二次創作小説(新・総合)
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- 【ポケモン】救世の姫君
- 日時: 2021/06/30 20:22
- 名前: 海桜 ◆VYJqzu6hsI (ID: 66mBmKu6)
初めまして、海桜と書きかいおうと読むものです。何年か前に完結できなかった作品を、リメイクする形になります。
破壊の繭〜を見て書いた作品なので、色々と古いと思いますが楽しんで頂けると幸いです!
※注意
・オリジナル地方での冒険になります。主要キャラからジムリーダーもオリジナルです。
・色々な地方のポケモンが登場し、一部他地方の伝説ポケモンも登場します。
・更新が極端に遅いです。半年空くこともあるかもしれません。
chapter1 姫君の逃走
>>1,>>2
chapter2 狙われたディアンシー
>>3
- Re: ポケットモンスター 救世の姫君 ( No.1 )
- 日時: 2021/06/28 00:59
- 名前: 海桜 ◆VYJqzu6hsI (ID: 66mBmKu6)
(……あ、行ったわ)
暗い廊下を懐中電灯の灯りが通り過ぎたのを確認し、扉を慎重に開ける。
中から現れたのは、10歳程の少女だった。頭には白いレース付きのカチューシャ、服は長袖の黒いワンピースとエプロン。見た目こそメイドだが、服は何故かだぼだぼ。ワンピースの袖に手は隠れ、スカートの裾も地面に着いている。これは、城で働くメイドの服を失敬したものなので、サイズが合わなくて当然だった。
少女はワンピースの袖を何回か折って手を出すと、裾を掴んだまま小走りで廊下を走った。
急ぐと言う気持ちもあるが、一番は恐いからだ。壁にかけられた歴代の王や女王が描かれた肖像画、純金で造られた甲冑像。窓から射し込む月明かりに照らされ、不気味に浮かび上がる彼らに、じっと見られているような気がしていた。
それが咎めるようなものに思えた、少女はありもしない視線から逃げるため一気に廊下を駆け抜けた。
廊下を抜けた少女は、誰もいない調理場に侵入し、そこにあった勝手口から表に出る。勝手口から後ろを見上げれば、城が聳え立っていた。白い大理石で作られ、美しいと言われる城。
ぼんやりしていると、勝手口の向こうで声がした。
「大変だ! 寝室に、ナージャ様がいらっしゃらないぞ」
(もう気付かれた!)
勝手口の向こうが騒がしくなっていくのを感じながら、少女——ナージャは、迷うことなく目の前にある水路を飛び越え、暗い森の中へと消えていった。
この世界には、じゃがいものように歪んだ大陸があった。
大陸の名が、リトスであることからその大陸はリトス地方と呼ばれる。
そこは、湖や草原など多くの自然が残る。それ故か、様々な地方の生き物が混在し、『果ての楽園』と呼ばれることもある。
そんなリトス地方の南にあるとある王国から物語は始まる。
頭上から降ってくるフクロウのような鳴き声だけが辺りを支配する、森。
空を覆うように伸びる枝のせいで明かりはほとんどなく、真っ暗だった。
僅かに差し込む月明かりを頼りに進んだナージャは、疲れて思わず木の根元に腰かけた。一応辺りを見渡すが追ってが来る様子はなく、人の声もしない。
この少女の名は、ナージャ。リトス地方にある王国、フローナス王家の王女である。
本名は、ナージャ・レジーナ・シュルツ・オールコット・フローナスと呆れる程に長い。
ナージャは彼女の名前、『レジーナ』は王族の称号のようなもの、そして母親の育て親の姓『シュルツ』、母親の旧姓『オールコット』、現在の姓、要は父親の姓『フローナス』と続くので。
彼女は背中まで伸ばされた長い金髪に、鮮やかな蒼の瞳を持つ。黙っていれば大人しそうに見える、可愛らしい顔立ちをしているが、今は緊張で強張っていた。
