二次創作小説(新・総合)
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- 【ポケモン二次創作】灰色のラルトス【全3話、完結済】
- 日時: 2022/04/08 01:50
- 名前: だんいん (ID: hmF5PELO)
はじめまして、だんいんと申します。
初投稿で至らぬ点も多々あるかとは思いますが、よろしくお願いします。
○注意
残酷な描写が含まれます。ラルトス好きな方はご注意。
---
カントー地方、シオンタウンの外れ。
太陽がイワヤマの向こうに沈み、辺りが薄暗くなってきた頃。
とある草むらにて。
緑の頭に赤いツノを持つ人間の幼児のような姿をしたポケモンが一匹、野生のズバットの群れに襲われていた。
"おどろかす"、"かみつく"、"きゅうけつ"、"つばさでうつ"。
四方八方から襲い掛かるズバットたちから逃れようと、"テレポート"を交えて必死に逃げているのは一匹のラルトスであった。
「らぁ、らううぅ・・・(痛いよう、やめてよう・・・)」
テレパシーでの必死の懇願もむなしく、ズバットは攻撃の手を緩めない。
しかし、それも当然。彼らにとってはラルトスこそが余所者で、テリトリーを犯す「外敵」なのだから。
どれぐらい走っただろうか、ラルトスは気が付いた。
あれだけ自分を痛めつけていたズバットの群れが、いつの間にかどこかに行ってしまっていた。
この好機を逃すまいと、ラルトスは大きな岩の後ろに隠れる。
ラルトスの体がほのかに発光する。ラルトスは"自己再生"を使い、消耗しきった体力の回復に努めた。
体が光ってしまうと目立ってしまい、また野生のポケモンに襲われるかもしれない。
しかし、幸か不幸か、本来真っ白な肌を持つはずのラルトスであるが、この個体の肌はやや黒く、薄い灰色と形容するのが相応しい色をしていた。
自己再生の副作用が思わぬ形で打ち消されたラルトスは、膝を抱えて小さく一息ついた。
「らるぅ・・・(これからどうしよう・・・)」
色違いのメガサーナイトの遺伝子を組み込んだ人工ラルトス。
元々レアなポケモンの上、通常ではあり得ない特徴を持ち、下手をすれば色違いの個体かそれ以上の価値をも持つこの個体は、この日の午後にシオンタウンのとある研究所を脱走してここに辿り着いた。
カントー・ジョウト航空宇宙研究開発機構。
ヤマブキシティに本部オフィスを持つこの研究機関は、都心から離れたシオンタウンに研究所を構えていた。
カントー・ジョウト一の科学力を謳うシオンタウンの研究所では、人間やポケモンが使う化学物質を使った道具や、食品添加物などの毒性試験が行われている。
少し前までは、モルモットなどの一般動物が被験体として使われていたのだが、現在では悲しいことに、ラルトスが使われているのである。
人間に近く、なおかつポケモンである。
つまりは人間とポケモンの両方の安全性を試験することができる。
非常に貧弱で、毒に弱いフェアリータイプを持つ。
つまりは毒に対する感受性を、安全側で評価することができる。
生まれたばかりでは、攻撃技を使うことができない。
つまりは危険性が低く、研究所の職員が安全に試験を遂行することができる。
要約すれば、ラルトスという種族はこの上なく、毒性試験の被験体として最適な存在なのである。
だが、ラルトスは世間一般でも知られているように、かなりレアなポケモンである。
ホウエン地方を含めた限られた地方、限られた場所でしかゲットすることができないという。
そこで、この研究所では人工授精と遺伝子組み換え技術を応用し、様々な個体のラルトスを文字通り「作って」、実験台として使用していたのであった。
だが、彼らにとっても誤算であったのだろう。色違いのメガサーナイトの遺伝子を注入した結果、思わぬ「技」までもがこのラルトスに獲得されてしまっていた。
大技の"サイコキネシス"で職員を攻撃し、"テレポート"で研究所を脱走。
極力まで人目につかぬよう気を配りながら、この道路に出た時にはもう日も傾きかけていた。
お腹を空かせたラルトスは、オレンの実がなった木を発見した。
