二次創作小説(新・総合)

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天空の花嫁
日時: 2020/01/18 11:39
名前: ティアラローズ・レンドレット (ID: pJ0RzEWL)

ミーティア・ジュエリッタ・ワイルダー(主人公)
父親に連れられて旅をする主人公、ミーティア。冷静沈着でおしとやかな性格。歌うことが大好きで、様々な楽器を演奏できる。絶大な魔力の持ち主で、父親譲りの勇敢さ、そして、不思議な瞳を持つ少女だ。
父に憧れる不思議な瞳を持つ少女

リュケロイム・ダンカン(リュカ) 
隣り町に住む宿屋の息子で、ミーティアの幼馴染。正義感が強く、温厚な性格。ミーティアと同じく歌とヴァイオリンが大好き。剣術には自信があり、街の戦士顔負けの才能の持ち主。
頼りになる優しいお兄さん

エルトリオ
頼もしく優しい、ミーティアの父。幼いミーティアを連れて諸国を旅していたが、数年ぶりにサンタロ-ズの家に戻って来た。人望も厚く、その人柄はサンタロ-ズだけでなく近隣の村人たちからも慕われるほど。品格漂う物腰と威風堂々とした姿から、ただの戦士ではないようだが・・・。
人智勇を備えた旅の戦士

ヘンリー・ラインハット   少年時代
ラインハット王国の第一王子。毎日悪戯ばかりしている。
時には優しく、愛情深い一面も。
悪戯いたずら好きの我がまま王子

ポワン
妖精村の女王。妖精の村を治めているだけでなく、人間の世界に春を告げるという、大切な役目も担っている。いつもは平和な妖精の村だが、最近起きた大変な事件のために心を悩ませている。
春をつかさどる妖精のリーダー

ベラ
妖精の村でポワンに仕える少女。妖精である彼女の姿は普通の人には見えないが、心の住んだ子供には見えることが多いようだ。ポワンの命により、妖精界を救うため、ミーティアと旅をすることになる。
妖精界からやって来た少女

サンチョ
エルトリオに仕えている召使。忠誠心に厚く、旅に出たエルトリオたちをサンタローズで何年も待ち続けた。ミーティアを実の娘のように可愛がっている。

ティムズ・ダンカン
リュカの父親。アルカパの街で宿屋を営んでいる。

マダグレーナ・ダンカン
リュカの母親。ティムズ・ダンカンと一緒に宿屋を営んでいる。ミーティアの母親代わりにもなってくれていた。

キリオ(雪の女王)
ポワンの姉。先代の妖精界の女王。

ベルギス・ラインハット
ラインハット王国の国王。ヘンリーの父親。

ペシュマレンドラ
ラインハット王国の王妃。デールの母親。

ヘレン・ライルバート
ラインハット王国で兵士兼神官としてまだ見習い中の子供。ヘンリーの補佐役。密かにミーティアのことを慕っているが・・・。

ザイル
氷の館に引きこもっている少年。

目次
船に揺られて>>1

サンタロ-ズの村>>2

サンタロ-ズの洞窟>>3

アルカパの街>>4

天空の花嫁 第一章 船に揺られて ( No.1 )
日時: 2019/11/10 22:21
名前: ティアラローズ・レンドレット (ID: LN5K1jog)

船に揺られて             
「エルトリオ王・・・お気持ちはわかりますが・・・。少し落ち着いてお座りになってはいかがですかな?」
落ち着かない様子の王に大臣が話しかける。
「う、うむ。そうだな。」
王は大臣に背を向け玉座に腰かける。羽織っている真紅のマントにはわしの紋章が描かれている。「おぎゃあ!おぎゃあ!」
赤ん坊の泣き声が静まり返った城に響き渡った。
「エルトリオ様!エルトリオ様!お産まれになりました!」
それと同時に階段を駆け下りてきた恰幅かっぷくの良い男を見て、王は嬉しそうに立ち上がった。
「そっ、そうか!」
王は急いで階段を上がると、王妃と子が待つ寝室へと急いだ。
「エルトリオ様、おめでとうございます!本当に可愛い宝石たまのような女の子で!」
召使が目に涙を溜めて言った。
「うむっ。」
王は頷くと扉を開けて中に入った。
「貴方・・・。」
ベッドに横になった美しい王妃が王の姿を見て嬉しそうに声をかけた。
金髪の美しい長い髪が汗ばんだ顔に張り付いている。目は大空のように澄みきったサファイヤ色で、瞳は黒曜石のような黒。きゅっと引き締まった口元、すらりと伸びた長い手足。その目は嬉しそうに輝いている。
「おうおう、このように元気に泣いて・・・。早速だがこの子に名前を付けないといけないな。」
王は考え込んだ。
「うーん・・・。」
やっといい案が浮かぶと、王は王妃に言った。
「よし、浮かんだぞ!ソープというのはどうだろうかっ?」
王は妻の横に寝て泣き声を上げる赤ん坊を見て言った。
「まぁ、素敵な名前!可愛らしくて、賢そうで・・・。でもね、私も考えていたのです。ミーティアというのはどうかしら?」
王妃は幸せそうに王と赤ん坊を見て言った。
「ミーティアか・・・。どうもパッとしない名前だな。しかしお前が気に入っているのならその名前にしよう!」
王は子を高々と抱き上げると言った。
「神に授かった我らの娘よ、今日からお前の名前はミーティアだ!」
「まぁ、貴方ったら・・・。」
王妃は幸せそうに微笑んだ。
「うっ・・・ゴホン、ゴホン・・・。」
王は心配そうに咳き込んでいる王妃の顔をのぞき込む。
「おい!どうした!大丈夫かっ?」
赤ん坊の泣き声だけが城に響く。

ザザーン・・・ザザーン・・・。
(い、今のは・・・夢なのっ?)
少女はベッドから飛び起きた。
打ち寄せる波の音が微かに聞こえてくる。開け放った窓から清々すがすがしい朝の光が差し込んでいた。
「ミーティアお嬢様、おはようございます。よくお眠りになられましたか?」
扉を開けて入って来たのは召使のリーサだった。
「えぇ。」
ミーティアと呼ばれた少女はさっき見た夢を思い出して、言葉少なく答える。
「もう朝食はお運びいたしましょうか?」
「ありがとう、リーサ。でももう少し後でいいわ。」
ミーティアは微笑すると言った。
「承知致しました、ミーティアお嬢様。」
リーサは恭しく礼をすると部屋を出て行った。
「ミーティア、起きたかい?」
扉を開けて入って来たのは、ミーティアの父エルトリオだった。
「どうした、ミーティア。顔色があまり良くないぞ。」
エルトリオはミーティアの顔を見て言った。
「あのね、お父様・・・。」
ミーティアは今日見た夢のことを全て話した。
「赤ん坊の時の夢で何処かの城みたいだったと?わっはっは!きっと寝ぼけているんだよ。」
「でもお父様、夢の中では王様の名前がエルトリオだったのよ。」
ミーティアが言うと、エルトリオの顔が一瞬曇ったような気がした。
「夢は夢だよ、ミーティア。眠気覚ましに外へ出て少し風に当たってきなさい。エルトリオはそう言うと部屋を出て行こうとした。
「おぉ、そうだった。今日はビスタの港に着く予定だから、荷物を全部まとめておきなさい。」
エルトリオは部屋を出て行った。
「今日で船を降りる?」
ミーティアは目を見開いた。ハッとして我に返ると鏡台の前に立って水差しの水で顔を洗った。ふかふかのタオルで顔を拭くとミーティアは鏡に映った自分を見た。金色の長い髪、零れ落ちんばかりに大きな、黒曜石のように黒い瞳に、澄みきった大空のようなサファイヤ色の目、すらりと伸びた手足。耳には真っ赤に輝くルビーのイヤリングをして左腕と両手の手首に黄金でできた腕輪をしている。ミーティアは髪を梳いて三つ編みにして、水色
のリボンで結んだ。オレンジ色のローブを着て腰の所をベルトで留めると深緑のマントを羽織って甲板に出た。
「うう・・・やっぱり朝は寒いわね。」
ミーティアは東の空を見た。
「日の出だわ!」
ミーティアはいつものように甲板にひざまずいてお祈りした。
(お母様、きっと見つけに行くから。私たちのこと、見守っててね。)
ミーティアの母、マーサはミーティアが幼い頃に何者かにさらわれてそれ以来行方が分からなくなっているのだ。ミーティアは立ち上がり、竪琴を呼び出して人魚のような美しい声で歌い始めた。
「果てしなき大空に 煌めく星の軍勢が
定めの位置に着きし時 
尾を引き 流れる星に混じり
罪人のさまよう目を捕らえし一つ星
かの星こそ 我が光 我が道しるべ 我が全て

