二次創作小説(新・総合)

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刀剣徒然幽鬼譚
日時: 2019/12/10 21:44
名前: 千葉里絵 (ID: Qh0QXHw.)



__誰が助けてくれるのか。早く助けて。

Re: 刀剣徒然幽鬼譚 ( No.1 )
日時: 2019/12/10 22:31
名前: 千葉里絵 (ID: C6w70b2R)


【プロローグ】 

 信じられない様な話だが、この山は夏が終わらない。冬は愚か、春も秋もやっては来ない。
 木々は常に青々とした葉を茂らせ続けている。
 なのに、生き物は驚く程居ない。私が幼かった頃にはこんなことは無かったのに。何時から変わってしまったのか。
 春は鳥がさえずり、秋は葉が紅く染まり、冬には雪化粧をしていた美しい山だったのだ。
 季節が移り変わる度に、あの人は嬉しそうに私の所まで報告に来た。
『今日は桜が咲いた』『今、蝉が鳴き始めた』『今朝、一番目の紅い葉を見つけた』『昨晩出来た水溜まりが凍っていた』。そんな報告を聞く度に、私はあの人に手を引かれて山に入っていったのだ。
 あの人が怪我をしても大丈夫な様に、絆創膏とティッシュを常にポケットに詰めていた。
 あの人が転ぶ度に笑いながら絆創膏を貼ってあげたものだ。あの頃は美しく、楽しかった。
 だが、今の山はどうだ。村に冬が来ても暑く、かといって生き物が居る訳でもない。木々は葉を生い茂らせるばかりで実の一つもつけなくなった。
 山の怒りか、呪いか。
 私が山をちゃんと祀っていないからだという噂まである。
 思い出して深い溜め息を吐くと台所から、しっかり食べて元気を出せと愛しい伴侶の声が飛んでくる。
 あの学校が廃校になってからもう20年近くが経とうとしている。ちょうど夏が終わらなくなったのもその頃だったか。
 村人以外は信じまい。あの場所が夜になると仄かに明るく光を灯すことを。
 其処に呼ばれて入れば『生徒』となり、もう帰ることは叶わない。
 山の怒りだ。神聖な山に学校など建てたからだ。いいや、校長が何か罰当たりな事をしていたのだ。違う、山をしっかりと祀らなかったからだ。
 だが、それらの全ての声に私は首を横に振る。
 夏が終わらない理由など本当はわかっている。

__あの人はまだ私を許してくれていないのだ。赦せないのだ。

Re: 刀剣徒然幽鬼譚 ( No.2 )
日時: 2019/12/13 22:07
名前: 千葉里絵 (ID: D0UNWUMf)

【学校見学は軽自動車の特攻で参ります】

 後悔というものは往往にして、しても遅いものである。

 そして、現在加州清光は猛烈に後悔をしていた。

 心臓は早鐘の様に五月蝿く、体がふわりと宙に浮く度に言い様のない不安に駆られる。

 今しっかりと握りしめているこのシートベルトだけが俺の命綱だ。外した暁には俺の体はぽーんと放り投げられ、フロントガラスを突き破りかねない。

 そっと窓の外を見遣ると、木々が物凄い勢いで現れては消えていく。

 こんな荒い運転と比べると、どんな暴れ馬も可愛げがあるように思える。

 命の危険を感じる運転への恐怖から逃げるように横の安定の様子を伺うと 「キャッホー! 」 と歓声を上げながらこのドライブを楽しんでいる。

 コイツの感性可笑しいんじゃないの?

 こんな『地獄直通です』と言われても信じられるような運転を楽しめるとか可笑しい以外に言いようがない。

「……宗三左文字、もうちょっとゆっくり走れない? 」

「無理です。これ以上遅くするのって難しくないですか?」

 舌を噛まない様に細心の注意を払いながら声を掛けると、運転席に品良く座って車を爆走させている籠の鳥がちらりと此方に視線を向ける。

いや、早いでしょ。早すぎるでしょ!