木に向かって念力を放ち、木の実を落とす。ラルトスは知らなかったのだ。その木が夜行性のズバットたちの、寝床であったことを。
怒ったズバットの群れに襲われ、今に至る。
ラルトスの頬を、涙が伝った。
「らる・・・(お腹がすいたよう)」
研究所にいれば、いずれ死が待っていようとも定期的に給餌されて飢えることはなかった。
脱走したことを少し後悔し始めたラルトスは、いつの間にか自分が隠れていた「岩」がゆっくりと回転していることに気が付いた。
それは岩ではなく、野生のゴローンであった。
勝手に隠れ蓑として使われ、機嫌を損ねたゴローンは、腕をラルトスに振りかざした。
「らぎゃっ!」
軽々と数メートル吹っ飛ばされたラルトス。
立ち上がり、逃げようとするも、空腹で力が入らない。
ゴローンが"ころがる"を使う。
ゴロゴロと一直線に向かってくるゴローン。
あの巨体に勢いをつけてぶつかられたら、ひとたまりもないだろう。
最早これまでか。
ラルトスがぎゅっと目を閉じたその時、どこからか人間の叫ぶ声が聞こえた。
「ゴウカザル、マッハパンチや!」
ゴローンの転がる勢いをはるかに凌ぐスピードで、突如現れたゴウカザルがゴローンにマッハパンチを放つ。
効果抜群の格闘技を食らったゴローンは、あっけなくその場で倒れた。
「お嬢ちゃん、大丈夫かいな」
声をかけてきたのは一人の人間。20代半ばぐらいの男性であった。
人間に対していい思い出のないラルトスは逃げようとするが、体力も精神力も限界に達していて動くことができなかった。
「らぁう・・・(誰・・・?)」
ラルトスは弱々しく鳴いた。
男性は、ラルトスの元へ歩み寄る。
「怪我しとるやんか。ほら、これでも食え」
男性は背負っていたリュックの中から、オボンの実を取り出した。
本当は人間とは関わりたくなかったラルトスであったが、怪我をした上に空腹が祟り、本能的にオボンの実にかぶりついた。
ぱく、ぱく。
必死に栄養補給をするラルトス。
「らあ、らああうう・・・(美味しいよう)」
「美味そうに食いよるな。腹減ってたんか?」
男性がラルトスの頭を撫でる。
ゴウカザルは傍で、じっとラルトスを眺めていた。
生まれてから、何一つとしていいことがなかった。
虐待じみた実験を重ね、死を待つだけの日々。
もしかしたら、この人はいい人なのかもしれない。
淡い希望を抱いたラルトスは、テレパシーを使って男性の心を読んだ。
優しい感情に触れ、ぽわっと心が温かくなる。はずだった。
どす黒い何かにラルトスが気付いた頃には、ラルトスの頭を撫でる男性の手に力が入っていた。
「やっと見つけたで。ほんま、手間ばっかかけさせやがって」
小さな頭部がギリギリと握りつぶされる。これではうまく念力を使うことができない。
「らあ、らあああああ!らああああああ!らあああああああ!!(痛い!痛いよお!)」
悲痛な声をあげるラルトス。
頭を鷲掴みにされ、持ち上げられたラルトスは、手足をジタバタさせて抵抗する。
男性はラルトスを片手に、スマートフォンで電話をかける。
「はい、俺です。ええ、捕まえました。これから戻ります」
手短に用件を伝えた男性は、ぽい、とラルトスを放り投げた。
やっと技を使えるようになったラルトスは、"テレポート"でその場を脱そうと試みるが・・・。
「ゴウカザル、どくづきや」
目にもとまらぬ速度でラルトスに突っ込んできたゴウカザル。
毒を纏った腕が、ラルトスの腹部に突き刺さる。
「げふうっ!」
ラルトスは先程食べたオボンの実を吐き出した。
代わりに、毒素がラルトスの体へと侵入する。
勢いよく地面に叩き付けられたラルトスは、その場で気絶してしまった。
(後日、後編へ続きます)
- Re: 【ポケモン二次創作】灰色のラルトス ( No.1 )
- 日時: 2022/04/08 00:16
- 名前: だんいん (ID: hmF5PELO)
ひんやりとしたフロアの冷たさが、ラルトスの目を覚ました。
「らるー・・・らるぅ?(あれ、ここはどこ?)」
目を擦りながら、ラルトスは起き上がる。
