二次創作小説(新・総合)

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マジカルストーリー外伝 青いバンダナの少年
日時: 2020/01/31 17:35
名前: 3104&休日トリオ (ID: 6DNfJ1VU)

3104:はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~……長かった!

ユウザキマコト:長かったなぁ……

ユウザキルリ:長かったねぇ……

アマノカナタ:長かったなぁ…

3104:やっと終わったんだから、『青いバンダナの少年』っていう話を投稿するよ。

ユウザキマコト:主人公はもちろんロックだな

ユウザキルリ:ロックの過去を題材にした物語だね。

ユウザキマコト:結構有名なんだが、3104はこれをチョーゼツアレンジしてやがりま
        すよ

アマノカナタ:よく分からなかったら、YouTubeで♯FF6 ロックの過去で検索だぜ。
       この回想シーンで泣く人は多いらしいな

3104:人物は…ロック、エドガー、マッシュ、あとケフカと……アルナ?

休日トリオ:我ら休日トリオのオリジナルキャラクターだぜドャァ

3104:お前ら私の小説に勝手になにしとんじゃー!

休日トリオ:いいじゃねーか
      女性キャラクター増えるからね
      男子ばっかり活躍させやがってお前3104がぁ

3104:あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ
   わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ………た、たしかにそうだけどさ!
   だからといって勝手に……

アマノカナタ:はぁ!?

3104:な、何でもありましぇーん………コワッ

休日トリオ:いいや
      本文!本文!
      こいつらは……

Re: マジカルストーリー外伝 青いバンダナの少年 ( No.1 )
日時: 2020/03/20 16:06
名前: 3104& (ID: YtZV6/SZ)

 ケフカ達との戦いから、ロック達の世界で八年前。例のコーリンゲンでの出来事のお話……。
 あの日、まだほんの小さかった少年は、自分の友達が命を落とすなど、考えてもいなかった。
   ☆
 戦火に燃える村……人々の悲鳴……自分の荒い息遣い……。
 ロックは倒れた。目を開く。
 目の前には、倒れる少女、レイチェル。
「……レイ……チェル……」
「…………」
 目を閉じる。もう耐えられなかった。オレは……オレとレイチェルは、この村で死んでしまうのだろうか……。
「……おい!」
 不意に、男性の声がした。
 声の方向を見ると、ぼんやりと青いマントがあった。男性が駆けてくる。
「大丈夫か?しっかりしろ!」
「……ハァ…ハァ…」
「助けてやるから、もうちょっと頑張れよ!」
 男性がロックを抱えようとすると、ロックはギュッと目を閉じ、その手を払いのけた。
「……!」
「安心しろ。私はお前には何もしない。怖かったろう……チョコボ、来てくれ!この子を国に連れて行く!」
「クェッ!」
 ロックを抱えた男性は、黄色い大きな鳥、チョコボにロックを乗せ、その前に自分もまたがった。
「しっかりつかまれよ!行くぞ!」
「……オレの……オレの友達も……一緒に……」
「友達……?」
 男性は、炎に包まれていく村の一角に倒れるレイチェルを見た。
「……あの子か……?無理だ……私は二人も連れて行けない……すまないが、彼女が助かることを祈ってもらうしかない」
「……頼むよ……オレの大切な……友達なんだよ……」
「…言ってもダメか……チョコボ、行くぞ!」
 チョコボが一鳴きし、走り出そうとした時、後ろにいるロックが男性の背にもたれてきた。気絶したのだ。
「……震えている……」
 ……どれほど恐ろしい思いをしたのだろう……そう思いながら男性は、ロックの腕を自分の腰に回した。
「……すまない……許してくれ」
 浅く息をしているロックの顔を見ながら、男性は言った。
「チョコボ、Go!」
   ☆
 しばらく走り、男性は自分の国に着いた。
「あっ……エドガー様!お帰りなさいませ!」
「アルナ!」
 城の女性門番、アルナに言われ、男性、エドガーは叫んだ。その背には傷だらけのロックが、ぐったりと背負われている。
「その子は……どうされたのです?」
「コーリンゲンで襲撃があった。帝国の奴……酷いことしやがる。」