黒き予感を追い払い
嵐と危険のかせを抜け 憩いの港へ導きぬ
今 危険を乗り越え 我は歌う夜の王冠をいただきて
とこしえに とこしえに
星よ ベツレムの星よ」
足音がして振り返るとシスターが立っていた。
「お美しい歌声ですこと。」
「シスター・アンルシア。」シスター・アンルシアは微笑すると言った。
「そろそろお戻りになられた方が宜しいのでは?」
「えぇ、そうね。」
ミーティアが部屋に戻るとすぐにリーサが朝食を持って来てくれた。
「ありがとう、リーサ。まぁ、とても美味しそうだわ。いただきます。」
リーサは嬉しそうに部屋を出て行った。真っ白なお皿には美味しそうな焼き目の付いたトーストとチーズがのっていて、そのわきの小鉢にサラダが入っていた。ミーティが朝食を食べ終わるとリーサがお皿を下げに来てくれた。
「ありがとう、リーサ。」
ミーティアは自分の荷物をまとめ始めた。サファイヤの埋め込まれた青い剣を鞘に入れて腰に刺し、袋に母マーサの手鏡とくし、薬草などを袋に詰め込む。母の形見であるサファイヤのペンダントを首から下げた。
「そうだわ、船長にお別れの挨拶に行かなくちゃ。」
ミーティアは荷物を置いて船長の部屋へ急いだ。扉の前で立ち止まり、ゆっくりと深呼吸をする。コンコンと扉をノックすると中から船長の声が聞こえた。
船長はいつものように笑顔で扉を開けてミーティアを招き入れた。船長の部屋は床にビロードの絨毯が敷かれ、壁には世界地図が張られていた。
「レクサドリア船長、今日で私たちお別れなんですか?」
「あぁ、今日でビスタの港に着くことになっている。」
レクサドリアは悲しそうに窓の外を見た。
「船長、今までの間、本当にありがとうございました。一緒にいる時間が長かった分、これでお別れなんてとても信じられません。どうか、私たちのことを忘れないでください。私たちもレクサドリア船長のこと、決して忘れません。」
ミーティアの目から大粒の涙が溢れ出した。それを見て思わず涙しそうになったレクサドリアは慌てて涙を引っ込めた。
「ミーティア・ジュエリッタ・ワイルダー、私も君たちのことは忘れんだろう。またいつか、この船に戻ってくることを心待ちにしてるよ。」
ミーティア・ジュエリッタ・ワイルダーとはミーティアのいわゆるフルネームだ。
ミーティアは部屋を出ると涙を拭いた。急いで自分の部屋に戻るとベッドに突っ伏した。
「ミーティア、入るぞ。」
ミーティアはパッと起き上がると扉を開けに走った。
「お父様!」
ミーティアはエルトリオにすがりついて泣いた。
「お父様は寂しくないの?今日で船の人たちとはお別れなのよ?」
「父さんだって寂しいさ。でも、旅をする者にとって別れは数え切れんほどある。」
エルトリオは娘の頭を優しく撫でてやりながら娘に優しく声をかける。
「ミーティア、今は本当に辛い別れではないんだよ。わかるかね?」
ミーティアはエルトリオを見上げた。
「えぇ、お父様。永遠の別れ(死)、でしょう?」
「そうだ。船の人たちにはまたいつか会えるだろう?今日はまだその時ではないから、父さんは寂しくないんだ。」
「わかりました、お父様。私、もっと強く生きます。」
そんな娘を見て、急に成長したな、と思いながらエルトリオは目を細めて笑んだ。
「じゃあお父様、船乗りさんたちにもお別れを言ってきます。」
ミーティアは元気よく言うと、外に出て行った。
「ミーティア!」
甲板に出たミーティアは突然話しかけられて驚いて後ろを振り返った。そこには赤いバンダナをした茶髪の少年が立っていた。
「どうしたの、エイト?」
エイトは白い箱を取り出してミーティアに手渡した。
「聞いたよ。今日、ビスタの港に着くんだって?ミーティアとお別れする時に渡そうと思ってたんだけど、受け取ってくれる?」
「わぁ、嬉しいわ。ありがとう、エイト。」
エイトはミーティアの手を握って言った。
「今日でお別れなんて嫌だよぅ!本当に、何もしてあげられなくてごめんね。もっと話したいこともあったし、一緒にしたいこともあったけど・・・。」
ミーティアは握られた手を握り返してエイトを見つめた。
「エイト・・・私たち、きっとまた会えるわ。そんな感じがするの。」
「それよりミーティア、その箱、開けてみて?」
エイトが頬を紅潮させながら言った。
「わかったわ。何かしら?」
ミーティアが包みを開けると、中には美しい絹で作られたドレスや、靴が入っていた。
「エ、エイト、これ・・・?」
「洋服店のお姉さんが以前この船に乗ってただろう?その時に船代としてくれたんだ。それを船長が、ミーティアにって。」
エイトは照れ臭そうに笑って言った。
「とっても綺麗な服ね。それに靴も。ありがとう。とっても嬉しいわ。」
ミーティアはエイトにお礼を言ってその場を立ち去ろうとして、エイトの方を振り返った。
「私たち、絶対また会えるわ。」
ミーティアはそう言ってその場を去った。ミーティアは船縁に行き、綺麗な貝殻を取り出した。これはミーティアの友達のイルカたちがくれたものだ。
(ルカたち、来てくれるかしら?)
ミーティアは貝殻に息を吹き込んだ。何とも言えない不思議な音楽が奏でられていく。はるか遠くの海でイルカたちがこの不思議な音楽を聞きつけた。
「ミーティアだ!ミーティアが呼んでる!」
イルカたちは貝殻の音が聞こえる方へと急いで泳いだ。
「この近くだよ!」
ようやく船の底が見えると、イルカたちは一斉に船縁を囲んだ。
「ここだ!」
ミーティアはイルカたちを見てパッと顔を輝かせた。
「あぁ、ルカたち、来てくれたのね!」
イルカたちは嬉しそうに鳴いた。
「今日は貴方たちに言わなきゃいけないことがあるの。実はね・・・。」
ミーティアはイルカたちの真っ黒な目を見て言った。
「私、今日でこのストレンジャー号を降りるの。」
イルカたちの間に衝撃が走った。イルカたちの群れがざわつく。
「ミーティア・・・。ついに着てしまったんだね。そろそろだとは思っていたけど、まさかこんなに早く来るとは思ってなかったよ。ちょっと待っててね。」
ルカはイルカたち海底に潜っていった。しばらくして浮かび上がってきたルカたちは美しい真珠の首飾りを付けた人魚と共に海面に浮かび上がって来た。
「ミーティア、初めまして。私は人魚の国の女王、アイリーン・ローランドです。貴女には随分とこの子たちが世話になっていると聞いています。お礼に、これを。」
アイリーンが差し出したのは美しい宝石が埋め込まれたくしだった。
「女王様、こんな高価な物、いただけません。」
ミーティアは慌ててアイリーンにくしを返そうとした。
「いいえ、受け取ってちょうだい。」
女王はその美しい顔をほころばせ、ミーティアを見る。
「ありがとうございます、女王様。」
ミーティアがアイリーンにお礼を言うとアイリーンは海底にある自分の城へと帰って行った。
「ルカ、私素晴らしい贈り物をありがとう。」
ミーティアはルカとイルカたちに向き直って言った。
「君と会えたのは少しだけだったけど、とても楽しかったよ。海底で聞く君の歌声は毎朝聞こえる。それが聞かれなくなると思うと寂しいよ。」
ルカがしょんぼりとうつむく。
「ルカ、皆、きっとまた会えるわ。私、船に乗ったら必ずこの貝殻を吹くわ。約束よ。」
ミーティアはルカたちにもらった綺麗な貝殻を取り出して言う。
「約束だよ、絶対だからね!」
「さぁ、もうお行き。」
ミーティアは遥か彼方にある住処すみかに帰って行くイルカたちを見送った。
ミーティアが次に向かったのはシスター・アンルシアとリーサの部屋だった。
「ミーティアお嬢様、私共も聞きました。今日、ビスタの港に着くんですってね。」
シスター・アンルシアは歌がたくさん載った本を、リーサはサファイヤの埋め込まれた美しい宝石箱をそれぞれミーティアに手渡した。
「これは貴方たちが大切にしてきた物じゃない!受け取れないわ。」
ミーティアは二人に返そうとした。
「お嬢様のためなら、命だって惜しくないんですよ。だから、もらってください。」
シスター・アンルシアが言う。
「私たちを思い出すためにも。」
召使リーサもシスター・アンルシアの言葉に繋げるように言った。二人に言われてミーティアは贈り物を受け取った。
「ありがとう。シスター・アンルシア、リーサ。」
「お嬢様は私たちにとても良くしてくださいましたから、きっと良いことがありますよ。」
ミーティアは二人にお礼を言うと部屋に戻っていった。
「はぁ。本当に今日で皆とお別れなんて・・・。」
扉をノックする音が聞こえて、ミーティアはハッと顔を上げた。
「ミーティア、いるか?」
ミーティアは大急ぎで扉を開けに走った。
エルトリオは娘が元気そうなのを確認して、嬉しそうに目を細めながら言った。
「ミーティア、今日は皆でお昼を食べよう。料理長が腕をふるって大御馳走を作ってくれるそうだ。十二時には食堂に来るんだぞ。」
「えぇ、お父様!」
エルトリオが行ってしまうとミーティアはベッドにごろんと横になった。
「本当に今日で、お別れなのね・・・。」
ミーティアは鏡の前に立った。いつもは嬉しそうに輝いている目も、今日は少し悲しそうだ。ミーティアは自分の頬をきゅっと引っ張って口角を上に上げる。
「笑顔よ、ミーティア!笑顔でいれば悪いことは起きないわ。」
ミーティアはそう自分に言い聞かせる。それでも涙が頬をつたって流れ落ちた。
「ダメ、ダメ。泣いちゃダメよ、ミーティア。今日が本当のお別れじゃないんですもの。」
ポロポロと零れ落ちる涙はどう頑張ったって止められない。ミーティアは枕に顔を埋める。
「あぁ、私ったら!いつまで赤ちゃんみたいにわぁわぁ泣いてるの?しっかりしなさい!」
ミーティアは自分自身に言う。
(そうだわ。まだ時間があるし、エイトにもらった服を着て行こうかしら?)
ミーティアは、さっきエイトがくれた白い箱を取り出した。胸元とスカートの部分は、白い絹の布地の下から紅色の布地が覗いている。青いマントにはキラキラ光る金色の真鍮しんちゅうのボタンが付いていて、肩の所で留められるようになっている。靴は夏用の皮のサンダルと年中使えるブーツだ。ミーティアは急いで着替えると、鏡の前に立った。今から食事に行くと言うのに、ひどい顔だ。
(なんてひどい顔!お父様が見たらなんていうかしら?)
ミーティアは首から下げたサファイヤのペンダントを見る。窓から差し込む光を浴びて、サファイヤがキラリと光った。
「お嬢様、いらっしゃいますか?」
扉の向こうからリーサの声がする。ミーティアは慌てて涙を拭う。
「えぇ、リーサ。何か御用?」
「失礼致します、お嬢様。」
リーサは部屋に入ってくると小さくお辞儀して言った。
「お嬢様、もうそろそろ食堂の方へお越しください。」
「ありがとう、リーサ。そうするわ。しばらくしたら行くと、伝えておいてくれる?」
リーサはドアノブを握りかけて振返る。
「かしこまりました、お嬢様。」
ミーティアはベッドに横になった。サファイヤのペンダントを太陽の光に透かして見る。美しい影が白いベッドシーツに映った。ふと、ミーティアは時計を見た。時計の針はもう十一時五十五分を指している。
「いけない!もうこんな時間!」
ミーティアは慌てて食堂へ向かう。
「ミーティア!」
食堂の前でエルトリオとエイトがミーティアを待っていた。
「お待たせしてすいません、お父様、エイト。」
「何、そんなに待ってないよ。さぁ、入ろう。」と、エルトリオが微笑んだ。
エイトがミーティアの後ろからついて来る。
「ねぇお父様、今日はエイトの隣に座ってもいい?」
ミーティアは目を輝かせてエルトリオを見た。
「あぁ、そうしなさい。」
ミーティアはエイトの後ろへついて行く。エイトは皆が見える位置の席へとミーティアを連れて行った。
「ここにしよう。特等席だ。」
「えぇ。」
へイスプディング、とうもろこしパン、ライアン・イン・ジャン、野鴨の丸焼き、牡蠣かきのスープ、料理長が腕を振って作ったたくさんの大御馳走がテーブルに運ばれてきた。
「うわぁ、どれもとても美味しそうだわ!」
「そうそう、ベークドビーンズは僕が作ったんだ!」と言って、エイトがエッヘンと胸を張る。
「まぁ、それじゃ、一番にいただくわ。」
「是非そうしてくれ。」
エイトがベークドビーンズをミーティアのお皿に継ぎ分けてくれた。一口食べて、ミーティアは言った。
「うーん、とっても美味しいわ、エイト!」
「良かった。またこの船に乗る時には、僕が君にご馳走を作って食べさせてあげるよ。」
「えぇ、きっとそうしてね。私、楽しみにしてるから。」
しばらくすると、デザートが運ばれてきた。山積みのパンケーキ、二つ折りになったアップルパイ、冷たいブルーベリーケーキが各自に配られる。ミーティアは、三枚重ねになったパンケーキに、蜂蜜をたっぷりかけて食べるのが大好きだ。パンケーキを食べ終わると、ミーティアは二つ折りのアップルパイを頬張った。パリパリのパイの皮とリンゴの愛称は抜群だ。
「このアップルパイ、凄く美味しいね。」
「本当。作り方、料理長に書き留めてもらおうかしら?」
二人は美味しいアップルパイをペロリとたいらげた。
次に、二人はブルーベリーケーキを手に取った。上の方はムース状になっていて、その下は固いクッキー生地でできていた。ブルーベリーは少し凍りぎみになっていたので、シャーベットのようで美味しい。
船旅最後の日の、最期の食事。ミーティアは胸がいっぱいになった。
「皆さん・・・少々お時間をいただけないでしょうか?」
立ち上がりかけた船乗りや料理長、召使やシスターたちが一斉にミーティアの方を向いた。ミーティアは自分の心臓が飛び上がるのがわかった。緊張しているのか、口の中がカラカラで声が出ない。
(あぁ、緊張してるんだわ。こんなことで緊張していてはダメよ。深呼吸・・・とりあえずリラックスして、それから話し始めるのよ・・・。)
ミーティアは自分に言い聞かせる。
「皆さんもご存知の通り、私たちは今日でこのストレンジャー号を降りることになってしまいました・・・。長い間、お世話になりました。どうか皆さん、私たちのことを忘れないでください。私たちも、絶対に忘れません。」
ミーティアは自分の手に一粒の雫が落ちて、やっと自分が泣いていることに気が付いた。きっとひどい顔になっているだろう。
「ミーティア・・・。」
エイトがつられて泣き出した。船乗りたちも、料理長も、召使も、シスターも神父も、そして、レクサドリアも。エルトリオは黙って娘を見て、微笑んでいた。
「皆さん、あと数分しか残っていませんが、楽しく過ごしましょう!」
「あぁ、ミーティアの言う通りだよ。ミーティア、何か歌ってくれないかい?」
船乗りのサンバが言った。他の者たちも賛成して頷いた。
「えぇ。・・・何かリクエストはありますか?」
「そうだなぁ・・・やっぱり俺たちは船乗りだから、モーラの都かな。」ビュダが言った。
ミーティアは竪琴を呼び出して弦の調子を整えると、美しい声で歌いだした。
「風が吹く夜に男たちは
はるかな国へ旅に出るよ
聖なる泉が溢れるという
地図にも載らない国へ
その名はモーラ 伝説の都
私から恋人を奪い去る
その名はモーラ 永遠の都
行かないで側にいてほしい

髪を編みながら女たちは
なぎさの砂に祈るでしょう
地平に見たのは蜃気楼しんきろうだと
貴方が気が付く時を

その名はモーラ 幻の都
辿たどり着いたものは誰もいない
その名はモーラ 哀しみの都
この腕に戻れ今すぐに」
「ブラボー!」
聞いていた船乗りたちは拍手喝采。シスターたちは、美しい歌声でしたわ、と言ってミーティアを褒めてくれた。
「じゃあ、シスターを代表して、ベツレムの星をお願いしますわ。」と、シスター・アンルシアが言った。
「果てしなき大空に きらめく星の軍勢が
定めの位置につきし時
尾を引き 流れる星に混じり
罪人のさまよう目を捕らえし一つ星
かの星こそ 我が光 我が道しるべ 我が全て