彼女はある目的の為に、城を脱走したのだ。
人がいなくても、油断はできない。見付かれば、間違いなく連れ戻されるし王と王妃こと、両親に説教されて警備が厳しくなるのが目に見えている。
この日のために警備員の巡回経路、警備が手薄になる時間を念入りに調べたわけだが全て水の泡になる。それは避けなければ。
「とりあえず、街に出ないと……」
足の疲れも回復してきたので、早く森を抜けようと立ち上がった時。
「こんばんは、ですわ」
誰かに挨拶をされた。何だと思い、足下に視線をやると一匹の生き物がナージャを見上げていた。王冠のように尖ったピンクの結晶。葉に似た耳を持つ頭、ドレスらしい服を着ているが身体は岩と言う奇妙な生き物だった。なんだポケモンか、とナージャは安堵の息を漏らし、えと目を丸くしてポケモンを見つめる。
ポケットモンスター、通称ポケモン。この世界に住む生き物の総称である。
「…………」
ただ、ポケモンは普通人間の言葉を話さない。鳴き声で自分の意志を伝えるだけだ。なのに、目の前のポケモンは流暢に人の言葉を話している。そのことが信じられないナージャは、驚きのあまり言葉を失った。
「ねえ、あなたはこちらの森で何をしていらっしゃいますの?」
こてん、と小さな頭を傾げて質問するポケモン。甘ったるいポケモンの声は、頭の中に直接話しかけられているような感じであることにナージャは気付く。テレパシーだ。
「……旅をしてるの」
答えないのも失礼だろうと、ナージャは正直に答える。するとポケモンは無邪気に笑った。
「旅? まあ奇遇ですわ、わたくしも旅をしていますの!」
(ポケモンが旅、ねえ)
スワンナやオオスバメが季節の変わり目に他の地域へ旅をするのは有名な話だが、ポケモンが旅をすると言うのはあまり聞かない。ずいぶんと変わったポケモンのようだ。
「ねえ、あなたのお名前を教えて下さい。わたくしは、ダイヤモンド鉱国(こうこく)から参りました、ディアンシーと申しますわ」
ディアンシー、と名乗ったポケモンは短い手でスカートを摘まみ、一礼をする。その姿は気品に満ち、ポケモンながらみいってしまう。
「ダイヤモンド鉱国?」
「わたくしの故郷ですわ。綺麗な宝石や鉱物がたくさんありますの」
ポケモンが作る王国など聞いたことがないので、ナージャはディアンシーの言葉をあまり信じていなかった。半ば冗談だと思い、これ以上は聞かなかった。
ナージャはディアンシーに習い公の場のように姿勢を但し、メイド服のスカートを掴み、優雅に挨拶をする。
「私は、フローナス王国のナージャです」
「ナージャですわね。もう覚えましたわ!」
えっへんと自慢するように胸を張るディアンシー。
この出会いが、長い旅の始まり。
- Re: ポケットモンスター 救世の姫君 ( No.2 )
- 日時: 2021/06/27 20:27
- 名前: 海桜 ◆VYJqzu6hsI (ID: 66mBmKu6)
その後、ナージャは早々にディアンシーに別れを告げ暗い森の中を進んでいた。追っ手が来る可能性を考慮し、夜の内に少しでもフローナスから遠ざかりたかったからだ。両親に秘密でこっそり入手したランニングシューズで、木の根を跨ぎ、沢を飛び越え。どんどん進むナージャ。だぼだぼのメイド服のせいで動きづらいが、我慢して進む。
夜の風が、彼女の長い金色の髪を弄んでいた。
「ナージャ!」
その後をディアンシーが追いかけていた。
石の身体に力を込めて地面を跳び跳ね、前に進む。かなり力を入れているのか、荒い息を吐きながら跳んでいる。人間で言えば、全速力で走っているのと同じらしい。
「ナージャ、お待ち下さいませ!」
この言葉を聞くのは、何度目か分からない。