長谷部は大丈夫なのかと助手席を見れば、いつもと寸分違わぬ涼しい表情で地図を見ながら道を指し示している。

 というか、今走ってる此処は道じゃない。崖だ。あと数度傾けば直角になってしまいそうな程傾斜のキツい崖。間違っても軽自動車が走る場所ではない。

 ハンドル操作を一歩でも間違えれば、俺達はこの車共々崖の下に転がり落ちていくだろう。もしそうなれば、ます間違いなく折れるだろう。

 ……そんな折れ方は絶対に嫌だ。どうせ折れるなら戦場で折れるか、なんかもっと可愛く散りたい。

 依頼の調査先で崖から落ちて折れるなんて情けなさ過ぎて涙が出る。永遠に本丸内でネタにされかねない。

 本当に今更だけど、こんな依頼引き受けるんじゃなかったと思う。

 依頼が来た段階で丁重にお断りするべきタイプの依頼だったんだ。

 主の 「この本丸でも古参でんいろんなことを経験している加州が適任だと思うんだ」 なんて言葉に乗せられるんじゃなかった。

 安定の 「お化け屋敷探検だってー」 なんて軽いノリに騙されるんじゃなかった!

 宗三や長谷部や薬研となら上手くやれると思った俺が馬鹿だったよ!!

 自責の念に駆られながら、車内で唯一俺の常識が通じそうな刀、薬研を藁にも縋がるような思いで見つめると、優しく首を横に振られた。

「加州、無理だ。宗三にしちゃあ優しい運転だぞ? 」

「これで? 何処が? これ全然優しくないよねっ……うわあああああぁぁぁぁぁぁ!! 」

 車体がふわりと宙に浮いた感覚がした後、俺の体も宙に放り出される。

 あまりの恐怖に思わず飛び出た叫び声は、本当に自分のものかと疑いたくなるほどに高く裏返っている。

「清光どうしたの? 爪欠けた? 」

「なんで? なんで今、爪欠けて叫んだと思ったわけ?! 」

「違うの? 」

「違うに決まってっ」

「ねえ、あれ学校じゃないですか? 薬研」

 俺が安定に言い返していると宗三が前方。いや、俺達の位置的に正しくは下方を指差しながら尋ねる。

 指の先を追うと、確かに其処には大きな建物がある。恐らくもうかなり昔に廃校となった学校で、俺達の今回の目的地でもある場所だろう。

「おう、学校だな。無事に目的地に到着だ。正門は木製で壊れかけだな。もうかなり朽ちている様に見える。あれくらいならいけるんじゃねぇか? 」

 運転席と助手席との間に顔を突きだしながら薬研が答えた。

 そんな詳細な情報が何故必要なのか、一体何がいけるのか。答えはすぐにわかった。

「じゃあ、突撃しましょうか」

 「今日の晩御飯はカレーです」 と言っている時と何ら変わらない声が車内に響く。だがそんな声とは裏腹に、足はぐいっと強くアクセルを踏み、車は一気に加速した。

 エンジンは荒れ狂う獣の砲吼の様な音を発てながら一生懸命に仕事をしている。

 どんどん廃校は近付いてきて、あと数十秒で校門にぶつかりそうな所まで来た。

「ちょっ、待って! ぶつ、ぶつかるってえええぇぇぇっ!! 」

「ええ、ぶつかるんですよ!! 」

「ヤッホー!! 清光、ジェットコースター見たいで面白いねー!! 」

「貴様らっ、あんまり喋っていると舌を噛んで死ぬぞ! 」

 声が要り混じって最早カオス。誰が何を喋っているかなんてわかりはしない。

 だけど取り合えず忠告は聞いておく。だって、こんなことで死んで堪るか! 俺はもっとやりたいことがあるんだから!