黒き予感を追い払い
嵐と危険のかせをぬけ 憩いの港へ導きぬ
今 危険を乗り越え 我は歌う
夜の王冠をいただきて
とこしえに とこしえに
星よ ベツレムの星よ」
今度は、シスターたちも、ミーティアと歌った。
「そろそろ片付けもしなくちゃいけないので、最期に一曲、私から皆さんへ・・・。」
ミーティアはすうっと深呼吸をした。この曲は竪琴でする伴奏が難しい。けれど、今日は絶対に失敗したくなかった。もしかしたら、会うのがこれで最後になるかもしれないからだ。
ミーティアは竪琴の弦に指を置く。美しい竪琴の音が流れ出す。
「黄金の日々は過ぎ行く 
幸せな この輝かしい日々よ 
時の翼に乗って過ぎ行く 
この 輝かしい日々よ
過行く時を呼び戻さん 
あの甘やかな思い出は
過行く日と共に さらに美し 
この輝かしい日々よ」
聞いている人たちは、今までのことを思い出しながら、そっと涙を拭った。
「ミーティア・・・。」と、不意にエルトリオに声をかけられた。
声をかけられて初めて、ミーティアは歌いながら自分が泣いていることに気が付いた。ミーティアは慌てて手を目の辺りに当てる。それと同時に、ミーティアの唇に涙が零れ落ちた。
「あら、嫌だ、私ったら。なんで泣いてるんだろう・・・。」
ミーティアはごまかすように言う。けれども、涙はとめどめもなく流れては、ミーティアの頬をらした。
「ミーティア、いつも言っているだろう?泣くことは恥ずかしいことじゃない。堂々としていればいいんだ。」
「はい、お父様。」と、言いながら、ミーティアは涙を拭った。
「それじゃ、皆、仕事に戻ってくれ。」
皆がそれぞれの持ち場にと散って行き、ミーティアも部屋へ戻り、荷作りに取りかかった。ミーティアはハッとして、エイトがくれた服から普段着に着替えた。これからの旅で魔物モンスターと戦った時に敗れたた困るのだ。エイトがくれた服は丁寧に畳んで箱に戻した。本などの持ち物も全部鞄に詰め込むと、ミーティアは甲板に出た。遠くに小さな船着き場が見える。
(きっとあそこがビスタの港だわ。)
港はどんどんと近づいてくる。ミーティアは近くにあった樽に腰かけて景色を眺めた。ミーティアは港が近づいてくるたびに、もう少しこのまま船にいられたらいいのに、と思うのだった。
しばらくすると、海鳥が飛んできて、ミーティアの周りに集まって来た。
「貴女の噂はルカに聞いたわ。今日で船を降りるんですって?」
「えぇ、残念ながらね。」
「僕たちは海鳥だから、いつでも君の所へ飛んで行ってあげるよ。これを受け取って。」
海鳥が美しい楽器を取り出してミーティアに渡した。
「これは?」
「これは海鳥の泣き声に似せて作られた楽器だ。フルートみたいな感じかな。」と海鳥が言った。
「ありがとう。大切にするわ。」
ミーティアは飛び立っていく海鳥たちに手を振った。
「港に着くぞー!イカリを下ろせー!」
ミーティアはハッとして樽から飛び降りた。
「ミーティア、こっちだ。」と、エルトリオが声をかけてくれた。
船を降りようとすると、港には親子がいて、船が着くのを待っていた。船が港に着くと、恰幅の良い派手な服を着た男性がエルトリオの方へやって来て声をかけた。
「これは旅の方、お先に失礼しますぞ。」
その男性はそう言うと、レクサドリアの方に向き直った。
「船長、ご苦労だったな。」
「お帰りなさいませ、ルドマン様!そのご様子では今回の旅は素晴らしいものだったようですな。」
「もちろんだよ、船長。さぁ、わしの娘を紹介しよう。フローラや、こっちへ上がっておいで。」
フローラと呼ばれた少女は船に上がろうとしたが、段差が高くて登れないようだ。
「おや?フローラにはその入り口は高すぎたかな?」
エルトリオが前に進み出た。
「どれ、私が手を貸しましょう。」
エルトリオはそう言ってフローラを抱き上げ、船に乗せてやった。
「あ、ありがとう。」
フローラは小さな声で言った。
「これは旅の方、ありがとうございました。」
ルドマンは愛想よく笑うと、船乗りの方へ向き直って言った。
「よしよし、フローラや。長旅で疲れたであろう。悪いがフローラを奥の部屋に連れて行ってやってくれ。」
「はい、かしこまりました。」
「いや、お騒がせしました。さぁ港へどうぞ。」と、ルドマンは道を開けてくれた。
「お父様、もうちょっとここにいたいの。フローラさんともちょっとお話したいのだけど・・・。」
「えぇ、いいですよ。ええっと・・・。」と、ミーティアの方を向いてルドマンが言った。
「ミーティアです。ご機嫌麗しゅう、ルドマンさん。」
ミーティアはにっこりと笑ってお辞儀した。
「いやはや、賢い子ですなぁ。」
「あぁ、そうしてもらいなさい。」
ミーティアはさっきの船乗りにフローラのいる部屋に連れて行ってもらった。
コンコン、と扉をノックすると、可愛らしい声が聞こえた。
「はぁい?」
ミーティアはそっとドアを開けて中に入った。
「貴女だぁれ?」と、フローラが首を傾げて尋ねた。
紺色の美しい髪は肩の所できっちりと切り揃えてある。頭の上でピンクのリボンを付けている。髪と同じ夜空のような紺色の目をしている。耳には金のイヤリングが付いていて、揺れるたびに鈴のようにシャラシャラと音を立てた。
「私はミーティア。お父様と船旅をしていて、ちょうど故郷へ帰るところなんです。」
するとフローラは興味津々といった様子でミーティアに言った。
「え?お父さんと一緒に旅してるの?私もお父様と来たのよ。海ってなんだか怖くて広いのね。」
「フローラさんでしたね、海はいいですよ。色とりどりの魚たちがいて、晴れている時はとっても綺麗なんです。是非、船縁からのぞいてみてください。」
「そうなの。そうしてみるわ。」と言って、フローラはにっこりと微笑んだ。
コンコン、と扉がノックされて、エルトリオが入って来た。
「ミーティア、そろそろ行くぞ。」
「はい、お父様。ではフローラさん、機会があればまたお会いしましょうね。」
「えぇ、お気を付けて。」と言うと、フローラはひらりと手を振った。
(フローラさん・・・可愛らしいお方だったわ・・・。)
甲板に出ると、エルトリオはミーティアに尋ねた。
「ミーティア、忘れ物はないな?タンスの中も調べたな?」
「えぇ、お父様。」
「では、長い船旅ではあったが、この船ともお別れだ。降りるとするか?」
「寂しいけど、皆さんも船を出されるのを待っているみたいだし、船もそれを待ち遠しくて仕方がなさそうなんだもの。」と言って、ミーティアは船を見上げた。
美しく青い空が広がっている。いつかまたこの船に戻って来る時が来ますように、と祈ってから、ミーティアは頷いた。
「行きましょう、お父様。」
エルトリオは船長の方へ向き直って言った。
「じゃあ、船長、随分世話になった。身体には気を付けてな。」
あぁ、と言ってレクサドリアはエルトリオとミーティアを見た。
「じゃあ、行くとしよう。」
ミーティアはエルトリオと共にストレンジャー号を降りた。すると、男性が話しかけてきた。
「あ!あんたはルトリオさんっ?」
港にいた男性がエルトリオを見て言った。
「やっぱりエルトリオさんじゃないかっ!無事に帰って来たんだね!」
「わっはっはっは。せても枯れてもこのエルトリオ、おいそれとは死ぬものか!」
エルトリオはミーティアの方に向き直って言った。
「ミーティア、父さんはこの人と話があるから、その辺で遊んでなさい。」
「はい、お父様。」
ミーティアは、まただわ、と思いながらも仕方なく頷いた。
「とりあえずお前にこの地図を渡しておこう。父さんの昔の友達が特別に作ってくれた大切な地図だ。なくさないように大事に持っておくんだぞ。それと、あまり遠くへ行かないようにな。」
ミーティアはエルトリオから不思議な地図を受け取ると、折れないように鞄に入れた。ミーティアは港にある小さな小屋に入った。中にはさっきの男性の妻らしき女性がいた。
「二年前ほどだったかね。エルトリオという人がこの港から旅に出たんだよ。大切なものを探す旅立ってったけど、小さな子供を連れたままでどうなったやら。」
「その時の子は私です。私の父はエルトリオと言う名前ですから。たった今帰ってきました。」
「え?お嬢さんがあの時の子で、エルトリオさんは今の船で帰って来ただって?噂をすればなんとやら、だねぇ・・・。」と、女性は腰に手を当てて言った。
(久しぶりに腕試しでもしようかしら?)
ミーティアは港を出て、ヒュッと口笛を吹いた。すると、背の低い木の陰からスライムが三匹現れた。ミーティアはすぐに腰に刺した剣を引き抜いた。
うなれ、剣よ!双竜打ち!」
ミーティアの剣はむちのようにしなやかな動きでスライムたちをぎ払った。
「ミーティア、大丈夫か?」
エルトリオがミーティアに追いついて行った。
「えぇ、お父様。久しぶりに魔物モンスターと戦いましたけどあまり体はなまっていなかったわ。」
「それならいいのだが・・・。」
エルトリオは心配そうに娘を見る。そんなエルトリオを見て、ミーティアは元気よく言った。
「行きましょう、お父様!きっと皆が帰りを待ち侘びているわ。」
「あぁ、そうだな。一刻も早く村へ着けるようにしよう。」
ミーティアたちは埃っぽい道を歩いてサンタローズの村へ向かった。
「ねぇお父様。」
ミーティアは急に思い出して歩きながらエルトリオに話しかけた。
「何だい、ミーティア?」
「サンタローズの村ってどんな所だったか教えてくれない?いろいろな町や村を回っているうちに記憶が曖昧になってきちゃったの。」
「そうか、ミーティアはまだ小さかったから、覚えてないのも仕方ないだろう。」
エルトリオは懐かしそうに村のある方角を見ながら故郷のことを話し始めた。
「サンタローズの村は、自然豊かで、小川も流れてて、周囲は崖に囲まれてる。昔はよく珍しい石を求めて多くの人が訪れたんだ。」
エルトリオはそこで言葉を切った。
「今はもうほとんどないんだがな。」
エルトリオは少し寂しそうに村のある方角を見つめた。
(きっと、村の外から来た人たちが取り尽くしちゃったんだわ・・・。)とミーティアは思った。
ミーティアがエルトリオの方を見上げると、エルトリオはいつも通り微笑んで言った。
「久しぶりの我が家でゆっくりできると思うと嬉しいよ。村の人たちにも会えるしな。」
ミーティアは少しほっとして、村のある方角を見つめた。青い空に、白い雲が映えて綺麗だ。
木は影を作り、鹿や小鳥たちの話を聞こうと静かにしている。ざわざわと騒ぐ木もあれば、老人のように曲がった木もある。キツネやうさぎは嬉しそうに草原を飛びまわり、花々は静かに咲き乱れている。
久しぶりに見る木や動物たちを、ミーティアは幸せそうに見守るのだった。
(そうよ・・・。この向こうに、私の故郷があるんだわ。私の││たった一つの故郷が││)
エルトリオとミーティアは四年ぶりに、故郷サンタローズへと辿たどり着いたのだった。


      

天空の花嫁 第二章 サンタロ-ズの村 ( No.2 )
日時: 2019/11/12 16:34
名前: ティアラローズ・レンドレット (ID: LN5K1jog)