キョロキョロと辺りを見回してみると、どうやらここは倉庫のような場所のようだ。
恐ろしい記憶が断片的に残っているが、何故だか体が軽い。
ここでずっと寝ていたからだろうか、すっかり体力は回復したようだ。
だが、長い間眠っていたからなのか、ラルトスはまたお腹を空かせていた。
きゅるる、と小さな胃袋が鳴く音が聞こえる。
恥ずかしそうにお腹を押さえるラルトス。
と、その時。背後から人間の女性の声がした。
「あ、お目覚め?」
はっと勢いよくラルトスは振り返る。
そこには白い制服を着た、20代半ばぐらいの女性がラルトスを見下ろしていた。
女性は餌の入った皿を手に持っている。
「ほら、食べな」
女性はラルトスへ歩み寄り、フロアに皿を置いた。
餌の良い匂いが、ラルトスの小さな鼻腔を刺激する。
よちよちと餌の入った皿へと近付くラルトス。
ラルトスが餌を手に取り、口へと運ぼうとしたその時。テレパシーで目の前の女性から危険な感情を察知したラルトスは、咄嗟に皿をひっくり返して辺りに餌をぶちまけた。
「らるうっ!」
「え、ちょっと!何を・・・!」
慌ててラルトスへと手を伸ばす女性。
しかしラルトスは女性の足元へ突進し、するりとその両手をすり抜けた。
女性の股を潜り抜けたラルトスは、壁に向かって走る。
シオンタウンの研究所を脱出した時と同じ作戦。ギリギリまで壁に近付いて"テレポート"を使い、一気にその場を後にする。
必死に壁に向かって走るラルトス。
背後から女性が追いかけてくる気配を感じる。
「らるーっ!」
ラルトスは叫び、壁に向かって大きく飛び跳ねた。
ギリギリのタイミングで"テレポート"を使い、壁の向こうへと出る。
その後はもうどうにでもなれ。どうせ先のことなどわかりやしない。
そもそもここはどこだろうか。私はまたシオンタウンの研究所へ戻されたのだろうか。この際どっちでもいい。
ラルトスは壁ギリギリのところで、全身に念力を込めた。
「らるぅーっ!・・・・・・ぷぎゃ!」
勢いよく壁に頭をぶつけ、ラルトスは跳ね返される。
ラルトスはよたよたとよろめいたのち、ぱたりとフロアに倒れ込んだ。
「ら、らるぅ・・・(どうして、テレポートが使えないよう・・・)」
コツコツと足音が近づいてくる。
痛みをこらえながら上を見上げたラルトスは、自らを見下ろしながらすぐそこまで迫っている女性の姿を目にした。
「・・・あんた、馬鹿じゃないの?」
餌をくれたと思ったら、今度は暴言をぶつけてくる女性。
彼女の片隅にあったどす黒い心は、もう隠れるつもりすら感じられなかった。
「ら・・・うぅ」
歯を食いしばり、ラルトスは再び立ち上がる。
今度こそ"テレポート"を決めて、ここから脱出する。そう強い意志を持ち、ラルトスは壁に向かって走り始めた。
体を強打したことにより、足取りはすっかりぎこちなくなってしまった。
それでもなお、ラルトスは壁に向かって走り続ける。
「あーもう、ほんっとこういうの嫌いなのよね」
背後から女性の声が聞こえる。
ラルトスは振り返らない。一点に壁だけを見据えて走り続ける。
ラルトスは気が付くのが遅れてしまった。
自らの周囲を、大きな影が覆い始めたことを。
何かが上から近付いている。
ラルトスが上を見上げた頃には、何もかもがもう遅かった。
「ジバコイル、ボディプレス」
冷徹な声に応じ、頭上から巨大な金属が襲い掛かって来る。
「ぴぎぃ!」
優に100キロを超えるジバコイルにのしかかられ、ラルトスは悲痛な叫び声をあげた。
効果はいまひとつのようだ。しかし、あまりにも体躯とパワーが違いすぎる。
「らあああうううう”う”う”!!うーう”-!!(苦しいよう!離してよう!)」
ラルトスは手足をばたつかせようともがくも、一切体の自由がきかなかった。
白い制服を着た女性が、ラルトスの元へと近付いてくる。
「・・・あんたね。分かってるの?自分が置かれている立場」
女性は屈み、ラルトスのツノを乱暴に掴んだ。
「いいいい”い”い”!!(痛いよう!やめてよう!)」
苦痛にラルトスの表情が歪む。
「あんたみたいなのが一番嫌いなのよね。何の役にも立とうとせずに、組織の足ばかり引っ張るやつ」
