二次創作小説(新・総合)

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.48 )
日時: 2019/04/28 17:25
名前: 内倉水火 (ID: JIRis42C)

ある休日、松田名作がいつものように音羽館を訪ねようと、正門の前に立っていた。正門は彼を迎え入れように開け放たれており、石畳の道は噴水のある庭を通って、玄関へと真っ直ぐに伸びている。
早速玄関の呼び鈴を押しに行こうと、一歩を踏み出したその時、彼は何かを見つけ、再び立ち止まった。
同級生の団栗林むすびが、庭の真ん中に佇んで、ある物を不思議そうに見つめているのである。気になった名作は、道を逸れてむすびの元へと歩み寄った。

「むすび、何してるの?」
「あ、名作くん。見て下さいよ、こんな所にこんな物があるです」

むすびはそう言って、今まで見ていた物の方向を指差す。
それは何と_小さな竪穴住居だった。

「何で竪穴住居!?」
「ね、不思議でしょ?」

片やツッコミ、片やそれに同意求める程に、みょうちきりんな建造物であった。何より、洋風の音羽館の庭には、どうにもそぐわない。ここだけ縄文時代か弥生時代にタイムスリップしたかのようだった。
それによく見ると、子供がやっとくぐれる位の入り口の上に、『ドボちゃんの家』と書かれているではないか。

「「ドボちゃん…?」」

聞いた事もないその家の持ち主の名前に、2人とも首を傾げる。否、むすびは首がないので身体を傾けたのだが。
そうしていると、住居の中で、何かがもぞりと動く気配がした。思わず身構えると、住居の中からそれが姿を現す。少し緊張するせいか、名作はごくりと唾を飲み込んだ。

現れたのは_カバだった。

「プギー!」
「「えぇぇぇぇ!?」」

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.49 )
日時: 2019/04/30 13:27
名前: 内倉水火 (ID: JIRis42C)

直後、名作達は驚きの余り、そのカバを置き去りにして館へと飛び込んだ。沢山の洗濯物を抱えていた歌苗も驚愕して、抱えていたそれを取り落とした程である。
慌てて3人でシャツやら靴下やらタオルやらを拾い集め、彼女にカバの事を尋ねたのは、すっかり落ち着いた頃だった。すると、歌苗は答えるよりも先に、件のカバを館の中へと連れて来たのである。

「紹介するね、コビトカバのドボちゃんよ」

"ドボちゃん"と紹介されたカバは、名作とむすびに置いてきぼりにされたのが心外だったのか、あまり機嫌が良さそうではなかった。どことなくしょんぼりとしている。
コビトカバという言葉通り、彼は動物園で見るようなカバに比べ、かなり小さな身体であった。それでも、小さな子供と同じ位の大きさである。
名作は、彼の伏せられた目に申し訳なさを覚えた。驚いたとはいえ、ドボちゃんを悲しませてしまったのである。むすびも同じ思いだったようで、2人で謝る事にした。

「ドボちゃん、さっきはごめんね」
「ごめんなさいなのです」

すると、何という事か、ドボちゃんは首を横に揺すって微笑んだのだ。まるで人間のようなその素振りに、名作達は顔を見合わせる。その傍らで、歌苗が言った。

「ドボちゃんね、人の言葉が分かるのよ。とっても穏やかな子なの」

次に、彼女は時計を見て、はっとした様子で立ち上がった。名作達が見てみると、針は丁度正午を示している。

「いけない、皆のご飯の用意しなくっちゃ。2人も此処で食べてく?」
「あ、はい」

2人共頷いた。
今日は歌苗の厚意に甘える事にしたのである。

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.50 )
日時: 2019/05/03 15:01
名前: 内倉水火 (ID: qRt8qnz/)

暫くしてダイニングへ向かうと、其処には館の住人達全員と、出来上がったばかりの料理を運ぶ歌苗の姿があった。
名作とむすびは空いた席に向かい合わせに座ると、運ばれて来た料理に目を奪われた。
それは、何とも美味しそうなカレーライスであった。程好く炊き上がった白米の上にかかるどろりとしたルーが、彼等の食欲を誘う。更にそのカレーには、ベートーヴェン特製の餃子まで添えられているのだ。

「わぁ…美味しそう!」

全員の前にカレーが運ばれると、歌苗の一声によって、全員が手を合わせた。

「「いただきまーす!」」

そして、一斉にカレーにがっつき始める。リストやショパン、シューベルトのように、静かに食べる者もいた訳だが。
そんな中、歌苗が名作に話しかけた。

「名作くん、ドボちゃんにご飯持って行ってくれる?」
「あ、はい」

2人とドボちゃんの距離を縮めようという計らいなのか、自分が作ったカレーライスの器を名作に持って行かせたいらしい。カレー食べるのか、と違和感を感じたが、名作は立ち上がって、その器をドボちゃんの元へと持って行った。