別れを一方的に告げてから、ディアンシーはナージャの名を呼びながら、ずっと追いかけてきていた。急ぐから、と説明してもディアンシーは追いかけるのを止めない。鬼ごっこは長いこと続いていた。
しばらくしてこれ以上逃げても無駄だと諦めたナージャは、立ち止まり、ゆっくり振り向いた。
「ナージャ、わたくしを置いて先に行こうとなさるなんてひどいですわ」
宝石のように透き通った目を吊り上げ、ディアンシーはナージャを睨む。
「え、さっきお別れするって言ったのに」
「いきなりさよならなんて、ひどいですわ」
「うーん。そうね、急すぎたかな? ごめんね」
とっさに謝ると、ディアンシーは機嫌をよくしたのかニコリと笑う。
「よろしい。では、ナージャ。わたくしと共に森を歩くことを許します」
「はい?」
何故ディアンシーと共に森を歩くだけで、わざわざ許されないといけないのか。
意味が分からず、ナージャがぽかんと口を開けるとディアンシーは、慌てて訂正する。
「えっと。わたくしと森を歩いて欲しいのです!」
ああ、なるほどとナージャは納得する。
同時にディアンシーは、ダイヤモンド鉱国の中では偉い立場に居るのではないかと推察した。許す、と言う言葉が出るくらいだ。こう見えて、ダイヤモンド鉱国の女王様か自分と同じお姫様もしれない。——まあ、王様や王子と言う可能性がなくもないが。
「この暗闇は、恐いしね」
「ええ。この暗い森はとても恐いですが、二人で歩けば恐くありませんわ」
「いいよ。一緒に行こ」
快くナージャが快諾すると、ディアンシーは嬉しそうに飛び上がった。
ナージャはディアンシーを引き連れ、森の中を進んでいた。もうすぐ街が近いのか、木の数はだんだんと減り、木の間から夜空が見えるようになってきた。銀の砂を溢したような満天の星たちがナージャとディアンシーを見下ろしていた。
「ナージャ、見て下さい! 星が綺麗ですわ!」
星が好きなのか、ディアンシーは目は星より強い輝きを宿し、おおはしゃぎしていた。短い手を伸ばしナージャの手を掴み、反対の手で星を示す。星に興味がないナージャは、ディアンシーの対応に困っていた。
(悪いけど、あの星見慣れてるのよね)
フローナス王国は、リトス地方でも星がよく見える場所。少し外に出れば星が見える環境で育ったナージャにとっては、ありふれた光景でしかないのだ。
だが、ディアンシーの意見を無視する訳にもいかず。少しはディアンシーに同意をしようと、空を見上げると、巨大な黒い影が横切るのが見えた。ざわざわと森が騒ぎだす。
「あ、また来ましたわ」
気のせいかと思ったが、黒い影は再び上空を横切った。——まるで、何かを探すかのように空を彷徨いている。
「もう。星が見えないではありませんか」
むくれるディアンシーの横で、ナージャは木の影に隠れじっと上空の様子を窺う。上にいる影は辺りを旋回しているが、あまりにも上空にいるため黒い姿でしか見ることが出来ない。だがここから逃げないといけない、とナージャは直感的に悟った。間違いなく追っ手。
「ディアンシー、いくよ」
「ああ、ナージャ!」
ディアンシーに声をかけナージャは、ワンピースの裾を持ち上げ、走り出す。なるべく月の光が当たらない暗い場所を選び、森を一気に駆け抜けた。
それから、どれくらいの時間が過ぎただろうか。ふと気が付けば木々の間から月明かりが差し込み、ナージャの目の前に道が現れる。
地面の上に木の板で作られた道。それを発見したナージャは、安堵するため息をついた。
(ふう。もうすぐレコンの森を抜けられるわね)
この木の板は、この森——レコンの森の散策のために作られたものだ。この木の板は、クローロシティ近くの一番道路まで続いている。城を脱走し遠くへ出かけるのが趣味なナージャにとっては、見慣れた物だ。