女性はもう片方の手でフロアに散らばった餌を掴み、ラルトスの口へ押し込もうとする。
「食べなって言ってるでしょ」
「んん”ん”!ん”-ン”ン”ン”ー!」
必死に口を閉じて抵抗するラルトス。
最早その鳴き声は、可愛らしい鳴き声をもつラルトスのものには到底思えないほどであった。
突如として、バチン、と乾いた破裂音が室内を覆う。
「ンンー!・・・・・ギャン!」
女性は平手打ちをラルトスに浴びせた。
灰色の肌がみるみる赤くなり、ラルトスはじわりと目に涙を浮かべる。
その隙に女性はラルトスの口を乱暴に大きく広げ、餌を喉の奥まで突っ込んだ。
「ぐぷう!げ、ゲエエエエエ!!!」
ジバコイルに乗られた状態では食道が詰まり、餌を胃へと流し込めないラルトス。
悶絶の表情を浮かべ、餌をフロアに吐き出してしまった。
「ゲウウ、ゲエエエ・・・グギュ、グフゥー」
気道からも食道からも悲鳴をあげるラルトス。
そんなラルトスには目も向けず、女性は嫌そうに汚れた手を拭っていた。
突如、室内に誰かが入ってくる。人間の男性の声がする。
ラルトスを更に絶望へと叩き落とすその声の主は、あの時ゴウカザルを使ってラルトスを襲った男性であった。
「・・・なんか地下からものっそい音したから来たんやけど、何してんの?」
散々ラルトスをいたぶった男性も、この状況には少し困惑している様子。
ラルトスは声のする方に目を向ける。あの時は普通のポケモントレーナーらしい服装だった男性も、今は女性と同じような白い制服を身に纏っている。
「ごめん、うるさかった?」
「ホンマやで。地震かと思ってみんな今気象ニュース見とるで」
アハハ、と苦笑いをする女性は、ジバコイルに合図を送る。
ジバコイルは宙に浮きあがり、ラルトスは"ボディプレス"から解放されて大きく息を吸い込んだ。
「らるー、らるー」
ラルトスの灰色の肌がほのかに光る。自己再生だ。
白い服を着た男女は、ラルトスの様子をじっと見つめている。
やがて、体力を幾分回復させたラルトスは、テレパシーを使って男女に語り掛けることにした。
力では到底叶わないと察したラルトスは、ダメ元で対話を試みたのだ。
「らる、らるらる、らる・・・(あなたたちは誰?どうしてこんなひどいことをするの?)」
ラルトスからテレパシーを受け取った男女は、顔を見合わせる。
その後彼らは呆れたような表情で、ラルトスへと視線を向けた。
「コイツ、今ひどいことって言いよったで」
男性がラルトスを指さした。
「やっぱ馬鹿ね、コイツ」
女性はやれやれ、と肩をすくめる。
ジバコイルもまた、冷たい視線をラルトスへと向けていた。
「所内緊急連絡を受けてコガネ支部からリニアに乗ってすっ飛んで来たのに、ひどいことってホンマ、お前さぁ・・・」
苛立った男性はモンスターボールを構える。
ボールの上半分、赤い透明な部分からラルトスの目に写ったのは、あの日ラルトスを気絶させたゴウカザルであった。
「らうっ!?」
トラウマがフラッシュバックし、体をびくんと跳ねさせたラルトス。
下手なことを言えば、今度こそ殺されるかもしれない。そう悟ったラルトスは、慌ててテレパシーを途切れさせた。
ラルトスの悲鳴に応えたかのように、室内のモニターに反応が入った。
散々ラルトスへ悪態をついていた男女は、ビシッとモニターに向き直り、敬礼をした。
『・・・緊急任務、御苦労だった』
モニターから、声が聞こえる。
ラルトスはフロアに伏せたまま、恐る恐るモニターへと目を向けた。
(思ったよりも長くなってしまいました。今度こそ後編になります)
- Re: 【ポケモン二次創作】灰色のラルトス ( No.2 )
- 日時: 2022/04/08 02:25
- 名前: だんいん (ID: hmF5PELO)
ラルトスの瞳に映ったのは、水色の短髪の男性であった。
彼もまた、目の前の男女と同じような白い制服を着ている。
「本部長、自分がやりましたよ!臨時ボーナス、期待してもいいっすよね!」
男性はモニターの向こうの「本部長」へ嬉しそうに報告している。