「って……じゃあその少年はそれで……」
「ああそうだ!急いで医務室のベッドを一台空けてくれ!」
 エドガーは走って城の中に入っていった。
「了解しました!」
 一足遅れて、アルナの返事が聞こえた。エドガーは走り続け、背中の重みによろけながらも医務室へ急いだ。
「兄貴!」
「マッシュ!手伝ってくれ!」
 医務室の目の前で出会ったのは、双子の弟のマッシュだった。エドガーはドアを開け、アルナが空けてくれたであろうベッドに、ロックを横にさせた。
「兄貴、この子は?」
「コーリンゲンで……ああもう!詳しくはアルナに訊けよ!それより、この子のバンダナを取れ!」
「……はいはい……」
 エドガーに言われるまま、マッシュはロックの頭へと手を回す。頭にも傷があるのか、マッシュが触れると顔を歪める。
「ちょっとごめんな」
「……うぅ……」
 青いバンダナを外し、上の服を脱がせ、額と腕、胸など傷の大きな場所に包帯を巻き、頬に絆創膏を貼る。
「エドガー様!」
「アルナ!どうしてここに……」
「私にも……何かできることがあるかとおもいまして……」
「それで……走って来たのか?ちょうど良かった。この服、洗っといてくれ。それと、タオルと水を頼む!」
「はい!」
 アルナが駆けていき、部屋にはロックと双子が残った。
「……なあ兄貴、この子の名前は?」
「知らない」
「はぇ?じゃあ、この子は兄貴のこと知ってるのか?」
「知らないだろうな」
「なんだそれ」
「助けた時……怖がってた。だから、名前なんて訊けなかったし、言えなかった。」
「……へぇ……」
 二人が話していると、バタバタと足音が聞こえた。この音は……多分……
「エドガー様!ハァ……ハァ……」
「アルナ……お前また走ってたのか……お前が倒れたらどうする」
「水とタオル……お持ちしました!」
「ありがとう。お前、休んで来い。」
「……でも」
「でもはなしだ。走りすぎ」
 エドガーの注意に、アルナはとぼとぼと部屋を出て行った。
 エドガーはタオルを水で濡らし、固く絞ってロックの額にのせた。
「……ハァ…………ハァ……」
「だいぶ落ち着いてきたな」
「マッシュ、お前も休め。俺はこの子を見とくよ」
 一瞬ためらったマッシュだが……エドガーの顔を見るなり、ゆっくりと歩いて出て行った。
   ☆
 それから六日。エドガーはベッドの横でぐっすりと眠っている。六日間目を覚まさないロックの様子をずっと見ていたからか、エドガーの方が目を開けそうにない。
「……うぅ…」
 やっと、エドガーが目を覚ました。
 目覚めてまず目に入ったのは、少年の茶色い瞳だった。
「……」
「……気が付いたのか……良かった。具合はどうだ?」
 しかし、少年は応えない。じっとエドガーを見ている。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前はエドガー。この城の王だ」
「……王様……?」
 ポツリと少年が言った。エドガーはベッドに座り、苦笑した。
「……王と言っても、少女一人助けられない弱い人間だよ」
「……ううん……大丈夫だよ……。……レイチェルなら、誰かが助けてくれたかもしれない……」
「お前、名前は?」
「……オレはロック……。王様は、ずっとオレのこと見ててくれたの?」
 ロックの言葉に、エドガーはまたまた苦笑した。
 ……こいつ、案外気が弱いんだな。
「……エドガーでいいよ。ずっとではないけど、見てたのは事実だな。そういえば、マッシュがコーリンゲンに行こうって。その……レイチェル(『?』がつく)のこと、気になるだろ?」
「……行く……オレ、行きたいよ」
「……そうと決まれば、だな」
 突然、ドアの向こうからマッシュの声が響いた。
「お前、チョコボに乗れないだろ?歩いて行こうぜ」
 ということで、三人はコーリンゲンへと向かった。
   ☆
 コーリンゲンへ向かう途中、ロックはマッシュの自己紹介を聞き、「苦しくなったらオレに言いな」と言われ、思った。
 マッシュは、自分に似ている。同じ類のものを感じる。
「……着いたぞ」
 エドガーが言う。村は……全焼していた。
「……ねぇ、お兄さん」
「……え……」
 いきなり呼び掛けられ、ロックは声の方向を見た。
 男の子がいた。
「父さんがバンダナのお兄さんを捜してたよ。僕についてきて」
 言われるままについて行き、村の奥へ……。男の子が辿り着いた所には、父親らしき男性がいた。
「……ロック君だね。僕が言おうとしていることは分かるよね。」
「……」
 ロックは頷いた。
「……言いにくいけど、レイチェルは……」
 次の男性の一言で、ロックは崩れるようにしゃがみこんだ。