サンタローズの村
 ミーティアたちは長い船旅を終え、二年ぶりに故郷に帰って来たのだった。
「やや!エルトリオさんではっ?二年も村を出たまま一体何処に・・・。」
村の入り口にいた守衛は嬉しそうに言った。
「ともかく、お帰りなさい!おっと、こうしちゃいられない。皆に知らせなくっちゃ!そう言って守衛は何処かへ駆けて行った。
「おーい!エルトリオさんが帰って来たぞーっっ!」
さっきの守衛が叫んでいるのが聞こえた。宿屋の前を通ると、宿屋の主人が出て来て言った。
「エルトリオさん!あんた生きてたんだね!」
ミーティアの方へ向き直ると言った。
「おや、その子があの時の?大きくなったね。」
「お久しぶりです。」と、ミーティアは言った。
「エルトリオさん、夜にでもうちの酒場によっておくれよ。皆あんたの旅の話を聞きたがるはずだ!」
武器屋の前を通ると、武器屋の主人が店を飛び出して来た。
「よう!エルトリオ!やっと帰って来たな!あんたとは喧嘩ばかりしたけどよう、いなくなると寂しくて・・・。落ち着いたら積もる話を聞かせてくれよな。」
今度は火に当たっている青年が話しかけてきた。
「やぁ、本当にエルトリオさんだ!どうもお帰りなさい!エルトリオさんがいない間、皆エルトリオさんの噂ばかりしてたんですよ。」
若いシスターが教会から出て来てエルトリオに話しかけた。
「これはエルトリオ殿。よくぞ無事で戻られました。きっと神様が貴方方親子をお守りしてくれたのでしょう。と、堅苦しいことはやめにしましょう・・・。」
シスターは一旦間を置いて、大きな声で叫んだ。
「わ~い!エルトリオさんが帰って来た!嬉しい~!わ~いわ~い!」
エルトリオは恰幅の良い男性がたっている家へと歩いて行く。
「我が家だ。」と、エルトリオが言った。
ミーティアはぎこちなく足を踏み出した。自分の心臓が何処にあるのかわかる。
(二年ぶりの我が家・・・。本当に、長い船旅だったわ。)
エルトリオの姿を見るなり、家の前に立っていた男性が言った。
「だっ、旦那様!お帰りなさいませ!このサンチョ、旦那様のお戻りをどれほど待ち侘びたことか・・・。」
サンチョは溢れ出した涙を拭った。
「さぁ、ともかく中へ!」
ミーティアたちが中へ入ると、二階から男の子が下りて来た。
「おじさん、お帰りなさい。」と、その男の子が言った。
「???この男の子は?」と、エルトリオが首を傾げる。
「あたしの息子だよ、エルトリオ!」と、二階から声がした。
「やぁ!隣り町に住むダンカンの女将さんじゃないか!」と、エルトリオは嬉しそうに言った。
「この村に主人の薬を取りに来たって言うんで、寄ってもらったんですよ。」
「女将さんはよしてよ、あたしの名前はマダグレーナだよ。」
「長いからそう呼んでんだよ。」と、エルトリオが笑って言った。
「ねぇ、大人の話って長くなるから上に行かない?」
「えぇ、そうしましょう。」
ミーティアは男の子に連れられて二階へ上がった。
二階へ上がると、ミーティアは男の子を頭の上からつま先まで見た。紫色のターバンをつけ、黄緑色のローブを着ていて、腰の所をベルトで留めている。皮の編み上げブーツを履いていて、両手首に銀の腕輪を付けている。焦げ茶色の長い髪を首の後ろで結んでいる。
「えぇっと・・・。」
ミーティアが口ごもっていると、男の子が言った。
「僕はリュカ。僕のこと覚えてる?」
「ごめんなさい、覚えてないわ。」
ミーティアが言うと、リュカはにっこり笑って言った。
「そうだよね。仕方ないさ。僕は八歳だから、君より二つ年上なんだ。」
「そうなの。貴方は何処に住んでるの?」
「アルカパの街だよ。サンタローズの隣さ。西にちょっと行った所だよ。」
「それは大変だったでしょう?この辺りは魔物モンスターが良く出現するって聞いたから。」
「大丈夫だったよ。僕は剣術に関しては、街一番なんだ!魔物モンスターが出て来たってへっちゃらさ!街の子もよく相手してくれって行ってくるけど、最期には参った!ってね。」
「うふふっ。私もいつかお手合わせしてもらいたいわ。」
「リュカ!そろそろ宿に戻りますよ!」と、階下からリュカが呼ばれる。
「はーい、母さん!」
リュカは返事をして、ミーティアに向き直ると言った。リュカは微笑んで階段を下りて行った。
「それじゃ。」
ミーティアはひらり、と手を振って一階に下りた。サンチョが下りてきたミーティアに言った。
「ミーティアお嬢様、だんだんとお母上に似てきましたなぁ。お母上のマーサ様は、それはそれは優しいお方でした・・・。あぁ、お嬢様。今日はお疲れでしょう?もうお休みになられますか?」
「えぇ、そうさせてもらおうかしら。」
「じゃあ、すぐにお食事を持って行きますから、上で着替えていてください。」
「わかったわ、サンチョ。」と言って、ミーティアは二階へ上がった。
ミーティアは鞄の中から青いフランネルの寝間着を取り出してそれに着替えた。ベッドの横においてあったスリッパを履くと、ミーティアは椅子に腰かけた。階段を上がってきたサンチョがテーブルに夕食を置いてくれた。
「とても美味しそうだわ。」
家にあったシンプルな白い皿にバターロールとサラダなどがのっていた。ミーティアは食べ終わると自分で下にあるキッチンへ行き、皿を洗った。
「お嬢様、いけません。私が洗いますから。」
エルトリオと話していたサンチョが慌ててミーティアを止めた。
「でもサンチョ、私は」
「お嬢様はもうお疲れでしょうから、私が洗います。さぁ、早くおやすみになられた方がいいですよ。」
「わかったわ、サンチョ。では、おやすみなさい、お父様、サンチョ。」
「あぁ、しっかり休むんだぞ。お休み、ミーティア。」
「えぇ、おやすみなさいませ、お嬢様。」
ミーティアは二階へ上がると、髪をいてベッドに横になった。全然眠くないと持っていたのに、一分もたたないうちにぐっすりと眠ってしまった。
 翌朝、チュンチュン、という小鳥のさえずりを聞いてミーティアは目を覚ました。ミーティアはベッドに腰かけた。スリッパを履いていつも通り鏡台の前に立った。水差しに入って水で顔を洗い、清潔なタオルで顔を拭いた。髪を梳いて三つ編みにすると水色のリボンで結んだ。水色のローブを着て、その上から青いマントを羽織った。腰の所をベルトで留めると、香ばしいパンの香りのする一階へと下りて行った。
「おはようございます、お父様。」
「おはよう、ミーティア。昨夜はよく眠れたかい?」
「えぇ、お父様。」
ミーティアは手を洗うと席に着いた。
「このレタスは今朝採れたものなんですよ。」
「家庭菜園のか?それにしては畑が寂しすぎるのだが?」
「教会のシスター・アルウィンがおすそ分けってくれたんですよ。」
「そうだったのか。」
ミーティアは食べ終わるとお皿を下げようと立ち上がった。
「お嬢様、私がやりますから。」と言って、サンチョが持っていってしまった。
「さて・・・と。父さんはちょっと出かけるが、いい子にしてるんだよ。」
「はい、お父様。」
ミーティアは不思議に思ったので、こっそりついて行くことにした。急いで上へ上がると、薬草などが入った鞄を肩から下げ、剣を腰に差した。
「ちょっと散歩に行ってくるわ。」と言って、ミーティアは急いで家を出た。
(何処に行ったのかしら?)
ミーティアが辺りを見渡すと、皮の近くに住む老人の所にエルトリオがいた。ミーティアは急いでエルトリオを追いかけたが、ミーティアが追い付く少し前に老人の家に入ってしまった。
(あのお爺さんなら何か知っているかもしれないわ。)
ミーティアは老人の家へ行った。
「こんにちは、お爺さん。」
「おぉ、エルトリオのとこの娘のミーティアか。」と、老人はゆっくりと言った。
「えぇ、お父様は何処に行かれたの?」
「お嬢さんはいい子じゃな?だったら、お父さんの御用の邪魔はせんようにな。」
「わかったわ、お爺さん。」
ミーティアはくるりと向きを変えて家へ帰るふりをした。
しかしミーティアは途中で立ち止まって、エルトリオからもらった不思議な地図を取り出した。
(洞窟へ行く道は・・・。良かったわ。あそこだけじゃないみたい。)
ミーティアは道を確認し、もう一度洞窟へと向かった。
「あ!エルトリオさんとこのミーティアちゃんじゃないか。」
「あら、お久しぶりです。」
声をかけて来たのは、洞窟のすぐ近くに住む農家の主人だった。
「ちょうど今、鶏が卵を落としてね、ほら、少しだけど、持って行くといい。」
ミーティアはお礼を言って再び洞窟へと向かって歩き出した。
「お嬢さん、この先は洞窟だ。迷子になってもおじさんは知らないぞ。」
突然声をかけられ、ミーティアはびっくりして顔を上げた。
「え、えぇ。ちょっと用があるものですから。」
ミーティアは戦士の前をすり抜けて洞窟へ入った。

天空の花嫁 第三章 サンタロ-ズの洞窟 ( No.3 )
日時: 2019/11/12 16:35
名前: ティアラローズ・レンドレット (ID: LN5K1jog)

サンタローズの洞窟
洞窟はじめじめしていて、少し寒かった。ミーティアは思わずマントを引き寄せる。
(何か松明になるものはないかしら?)
ミーティアは辺りを見渡して、やや太めの木の枝を見つけた。鞄の中からいらない布を出して、それをちょうどいい大きさにちぎった。それを先端に巻きつける。
火球呪文!」
ミーティアは木の枝に火を点けた。ミーティアは松明たいまつを掲げて辺りを見渡した。ガサガサッと音がして、ミーティアが振り返ると、ドラキーの群れがミーティアを取り囲んでいた。
「そうだわ!」
ミーティアはさっきもらった卵をドラキーに向かって投げつけた。べちゃりと音がして、一匹のドラキーに卵がぶつかって割れた。ドラキーは不思議に思って顔に着いた黄色い液体をペロリと舐めた。
「キー!キーキー!」
どうやら相当美味しかったようで、顔を舐め回している。仲間のドラキーもそのドラキーの顔を舐めまくる。
「相当お腹が空いてるんだわ。ほら、こっちへおいでなさい。」
ミーティアはドラキーたちにさっきもらった卵を分けようと思ったのだ。鞄に入っていた小さな器を二つ取り出して、その中に卵を入れ、細い木の枝でかき混ぜた。
「ほら、皆で仲良く食べるのよ。」と言って、ミーティアは器を洞窟の壁際に置いた。
ドラキーたちは我先にと器の中の卵へありつこうとしている。ミーティアはそっとその場を立ち去ろうとした。
「キーキー!」と、一匹のドラキーがミーティアを呼び止めた。
「何?」
「キーキー、キーキー!」
どうやらさっきのことでお礼を言っているようだ。
「うふふっ。いいのよ。さ、貴方も仲間たちの所へ戻りなさい。」
「キー!」と、ドラキーはその小さな翼をパタパタと振って仲間の所へと戻って行った。
ミーティアは奥にちらりと見えた階段に向かって歩き出した。その際に何度もモンスターを見かけたが、襲ってくる者はいなかった。どうやらここの洞窟に住んでいる魔物モンスターは、まだ魔王が復活する前からいた良心を持つ魔物モンスターたちなのだろう。階段を下りると、ミーティアは大きな穴を見つけた。
(もしかしたら、薬氏の人が帰って来ないから、おば様たちはここへ来たんじゃないかしら?だって、薬を取りに来たのなら、すぐにでも薬屋へ行ってダンカンさんに薬を届けるはずだもの。それで、お父様がその薬氏を探しに?でも、そうならもうとっくに帰って来ている頃じゃないかしら?それに、出会ったっておかしくないもの。)
ミーティアは穴の下をのぞこうとした。しかし、柵が邪魔でのぞけそうにない。ミーティアは諦めて、別の道を探した。すぐに下へ下りる階段を見つけ、ミーティアは階段を下りた。
その途端、ミーティアは何かの気配を感じ取った。微かに人間らしき息遣いが聞こえる。ミーティアは急いでその方向へ向かった。
「!」
ミーティアは驚いて立ちすくんでしまった。そこには、大きな石に下敷きになったドワーフが倒れていたのだ。
「大丈夫ですかっ?」
ドワーフはうっすらと目を開けた。
「あぁ、良かった。この石をどけてくれないか?」
「えぇ、すぐに。」と言うと、ミーティアは力いっぱい石を押した。
石はとてつもなく重かったが、ミーティアは一生懸命押して、やっとのことで石をどかした。
「やれやれ、助かった!お嬢さん、ありがとう!これでダンカンの女将さんに薬を渡せるってもんだ!おっと、こうしちゃいられない!戻って薬草を調合しなくっちゃな!」
「それなら、私に任せて!」
ミーティアは呪文を唱えた。
脱出リレ呪文ミト!」
オレンジ色の光がミーティアたちを包み込んだ。光が収まると、ミーティアと薬氏は洞窟の外に出ていた。
「あぁ、助かった。そうだ!礼がしたい。うちに寄って行くといい。」
薬氏はミーティアを自分の店へ連れて行った。タンスの中から手織りのケープを取り出してミーティアに渡してくれた。
「どうかもらってくれ。」
「でも・・・。」
「いや、もらってくれ。」
ミーティアは少し戸惑ったが、手織りのケープを受け取ってお礼を言った。
「ありがとう。大切に使うわ。」
「いや、こちらこそ礼を言うぞ。あのまま見つけてくれなかったら、飢えて死んでたさ。」
ミーティアが店を出ると、もう日が傾いて、山の向こうへ沈むところだった。
「いけない!急いで帰らないと!」
ミーティアは急いで家へ帰った。
「こんな遅くまで一体何処に行っていたんだ?」
「ごめんなさい、お父様。ちょっと散歩に行っていたの。」
「今度から気を付けるんだぞ。あぁ、すぐに夕食が出来るから、手を洗ってきなさい。」
「はい、お父様。」
ミーティアは急いで手と顔を洗ってくると、席に着いた。
「あぁ、美味しそう。」
いつものように軽い夕食を済ませると、ミーティアは二階へ上がった。寝間着を取ってくると、地下室に下りる。今日は行水をするのだ。深めのたらいにお湯を張って、体を石鹸せっけんでしっかり洗うと、ミーティアは湯に浸かった。湯から出ると素早く寝間着に着替え、エルトリオを呼んだ。ミーティアが使った湯はエルトリオが外に捨てに行くのだ。
「お父様、お先にありがとう。」
「あぁ、ゆっくり休むんだぞ。おやすみ。」
「おやすみなさい、お父様。」
ミーティアは二階に上がって自分のベッドに潜り込んだ。
 翌朝、ミーティアはいつもより早く目が覚めたので、ゆっくりと身支度をした。テーブルに軽い朝食が置いてあったのでそれを食べると、いつものように顔を洗って髪を梳くと、三つ編みにした。白いローブを着て、紅色のマント羽織ると、ミーティアは下へ下りた。
「おはようございます、お父様。」
「あぁ、おはようミーティア。起きたか。薬が手に入ったので、女将さんとリュカ君は今日帰ってしまうらしい。しかし、ダンカンの様子も気になるので、二人を送っていこうと思うのだが、一緒に来るか?」
「えぇ、お父様。」
「よし、そうと決まったら、早速出かけるとしよう!」
エルトリオはミーティアとマダグレーナ、リュカを連れて家を出た。
「旦那様、どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ!」と、サンチョが言った。
「あぁ、できるだけ早く帰る。」
サンタローズの村を出てアルカパの街へと歩き出すとリュカが言った。
「ミーティアのことは僕が守ってあげるからね。」
ミーティアは何も言わなかったが、嬉しかった。
「あっ、お父様!」
ミーティアは魔物モンスターの気配を感じ取った。エルトリオが頷く。ミーティアたちの前に立ちはだかったのはグリーンワームの群れだった。
「あ、危ないわ、リュカ。下がってなさい!」
マダグレーナは言ったがリュカは引き下がらない。
「止めなくて良いんですよ、奥さん。いい経験です。」と、エルトリオが静かに言った。
火球呪文!」
リュカが勇気を振り絞って唱えたメラはグリーンワームに当たり、グリーンワームの一匹が消えていった。ミーティアも負けじと氷呪文ヒャドを放つ。また一角ウサギが群れを成して襲いかかってきた。
「お父様、ここらの魔物モンスターってしつこいわね。」
「あぁ。ミーティア、後はお前に任せた。一人で十分だよな?」
「えぇ、お父様!」
ミーティアは微笑して、自分よりも数の多い敵と向かい合う。
「エルトリオさん!それはひどすぎだよ!ミーティアちゃんがやられちゃいますよ。」
「うちの娘をめられては困りますよぅ。ちゃんとやれますから。」
マダグレーナは心配そうにしていたが、何もしないことにしたようだ。一角ウサギが背後からミーティアに襲いかかってきた。ミーティアは風のようにさっとよけ、持っていた剣で突き刺し、
襲いかかってきた一角ウサギに向かってミーティアはすかさず呪文を放った。
「凄い!まるで風のように速いよ!」
「やるわね!リュカもこんなに強くなっていたのね。」と、マダグレーナは感心して言った。
「ミーティアのおかげだよ。」
しばらく歩いていると、太陽がもう頭の上に来ていた。
「さぁ、そろそろお昼にしようか。あそこの木陰に行こう。」
ミーティアはバスケットからお昼のサンドイッチを取り出した。
「まぁ!美味しそうなサンドイッチですこと。」
ミーティアたちがゆっくりサンドイッチを食べていると、エルトリオが野兎を狩りで野兎を捕まえてきた。エルトリオは野兎の皮を綺麗に剥いでミーティアが薪に火球呪文で火をけた。こんがりと色が付くとエルトリオは火を消して綺麗に切り分けた。マダグレーナはこの頃流れている噂話を始めた。
「このところラインハット城の人たちが次の国王をヘンリー王子にするか義理の母親の子供のデール王子にするか国内で対立があっているらしいよ。」
「ラインハット城でそんなことが・・・。」
エルトリオは顔をしかめた。ミーティアは何のことだろうと首を傾げる。
「どうかしたの?お父様はラインハット城には行ったことがあるの?」
「まぁ、いずれ知ることになるだろう。」
ミーティアは首を傾げたがそれ以上聞かなかった。
「それにしてもこれは誰が作ったんだい?」
「サンチョだよ。」
「へぇ、サンチョさんがかい?器用なもんだね。」
マダグレーナは美味しそうにサンドイッチを頬張った。
昼食を食べ終わると、ミーティアたちは川の冷たく綺麗な水を飲んだ。
「さぁて、行くとしようか。」
しばらく道なりに進んでいると、今度はドラキーの群れが現れた。
「ミーティア!今度はリュカと協力して戦ってみなさい。」
ミーティアはリュカと顔を見合わせてから言った。
「はい、お父様!」
「はい、おじさん!」
ドラキーの群れがダンカンの奥さんに向かって襲いかかった。
「危ない!」
ミーティアは叫んだ。リュカがとっさにマダグレーナをその場からどかせた。
氷呪文ヒャド!」
ミーティアは先頭にいたドラキーを倒した。すると、他のドラキーたちがミーティアに襲いかかってきた。
「さぁ、よけていなさい!さもないと黒焦げになるわよ!」
ミーティアは火炎呪文ギラを唱えて残りのドラキーたちを倒した。しばらく歩くと森に囲まれた街が見えてきた。
「あ、見えてきた!あそこだよ!」
リュカが街を指差した。
「指差しちゃいけませんよ、リュカ。お行儀が悪いでしょう?」
「はぁい。」
リュカはペロリと舌を出して笑った。