 それから嬉しそうな安定には悪いけど、絶対にジェットコースターの方が安全だ。だって、身の安全が保証されているんだから。こんな運転と比べるまでもない。

 酸いも甘いも辛いも苦いも経験した刃生だった。もう少しこの体を楽しみたいとは思うけど、仕方ない。

 ……ああ、燭台切が作ったビーフシチュー美味しかったな。あれまた食べたいな。

 畑当番も馬当番も何だかんだ行って楽しかったな。

 文句は言ってたけど、あんな面白可笑しい本丸は他に無かっただろうな。主は変人で、刀も自由な奴等が多いけど楽しかった。

 ああ、帰りたい。早く帰って、温かいお風呂で綺麗にして寝たい……。

 ミシッミシミシ、ミキミキ、バキボキベキ

 そんなことを考えていると、体を大きな衝撃が襲ってきた。そして、次に木の折れる様な恐怖心を仰ぐ音が響く。

 車は大きく回転しながらグラウンドに滑り込んでいく。砂が舞い上がって、窓の外の景色が黄土色に染まる。

 いったいどんな運転をしたらこんなに砂を撒き散らせるのか。怖くて聞く気にもならない。

「潜入成功だな。……おい加州、顔色が悪いけど大丈夫か? 」

「うん、大丈夫……このま」

 顔を覗き込んで尋ねてくる薬研に、このまま降ろしてくれるなら、と言葉を続けようとした。

 だが、俺の声は宗三の声に遮られて消えていった。

「……じゃあ、校舎内にもこのまま入ってしまいましょうか。鍵が掛かっていたら面倒です」

「そうだな。薬研、昇降口の材質は何だ。」

「ん? ああ、ガラスだな。磨りガラスだから簡単に割れるだろうな」

 ……え? このまま行くの? 磨りガラスを割って?

 薬研も何の違和感も無さそうに情報を提供している。……織田の刀怖っ。

「じゃあ、行きましょうか」

 再びエンジンが爆音を発て始める。タイヤは校庭の土を削り、もうもうと砂埃を立てながら前進していく。

 何かが破裂したような、大きな音が辺り一帯に響きわたる。宙からキラキラと輝くガラスの雨が降ってくるのが、ガラス越しに確認出来た。

 ガラスの雨が車体に当たる音は、ゲリラ豪雨のそれに似ている。涼やかで、どこか不快な音。

 雨が止んで暫くしてから俺達は車から降りた。私服着用の任務と聞いて選んできたロングTシャツは、握り締め過ぎて皺になっている。

 お気に入りだったのに……。俺の洋服とメンタルはもうすでにヨレヨレになっている。

 後から降りてきた織田の三振りが本丸ですれ違うときと同じ声と顔で会話を繰り広げている。

「車で突っ込むの、楽で良いですね」

「確かにな。壊しても問題の無い建物ならこの方法が最も合理的かもしれん」

「ジェットコースター見たいで凄い楽しかったー! 」

 長谷部は服を払いながら「主にご報告しなくては」と言っている。安定は気が付けば会話に入り込んでる

 というか、駄目でしょ。いくら古くて廃校でも、建物壊したら。

 それに、俺としては幽霊や妖がうようよ居るところに車で特攻するのは金輪際やりたくない。最早トラウマものだ。

 辺りをぐるりと見渡せば、人ならざる者達が俺らのことを遠巻きに見ている。

 恐らくアイツらも「何アレ? 」 「え、ヤバくない? 」とでも思ってるんだろう。

 残念ながら当事者の俺もよくわかってない。味方よりも人外の方が俺の気持ちをわかってくれているのが悲しい。

 俺、泣いても許されるよね?

「清光! またこの面子でドライブしたいね! 」

「いや……俺はいいよ。遠慮しとく」

 パーカーにジーンズとカジュアルな出で立ちの安定がそんなことを言いながら、ずんずんと廊下を一人で歩いていく。

「どこ向かってんの? 」

「掃除用具入れ。掃除機探したいんだよね」

何でまた掃除機なんて探しているのか。必要ないだろ。

「んー。実はね、前に主に借りた書物で掃除機で浮遊霊が除霊出来るって書いてあったんだ」

 楽しげに語っている途中で廊下に掃除用具入れを見つけると、駆け寄って中身を漁り始めた。

「あ、あったあった! よし、じゃあスイッチオーン! 」

 コンセントを繋いで電源を入れると、腕をブンブンと振り回し始める。

 掃除機に塵よろしく吸い込まれていく浮遊霊達の、断末魔の叫びが鼓膜を震わせる。

 こんなに切なく泣き叫ぶ声がしているのに、そんな事はお構い無しという風に安定は楽しそうに腕を振り回し続けている。無邪気な表情をしておきながらやっている事はえげつない。

 ……なんか、幽霊達が可哀想になってきた。俺はアンタ達を駆除しに来たわけだけど、こんなやり方をするつもりはホントに、マジで、少しもありませんでした。どうか、成仏出来ますように。