「……もうこの世にはいない」

 エドガーはロックをチラリと伺う。
 その大きな目から、大粒の涙が次々と流れ、嗚咽が響く。
「……一度は助けられたと思ったけど……無理だった。最期には、君の名を叫んでいたよ。君のことが思い出せて、とても幸せそうだった。」
「……!……!!」
「……ロック……」
 双子は、ひたすらロックを慰めながら、男性の話を聞いた。最後にはさらにロックが泣き崩れてしまったので、とりあえず礼を言って城に帰ることにした。
 歩いている間も、ロックの嗚咽はものすごかった。どれだけ慰めても、泣き止む様子はなかった。
   ☆
 城に帰って数時間……。
「……うわぁ……全然泣き止んでくれない~……」
「兄貴……オレもう疲れた……」
 かなりの時間が経ったというのに、泣き声はまだ続いていた。双子も、さすがにヘトヘトだった。
「……なあ兄貴、あと一回だけ慰めてみないか?」
「あと一回だけ?」
「その一回で無理だったら、そっとしといてやろうぜ」
 ということで、二人は医務室の隅で泣きじゃくるロックに声を掛けた。
「……なあ、ロック。顔上げろよ」
「……うぅぅ……」
 エドガーの声に、ロックは顔を上げた。せっかく綺麗な銀髪が、涙で濡れて頬に張り付いている。エドガーはその髪を優しくかき分け、頭を撫でてやった。
「寂しいだろう……でも、もう大丈夫だ。俺達がついている。」
「兄貴の言う通りだ!だから、もう泣くなよ。」
「……うぅ……うっ……ぅ……」
 しかし、ロックはうつむいてしまう。泣き止む様子もない。
 自分のせいだ、とエドガーは思った。自分があの少女を見捨ててしまったせいで、ロックは精神的にも、肉体的にも大きなショックを受けていた。その影響か、ロックは荒い息を繰り返している。
「……大丈夫か?苦しいのか?」
「……うぅ……」
「兄貴、休ませた方がいい。無理して、ずっと耐えてたんだろ、こいつ」
「そうだな。ロック、立てるか?」
「……うっ……うっ……うぅっ……」
「あ、おい!しっかりしろ!」
 エドガーが呼び掛けると、倒れたロックはうっすら目を開けた。涙で潤んだ瞳が揺れている。
 マッシュは、ロックの涙を手で拭ってやった。
「目が腫れちまうぞ」
「……ハァ……ハァ……」
 ひとしきり泣き、ロックはマッシュに抱えられ、ベッドへと連れられた。横にさせるなり、すっと眠ってしまう。
「……泣き疲れたのかな?」
「これからが大変だな。俺達が思っているより、この子の傷は深い。もしかすると、一生引きずってしまうかもしれない。今のうちに慰めてやらないと」
 さっきまで荒かったロックの息は、いつの間にか穏やかになっていた。外はもう真っ暗で、医務室には三人以外誰もいない。ただ、かすかな寝息と風の音が響いているだけだ。
   ☆
 翌朝……。
 マッシュが自室から出て医務室へ行くと、ロックはもう目を覚ましていた。しかし……
「……」
 なんだか様子がおかしい。相変わらず泣いてはいるが、昨日とは激しさが違った。
 まるで感情を失ったように……静かだ。
「……ロック?今日は……どうした?」
「……」
「……おい……オレの声、聞こえてるか?」
「……」
 おかしい。絶対おかしい。昨日まであんなに泣き叫んでいたのに、今日は声すら出さない。違和感を覚え、マッシュはエドガーを呼びに行った。ザッと説明をし、走って医務室へ戻る。
「……なあ、ロック、どうしたんだよ?」
「……俺にも分からない。本人は話をしようとしないし、顔も上げないし……」
「……」
 エドガーは考える。
 もしかしたら、ロックは心を閉ざしてしまったのではないだろうか。そういえばあの時……この子は何を怖がっていたんだ?
 俺のこと?
 違う。
 戦火か?
 違う。『死』だ。ロックは『死』を恐れていた。自分ではない。友と村の人々の『死』……。
 だから……恐れていたものを見てしまったから、もう何も受け入れられなくなったのか?
 何とかして慰めなければ!
「……」
「……ロック」
「……」
「……分かるよ、お前の気持ち。寂しいだろうが、いつまでもそんな感じじゃ、これからもそのままだぞ。それに、お前には悲しみを感じると苦しくなる癖がある。だから、そのままだと体が持たないから、もうちょっと頑張ろう。その悲しみに勝つんだ」
 結果、変化なし。
 これは……相当な闘いになりそうだ。
 次はマッシュの番。口下手ではあるが、それ故に伝えたいことが伝わりやすい。要は単純なのである。
「……なあロック」
「……」
「お前にとって、レイチェルってどんな人だった?」
 いきなりズバッとこの質問である。
「……!……」
 しかし、案外ロックは反応した。顔を上げたのだ。それでも、話そうとはしない。思い出したのか、涙がポロポロと流れる。息も上がっている。
「……!……」
「あ……いや……」
 急な変化に戸惑い、マッシュは慌てた。
「……その……ごめん!こんなこと訊いて!」
「……ハァ……ハァ……」
 今やロックは、苦しそうに胸元を押さえていた。涙はさらに流れ、どんどん布団が濡れていく。