「あんた、私がいなけりゃ任務遂行できなかったくせに調子がいいんだから。ろくにカントー地方を知らないあんたを案内したのも、ズバットの群れを追い払ったのも私なのは忘れないでよね」
女性は腕を組み、ツンとした表情を男性へと向ける。
『ふふ、案ずるな。臨時ボーナスはお前たち二人分出させてもらおう。組織の救世主なのだからな。そのぐらい羽振りがよくて当然のことだ』
「あざっす!」
「ありがとうございます!」
男女は嬉しそうに、本部長へ敬礼をする。
ラルトスはフロアに伏せたまま彼らの会話を聞いているも、いまいち状況を掴めないようであった。
『やはり、お前たちを採用した"あの方"の目に間違いはなかったな。ジムリーダー候補生の資格を持つ、所謂"エリートトレーナー"。味方につけると、これほど頼もしいものだとは思わなかったぞ』
本部長と呼ばれた男もまた、ご満悦の表情を浮かべている。
「らるぅ・・・("あの方"・・・?)」
ラルトスは小さく鳴いた。
『かつて、ちっぽけな子供一人に組織を解体されたのも懐かしいものだな。あの時は私も若く、強い"力"とは何たるか、強固な組織を築き上げるにはどうすればよかったのかこれ程も理解をしていなかった』
「そうっすよねー。いや、あの時は正直お笑い集団かと思ってましたよ。ラジオ塔乗っ取ってへんちくりんな番組やってましたよねぇ。いや、俺、あれはあれでおもろいなと思ってたんですけどね。ガキながらゲラゲラ笑わせて貰ってましたっす」
「そうよね。あの事件から少し経った後、カントーでも・・・ハナダだったかしら?なんか残党みたいなコソ泥がポケモンジムで窃盗したとか、あったわねえ」
男女は過去を思い出し、懐かしんでいる様子。
モニターに映った本部長は、不敵な笑みを浮かべている。ラルトスはなおも、状況を掴みきれていない。
『"あの方"の一声で再び集った当時の幹部は、組織を一度解体し、名前を改め、持っていた唯一無二の科学技術を世間にアピールすることで、ポケモンジム協会の監視の下に組織の国営化に成功した』
本部長は椅子に座ったまま、こちらに背を向ける。
『今は私が公には組織のトップを務めているが、我々の真のボスは今でも変わらない。"あの方が"未だに姿を現さないのは、"あの方"がいれば世間の目も厳しくなり、組織の運営にも支障をきたしてしまうからだ。"あの方"は我々のため、敢えて今でも陰から指令を下しておられるのだ』
本部長が再びこちらを振り返る。
『"あの方"へは、私から報告しておこう。お前たち、次の人事発令を楽しみに待っておくがいい。相応のポストを用意させてもらおう』
本部長がそう言い残すと、モニターの通信が途絶える。
ありがとうございます!と男女は深々と頭を下げた。
ラルトスは、薄々であるが気付き始めていた。
この男女は何かの任務を達成し、上司からご褒美を授かろうとしている。その任務とは、恐らく逃げ出した私を捕まえることだったのであろう。
「きゅ、きゅぅ・・・」
再び組織に捕まったことを悟ったラルトスは、弱々しい声で鳴いた。
「おい」
男性の声がする。
ラルトスはゆっくりと顔を上げた。
「死にたくなかったら、大人しくしてろ。最も、勝手に死ぬことは許さんけどな」
「・・・」
ラルトスは黙っている。
男性に便乗するように、女性もまた口を開いた。
「あんたがさっきぶちまけたこの餌、経験値成分を全てカットした高級品なのわかってんの?愛玩用のポケモンを敢えて強くしないために、お金持ちが買うような餌なのよ。これだけでもあんた、相当な税金泥棒なのよ?ちょっとは組織に貢献する姿勢を持ちなさいよね」
「うーん、ウチで市販の餌から経験値成分を抽出出来たら、低コストでしかも副産物のふしぎなアメまで手に入って一石二鳥・・・いや、余った餌は商品化も出来るし一石三鳥やん。これ、結構アツい案件ちゃうか!?」
男性は一人で話を進め、勝手にテンションを上げてしまっている。
「馬鹿ね、そんな早く話が進むわけないじゃない。ウチは国営組織、いわゆる公務員。財源は基本的に国民の税金で、使える用途も額も限りがあるのよ。わかっているでしょ」
女性は呆れたような視線を男性に向けている。