空を見れば、影は消えていた。もう安心だ。
「わ、わたくし、こんなに走ったの、初めて」
「うーん。その体力のなさ。ディアンシーは、本当にお姫様みたいね」
荒い息を吐くディアンシーを見て、ナージャは正直な感想を述べる。
普段から城の脱走を繰り返すナージャにとっては、大したことがないのだがディアンシーは慣れていないらしい。
あの喋り方、洗練された仕草、体力のなさ。物語に出てくる本物のお姫様のようだ、と一応はフローナス王国の姫であるはずのナージャは思った。
「ナージャの言う通りわたくしは、ダイヤモンド鉱国の姫ですわ。、照れてしまいます」
「いや、誉めてないし」
勘違いし、恥ずかしがるディアンシーに対し、ナージャは冷静に突っ込みを入れた。
ディアンシーが再び歩けるようになったところで、ナージャは進むことにした。
「ディアンシー、この木の道に沿って行けば森を抜けられるよ」
スカートを持ち上げ、まずはナージャが木の板に乗る。長い裾を引きずったまま歩いたせいで、ワンピースの裾は土が大量に付着していた。
「まあ、そうでございますか」
ピョン、と飛び上がり板に乗るディアンシー。
身体の一部が岩であるディアンシーは、体重がかなりありそうでナージャは乗っても大丈夫か不安だった。しかしこの板は、ポケモンが乗ることも考慮されており、かなりの強度がある。そのため、重そうなディアンシーが乗っても穴は開かなかった。
「この森を抜けたら、お別れだね」
正面から、生暖かい風が吹き付けてくる。風は先程より強いため、出口がもうすぐであることは分かった。
ナージャはディアンシーと視線を合わせるため、屈んだ。森を抜ける間の短い仲だったが、別れるとなるとそれなりに寂しい。ゲットしたい気持ちが沸いてくる。
野に生きる、野生ポケモンは、モンスターボールと言う道具を捕まえれば捕獲——この世界ではゲットと呼ぶして、共に旅をすることができる。だが、今、ナージャはモンスターボールを持っていない。それに、ナージャは速く遠くに行く必要がある。城の者が、森にいるかもしれない
喋っている暇などないと自分を叱咤し、ナージャはディアンシーと別れることを選んだ。
少し悲しげな表情になるナージャだが、対するディアンシーは何故か満面の笑みであった。上品に口元に手を添え、クスリと声を漏らした。
「まあ、ナージャはとても冗談がお上手でございますわね」
「なんで?」
ディアンシーの表情から別れる気は、全く感じられない。それどころか何か重大な覚悟を決めた、深刻な顔付きになる。
「わたくし、決めましたわ」
すう、と息を吸い、ディアンシーはナージャを見据えた。
「ナージャ、わたくしをゲットすることを許します」
「…………は?」
〜序章完〜
- Re: ポケットモンスター 救世の姫君 ( No.3 )
- 日時: 2021/06/28 18:01
- 名前: 海桜 ◆VYJqzu6hsI (ID: WhJAOnLo)
その後、ナージャは早々にディアンシーに別れを告げ暗い森の中を進んでいた。
追っ手が来る可能性を考慮し、夜の内に少しでもフローナスから遠ざかりたかったからだ。両親に秘密でこっそり入手したランニングシューズで、木の根を跨ぎ、沢を飛び越え。どんどん進むナージャ。だぼだぼのメイド服のせいで動きづらいが、我慢して進む。
夜の風が、彼女の長い金色の髪を弄んでいた。
「ナージャ!」
その後をディアンシーが追いかけていた。
石の身体に力を込めて地面を跳び跳ね、前に進む。かなり力を入れているのか、荒い息を吐きながら跳んでいる。人間で言えば、全速力で走っているのと同じらしい。
「ナージャ、お待ち下さいませ!」
この言葉を聞くのは、何度目か分からない。