「…マッシュ…何やってんだよ」
「ごめんってば!」
 慌てたマッシュはロックの肩を抱き、謝り続けた。もはやヤケになっており、苦笑いである。
 一方、ロックは胸元を押さえたまま、さらに苦しそうに息をしていた。
 エドガーの言うとおり、これは一生引きずるかもしれない。
「……うぅぅぅ……!」
 初めてロックが声を出した。
「マッシュのバカが」
「悪かった!ほら、大丈夫か?」
「……うぅ……」
 ロックがマッシュにもたれるように倒れた。かなり疲れているようなので、二人はロックを寝かせ、そっとしておくことにした。
 ……とりあえず、刺激を与えないほうが、彼も安心して休めるだろう。
   ☆
 どれくらい経っただろうか。ロックが目を覚ますと、双子はいなかった。
 それどころか、アルナの走る音すら、城の中の人々が話す声すら、扉の音もなかった。
 ゆっくりと起き上がり、医務室から出る。
 …誰もいない。つい昨日まで、城の中はもっと賑やかだったはずなのに。
「……?」
 ドアの前でぼーっとしていると、誰かに腕を引かれた。
「!痛っ!」
「静かにして……!」
 女性の小声に、ロックは我に返った。
 アルナだ。
「……痛い……」
「ごめん、まだ治ってなかった?」
 自分が引っ張った方の腕をさするロックに、アルナは謝った。訳が分からないロックは、アルナに問う。
「……何で……誰もいないの?」
「誰もいないってワケじゃないけど……隠れてるの」
「……何で?」
「エドガー様とマッシュ様がケフカに捕まって……」
「ケフカって誰」
「……質問攻め、やめてよ。あの日コーリンゲンを襲った奴だよ。見れば分かる」
 話が終わるなり、ロックは駆け出した。おそらく二人は王の間にいるはずだ。
 助けてくれたんだ。今度はオレの番だ!
「ちょ……ちょっとあんた、どこいくのよ!?」
「二人を助けにいく。決まってるだろ!!」
「そんな身体で……無理だよ!ケフカは魔導士よ!」
「オレのことはいい。お前、足早いだろ?ついてこい!」
 そう言ったロックを、アルナは急いで追った。
 二人は王の間へと走る。途中、ロックのスピードが遅くなる。
「あんた、大丈夫!?」
「……あ……ああ……」
 大丈夫と認めたのか、アルナはロックと共に再び走り出した。
   ☆
 二人が王の間の扉を開けると、一人の派手な格好の男が、倒れる双子の前に立っていた。
「エドガー……!マッシュ!」
「……?おや、誰かと思えばコーリンゲンで見た顔ですね。私はケフカ。あなたは誰でしょう?」
 男……ケフカは、道化師のような顔にニヒルな笑みを浮かべて言った。
 ロックはそれに答えず、アルナに「隠れていろ」と言い、叫んだ。
「二人を放せ!」
「あらあら……大人の言うことは聞くものですよ、バンダナさん」
 そう言い、ケフカは炎を放った。
 炎はロックに直撃するかと思われたが…高い金属音がし、炎は弾かれた。
 どこからか、ロックが剣を抜いたのだ。
「なにっ……!」
「……くっ……」
 しかし、腕が痛み、押さえる。
「……傷が痛むのですね……しかし、容赦はしませんよ。」
 今度はケフカが、先ほどより大きな火球を放つ。
 次はロックに直撃し、少年の身体が炎へと消える。
「いやっ!」
 その様子を見ていたアルナが悲鳴を上げた。ケフカはそれには構わず、フラフラと立つロックに蹴りを入れる。衝撃で、赤い雫が飛んだ。少年の身体が吹っ飛ばされる。
「うっ!」
 壁に激突し、そのまま腹を抱えて倒れ込む。立ち上がれない。
 苦しむロックの小さな身体に、さらにケフカが蹴りを食らわす。
「ムダです。子供が大人に敵う訳がありません。諦めなさい。」
「うぅぅ!!」
「……やめて!」
 呻き声に、アルナの声が重なる。ケフカがそちらを見ると、ロックが落とした剣を手に、アルナが悠々と立っていた。
 そして、その背後には……三十人の兵士(寄せ集めた)。
 一対三十一の戦いだ。これなら、ケフカも敵わないだろう。
「……フフフ……今回は見逃してあげましょう。しかし、この小さな国を帝国の一国にするのは、ものすごく簡単なことです。では、またいつか」
 マントを広げたケフカは、どこかへ消えていった。
 アルナは三十人の兵士を解散させ、大急ぎでロックのもとへ向かった。
「ねぇ!大丈夫!?」
 ロックは荒い息の下で、たった一言だけ応えた。
「……寒い……」
 出血がひどいせいで、体温の調節が出来ていないのか……アルナは考える。
 どうすればいい?私、こんな怪我……手当てできない!
「……ハァ……ハァ……」
「そうだ……待ってて!あとちょっとだけ我慢してね!助けてあげるから!」
 アルナはロックをおいて、エドガーのもとへ走り出した。
「エドガー様!起きてください!あの子が大変なんです!」
「……ぅぅう……」
「あの子……『寒い』って……ひどい怪我してて……」
「……なんだって……?」
 目覚めたエドガーは、大急ぎでマッシュを起こし、ロックを医務室へと運んだ。