天空の花嫁 第四章 レヌ-ル城 ( No.4 )
日時: 2019/11/10 22:25
名前: ティアラローズ・レンドレット (ID: LN5K1jog)

レヌール城
ミーティアたちはついに、お化けの出るレヌール城に着いたのだった。
「でも、なんだか暗いし不気味な感じね。今にもお化けが出てきそうだわ・・・。でも、あのべビーパンサーのために頑張らないと。」
「そうだね。さぁ、行こう、ミーティア。」
リュカはそう言うと、ミーティアと手を繋ぎ、正面の扉をノックした。
「こ、こんばんは。誰かいらっしゃいませんか?」
いないとわかっていても聞いてしまう自分を恥じながら、リュカはそっと扉を押した。しかし、扉は錆び付いて開かなかった。
「ダメだ。開かないよ。」
「仕方ないわ、他をあたりましょう。」
ミーティアはリュカに言った。
「後ろの方に扉があったりして・・・?」
ミーティアはかしの杖を前に突きつけるようにしながら進んでいった。
「あっ・・・。」
そこには、螺旋らせん階段があった。
「ミーティア、お手柄だよ。」
階段を上がるとまず目に飛び込んできたのは、古めかしい石でできた墓だった。
「お墓だわ。何だか気味が悪いわね。」と言いながら、ミーティアは墓を素通りして、奥に行った。
「見て、リュカ。開いてるわ。だ、誰かいるのかしら?でもここには誰もいないはずよね?」
ミーティアは自分に言い聞かせるように言った。
「入ってみましょう。」
リュカは頷いてミーティアの横に立った。そっと入ると中は真っ暗で何も見えなかったが、死者の魂がいることははっきりわかった。ガシャン!と、後ろで何かが閉まる音がした。
「嘘・・・閉じ込められたの?リュカ・・・気をつけて進むのよ。」
リュカはミーティアの後ろからついて行く。
「ぎゃああぁあ!」と、後ろからリュカの悲鳴が聞こえた。
『まさか!』
後ろを振り向くと、無数の骸骨たちがリュカを取り巻いていた。
「リュカ!」
「ダメだ!ミーティア!こっちへ来るんじゃない!」
「リュカ!」
ミーティアはリュカの所へ駆け寄ろうとした。するとリュカは骸骨と共に消えていってしまった。
「リュカ・・・リュカ!リュカー!」
ミーティアは仕方なく先に進むことにした。
『あぁ、ごめんなさい、リュカ。待ってて、すぐに助けに行くから!』
ミーティアは奥にうっすら見えた階段を手探りで下りた。奥の扉を開けるとそこはさっきミーティアたちが見た墓のある所だった。
「うーん。」
何処からか声が聞こえる。
「リュカ?」
ミーティアは墓に駆け寄った。
「うーん。」
右側の墓が微かに揺れた。
「リュカなの?」
ミーティアは墓石を力いっぱい押した。
「あぁ、苦しかった!助けてくれてありがとう、ミーティア。」
ミーティアはさっき来た扉を開けた。
「そこから来たんだ。」
「それにしても嫌ぁね、ミーティアの墓・・・リュカの墓・・・ですって!」
ミーティアは墓石に刻み込まれた文字を読んだ。
リュカは頷いて、何かに脅えるように震えた。しばらくしてリュカは小声でミーティアに耳打ちした。
「あ・・・あれ。」
リュカは恐る恐る指差したその先を見ると、そこには鎧が飾ってあった。
「光ってるわ。」
しかも、ただ光っているのではなく、自ら光を放っていたのだ。
「だ、誰なの?」と、ミーティアは鎧に話しかけた。
「・・・。」
誰も、何も言わない。物音さえしない。と思った、その時だった。
「見ーたーなー!」
「「ぎゃあああっ!」」
二人は声を揃えて叫んだ。鎧の中にいたのは動く石像だったのだ。
「気を付けえて、リュカ。動く石像よ!こいつは守備力が高いから、肉体戦では勝てないわ。剣は避けて、出来るだけ呪文を使いましょう。」
ミーティアは火球呪文を唱えた。
「ぐあぁ!この私が火に弱いというのを見切ったとは。許さんぞぉ!でやぁ!」
ミーティアはひらりと身をかわす。
「ふふっ、私を傷つけることができるんだったらやってみなさい!」
めるんじゃない!この私は・・・な、何っ?敵がたくさん?」
動く鎧が困惑したように言う。ミーティアが幻覚マヌ呪文ーサを唱えていたのだ。
閃熱べギ呪文ラマ!」
ミーティアの唱えた閃熱べギ呪文ラマは効果覿面。
「ぐああああぁぁ!」
動く石像はガシャンと音を立てて消えていった。動く石像は十五Gと薬草を落としていった。ミーティアはリュカに言った。
「そういえば、向かい側にも塔があったわ。」
「そうなの?」
リュカは墓の中に閉じ込められていたので知らないのだ。
「えぇ、行きましょう。」
二人はは向かい側の搭に向かった。扉を開けて中に入るとそこはどうやら図書室らしき部屋だった。本棚は倒れ、床に本が散らばっている。奥に王妃らしき服装の女性が立っていた。いや、浮いていると言った方が正確だろうか。王妃の髪は美しいエメラルド色の頭髪で、目は青く、瞳は真っ黒だ。首には真珠の首飾りを付けている。頭に付けた黄金のティアラには、真っ赤に輝く涙型のルビーの宝石がめ込まれていた。絹の黄色のドレスに金色で縁取りが施された赤いマントを羽織っていて耳には真珠のイヤリングをしている。王妃はミーティアたちを何か言いたそうな目で優しく見つめると目を閉じた。すると王妃は消え、奥にあった二つの本棚が動いた。その下に続く階段があった。ミーティアたちが階段を下りるとカラスがギャアギャア鳴きながら飛び去った。
「それにしてもどうしてこの城にお化けが住み着いちゃったのかな?この城には何かあるのかな?」
リュカが呟くように言った。ミーティアたちが奥の扉を開けると廊下に出た。その時、魔物モンスターが襲ってきた。二人は急いで真ん中の扉を開けると逃げ込んだ。逃げ込んだ先は王妃と王の寝室らしき部屋だった。壁は大理石でできていて右の方にあるソファーにさっき会った王妃が座っていた。王妃がそっと口を開いた。
「私はこのレヌール城の王妃、アリア・ウイル・レヌール。十年前、この城は魔物モンスターに襲われ、この城の者たちは皆、殺されてしまいました。何故・・・何故あんなことになったのでしょう?噂では邪悪な手の者が世界中から身分のある子供をさらっているとか。しかし、私と夫エリックには子供がいませんでした。子供さらいのモンスターたちはその腹いせに皆を襲ったのかもしれません。今となっては嘆いても仕方のないこと・・・。ですが、せめて・・・私たちは静かに眠りたいのです。どうか願いです!この城に住み着いたゴーストたちを追い出してください。そうでなければ、城の者たちはいつまでも呪われた舞踏会で踊らされたままなのです!」
「えぇ、王妃様、私たちが必ずその親分ゴーストを倒します。」
力強く頷いて、二人はそっとその場を離れた。
「あの王妃様、可哀そうよ。死んでしまった後もひどい目に遭わされているのね。さぁ、頑張りましょう。私たちはお化け退治に来たんだものね。」
ミーティアたちは部屋を出て、右にある扉を開けた。
「大きな穴ね、どうしたのかしら?これもお化けの仕業なの?」
「ミーティア、足元に気を付けて。」
その途端、リュカが足を滑らせた。
「きゃあ!」
ミーティアはリュカと一緒に落ちた。
「うわぁ!・・・!ミーティア!危ない!」
先に落ちたリュカが、危ういところでミーティアを受け止めた。二人はほっと溜息をついた。
「ありがとう、リュカ。それにしても真っ暗ね。ここじゃ何も見えないわ。」
ときどき光る稲妻の光を頼りに階段を下りた。さっと風が吹き、ミーティアたちはその方向を向く。
「リュカ・・・あれ。」
ミーティアは指差した。王の格好をした幽霊が走り去って行ったのだ。
「追ってみましょう。」
王はどうやら階段の奥にある扉から出て行ったらしい。扉を開けるとミーティアとリュカはぞっとした。そこは細い通路で手すりはなく、足を滑らせたりしたら一溜まりもない。下では不気味な音楽を奏でる骸骨たちが城の人と思われる人々を踊らされていた。
ひどい・・・早くあの人たちを助け出さないと。」
ミーティアとリュカは速足で通路を通り向けた。
「あ、あそこ・・・。」
王が走り去って行くのが見えた。ミーティアとリュカは大急ぎで追いかける。王は階段を上がらずに奥にある扉へ入って行った。
二人は慌てて追いかけて重い樫の扉を開けると外にある通路に出た。王はそこに静かに立っていた。ミーティアが話しかけた。
「貴方がエリック王ですね?」
「おぉ!ここまで来る勇気のあった者はそなたたちが初めてじゃ!と言うのも、何年か前にこの城にゴーストたちが住みついてしまい、私とアリアは眠りにつくこともできぬ。かつてはこの城に咲く花々を眺め、午後の茶を楽しむのが我らの幸せだったというのに・・・。どうかお願いじゃ!ゴーストたちのボスを追い出してくれぬか?」
「はい、エリック王。」
「そうか、やってくれるか!うむ、そなたたちは信に勇気のある者たちじゃ。ゴーストのボスは4階の玉座の間におり、周りを魔界の幽霊たちが守っている。ここに来るまでに真っ暗なフロアを通ったであろう?そこの中心にボスがおるのじゃ。後ろの扉の向こうの階段を上がれば宜しく頼んだぞ!」
ミーティアたちは来た道を戻り、エリックに言われた通り階段を上がろうとした。すると、エリックが追いかけて来た。
「待ちなさい!まだ話すことがあるのに。若い者はせっかちでいかん。そのまま玉座の間へ行っても真っ暗で何も見えぬであろう?大広間を抜けて地下まで下りれば台所の壺に松明があったはずじゃ!それを使えば暗闇を照らすことが出来よう!」
王は真っ直ぐ進んで、振返って言った。
「さぁ、こっちじゃ。び付いている扉も開くようにしておくから宜しく頼んだぞよ!」
ミーティアたちはエリックの所へ行った。
「大広間を抜けて地下へ下りれば台所の壺の中に松明たいまつがあったはずじゃ。あの松明たいまつかつてとある国の王妃から譲り受けた聖なる品。四階に住み着いた魔界の幽霊たちも嫌がって消えるかもしれぬぞ。」
ミーティアたちは来た道を戻り、またあの細い通路への反対側へ着いた。小走りで通路を抜けた。そこにはソファアが置いてあった。その近くに老人の姿をした幽霊がいた。
「おぉ、ゴーストたちだけでなく魔界の魔物モンスターたちまで住み着くとは。かつて書物で読んだ魔界の王ミルドラースがこの世界に手を伸ばそうとしているのだろうか?」
老人の幽霊は嘆くように言っているのが微かに聞こえた。その目にはもう、光がなかった。
「ねぇミーティア、魔界の幽霊たちがいるってそんなに怖いことなのかな?よくわかんないや。」
魔物モンスターも幽霊も悪いお化けも似たようなものよね?そう考えれば怖くないわ。」
ミーティアは自分に言い聞かせるように言った。奥の階段を下りると、そこには教会のテーブルが置いてあった。その横で魂がぶつぶつと呟いていた。
「メラメラ・・・口惜しや。城の兵士長でありながら魔物モンスターから王を守れなかったのだ・・・。どうか誰か魔界の王を倒しこの世に永遠の平和を・・・。」
ミーティアは悲しそうに魂を見る。
「貴方は悪くないわ。私たち、さっき王様と王妃様にあったわ。ゴーストを倒すから、安心して。」
魂はほんの一瞬人間の兵士の姿に戻ると二人に微笑んで何処かに消えていった。ミーティアたちが横の扉へ入ると、あの大広間へやって来た。
不気味な音楽が流れ、人々が踊らされている大広間は、まるで地獄のようだった。
「うわあぁ!誰か止めてくれぇ!」
二人は走って反対側の扉へ入ると、宿屋の看板があった。中に入ると魂がいた。
「メラメラ・・・いらっしゃい、一晩泊って行くかい?」
「い、いいえ。大丈夫・・・です。」
ミーティアたちは宿屋を出ると、階段がすぐ側にあった。階段を下りると、そこはどうやらエリックの言っていた台所のようだった。そこではコックの幽霊が泣きながら味付けをしていた。ミーティアは壺を調べていくと、薬草とエリックの言っていた聖なる松明たいまつを手に入れた。
「あぁ、これでボスの所まで行けるわ。」
ミーティアはそう言うと、リュカの手を引っ張って階段を上がり大広間に入った。ふと、まだ開けていない扉があるのに気が付いた。扉を押して開けるとまた奥に扉があった。扉はびついて開かなかった。しかし何処からともなく生暖かい風が漂ってきて、びついていた扉が開くようになった。その扉は外に通じる扉だった。ミーティアたちが最初に来たところだ。ミーティアはまた後ろの螺旋らせん階段を上り、途中で真ん中にある通路を通って扉を開け、階段を上り、ようやくボスのもとへ辿たどり着いた。