別れを一方的に告げてから、ディアンシーはナージャの名を呼びながら、ずっと追いかけてきていた。急ぐから、と説明してもディアンシーは追いかけるのを止めない。鬼ごっこは長いこと続いていた。
しばらくしてこれ以上逃げても無駄だと諦めたナージャは、立ち止まり、ゆっくり振り向いた。
「ナージャ、わたくしを置いて先に行こうとなさるなんてひどいですわ」
宝石のように透き通った目を吊り上げ、ディアンシーはナージャを睨む。
「え、さっきお別れするって言ったのに」
「いきなりさよならなんて、ひどいですわ」
「うーん。そうね、急すぎたかな? ごめんね」
とっさに謝ると、ディアンシーは機嫌をよくしたのかニコリと笑う。
「よろしい。では、ナージャ。わたくしと共に森を歩くことを許します」
「はい?」
何故ディアンシーと共に森を歩くだけで、わざわざ許されないといけないのか。
意味が分からず、ナージャがぽかんと口を開けるとディアンシーは、慌てて訂正する。
「えっと。わたくしと森を歩いて欲しいのです!」
ああ、なるほどとナージャは納得する。
同時にディアンシーは、ダイヤモンド鉱国の中では偉い立場に居るのではないかと推察した。許す、と言う言葉が出るくらいだ。こう見えて、ダイヤモンド鉱国の女王様か自分と同じお姫様もしれない。——まあ、王様や王子と言う可能性がなくもないが。
「この暗闇は、恐いしね」
「ええ。この暗い森はとても恐いですが、二人で歩けば恐くありませんわ」
「いいよ。一緒に行こ」
快くナージャが快諾すると、ディアンシーは嬉しそうに飛び上がった。
- Re: ポケットモンスター 救世の姫君 ( No.4 )
- 日時: 2021/06/29 20:51
- 名前: 海桜 ◆VYJqzu6hsI (ID: 66mBmKu6)
「わたくし、貴女をパートナーにすると決めましたわ。この世界に迫る危機に立ち向かうにはナージャの力が必要なのです。ですから、わたくしをゲットして下さい。お願いしますわ」
ディアンシーが頭を下げた直後。突如辺りに強い風が吹き荒れた。辺りの木々の枝が音を立てて激しく揺れ、ナージャの金髪も舞い上がる。
獣の咆哮が轟き、巨大なポケモンが上空を横切った。大きな青い身体に扇形の赤い羽根。蛇の尾に似た長い尻尾。左右の耳は棘が三本生えたような形をしている。——ボーマンダ、とナージャの口が動く。
一瞬通り過ぎたボーマンダの首には首輪があった。そこにはポケモンと、それを従える王をモチーフとした飾りが付けられている。それは、フローナス王家の紋章。風に揺られて通り過ぎていく。
「あのボーマンダ、お父様のだわ……」
フローナス王家では、自分のポケモンに王家の紋章を付けた飾りを身体のどこかに付ける風習がある。父に意味を聞いたことがあるが分からない、と言っていたので風習というより伝統のようなものだろう。
それをしたボーマンダを、ナージャは一匹しか知らない。父——フローナス国王、アーレンのボーマンダだ。
ナージャが幼い頃から側にいた、馴染みのあるポケモンの一匹だ。父に連れられ、ボーマンダの背に乗った回数は数えられない。ボーマンダもまた、ナージャをよく知るポケモンでもある。
「ナージャ、聞いてますの?」
空を見上げ、固まるナージャの服の袖をディアンシーがひっぱる。
ナージャは我に返った。
「聞いてるって。ディアンシーをゲットすればいいんでしょ?」
「では、わたくしの頼みを引き受けて下さるのですね」
「頼み引き受けるけど、ゲットはあとね。急いでこの場所を離れないと……」
喜ぶディアンシーだが、ナージャは実際のところ頼みの内容をほとんど理解していない。
父のボーマンダで頭がいっぱいになり、ゲットして欲しいと言う部分しか分かっていなかった。ゲットくらいの用なら、と急ぐナージャは適当な返事をしたのだった。