Re: マジカルストーリー外伝 青いバンダナの少年 ( No.2 )
日時: 2020/08/15 18:10
名前: 3104&休日トリオ (ID: UVSBrFHZ)

  ☆
 ……誰かが、ロックを呼んでいる。闇をどんどん落ちてゆくロックの名を。
『……つかまえた!』
 その誰かが、落下するロックを受け止める。ロックが目を開くと……誰かと目が合った。
 その誰かは、レイチェルだった。
『……レイチェル……?』
『もう!無茶するんだから。バカなトレジャーハンターさん。』
『……』
『……怒らないでよ。ウソだって!ね?』
『……っ』
『……ねぇ、泣かないで。みんながいるじゃない。』
 慰められたが、ロックの涙は止まらない。これが夢だと分かっていても、目の前にレイチェルがいる。どうしても、抑えられなかった。
『……っ……ぅう』
『……もう、自分ばっかりで耐えなくてもいいよ。ずっと私がついているから。私も一緒に、いてあげるから。だから、泣かないで。』

 そこで、目が覚めた。
「……大丈夫か?」
 隣には、マッシュがいる。起き上がらないロックを心配そうに見ていた。
「……苦しい……」
「気を取り直したか?今日は声出したな。助けてくれてありがとう。オレ達のせいで、そんな怪我させて……ごめん」
 ロックは首を振った。相変わらず医務室はがらんとしていて、自分達以外誰もいない。ロックは上半身を起こした。
「また泣いてたのか」
「あっ……」
 涙を、慌ててこすって拭う。
 マッシュは少年の小さな手を、優しく下ろす。
「痛くなるぞ。擦るなよ。」
「……」
「…それで…レイチェルって、お前にとってどんな人だったんだ?」
「……!……」
 突然の質問に、ロックは困惑する。思い出したように頭が痛くなって、息が詰まる。
 マッシュはその様子を見て、そっと言った。
「訊いたらこうなるって分かってた。でも、オレ達だってそれを知らないと、お前に何があったのかとか……分からないからさ。」
「……」
「言ってほしいんだ。オレも、家族のこと、話すから。」
 ロックは深く息を吸う。
 今なら……話せるかもしれない。
 しかし、だんだん息が続かなくなってくる。
「……っ……」
「無理しなくても……嫌なら話さなくてもいいんだぜ」
「……レイチェルは……オレの……大切な友達で……いつも一緒にいてくれた……。でも……オレのせいで……全部……記憶を失くしちゃって……結局一言も話せなかった……」
 途切れ途切れに話すロック。
 黙って聴くマッシュ。
 やがてロックの瞳に、大粒の涙が浮き上がる。息が上がり、小さな胸が激しく上下する。
「……オレのこと……思い出さないまま……あいつは……。でも……呼んだんだ……。オレの名前……」
「……もういいよ。ごめんな、無理させて。」
 ロックをもう一度横にさせ、自分も話し出す。
「……オレ達のおふくろは、オレ達が小さかった頃に死んじまって……今のお前みたいに泣いてばっかりだった。兄貴はすぐ元気になったけど、オレは今よりずっと弱くて……何日も泣き続けた。その時は親父が慰めてくれたけど……親父も死んじまって……。城の人達は後継ぎがどうとかって、親父のことなんて誰も言ってなかった。だからオレ、八つ当たりで兄貴に当たっちまって……。その時、兄貴は言ったんだ」

『泣くな。王になるのは兄である俺だ。お前は泣かないような、強い人間になれ。心の強い人間に。自由になれ』

「だから、お前も泣くな。お前はオレより強いはずだ。聞いたぞ。剣でケフカの魔法、防いだんだって?」
 マッシュはロックの涙を拭い、笑顔を向ける。
 その時、ロックは小さく言った。
「……マッシュ……」
「ん?」
「……なんで……命は消えるの……?」
「……そんなの……分かんないよ。でも、戦争で人が死んでしまうのは、絶対ダメだよ。」
 マッシュの言葉に、少年は火がついたように泣き始めた。
「……なんで……!?……なんで人間は……こんなにひどいことをするの……!?」
「……なあ。世界で一番弱いくせに、強がってさ。」
「……レイチェルに会いたいよ……!……また独りになるのは嫌だ……!!」
 叫ぶロックの言葉に、何かが隠されている気が、マッシュにはした。
 訊いてはいけないと分かっていても、つい訊いてしまう。
「……また独りになるって……?」
「……嫌だっ……!」
「……!?」
 いきなりの叫びに、しばらくマッシュは動けなかった。
 ロックは小刻みに震えながら、嫌だ、怖い、と言い続けている。その姿を見て、マッシュは動いた。目線を合わせ、安心できるようにとロックの胸に手を当てる。
 とくん、とくん、と規則正しい鼓動が伝わってくる。少し早い。
「……ロック」
「……嫌……だ……!……怖い……!」
 マッシュの手を、ロックはその小さな手で包み込んだ。
「……お前も、オレと同じだな。」
 そう。きっとそうだ。
 両親を失った者同士、似ているところもあるものだ。
「哀しいかもしれない。でも、人間はそんな生き物さ。戦って、傷つけあって……でも、いいところも持ってる。そういうもんだ。」
「……怖いよ……苦しいよ……」
 ロックの手に包まれたマッシュの手に、鼓動は伝わり続ける。
 とく、とく、と少しゆっくりと。
「安心しろよ。もうお前を独りになんかしない。」
「……嫌だよ……独り……嫌だよ……」
 だんだんと息が浅くなっていく。さっきよりかなり落ち着いたようだ。安心したのだろう。
 とっ、とっ、と鼓動も正常になっていた。
「もう平気か?」
「……怖い……嫌だ……」
「分かったから。ここにいてやるからさ。な?」
「……怖い……よ……寂しい……よ……」
 よっぽど泣き疲れていたのか、ことんと眠ってしまった。マッシュは、起こさないようにそっと手を引き、布団を掛けてやった。
「……落ち着いたみたいだな」
「兄貴……ああ。やっぱり、まだ立ち直れてないみたいだ」
 両親を失った後、最後の励ましであった友の死を見たからか、孤独に恐怖を覚えたようだ。自分も死にかけていたこともあり、ロックの『死』への恐怖はますます強くなったように思える。
「……哀しいんだろうな……。本当に一生引きずるかもしれない。」
「少しでも、オレ達が支えてやらねぇとな。」
「そうだな……叫んでたしな。よほど、苦しい思いをしたんだろう。」
 エドガーとマッシュは、これからもロックを見守っていくことを決意した。
 その時、ドタバタと足音がした。アルナだ。
「エドガー様!」
「なんだ、アルナ。どうした?」
「ケフカが、大軍で攻めて来ました!
「何!?」
 エドガーが走って部屋を出る。マッシュも急いで追おうとするが……先程の騒ぎで目覚めたロックが、見る見る涙を流し始めた。
「……ロック!ごめん!お前はここで待っといてくれ!」
「……嫌……嫌だ……!……行かないで……!」
「マッシュ様、そろそろ行かないと……」
「ああ。行くぞ、アルナ!」
「嫌だ!オレも行く……だから……独りにしないで!」
 叫ぶロックに、あえてマッシュは厳しく言った。
「駄目だ!危ない!待っているんだ!」
「……嫌だ!怖い!」
 泣き叫ぶロックをわざと無視し、マッシュは医務室を出た。心の中で叫びながら。
 ごめん、こんな思いをさせて。何もしてやれなくて。本当にごめん。
 部屋の外に出ても、叫びはまだ続いている。
 待って!嫌だ!行かないで!
 その声は叫びすぎで、次第に消えていく。
 マッシュは目を閉じ、哀しみに耐え走った。
   ☆
 声が出なくなってしまったロックは、ただ泣くことしかできなかった。
 双子がいなくなったら……今度こそ独りぼっちだ。
「……!……!」
 何もできないまま、ひたすら涙を流し続ける。外の喧騒は、やがてその激しさを増していく。
 もう頭の中は真っ白で、苦しさは限界に達し、何の音も耳に入らない。
 朦朧とした意識の中、ロックは願った。
 どうか……二人が生きてここに戻って来ますように。そして……。
 その続きを考える前に、意識は途切れた。
 直後、爆発音が城の全体に響く。ケフカの放った火球が、医務室の隣の部屋に直撃したのだ。ロックは目を覚まさない。
 やがて火の手が上がり、医務室はあっという間に炎に飲み込まれた。