「はい、ドボちゃん」
「プギー!」

すると、ドボちゃんはそれが美味しそうと分かるのか、器が置かれるや否やカレーにがっついた。何とも幸せそうな顔で食べるものである。
その様子に、名作もむすびも目を丸くするのだった。

「ドボちゃんね、グルメなのよ」
「いや、カレー食べちゃうの!?」

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.51 )
日時: 2019/05/10 17:14
名前: 内倉水火 (ID: JbG8aaI6)

全員がカレーを完食して、各々自分の部屋や外へ行く為、ダイニングを後にする。残ったのは、名作とむすび、歌苗とドボちゃん位であった。
むすびがドボちゃんをじっと見つめた後、歌苗に話しかける。

「歌苗さん、ドボちゃんと一緒にお散歩に行っても良いですか?」

歌苗は勿論と言わんばかりに頷くと、にっこり笑って見せた。

「お願い出来る? 丁度学校の宿題片付けたいと思ってたの」
「はい! というか今日1日のドボちゃんのお世話は僕達に任せるです!」

随分と大口を叩いているが、むすびは飼育委員。珍しい動物を前に、世話をしたいという欲求があるのは当然であろう。
しかし、名作はその言葉に少し違和感を覚えた。

「むすび…僕達って、ひょっとして僕も入れられてる?」
「そうですけど?」

やっぱり、と名作は思わず苦笑いを溢す。そんなこんなで、2人はドボちゃんの世話を手伝う事となった。

まず散歩なのだが、この時点で名作はぜぇぜぇと息を切らしていた。何故なら_。

「プギーィ!!」
「ドボちゃんには負けないですー!!」

ドボちゃんとむすびが、スポーツカーレベルの速さで散歩ルートを転がり回ったからである。
お陰で、只彼等を見失わないようにと、懸命に走る他なかったのだ。これで大分痩せた気がする。

「何で散歩で転がるんだよ…!」

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.52 )
日時: 2019/05/14 16:59
名前: 内倉水火 (ID: e.VqsKX6)

殆どマラソンに近い散歩を終え、2人と1匹は帰路に着いた。
この時点で疲れ果てている名作。しかし、ドボちゃんのお世話はまだまだ終わらない。
まず、転がったせいで大分汚れたドボちゃんの身体を、バスルームで洗う。この仕事にはスポンジとシャワーを使って2人で臨んだのだが_。

「ぎゃぁああ!! 僕の米が排水口にぃぃ!」
「何でシャワーとかいけると思ったの!?」

シャワーの湯でむすびの身体である米粒が流されてしまうという事態に。一先ずドボちゃんのシャワータイムは名作1人で面倒を見る事になり、むすびは台所に直行して音羽家の炊きたての白米を分けて貰ったらしい。

続けて、ドボちゃんにおやつのう○い棒を与える事になったのだが、やはり其処でもトラブルに見舞われた。

「プギッ、プギー!」
「クケェエェ!!」

う○い棒を取り合って、同じくペットであるハシビロコウのハッシーとドボちゃんが、噛んだり噛まれたりの大喧嘩を繰り広げたのだ。慌てて、名作達も止めに入る。

「ハッシー! お菓子なら他にあげますから!」
「てかこの家、珍しい動物多くない!?」

2人の粘り強さもあってか、喧嘩は直ぐに収束した。
トラブル続きでソファーにぐったりとしている彼等に、歌苗が近付いてこう言う。

「2人共本当に有り難う! お陰で宿題も他の家事も全部片付いちゃった!」
「お、お役に立てて何よりです…」
「…何かごめん」

くたびれた彼等に、代わって謝罪をするしかない歌苗であった。

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.53 )
日時: 2019/05/19 15:19
名前: 内倉水火 (ID: hjs3.iQ/)

世話に疲れて、リビングのソファーに伏せてしまっている名作とむすび。
名作がうとうと微睡んでいると、館の扉を、誰かが呼び鈴も鳴らさずに開けた。恐らく、館の住人か知人の1人だろう、と予想しながら、2人は身体を起こす。

「ちぃーす、遊びに来たぜー」

見ると、此方へ向けて片手を上げて見せる、神楽奏助の姿があった。予想は後者が当たったという訳だ。
奏助は名作達の顔を見るなり、「どしたの? めっちゃ疲れてるみたいだけど」と首を傾げて見せる。名作は軽く笑ってはぐらかした。