上空のボーマンダは、上空で弧を描くように飛んでいる。その度に木が揺れ、髪が乱れた。髪の乱れも気にせず、ナージャは木々に隠れるようにして少しずつ進む。
その後をディアンシーがくっついてくるが、無防備に木から顔を出そうとするのでナージャはディアンシーを抱き上げて、息を殺していた。
「あのボーマンダは、悪いポケモンなのですか?」
「えっと……」
不安そうな顔付きで、ディアンシーが上空を見上げる。その質問に、ナージャは言葉を濁した。ボーマンダは、父の命令で自分を探しに来たに違いない。悪いことをしているのは、城を脱走した自分。どう答えたものか悩んだ末、ナージャは曖昧に答える。
「……私を捕まえようとはしているかな」
「では、悪いポケモンですわね。ナージャ、降ろして下さい」
ディアンシーを地面に降ろすと、木の外に出ていった。
何をするのかとナージャが様子を伺っていると、
「ボーマンダ、出てきなさい!」
あろうことか大声で、ボーマンダを呼び始めた。何度か呼ぶと、上空にボーマンダが現れ、空中で静止しながらディアンシーを見下ろす。鋭い目付きにディアンシーは少し怯んだが、負けじとボーマンダを睨んだ。悪いポケモンから、ナージャを守るためディアンシーは、
「あなたは悪いポケモンと聞きました。今すぐこの場から、立ち去りなさい」
(なに、ボーマンダに喧嘩売ってるのよ!?)
強い口調で命令する。どうやら、ボーマンダが大人しく引き下がると思っているらしい。やはり、ディアンシーは悪い意味でお姫様だとナージャは頭を抱える。人に命令するのに慣れていて、それが当たり前になっているのだ。
ただし、それはディアンシーがいたダイヤモンド鉱国とやらに限る。このボーマンダは命令すれば、簡単に立ち去る性格ではない。プライドが高く、自身が認めた者以外に指図されることを嫌う。案の定、気分を害したボーマンダはぐるる、と威嚇するように牙を剥き出しにした。
「ディアンシー、もっと下出に出るの。お願いするのよ」
木の影から、ナージャはアドバイスを送る。
父のボーマンダは、気高くプライドが高い。己が認めた人間やポケモンの言うことしか聞かず、それ以外の者に命令されることを何よりも嫌う。仲間のポケモンですらそうらしい。
決まった奴としかタッグを組めないこいつにダブルバトルは無理なんだ、と父が苦笑する顔が頭に浮かんだ。懐かしく、そして胸が痛む。
「なぜ悪いポケモンにお願いをするのですか」
ナージャの言葉の意味が分からないディアンシーが首を傾げ、ナージャの方を見た。
見つかったか、と首筋に冷や汗が流れるのを感じながら、ナージャは空を見上げる。すると、意外なことが起きた。
ボーマンダは吐き捨てるように鳴くと、そのまま遠くへ行ってしまったのだ。遠ざかるボーマンダを見上げながら、ナージャはポツリと呟いた。
「ボーマンダ、何て言ってたの?」
「俺は人を探すので忙しい。用がないなら、いちいち呼び止めるなですって。無礼なポケモンですわね」
ディアンシーは通訳すると、頬を膨らませ、しかめっ面をしていた。
どうやら、ボーマンダは自分の存在に気が付かなかったようだ。ほっと息を漏らすと、見つからない内に進もうと、ナージャは再び歩き出す。
「なんなのですか、あのボーマンダは」
「あ、ディアンシー。さっきはありがとう。おかげで助かったよ」
「ええ、わたくしの力でボーマンダを追い払って差し上げましたわ。感謝して下さいな」
不機嫌だったが一転、ディアンシーは跳びながら機嫌よく胸を張った。最後の偉そうな言葉に、ナージャは苦笑するのだった。
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