「兄貴!医務室に火が!」
「……ロック……!」
「エドガー様、助けに行ってやってください!このままじゃあの子の命が……!」
 エドガーは何も考えないまま、城へ走った。
「逃がしませんよ……!」
 その横を、スレスレでケフカの火球が通り、城の門へ……鉄の扉は溶けて変形し、開きそうになかった。
 それでも、エドガーは取っ手に手を掛ける。
「っ!」
 当然ながら、火傷を負う。しかし……今はそんなことを気にしている場合ではない。エドガーは体当たりで扉を開けた。城に入り、急いでロックのもとへ走る。
 城は火の海……あんなに小さな少年が無事でいられるとはとても思えない。
 医務室に着いた。ドアノブは危険と分かっているので、このドアも体当たりで開ける。
「……ロック!無事か!?」
「……」
 まだ引火していないベッドに、眠っているうちに煙を吸ったのか、ゴホゴホと咳をするロックがうずくまっていた。
 目立つ怪我はない。どうやら無事のようだ。しかし、かなり顔色が悪い。
「……」
「逃げるぞ!ほら!」
 苦しそうに咳き込むロックを抱え、エドガーは走り出した。炎の中でこの子が無事だったことが一番幸運なことだった。
「…………うぅ……」
「!」
 ロックのかすれた声……急ぎ、門へ向かう。が、瓦礫に塞がれ、外に出られなくなっていた。
 くそっ……このままじゃロックの息が続かない……あの煙さえ避けられれば……。
 ……地下だ……!
「そうだ……機関室!地下室に行けば……!」
 煙から逃れられる!
 火が回れば終わりだが、城を砂漠に沈めれば、燃やすものがなくなって火は消えるはず……!
「……やるしかないな……」
 エドガーは地下に続く階段を駆け下りた。途中でつまずき、ロックを守るためできるだけ体を縮める。
 壁に当たり、慌ててロックに声を掛ける。
「怪我はないか!?」
「……」
 腕に少々の打撲はあったが、それ以外は大丈夫そうだ。エドガーは機関室に向かった。
 このフィガロ城には、一つの移動手段として城を砂漠に沈め、城ごと動かす機能がある。それを使えば……!
 機関室の頑丈な扉を閉め、視界に映る場所にロックを下ろし、エドガーはレバーの前に立った。
「……待ってろロック。あとで一緒に話をしよう」
「……」
 咳き込むロックから目を離し、レバーを下げた。

 城が砂漠に沈んでいく。その様子をフィガロ軍と帝国軍は呆然と見ていた。
「……兄貴か?」
「エドガーの奴、考えてみれば変な人ですね……」
「気にしたら終わりですよ……あれでも王様ですから」
 ケフカの言葉にアルナが言う。両軍戦いを忘れて、何もなくなった砂漠を見ていた。

 城が限界まで沈み、停止すると、火が消える頃合いを見てレバーを上げた。
 ……砂が入ってきていないといいが……。
「……ハァ……ロック、ごめんな。独りにするんじゃなかった。よく頑張ったな。ありがとう」
「……」
 ……酸欠がそう早く治るわけないよな。
 エドガーはロックを抱き、扉を開けて外に出た。
 砂は、腰のあたりまで入ってきていた。
 滑らないように気をつけて階段を上がり、地上階が砂の底でないことを確認する。
 門はまた大きく変形していた。形が変わったため、あまり砂が入ってこなかったのだ。
「……開かない……」
 エドガーは痛む手で扉をドンドンと叩いた。