「真っ暗ね。松明たいまつを使いましょう。」
ミーティアは松明に火を灯した。すると青白い炎が付いた。リュカがそれを掲げると、辺りにいたお化けは堪らず逃げだした。松明を頼りに扉を開けてボスのもとへ向かう。
「あれよ。」と、ミーティアは今までで見た中でも一番大きなゴーストを指差した。
「ほほぅ、ここまで来るとはたいしたガキ供だ。美味しい料理を作ってやろう。さぁこっちへおいで。」
「嫌よ!ゴーストたちのボスなら正々堂々と戦いなさい!」
ミーティアがかしの杖を突きつける。
「ほほぅ、度胸のあるガキ供だ。」
ミーティアたちは親分ゴーストの所へ歩み寄る。
「ただし、お前らがその料理の材料だがな!」
ミーティアたちは落ちて行った。大広間の骸骨たちの待つテーブルの穴を通り、台所へ着いた。コックが頭を抱えて嘆いた。
「まさか子供を料理にするなんて!」
骸骨たちがレバーを引くとお皿が骸骨の待つ大広間のテーブルに着いた。
「おぁ、こりゃぁ旨そうだ!」
ミーティアたちは武器を構えて襲いかかってきた骸骨たちを一匹残らず始末した。
「あのゴースト、ずる賢いわね。」
ミーティアは溜息をつくとリュカに言った。キメラの翼を使って街に戻った。そのままベッドに横になってぐっすり眠ってしまった。
「リュカ、起きてよ。朝よ。」
ミーティアはリュカを揺すり起こした。
「うぅん、ミーティア。まだ寝かせてよ。」
「ダメよ、リュカ。起きないと怪しまれるもの。」
ミーティアはリュカをもう一度揺すり起こした。やっと起きたリュカはミーティアを見るとにやりと笑った。
「今日も行くよね、あそこ。」
「もちろんよ。今日こそあの親分ゴーストを倒してやるんだから!」
「そうだね!今日こそケリをつけてやる!」
ミーティアは下に下りて、エルトリオとダンカン夫妻に挨拶をした。
「リュカ、いい?」
「うん。」
朝食を食べて、急いでベッドに入るとまたすぐに寝てまった。
「うぅん。あぁ、もう夜なのね。起きなきゃ。」
ミーティアはリュカを起こしに行った。
「リュカ・・・。」
リュカは今度はすぐに起きて、朝のうちに用意していた持ち物を腰の所に下げた。
ミーティアたちは街の外に出るとヒュッと口笛を吹いた。レディーとプリンスがやって来て足を追って座った。
「レヌール城までお願いね、レディーにプリンス。」
二匹はいななくと風のように走り出した。空には満天の星が輝いている。
「綺麗ね。」と、ミーティアはぽつりと言った。
レヌール城に着くとレディーとプリンスは帰って行った。
「後ろの階段から行きましょうね。」
ミーティアたちは階段の途中にある通路を通り、親分ゴーストのいるフロアまでやってきた。松明を灯すと、お化けたちはまたその光を嫌がって外へ出て行った。ミーティアたちは真ん中の部屋に入った。親分ゴーストが外のテラスに行くのが見えた。
「リュカ、行きましょう。」
ミーティアとリュカは忍び足でテラスへ向かう。二人の気配に気が付いた親分ゴーストが言った。
「なんと!骸骨たちはお前たちを食べ損ねたようだな・・・。」
ミーティアは足を一歩後ろに引いて構えた。
「倒されるのはどっちかしらね?低呪文カナン!」
親分ゴーストの周りを青白い光が包み込み、親分ゴーストの守備力を少し下げた。親分ゴーストが反撃を仕掛けたが、ミーティアはひらりとよける。
「凄いな、ミーティアは。敵の攻撃をひらりとかわしちゃうんだもん。身のこなしがまるで違うや。」
リュカは呪文ャドを唱えた。氷の球が親分ゴーストに飛んでいく。
「くっ、ガキめ、なかなかやるな!これでは手加減しようがないな、え?」
「リュカ、作戦はガンガン行くわよ!」
「オッケー!喰らえっ!真空呪文バギマ!」
「あら、いつの間に真空呪文バギマなんて覚えたの?」
「ミーティアを追い抜こうと思ってね。やっぱりまだまだみたいだよ。」
ミーティアはふふっと笑った。親分ゴーストが言った。
「おのれぇ、小娘供!これでもどうだ?氷塊呪文(\s\up 9(\s\up 9(ヒャダルコ)!」
ミーティアとリュカ両手を重ねて呪文を唱えた。
魔法返呪文マホカンタ!」
二人の前に光り輝く見えない壁が現れた。呪文が跳ね返り、親分ゴーストに氷塊ヒャダ呪文ルコが飛んでいく。親分ゴーストは悔しそうに二人をにらみつける。
「私たちをめると痛い目に遭うわよ!」
ミーティアはもう遅いけどね、と肩をすくめる。
「こっちだってめてもらっちゃ困るぜ?何せゴーストの親分なんだからな。」
親分ゴーストがにやりと笑む。
「こっちの勝ちだな。」
ミーティアは目を細める。
「本当に?後で後悔しないことね。」
ミーティアはリュカと顔を見合わせる。
「大地斬!」
ミーティアが地の技を叩き込む。剣を大上段に構え強力な斬撃を敵に叩き込む力技。無駄ない動きで持っている力を効率よく叩き込む事が要点だ。親分ゴーストは大きく体制を崩す。リュカがその隙に真空呪文バギマを唱えた。
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!」
親分ゴーストがぐったりと項垂うなだれた。二人は親分ゴーストを倒したのだ。
「やったわ!リュカ。私たち、親分ゴーストをやっつけたのよ!」と、ミーティアは不敵に笑んだ。
「怖いよ、ミーティア。」
「この城を出て行ってもらうわ!それとも?」
ミーティアは親分ゴーストの首元に剣を突き付けた。
「あわわわわわ!許してくれぇ!もう何もしないから、殺すのだけは!」
親分ゴーストは慌てて謝った。
「ほんっとにドジで間抜けね。今回は許してあげるわ。次はないわよ。」
ミーティアはそう言うとくるりと向きを変えた。
「さぁ、エリック王とアリア王妃に謝ってもらうわよ!」
城の墓の所まで来るとミーティアとリュカ、そして親分ゴーストは立ち止まった。
「エリック陛下とアリア女王様はどちらにおられるかな?」
親分ゴーストがエリックとアリアを呼ぶと墓の上に二人の人影が浮かび上がった。
「ここじゃ。」
エリックとアリアが姿を現した。親分ゴーストが口笛を吹くと、城中にいたお化けたちが集まってきた。
「何の用じゃ?」と、エリックが親分ゴーストに問うと親分ゴーストは静かな声で答えた。
「本当に申し訳なかったです。ここから出て行きますんで。」
そう言うと親分ゴーストはぺこりと頭を下げた。
「お、親分、気でも狂ったのか?」
子分たちが言うと親分ゴーストは怒りながら言った。
「こら!お前らも、陛下と女王様に謝るんだ!」
「申し訳ありません・・・?」
「これ!はしたない。仲間にも気を配り、優しく接するのが親分と言う役目のものなのではないか?」
親分ゴーストはハッとして顔を上げた。
「もうすぐ夜が明けてしまうわ。」
「ありがとうな。お礼になんだが、これを持って言ってくれ。銀のティーセットなんだが、良かったら使ってくれないか?昔から伝わる家宝だが、お前たちにあげるよ。」
「ありがとう、大切にするわ。」
「それでは、私たちは元ある城へ帰ります。ありがとう・・・ミーティアと、リュカと言ったかな。お前たちのおかげで、大切なことに気付くことができた。これからは、森でひっそりと暮らすことにするよ。」
親分ゴーストたちが子分たちを引き連れ、太陽の上りかけている西の空へと消えていった。
「ミーティア、それにリュカ。本当にありがとう。とっても助かったわ。」
「これからわしらは何にも脅かされることなく静かに眠ることができる。感謝するぞ。」
「感謝なんて・・・私たちはただ、当たり前のことをしただけです。どうか、お二人ともお元気で。」
「貴方たちも、元気でね。まだ小さいんだから、ご両親に心配を掛けないのよ。」
そう言うと、二人は次第に薄くなり、空気の中に消えていった。突然、空から金色に光るオーブがゆっくりと落ちてきて、墓の前にゆっくりと落ちた。
「何だろう?」
「きっと王様と王妃様からの贈り物よ。」
ミーティアはそっとオーブを袋の中に入れた。城を出て、ヒュッと口笛を吹いた。レディーとプリンスがやって来てミーティアとリュカを背中に乗せると大急ぎで駆けて街まで連れて行ってくれた。
「ありがとう、レディーにプリンス。」
ミーティアは二頭の首を優しくさすってから森へ帰るように促がした。森へ帰る二頭を見つめていた二人はハッと我に返って大急ぎで宿屋に行き、ベッドに潜り込んだ。
「起きなさい、お寝坊さんたち!」
階下からマダグレーナの声がする。ミーティアは青いフランネルの寝間着からの黄緑色のカミシアの服に真鍮しんちゅうのボタンが付いた青いマントを羽織って階下に下りた。
「おはようございます、おば様。ダンカンさん、お父様。」
「とっくに朝ごはんの用意はできてるわ。」
マダグレーナはそう言うとスクランブルエッグを皆のお皿につぎ分けた。
「今日はもうここをたなければならん。ラインハット城の王に呼ばれたのだ。もう少しいられたら良かったのだが。」
「仕方ないですもの。」
お皿にはバター付きパンと目玉焼き、プリップリのソーセージと新鮮なレタスとミニトマトがのっていた。ミーティアとリュカは久しぶりにゆっくりと朝食を食べるとお皿洗いを手伝いカカオたちの所へ駆けて行った。
「約束は果たしたわ!この子を離してもらうわよ!」
「あぁ、約束は守るさ。」
カカオたちは走り去った。ミーティアはベビーパンサーの首に着いた縄を外してやった。
「どうしようかしら?貴方が飼う?」
「うちじゃ飼えないと思うよ。」
その時、エルトリオがやって来て言った。












「聞いたぞ。お化け退治に行ったの、本当かい?」
ミーティアはどぎまぎしながら答えた。
「はい、お父様。」
「そのベビーパンサーをどうしたいのかね?」
「飼ってもいいですか?」
「きちんと世話するんだぞ。」
「ありがとう、お父様!」
エルトリオは嬉しそうな娘を見て嬉しそうに微笑んだ。ミーティアは目を輝かせて言った。
「この子の名前、どうしようかしら?」
悩んだあげく、名前はリンクスになった。ミーティアは髪を結ぶのに使っていた水色のリボンをリンクスの首に蝶結びにして結んであげた。
「クゥーン。」と、リンクスが嬉しそうに鳴いた。
「これ、貴方にあげるわ。いつかまた会える日まで私を忘れないでね。」
ミーティアは髪を下ろすと腰の所まで金色に光り輝くウェーブがかった髪がたれた。その姿に街の人たちは溜息をつくほどだった。
「綺麗だなぁ。」
中にはそう呟く人もいた。
「とっても綺麗だよ。」
「ありがとう。」と、リュカ。
「ずっと渡そうと思っていたんだけど。」
リュカは恥ずかしそうに何かを差し出した。
「私にこんなに綺麗なもの・・・。」
リュカがミーティアの手に置いたのは美しい髪飾りだった。花をかたどったルビーとその両端に真珠とザクロ石が付いたものだった。
「最後に何か歌ってくれる?」
リュカはミーティアの記憶を呼び戻すように言う。
「もちろんよ!」
ミーティアは竪琴を取り出して人魚のような歌声で歌いだした。
「なんて美しい歌声。まるで人魚の歌を聴いているようだ。」
人々は口々にそう言ってミーティアの歌に聴き入った。いつの間にか辺りは静まり返り、ミーティアの歌声が響く。
「星降る夜はさまよい歩かん 
淡き夕映えの 光の中を 
薔薇ばらに乗せて愛を歌う
夜鳴きうぐいすの別れの歌よ 
そよ風優しく吹きそむるころ 
灯 瞬く我が家を後に 
足音密かに忍び行けば 
海辺の岸に寄せる 銀色の波は呟く 
星降る夜はさまよい歩かん 
胸躍らせて 気の向くままに」
シスター・アルウィンは目に涙を溜め、リュカは一緒に歌った。
「また 待っているよ 
きっと 待っているよ 
夜鷹たかの声が『ひるむ心( )をうて』と 歌いだす時に」
とうとう街の人々も声を合わせて歌いだした。エルトリオの青い目はキラキラ輝いていた。
「果てしなき大空に きらめく星の軍勢が 
定めの位置につきし時 
尾を引き流れる星に混じり 
罪人のさまよう目をとらえし一つ星 
かの星こそ 我が光 
我が道しるべ 我が全て 

