方がないが、それでも彼等は止まらない。かれこれ45分程話し込んでいる。
一方、他の人々はというと、つる公を中心に記念撮影に興じていた。
「はい、チーズ!」
カシャッ
その集団の中にはちゃっかり剛保も混じっていた。試行錯誤を繰り返し、撮影に参加した全員が納得出来る写真が撮れた後、彼は一同から離れ、兄である長幸の元へ歩いていく。
そして、こう話し掛けるのだった。
「なぁビッグブラザー。腹減ったから屋台にでも行こうぜ」
そんな事を言っても、白熱中の兄には届かないのでは、と訝る名作だったが、その予想は見事に外れた。長幸は弟の方を振り向くと、こう答える。
「そうかいリトルブラザー。じゃあ行くか」
そのまま2人は、何事もなかったかのように屋台の方へと立ち去った。
残されたのは、呆気に取られた一同だけ。
「え…何だったの?」
「「さぁ…」」
只首を傾げる事しか出来なかった。
- 第5話 花見だョ!全員集合 ( No.46 )
- 日時: 2019/04/24 17:07
- 名前: 内倉水火 (ID: JIRis42C)
2人の事はさておき、彼等は改めて花見を再開した。今度は歌苗が作った和菓子を取り合い、モツのナンパに加わり、桜の麓で昼寝をする。各々が思い思いの花見を楽しんでいた。
そんな中、名作は自分の真上に咲き誇る、桜を眺めていた。淡いピンクが、視界をいっぱいに埋め尽くす。何とも美しい光景であった。
上を見ながらしみじみとしていると、桜餅に群れる集団の中から、1人の青年が出てきた。戦兎だ。
戦兎は何も言わずに隣に座る。名作と同じように桜を見上げると、一言呟いた。
「綺麗だなぁ」
なので、此方も一言だけ返す。
桜を前にして、無理して色々話す事はないだろう、と思ったのだ。
「綺麗ですね」
戦兎も同じ気持ちだったようで、暫く彼等は、黙って桜を見る事にした。
しかし、ずっとこうしていると、段々見上げる体制がきつくなってくる。2人は身体が痛んできたと思うと、すぐにレジャーシートに寝転がった。
仰向けになって暫くすると、戦兎がこんな事を言い出す。
「…あの2人は、多分俺達をからかって遊んでたんだろ」
あの2人とは、恐らく積田兄弟の事であろう。彼等が本気で注意してきたのではないのは、十分分かっている名作だったが、その話には結構な合点がいく。彼等兄弟は性格が歪んでいるし、他人など取るに足らない者と思っている。そのイメージには、何となく重なる話だったのだ。
そんな事を思いながら、こう答えた。
「嫌な性格ですね」
その言葉とは裏腹に、あからさまな不快感は胸の内にはなかった。これ程美しい花が咲いているのだから、負の感情が消えてしまうのだろう。戦兎もそれきり、何も返さなかった。
そうして、名作達は桜を眺め続けた。花見が終わる夕暮れが来るまで、いつまでも、いつまでも。
めでたしめでたし!