「……?兄貴……開かないのか?」
 扉を叩く音に、戦いから抜けたマッシュは扉へと駆け寄った。
「兄貴!」

『マッシュ!ここを開けてくれ!』

「ロックは!?」

『無事だ!だけど、煙を吸っちゃったみたいで……』

「分かった!待ってろよ!」
 状況を把握したマッシュは、扉を思い切り蹴った。
 バンッと大きな音を立てて、扉の蝶番ちょうつがいが壊れた。
「兄貴!ロック!」
「ありがとう!それよりこの子休ませないと!」
「ああ。でも、先にケフカの野郎をどうにかしねぇとな」
 マッシュが言った途端、火球がこちらへ向かってきた。
「何を皆さん揃って私を無視して!城ごと燃やすぞお前らも!」
 エドガーがロックを安全な場所へ連れて行き、ケフカはなおも炎を放つ。
 ロックを城の陰に隠し、エドガーは双剣を手にマッシュ、アルナに加勢した。
「……フフフ……王様も戦うのか……。しかし、人数が増えたとて関係はない。まとめて焼け死んでもらう!」
 ケフカが、巨大な炎を繰り出した。この砂漠を全て飲み込みそうな、それはそれは大きな火球を。
 直撃すると思った時……。
 ギイィィン……
 誰も動いていないはずなのに、金属音の直後、火球がはじけて散り、消えた。
「……えっ……」
 アルナの間の抜けた声。
「……はへ?」
 ケフカの妙な呟き。双子も、呆然と彼を……少年を見た。
 あの大きさの火球を、たった一人で、一振りの剣で消した……ロックを見た。つい先ほどまで気を失っていた彼を。
「……ウソだろ……?」
「……ロック、大丈夫なのか?無理しないほうが……」
 エドガーを目で制し、ロックはケフカに一直線に突っ込んだ。
 ……恐れから怒りへと、心境が変わっている……さっきの目つきでエドガーは悟った。
 あの子にあるのは涙ではない。あの少女を、村の人々を、今の戦いで死んだ者達を殺した、このたった一人の人間に矛先を向けた怒り。そして、なにもできない、弱い自分への怒り……それらが、ロックを動かしていた。
「こざかしい!始末してヤルッ!」
 ロックの剣を避け、ケフカは両手を前に出す。その掌に、青白い光が生まれた。光はどんどん大きくなり、ロックを包む。
 究極魔法『アルテマ』。世界で最強の魔法。
 爆発音が轟いた。
「!いやぁ!」
「ロック!」
「……フフフ……子供ですからね……少しは手加減しましたが、どうでしょうか……。」
 その場を去ろうとしたケフカだが……何かに気付き、足を止めた。
 まだ、ロックは生きている。身体が呼吸に合わせ、小さく動いていた。
「……ほう……まだやると……?」
「……返……せ……」
「……何を?」
「……レイチェルを……村の……人達を……今までお前が殺した命を……全部……返せ……!」
「……フフフ……教えてあげましょう。死んだ者は、もう二度と戻らない。どれだけその心に刻んだ思い出があろうとも、どうせ消える。人間はそうやってできている。いつかは、全てが消える。」
 そう言い、ケフカはロックの剣を奪い取る。
「だから、人の死など気にしなくてもいい。どうせ自分も死ぬ。そうなれば、その者の死の記憶も全て消える。そうでしょう?」
 剣の狙いをロックの急所にロックオンし、次に言い放つ。
「ならば生きる理由などない。全てはいずれ無に還る。」
 そして、剣がロックの急所を刺した。
 うっ、という声が漏れ、少年の胸元から赤い液体が広がる。
 ロックの身体から力が抜け、ケフカが剣を取り投げ捨てる。
「……ロック!!」
 エドガーはロックに駆け寄った。そして、少年の身体を揺する。
 反応はないが、まだ身体に温もりがある。
 まだ、生きているんだ……。
「……ロック、生きろ……まだ取り戻せる……この時間を……お前の人生を。」
「…………エ……ド……ガー……」
 ロックが小さく言った。呼んだ。泣いた。笑った。目を閉じた。
 エドガーは、去ろうとするケフカの後ろへと、双剣を躍らせ、飛び込んだ。ケフカはそれをさっと避け、エドガーと対峙した。
「よくもあんなに小さな子供を!」
「……それが何だというのです?子供でも、いつかは死んでいく……ならば最初からないものも同然。どこでこのような子供が何人死のうと、誰も気にしない。」
「それでも、お前がしていることは、禁忌も同然だ!いけないものはいけないんだよ!」
「……では訊きます。この子供を戦いに巻き込んだのは誰です?その戦いを始めたのは誰?エドガー、あなたでしょう?」
「……お前も同じじゃないか!攻めてきたのはお前だ!」
「だからって自分は悪くないと……フフフ……世の中は残酷だ。自分さえよければそれでいい。王様でも、それは同じなのですね……」
「……何だと……!?……っ……」
 ケフカがエドガーを蹴り、マッシュが兄を支える。
 マッシュがエドガーを見ているうちに、ケフカは軍ごと消えた。
 アルナは小さな少年を見る。
 何もできなかった……私……また、妹と同じように……見てしまうの?
 ……人の死を……。
 

Re: マジカルストーリー外伝 青いバンダナの少年 ( No.3 )
日時: 2020/04/03 18:10
名前: 3104&休日トリオ (ID: E29nKoz/)