黒き予感を追い払い 嵐と危険のかせを抜け 
いこいの港へ導きぬ 

今 危険を乗り越え我は歌う 
夜の王冠をいただきて 
とこしえに とこしえに 
星よ ベツレムの星よ」
ミーティアはリュカの姿を目に焼き付け、リュカはミーティアの姿を目に焼き付ける。二人はもう一度硬い握手を交わした。
「ありがとう皆さん。リュカ、さようなら。またいつか会いましょうね。」
そう声をかけ、くるりと後ろを向いて歩き出す。一回、振返って叫んだ。
「ねぇリュカ、絶対またいつか一緒に冒険しましょうね!約束よ!」
「うん!約束するよ!大人になったらミーティアを僕のお嫁さんにしてあげるね!」
「リュカったら・・・じゃあ弱虫なところを直したらお嫁さんになってあげてもいいわよ。」
「・・・弱虫じゃないもん!もっと大きくなってエルトリオさんより強くなるもん!」
「ふふふ・・・待ってるからね、リュカ。」
ミーティアは微笑む。見とれているリュカに、ミーティアは手を振って言った。
「絶対また、冒険しようね!」
そしてミーティアとエルトリオはリュカたちの住むアルカパの街を後にした。 

天空の花嫁 第四章 アルカパの街 ( No.5 )
日時: 2019/11/12 16:36
名前: ティアラローズ・レンドレット (ID: LN5K1jog)