 もし、俺が幽霊だったらこんな除霊のされ方は嫌だ。せめて石切丸がやるみたいなお祓いで成仏したい。

 いきなり車で突っ込んできたバイオレンスな祓い屋に掃除機で吸い込まれるなんて嫌に決まってる。

 そう思って手を合わせていると、後ろからちょんちょんと肩を叩かれた。

Re: 刀剣徒然幽鬼譚 ( No.3 )
日時: 2019/12/16 21:28
名前: 千葉里絵 (ID: Qh0QXHw.)

……冷たい手。ひんやりとして、氷の様に冷たい。

 俺が恐る恐る後ろを振り向くとそこには、眉間に深く皺を刻んだ長谷部が立っていた。

「な、なーんだ。長谷部か……」

「俺で悪かったな。ところで、アレはどうにかならんのか」

 アレと指差す先には掃除機片手に走り回っている安定の姿がある。キラキラと輝く瞳はまるで子供が新しい玩具を手に入れはしゃいでるようだ。

「アレって、安定のこと? 」

「ああ、そうだ。浮遊霊にも聞き取りを行いたいのだが彼奴が強制的に祓っていってしまう」

 「俺が言っても聞かないだろう」と悲しげに呟くその横顔からは、長い期間安定に注意を試みては失敗した心労が滲み出ている。

「うん、じゃあ俺から伝えとくよ」

「ああ、感謝する。あと、すぐに昇降口まで来い。ヤられることはまず無いだろうが、気を付けるに越した事はないからな」

「りょーかーい」

 用件を伝えると、長谷部はくるりと踵を返して戻っていく。俺も安定連れて早く戻らないと。

 そんなとき、後ろから足音が近付いてきた。また、肩をちょんちょんと叩かれる。

「なに~? 何か追加のようけ……」

「こら! 駄目じゃないの、まだ授業中よ? 」

 振り向く前に体が止まった。明らかに長谷部の声ではない。

 若い女の声だ。横目にちらりと見ると、ピンクのカーディガンが視界に映る。もう二十年以上前に廃校となった学校に教師も生徒も居るわけがない。

 少なくとも、俺たちにとっては。此処にいる奴等にとっては此処も未だ学校なのだ。

「あ、あの……俺此処の生徒じゃないんで」

「……何を言ってるの? ほら、教室デちゃんとオ話しを聞いてなくチャ」

 若い女のものだった声は、徐々に羽虫が飛び回るような音に変わっていく。背後からはぴちゃり、ぴちゃりと何かが床に溢れる音がしている。

 何が溢れているのかは振り向かなくてもわかった。足の隙間から見慣れた赤黒い液体がじわりと床に広がっていく。……血だ。

 背筋が粟立った。悪寒が身体中を駆け巡る。

 __動けない。刀を抜くことさえ出来ない。

 コレは、駄目だ……。刀としての、戦神としての本能が、逃げろと告げている。

 俺は怖い。この身を手に入れてから今まで、人でない者を何度となく斬ってきた。でも、それとこれとは別。

 怖い、兎に角恐ろしい。情けない?知ったことか、俺はどうにかして逃げなくちゃならない。

 そうでないと、殺される。

 廊下の先に居る筈の安定を探すと、心配そうに此方に駆け寄ってくる姿が見える。

 でも、それは何処か現実味がなく頼りない。此処とは違う世界を見ているようで。

「ホら、ハは早くク。キキョ教室に戻ッテね」

 上から声が降ってくる。ヒールを履いた俺よりも遥か上から聞こえる声は、最早何を言っているか聞き取るのさえも難しい。

 俺の前に落ちる影は異様な程に腕と胴体が長い。ぐにゃりと胴体が中程で曲がると、俺の顔の前に化け物の顔が逆さに覗き込んできた。

 目は真っ黒な虚の様に穴が空き、そこからとめどなく血が流れている。鼻は顔の中に埋まり何処にあるのかわからない。口は羽虫のようなものが詰まっているがもごもごと動いている。

 冷や汗が止まらない。声が出ない。

「おうおう、これが化け物か。掃除機じゃ吸えね%E


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