   ☆
 ごめん……ごめんよ……ごめんロック……。
 サウスフィガロの街、宿屋。エドガーの泣き声が、もう二週間ほど続いている。しきりに謝りながら泣き、そして、泣き疲れて眠ってしまう……いつものことだ。
「……俺のせいで……ケフカの言うとおりだよ……お前を巻き込んだのは俺達だよ……。」
「兄貴……」
「……」
 ロックは、あの戦いからずっと眠っている。当然だ。いくら剣の使い手で、いくら実力があっても、ロックはまだ子供……ケフカのような大魔導士に勝てるわけがないのだ。
「……兄貴、泣かなくったっていいじゃないか。ケフカが言ったことも間違ってはいないけど、ロックは生きてるし、兄貴一人のせいじゃないよ」
「……もういいよ……!これ以上誰かを巻き込むのは嫌だぁ……!」
 エドガーは宿屋を飛び出した。マッシュの声が聞こえたけれど、無視して走り、街の外まで行った。
 ……本当に、もういい。何もかも。あの子のことを守りたい自分がここにいるのに、戦いを繰り返し、人の命を奪う自分がもう一人自分の中にいる。なんだか自分が自分じゃないみたいで、怖い。それに、あの子の友達の命を奪ったのは自分……確信犯だった。
 あの時、レイチェルを助けていたら……あの子は苦しむことも、悲しむこともなかったんだよ。そう言う自分に、打ちのめされた。
 やがて街の外、森に入った。涙を流しながら走ったので、もうへとへとだった。エドガーは一本の木の幹の根元にへたり込んだ。
「……もう……もう嫌だ……」
 金髪をくちゃくちゃにして、その後しばらく泣き続けたエドガーは、疲れ果ててやがて眠り込んだ。毎日聞いている弟の声が聞こえたような気がした。
   ☆
「……兄貴……。……兄貴。おい。鳥にでもつつかれたか?」
「……うぅ……」
 マッシュの声だ。エドガーは目を覚まし、身体を起こそうとして左側の頭頂部に痛みを感じた。
「……マッシュ……どうなってる……?」
「……オムレツの上にかけたケチャップみたいになってる」
 ……。
 ……エドガーは吹き出した。
「なんだよそれ……!アハハハ!」
「……なんか変なこと言ったか、オレ……?」
 『オムレツの上にかけたケチャップ』……つまり、『金髪が一部だけ赤くなっている』と、マッシュは言いたいみたいだ(ファンタジーでおなじみの変な比喩である)。
 さすがに心が和んだ。
「……兄貴、帰ろう。ロックとアルナが待ってるから。あとそれ、手当てして血を落とさなきゃ」
「うん。よかった……マッシュはマッシュのままだ。俺みたいに……挫けてるかと思ってた。」
「……昔のオレなら、そうだったかもな」
 兄を起こし、髪を整えてやりながら、マッシュは考えた。
 もし、これからもエドガーがこんな風に思い詰めて苦しむようならば、精一杯励ましてやろう。家族として、兄弟として、そうするのが義務だから。
   ☆
 アルナは、窓の外をぼーっと見つめていた。
「……大丈夫かなぁ……」
 双子が、もう一時間ほど帰ってこないのだ。
 ……エドガーに手こずっているのかも。
「……どうしたの……?」
 男の子の声。ロックが目を覚ましたのだ。
「……あら、おはよ」
「……二人はどこ……?……ここはどこ……?」
「……エドガー様が癇癪かんしゃく起こして出てったから、マッシュ様が追いかけてったの。大丈夫、すぐ帰ってくるよ。ここはサウスフィガロの街の宿屋だよ。」
「……アルナは……妹、いたんだよね……?」
「え」
 ……なんで知ってるの!?
「なんで……」
「……分かるんだ……。よくわからないけど、分かるんだ……。」
「……そう……」
 それからアルナは、妹のことを話した。ロックはただじっと、静かに、アルナの目を見て話を聞き、話が終わる頃に、
「……アルナ……同じだね……。……みんな……同じだよ……」
 そう言って、眠りについた。
 アルナは、頭の中で、ロックの言葉を反芻した。
 みんな同じ……人の死を見たとき、誰しも一度は混乱する。そして、その人の死を、ずっと引きずることだってある。
 少年は、それを知っている。
 
 数分後、双子が帰ってきた。アルナはロックの隣で、エドガーの手当てをし、話をした。
「……エドガー様の髪、とても綺麗です。長くてサラサラして……」
「そうか?」
「……私の妹も、こんな髪をしていて、いつも二つに結っていました。」
「……そうだったな。あの時は……お前の妹を守れなくて悪かった……。ケフカ相手に、勝てるわけがなかった……俺のせいで、お前の妹一人だけが……」
「……エドガー様のせいじゃないです。何でも一人で背負うのは悪いことですよ。私達、幼なじみじゃないの。」
 二人の話を聞きながら、マッシュはロックの頭を撫でた。
 この子は兄に似ている。過去を振り返り、そのことをいつまでも引きずり、一人で背負う。相談も、忘れたりも、しない。
 だからこそ、深く傷ついて、心の檻に自分を閉じ込め、恐怖を抑えられず、さらに傷ついてしまう。
 でも、この子は兄と違うものも持っている。
 『強さ』。
 自分が置かれている状況を理解し、その恐怖から逃れようとする強さを、この子は持っている。そしてこの子は、きっと、もっと強くなる。
 ざっと、命の全てを知った者、というところか……。
   ☆
 数ヶ月後、すっかり元に戻ったフィガロ城の図書室に、一人の少年がいた。
 古文書らしき本を手にする、銀髪の青いバンダナの少年。ロック。
 古文書の中身はこう。
『フェニックスの秘宝
 死者の魂を蘇らせる。星の山に眠り、自らに相応しい人間を選ぶ。勇気を持つ者、涙を持つ者、笑顔を
 持つ者。その者の記憶に眠る者、魂を取り戻す。』
 ……魂を蘇らせる、秘宝。
 それがあれば、レイチェルは……
 本を棚に戻し、ロックは双子のもとへ走った。
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