アルカパの街
故郷サンタローズを後にして、ミーティアたちはリュカの生まれ故郷であるアルカパの街へと旅立ったのだった。
「あれがアルカパの街・・・サンタローズと違って大きいわね。」
「うん。ほら、入り口はこっちだよ。」
リュカは走って街へ入って行った。ミーティアも急いで追いかける。
街に入ってまず目に飛び込んできたのは大きな宿屋だった。ミーティアは街をぐるりと見渡す。綺麗な小川がせせらぎ、周りを木々に囲まれている。入り口には護衛が立っている。
「あれが僕の家だよ。」
リュカは宿屋を指差した。宿屋は三階建てで、二階にはテラスがある。マダグレーナは家へ入って行った。
「こっちに夫がいるよ。」
部屋に入るとベッドに男性が横になっていた。
「ダンカン!」
エルトリオは男性の所へ駆け寄った。腕に傷がある。
魔物モンスターと戦っていて怪我したんだ。何、そんなにひどくはないぞ。しかし・・・風邪をこじらせちまってなぁ。ゴホッゴホッ。」
魔物モンスターにやられたって・・・見せて下さい、その傷。」
ミーティアはしゃべってからハッとした。子供は大人の話に割り込んではいけないのだ。
「あっ・・・。」
「ミーティア、見せてもらいなさい。」
「はい、お父様。」と言って、ミーティアはダンカンの方へ歩み寄った。
「力を抜いていてください、その方が楽ですよ。」
ミーティアはダンカンの腕の傷を見た。傷口が紫色になっていて、大きく開いてしまった跡がある。
魔物モンスターの毒が体内に回っています。すぐに抜いておかないと、死んでしまうような猛毒・・・ですね。」
ミーティアは少し考えてから言った。
「おそらくこれは骸骨兵のポイズンソードを喰らっているのでしょう。」
「あぁ。確かに最近、ラインハット城周辺で骸骨兵と戦ったな。」
「貴方・・・。」
「大丈夫ですよ、おば様。私がすぐに解毒キア呪文リー魔物モンスターの毒を抜きますから。」
ミーティアはダンカンさんの腕の傷に手をかざして呪文を唱えた。
解毒キア呪文リー!」
ミーティアの手が、緑色の光を帯びた。ミーティアは祈りながら傷口に手をかざし続けた。
「どうですか?ダンカンさん。刺すような痛みは消えていますか?」
「あぁ、楽になったよ。ありがとう、ミーティアちゃん。」
ミーティアはダンカンさんの傷口に再び手をかざし、回復呪文ホイミを唱えた。金色の光がミーティアの手を取り巻くように輝いた。その光はダンカンさんの傷口にまとわりついた。優しい光が、傷口を癒す。
「これで治ったはずです。さぁ、薬氏さん。ダンカンさんに風邪に効く薬草を・・・。」
薬氏は薬草をお湯で煎じた恐ろしく苦い薬をダンカンに飲ませた。ダンカンさんの顔色がだんだん良くなっていった。
「皆、心配をかけてすまなかったな。」
ダンカンさんはそう言うと元気よく言った。
「さぁ、夕食の準備をしようじゃないか。リュカ、ミーティアちゃんと遊んできていいよ。ただし、街から出るんじゃないよ。」
ダンカンはそう言うとダンカンの奥さんと夕食の準備を始めた。
「お父様、明日にはここをつの?」
「あぁ、ダンカンの風邪も良くなったしな。」
「リュカ。せっかくだから、街の広場に行きましょう。歌を歌いたい気分よ。」
ミーティアは寂しいのを隠そうと、作り笑いを浮かべて元気よく言った。
「広場に行こう、ミーティア。」
「えぇ、リュカ。」
ミーティアはリュカに続いて歩き始めた。街のほぼ中心に広場はあった。
「素敵な広場ね、リュカ。」
「さぁ、ジプシーの警告から行きましょうか!」
ミーティアは魔法で竪琴を呼び出して、ポロン、と音を出した。ゆったりとした伴奏が始まる。ミーティアの人魚のような美しい声が街中に響き渡った。
「甘く 優しくささやかれても
心優しきお嬢さん
それを信じちゃなりませぬ
貴女の足元に ひざまず
涙ながらに壊れても
それを信じちゃなりませぬ
光り輝く朝のような
貴女の幸せを 曇らせぬよう
ジプシーの警告をよくお聞き
殿方を信じちゃなりませぬ。」
「ヒューヒュー!」
一人の男の子がミーティアの所へやって来た。
「綺麗な歌声だね、君、名前は?」
「名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
ミーティアは失礼な子だわ、と思いながら自分の名を名乗った。
「私はミーティア・ジュエリッタ・ワイルダーよ。」
少年は、参ったなぁ、と言うような表情をして言った。
「俺・・・じゃなかった。僕はカカオ、カカオ・グレゴリアだ。宜しく。」
ミーティアはカカオには全く興味を示さなかった。周りにいる女の子たちは黄色い声を上げているが、ミーティアにはただの礼儀知らずにしか捉えられなかったからだ。
「リュカ、別の場所を案内してくれる?」
「うん、教会には行く?」
「行く!行くわ!」
ミーティアはリュカを引っ張るようにして教会の所へ走っていった。教会の建物はとても立派だった。窓はガラス張りで、色とりどりのガラスが光を通して床に美しい絵を映し出していた。ミーティアたちが教会を眺めていると、若いシスターが声をかけてきた。
「あら、可愛いお客様だこと。リュカ君に・・・。」
「幼馴染のミーティアです。」
「リュカ、ミーティア、我が教会に何のご用でしょう?」
「ミーティアは今日初めてじゃないけど、前に来た時が小さい頃だったから、街を案内してるんだ。」
シスター・アルウィンはにっこりと笑った。しかし、教会の時計を見て、慌てたように言った。
「まぁ、もうこんな時間だわ!さぁ、家にお帰り。」
時計はもう夕方の六時を過ぎようとしていた。
「本当だわ!それでは、シスター・アルウィン、さようなら。」
教会を出ると、二人は魔物モンスターの泣き声を聞きつけた。
「何か、魔物モンスターの泣き声がしない?」
「教会から南の広場からだ!」
二人は走って広場へ行った。
「「あっ!」」
そこには、少年二人に囲まれたキラーパンサーの子供、ベビーパンサーがいじめられていた。
「やめなさい、やめなさいったら!」
ミーティアは急いで駆け寄った。
「あぁもうっ!うるさいな!邪魔するなよ。」
少年たちは駆け寄ったミーティアを平手打ちでぶとうとしたが、ミーティアはひらりと身をかわした。少年たちを見てミーティアは叫んだ。
「カカオ!」
なんと、少年の中にカカオも混じっていたのだ。
「まさか貴方がこんなことしてるとは思わなかったわ!今すぐその子を離しなさい!」
ミーティアは立ち上がると少年たちをキッとにらんだ。
「さっさと片付けちまおうぜ。」
「ミーティア危ないよ!」
リュカがミーティアの手をつかんだ。
「私をめると痛い目に遭うわよ!」
「おっ?やるつもりなのか?俺たちだってめてもらっちゃ困るよ。だって俺たちは街の子供で一番の戦士だぞ!」
「僕の方が強いけど、本当にこの子たち強いんだ!」
リュカがミーティアを少年たちから引き離そうとした。剣術で村一番の(・・・・)リュカが言うのならそうだろう。
「どうしたらこの子を譲ってくれるのかしら?」
ミーティアはいたって冷静だ。
「そうだな・・・。レヌール城のお化け退治をしてくれたら譲ろうか。」
「わかったわ。いいわよね、リュカ?」
リュカはほっとしたように頷いた。
「そろそろ戻った方がいいかしら?それでは失礼。」
「家までエスコートするよ、ミーティアちゃん。」
「結構よ。」
ミーティアは冷たく言い放ってさっさと歩いて宿屋に入って行った。リュカも慌てて追いかけた。
二人が家に入ると、もう夕食のお膳立ては済んでいた。
「さっき歌っていたのはミーティアちゃんかい?」
「まぁ、ダンカンさん、聞いてらしたのですね。」
「綺麗な歌声が聞こえたから。妖精が歌っているのかと思ったよ。」
「お世辞はよしてくださいな。」
ミーティアはそう言って愛想よく笑うと急いで手を洗って席に着いた。テーブルの真ん中にこんがりと焼けた豚が口に綺麗な赤いリンゴをくわえてのっていた。
「凄いわ、おば様!」
じゃがいもや株や黄色い南瓜かぼちゃのマッシュの上が少しくぼんでいて、そこから溶けたバターが幾筋もしたたっている。干し玉蜀黍とうもろこしを戻してクリーム煮にしたのや、玉蜀黍とうもろこしパンがのっていた。すっぱいきゅうりのピクルスもある。
「いつの間にこんなに作ったんですか?」
「近所の農家の人が、ミーティアちゃんたちが来るからって、豚の丸焼きをこしらえてくれていたのよ。」
エルトリオも席に着いたので、ダンカンさんがお祈りをした。ダンカンさんがお皿に夕食を装ってくれている間、子供たちは静かに待っていないといけない。ダンカンさんがまずエルトリオのお皿に取り分け、次に自分のお皿に取り分けた。マダグレーナの次に、ミーティアのお皿に取り分けてくれた。リュカが一番最後だった。本来ならばリュカの方が年上なのでリュカから取り分けてもらうのだが、ミーティアはお客さんだからリュカよりも先にお皿に取り分けるのだ。
「さぁ、いっぱい食べて下さいね。」
ミーティアはまず、玉蜀黍とうもろこしのクリーム煮をいただくことにした。スプーンは銀でできている。とろりとした甘いスープが喉を通っていった。
「どう?口に合ったかい?」
「はい、おば様。とっても美味しいです。」
ミーティアは、ライ・アン・インジャンに茶色いグレービー(肉を焼く時出る汁で、その料理のソースのする)をかけて食べた。テーブルの上の御馳走を食べ終わると、ミーティアはお皿を洗うのを手伝った。
「偉いね、ミーティアちゃんは。うちの子、手伝わないんだから。私がやっとくから。」
ダンカンの奥さんはそう言ってミーティアからお皿受け取った。
「ミーティア。」
エルトリオがミーティアを呼んだ。
「はい、お父様。何ですか?」
「ダンカンが一緒に歌を歌おうっていうものだからな。ダンカンさんの奥さんが片付けを済ましたら皆で歌おうじゃないか。」
「わぁ!いい考えだわ、お父様!」
「ライ麦畑がいいわ。」と、キッチンから戻って来たマダグレーナが言った。
ミーティアはライ麦畑を弾き始めた。ミーティアの美しい声が家中に響き渡る。
「あたしにいい人いるなんて
だぁれも信じちゃくれないの
ライ麦畑で会った若者は
皆 微笑みかけてくれるのに」
ミーティアが歌い終わると、マダグレーナは拍手喝采。
「やっぱり素晴らしい歌声だね。」
「ビリー・ボーイを弾いてくれないか?」
「えぇ、お父様。」
ミーティアがヴァイオリンを弾き、エルトリオが歌う。
「あの子はチェリーパイを焼けるよ
ビリー=ボーイ ビリー=ボーイ!
あの子はチェリーパイを焼けるよ 素敵なビリー 
あの子はチェリーパイを焼けるよ パチッとウインクしながら 
でも まだほんのねんねで 
お母さんのそばを離れられないのさ」
ダンカンが愉快な笑い声をあげて言った。
「あんたもなかなかやるじゃあないか、エルトリオ。どうだ、お次は輪唱と行こうじゃないか!」
ミーティアは少し考えてから言った。
「三匹のめくらネズミはどうかしら?」
「それがいい。頼むよ、ミーティア。」
ミーティアヴァイオリンを弾き始めた。まずダンカンのテノールから、「三匹のめくらネズミが・・・」と始まると、続いて、エルトリオのバスが「三匹の・・・」と続き、リュカとマダグレーナのコントラルト(アルトの音域)、それからミーティアのソプラノが入り、ダンカンが終わりまで歌ってしまうと、止まらずにまた最初から歌っていき、ぐるぐるぐるぐる、歌っていく。
「三匹のめくらネズミが 追いかけてくよ! 
百姓のかみさんの後を 追いかけてくよ!
百姓のかみさんの後を 追いかけてくよ!
かみさんは肉切り包丁でちょきんと尻尾を切り落とす
こんなへんてこなお話 聞いたことある?
三匹のめくらネズミのお話を?」
そうして歌っているうちに、きっと誰かが笑いだし、歌はむちゃくちゃになって、はぁはぁ息を切らしたり大笑いしながら終わってしまう。
「さぁ、そろそろポップコーンが出来たころですわ。リュカ、リンゴジュースの樽を一つ持って来ておくれ。」
リュカが地下室へ行くのを見て、ミーティアもリュカについて行った。
「凄いわね!この樽全部リンゴジュースなの?」
「うん、そうだよ。さぁ、そっちを持って。せーの!」
ミーティアとリュカは樽を持って上へ向かった。そんなに遠くないはずなのに、一階がとても遠く感じられた。
「あら、ミーティアちゃん。ありがとう、さぁ、二人とも座って。」
「船旅のことを聞かせてくれない?」
「いいわよ。」
ミーティアは、エイトの事、シスター・アンルシアのこと、船乗りたちや、イルカたちのことをリュカに言って聞かせた。
「エイトか。会ってみたいな。ミーティアの友達だもん。きっと良い子だよ。」
「でも、リュカだって同じだもの。とってもいい子だと思ってるし、頼りになるわ。」
「ありがとう。君がそんなふうに思っているなんて思ってなかったもん。」
ミーティアとリュカはポップコーンをまんだ。ポップコーンは雪のようにすっと口の中で溶ける。それに、薄く塩が効いていてとても美味しかった。
「リュカ、ベビーパンサーのことなんだけど。」
「あぁ、あのこと。もうそのことは明日にしておこう。父さんたちに知られたら大変だから。」
リュカがあくびをした。
「リュカの言う通りだわ。」
ミーティアはつられてあくびをした。ミーティアたちはお皿のポップコーンを全部食べてしまうとマダグレーナが言った。
「さぁ、もう寝なさい。おやすみ、ミーティアちゃん、リュカ。」
ミーティアはリュカと一緒に階段を上がった。
「「おやすみ。」」
二人は別々の部屋へ入って行った。ミーティアはベッドに横になってからも、あのべビーパンサーのことを考えていた。しかし、いつの間にか寝てしまった。
ミーティアは教会の鐘の音で朝の清々しい空気が開け放った窓から差し込んでいた。時計が五時を差していた。
(そういえば、宿屋の朝は早いって聞いたことがあるわ。もう下へ行った方がいいのかしら?)
ミーティアは鏡台の前に行き、大急ぎで顔と手を洗う。洗い終わると掛けてあったふかふかのタオルで顔を拭いた。長い金髪の髪をくしいて三つ編みにした。ミーティアは青いカミシアのローブを着て紺色のウールのフード付きのマントを羽織った。階下へ下りるとミーティアはマダグレーナに言った。
「おはようございます、おば様。」
「あら、早いわぇ。今ちょうど朝食が出来たところよ。悪いんだけど、リュカを起こしてくれない?」
「えぇ、構いませんわ。」
ミーティアは二階に上がるとリュカの寝室へと入って行った。
「おはよう、リュカ。」
リュカはもう起きていた。黄緑色の絹のローブを着て紫のターバンに紫のマントを羽織っている。
「ミーティア、おはよう。下へ行こうか。」
リュカは、ミーティアの手を引いて階段を下りた。
「リュカ!」
マダグレーナがぷりぷりしながら言った。
「・・・ったく、いつまで寝てるつもりなんだい?さぁ、席に着きなさいな。」
リュカは席に着いた。ミーティアもリュカの隣に腰を下ろして、エルトリオがいないことに気が付いた。
「お父様はもう何処かにお出かけになったのかしら?」
「それがねぇ、ミーティアちゃん。エルトリオさんはね、うちの夫の風邪がうつっちゃったみたいでね。悪いから、良くなるまでここに泊めてあげることにしたんだよ。」
マダグレーナが言った。ミーティアはリュカに目配せした。
「ありがとうございます、おば様。」
テーブルの上にサンドイッチやミルク、ジャムを塗ったパン、暖かいスープが並んでいた。もうダンカンさんは食べたらしく、仕事の準備に取りかかっていた。
「とても美味しかったです。」
ミーティアはそう言うと、お皿洗いを手伝いましょうか?と聞いた。ダンカンの奥さんは、いいのよ、リュカと一緒に街を散歩したりしてきなさいな、と言ってくれた。ミーティアはリュカにもう一度目配せし、二階に上がった。
「お父様には悪いけど、ダンカンさんの風邪がうつって幸いだったわ。」
ミーティアは苦笑する。
「おかげでベビーパンサーを助けられるもの。ねぇ、どうするの?昼間は護衛がいて出入りできないでしょう?」
「うん。夜はどうかな?それなら皆寝てるし。」
リュカの提案に、ミーティアは頷く。
「それはいい考えだわ!今のうちに準備をして、寝ておくことにしましょう。」
ミーティアはリュカと缶詰め屋に行ってサクランボの缶詰めと桃の缶詰めを買った。それから外に出るとミーティアはリュカに言った。天気がいいので、ミーティアは思わず歌いだした。
「日ごと日ごとに満ち足りて
あらゆる人と 仲良く過ごし
悩み争うこともなく
友の訪れに胸弾む
そんな暮らし 幸せに
生き生きと輝き
多くを望まぬ そんな家庭
こんな人生が送れるのも 蹄鉄ていてつのおかげさ
戸口に蹄鉄ていてつをかけよう
幸運が来るように
喜びに満ち
うれいのない
そんな人生を送りたかったら
戸口に蹄鉄ていてつをかけよう」
ミーティアはハッと我に返る。こんなことをしている場合ではないと思ったのだ。すぐにリュカの方へ向き直って言った。
「急ぎましょう。武器屋で武器を買うことになりそうね。」
「うん。武器屋はこっちだ。」
リュカがミーティアの手をひいて武器屋へ連れて行ってくれた。
「何を買うかね?それとも、売るものがあるかね?」
「えっと、いばらむちとブーメランをください。あと、この銅の剣を売りたいのですが。」
ミーティアはカウンターに並ぶ商品を見て言った。
「うぅん、銅の剣二本で百三十五Gになる。お嬢さんよぅ、いばらむちとブーメランで七七十Gだ。足りるかい?」
武器屋の主人が心配そうに言う。
「えぇ。銅の剣二本を売って、六百三十五Gを出せばいいわね。」
「さすがはエルトリオさんの娘だよ。計算が速いなぁ。」
武器屋の主人はミーティアを褒め、三十五Gまけてくれることになった。
「ありがとう、おじ様。リュカ、防具屋にも行きたいわ。」
リュカがミーティアの手を引いて防具屋に連れて行ってくれた。
「皮の鎧と皮のドレスとうろこの盾を二つと旅人の服、木の帽子を二つくださいな。」
「まぁ、エルトリオさんの娘さんとリュカ君ね。どうしたの?そんなに買い込んで。」
「ネウィー姉さん、誰にも言わないって約束してよ。」と、リュカがそっと耳打ちする。
「わかった、誰にも言わないわ。」
「僕たち、レヌール城にお化け退治に行くことになってるんだよ。カカオたちがいじめてるベビーパンサーを助けるのに、交換条件なんだって。」
リュカが早口で説明する。
「気を付けるのよ。何人もの方が行方不明になっているらしいから。」
ネウィーはそう言うと、お客さんの相手を始めた。
「急いで帰ろう!夜になるまでに寝ておかないと。」
リュカはベッドに入ると、すぐに寝てしまった。
「リュカったら、一体どういう身体してるのかしら?いいわね、すぐに寝られて。」
ミーティアは苦笑すると、自分もベッドに滑り込んで休んだ。
そして、ついに夜になった。
「ううっ・・・。」
ミーティアは体を起こすと、リュカの寝室へ忍び足で行った。
「リュカ、リュカったら。」
ミーティアはリュカをそっと揺すり起こそうとした。
「リュカ、リュカ。」
それでも起きないので、ミーティアは溜息をついて最終手段に移った。布団を引き剥がし、リュカを叩き起こす。
「ううっ・・・痛たたた。ふぅ、ミーティアか。」
リュカは眠そうに言って起きると髪がぼさぼさになっていた。
「リュカったら、髪をいたたらどうなのよ。私がかしてあげる。」
ミーティアはイルカたちにもらったエメラルド色のエメラルド色の鉱石でできた真珠の埋め込まれた美しいくしを取り出した。そのくしでリュカの焦げ茶色の髪を梳くとサラサラになった。
「このくしはね、人魚の王妃様が私にくださったくしなのよ。私が愛用してるくしなの。このくしで髪をかすと、人魚のようにサラサラな髪になるのよ。」
ゆっくり階段を下りて行く。二人は階段がぎしぎしと音を立てるたびに冷や冷やさせられた。ようやく外に出ると、リュカが言った。
「あっ・・・道具屋がまだ開いてる。キメラの翼を買ってから行こう。」
「名案だわ、リュカ!帰り道が楽だものね。」
ミーティアは道具屋でキメラの翼を二つ買うと、リュカのもとへ駆けて行った。ミーティアたちが街の門へ行くと護衛は地面に寝そべって深い眠りについていた。
「はぁ。これじゃ夜に魔物モンスターが入って来たって誰も気付かないじゃないの。」
「確かにね。」
ミーティアは呆れて首をすくめる。リュカもつられて苦笑する。
「ミーティア、レヌール城はここから北西に行った所だよ。」
リュカが地図を見て言った。
「困ったわ。朝になっちゃうじゃない。」
「どうしよう。それじゃ助けてあげられないじゃないか・・・。」
リュカが心配そうにミーティアを見る。
「ミーティア、何かいい考えはない?」
ミーティアは少し考えてから言った。
「あぁ、そうだわ。」
ミーティアはヒュッと口笛を吹いた。
「ヒヒーン!」
二頭の野生馬が茂みから現れた。手綱もくらもつけていない野生の真っ白な綺麗な子馬だ。
「僕、馬には乗れないよ。」
「リュカ、大丈夫よ。この子たちは私たちを振り落としたりなんかしないわ。」
ミーティアはそう言うと子馬たちの方に向き直り、首筋をさすってやりながら言った。
「こんにちは、私はミーティア。こっちは幼馴染のリュカよ。」
ミーティアは一瞬間を置いてから言った。
「貴方たちに名前を付けてあげましょう。そうね・・・。」
ミーティアは少し考えてから言った。
「レディーとプリンスっていうのはどうかしら?」
「ヒヒーン!」と、二頭は嬉しそうにいなないた。
「良かったわ。これから私たちの旅について来てくれるかしら?」
子馬たちは頷く代わりに首を弓なりに反らせ、膝を折って地面に座った。
「凄い!ミーティア、動物と話せるの?」
「えぇ。貴方にだってじきわかるようになるわ。そのものと心を通わせれば会話ができるわよ。」
ミーティアはそう言うとレディーの背に跨った。
「リュカ?怖いの?大丈夫よ。そう、しっかりたてがみを持って。馬は痛くないんだから。」
ミーティアはリュカがプリンスの背にまたがったのを確認するとレディーとプリンスに優しく声をかけてやった。
「さぁ、レディーにプリンス。レヌール城までとばして行ってくれる?」
二頭は顔を見合わせて鼻面をくっつけ合ったと思うと二頭はだんだんと速度を増し、あっという間にレヌール城へ着いてしまった。
滅びた夜の古城はとても不気味だった。壁にはつる草が巻き付いていて、今にもお化けが出てきそうだ。
「うわぁ、凄いわね。さぁ、リュカ。後戻りはできないわよ。」
ミーティアは心の中で自分に言い聞かせるかのように言った。
『誰がお化けなんか怖いのよ。私は強いんだから、しっかりしなさい。絶対に、絶対にあのベビーパンサーを助けてあげるんだから。』
「わ、わかってるよ、ミーティア。」と、リュカは少しびくびくしながら言った。
ミーティアは、荒れ果てた古城を見渡す。この城が滅びてしまう前、どんなに綺麗な城だったかが手に取るようにわかる。しかし、今この城は、雑草が伸び放題、ほこりはあちらこちらにつき、つる草はからみ放題、おまけに扉はびている。
「大きな城ね。ここで迷子になったらいけないから、お互い見失わないようにしていましょうね。」
ミーティアはリュカと顔を見合わせる。
「行きましょう。あの子を助けるために!」
「うん。絶対に助けよう!」
二人はお互いの手をギュッと握りしめた。


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