「あはは…大丈夫です」

すると其処へ、ドボちゃんが歩いてくる。ドボちゃんは名作達を見上げると、何か話しかけるように鳴き始めた。

「プギー、プギプギプッギー。プーギー、プギプーギー」
「…え、何て?」

思いもよらない長文に、目を瞬かせる一同。残念ながら、此処にカバ語を理解出来る者は1人もいない_と誰もが思った時だった。奏助のポケットから声が聞こえてきたのだ。

『私が翻訳いたしましょう』
「パッド君!?」

慌てて奏助が取り出したそれは、カラーが目に鮮やかなブルーに統一された電子端末に搭載された、超高性能AI、パッド君であった。彼はスピーカーからにこやかに告げる。

『私のアプリ"カバリンガル"で、ドボさんの言葉を皆さんにお伝えしますね』
「何そのアプリ! 無駄に凄いんだけど!」

名作のツッコミも程々に、パッド君はドボちゃんの言葉を日本語に訳し始めた。

『今日は、お世話して下さって誠に有り難う御座いました。お礼に、皆さんを列車の旅にお連れ致します』

「「列車の旅?」」

一体何が起こるか分からない名作とむすびは、顔を見合わせて、再び瞬きする。
疑問を残したまま、視線をドボちゃんに戻すと、2人は信じられない光景を目にした。

「…え?」

まるで列車の車掌のような服に身を包んだドボちゃんが、其処に立っていたのだ。そう、2足で。
そして、彼は高らかに叫ぶ。

「出発、進行!」
「「えぇええええ!?」」

その途端、辺りは眩い光に包まれた。

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.54 )
日時: 2019/05/22 15:21
名前: 内倉水火 (ID: hjs3.iQ/)

恐る恐る目を開くと、名作はいつの間にか、列車の一席に座っていた。列車は既に走行しているようで、タタンタタン、というようなリズムが身体伝わってくる。
突然の事に車内を見回していると、向かいの席にむすびが、隣や斜め前の席には歌苗や奏助達が腰掛けているのが分かった。全員、何故か窓の景色に釘付けになっている様子だった。一体窓の外に何があるのか、と名作も窓を覗いてみると_。

「えぇえぇっ!?」

_そこでは、宇宙に散りばめられた星々が瞬いていた。そう、この列車は、銀河を走っているのだ。
名作は興奮気味になって、窓に張り付く。

「こ、これは! 宮沢みやざわ賢治けんじが書いた名作、『銀河鉄道の夜』そのまま!! 凄い、凄すぎるよ!」

むすびも目を輝かせながら、名作に言った。

「名作くん…こんな凄いもの見せられるのは、もしかして…!」
「きっとムジークに違いないよ!」

こんな素敵なムジークを体験出来るだなんて、一生懸命にドボちゃんの世話をやっていて良かった、と心底思った2人。
ドボちゃんが何者かは今は置いておいて、銀河を駆け抜ける列車に魅了されるばかりであった。彼が旅の終了を告げるその瞬間まで。

「ご乗車、有り難う御座いました!」

第6話 コビトカバとハシビロコウ ( No.55 )
日時: 2019/05/24 11:35
名前: 内倉水火 (ID: hjs3.iQ/)

「あっはは! 楽しかったねー!」

ムジーク空間から戻ると、名作の後ろで、モツが楽しげに笑った。

「いや、あんたいつからいたの!? 乗ってたの列車に!」
「奏助と一緒に帰って来たんだよー、君達ぐったりしてたから分かんなかったんでしょ」

そう言われると、納得出来るような気もする。疲れていたのもあるし、銀河鉄道に夢中になっていたのだから。
気付かなかった事に反省する名作を他所に、モツは続けた。

「本当、ドボちゃんのムジークには感動するよ。最初はカバが"クラシカロイド"だなんて、思いもしなかったなぁ…」
「え? 今なんて言ったんです?」

彼の口から、妙な固有名詞が出てきたのを、むすびは聞き逃さなかった。すかさず質問した。
名作は首を傾げて、モツの答えを待った。

「思いもしなかったなぁ…」
「それより前です」
「カバが"クラシカロイド"だなんて」
「"クラシカロイド"って何です?」

"クラシカロイド"とは何だろう。名作達は、全く見当も付かなかった。
取り敢えず分かるのは、ドボちゃんがその"クラシカロイド"の一員であり、他にも何人か"クラシカロイド"が存在している、という事だろう。

そして、その説明を聞いた直後、名作とむすびは仰天する事になった。

「えぇええええ!?」

つづく!