「はー。ホンマ、公務員っちゅーのも辛いもんやなぁ。ま、その分福利厚生とかはしっかりしとるし、近年不景気とか少子高齢化とかでやいやい言われとる中安定した職に就けるだけでもありがたいもんやけど」
「そうよね。私も組織には感謝しないといけないわ。ジムリーダーになり損なって就職に困っていた私を、この組織は拾ってくれたんだもの。過去に何をやっていたとしても、私はこの組織に尽くすと決めたのよ」
「俺もなあ、インターン先で問題起こしてまともな研究者になれんかったところをスカウトされたんやし、もう一生ついていきます!って感じやでぇ」
男女はラルトスに背を向け、扉の方へと歩いて行く。
「ほな、またな。勇気あるラルトスのお嬢ちゃん。俺はコガネ支部の人間やからこのヤマブキ本部の地下倉庫には滅多に来られへんけど、また会った時はお手柔らかに頼むで」
「あ、ずるい。コイツの餌やり当番は本部の幹部で持ちまわることになりそうなのよ。ポケモン預かりシステムに入れたら一瞬で検挙されちゃうわ。面倒だからコガネで引き取ってよ」
「は?嫌やわ。カントーで起こした問題はカントーで処理するのが筋っちゅうもんやろ。ただでさえこっちは凶暴な色違いメガサーナイトの管理で忙しいっちゅうのに。ありゃホンマバケモンやで。一歩間違えたら労働災害どころじゃ済まへんで」
「・・・!!」
色違いのメガサーナイト。
ラルトスは本能的に、この言葉に聞き覚えがあった。
自らの細胞に刻まれた、まだ見ぬ母の遺伝子。
生まれたてのラルトスであれば、普通は使えないような大技も使うことを許してくれた特別な力。
フロアに伏せているラルトスは、ぐっと手に力を込める。
「あ、コイツの母親のサーナイト?そんなに大変なんだ」
「まあ、今は厳重な監視の下で植物状態やけどな。一般施設では流石に手に負えへんからもうこのまま処分されそうなノリなんやけど」
「らうっ!?(ママ!?)」
ショッキングな言葉に、思わずラルトスは声をあげ、二人にテレパシーを送ってしまった。
男女が振り返り、ラルトスへと視線を向ける。
「なんやコイツ。えらい反抗的な目ェしとんな」
男性がゴウカザルの入ったモンスターボールを構える。
今度は、ラルトスは怯まなかった。
「らあああっ!(ママを返してよう!)」
ラルトスの魂の叫びに、男女がぴくりと反応を見せる。
"テレポート"は失敗に終わったが、"サイコキネシス"なら使えるかもしれない。
今この二人に攻撃を仕掛ければ、上手く行けばゴウカザルも巻き添えに出来るかもしれない。
なんとか逃走手段を確保さえできれば、まだ未来への希望を紡ぐことができそうだ。
ラルトスは、勇敢な性格であった。
苦しむ母の姿を想像し、力に変える。ラルトスは全力で二人に向かって突進し、両手を高く掲げてフルパワーの念力を身体中から捻りだした。
「らうううう!らるうううううう!!ウ”!?」
ラルトスの体に、突如として電流が走る。
ラルトスは忘れていた。この場にもう一匹、倒さなければならない「敵」がいたことを。
ジバコイルの10万ボルト。
音もなくラルトスの背後をとったジバコイルから、強烈な電撃がラルトスを襲う。
「アギャアアアアアアアアア!!アアアア”ア”ア”!!アウアアアアア!!」
ジバコイルが放電を止めた時、ラルトスはぱたりとその場に倒れてしまった。
瀕死に近い状況で、なおかつ体が麻痺してしまっている。不整脈のように、時折ビクンと痙攣を起こしている。
ラルトスの灰色の肌がほのかに光る。自己再生だ。
諦めないラルトスは、気力だけで技を繰り出していた。
「ハァッ・・・ハァッ・・・」
体が痺れて動けない。でも、なんとか前へ進もうとする。
ほふく前進のように、ラルトスは小さくか弱い手だけで体を前へと進める。
数分かけて、ようやく数メートル進んだラルトス。ついに男女の足元へとたどり着いた。
どういうわけか背後のジバコイルは何も攻撃を仕掛けては来ないが、気にかけている余裕はない。
"サイコキネシス"。
念力を体に込め、再び両手を上げるラルトス。
強烈なエスパー技に、二人の悪い人間は吹っ飛ばされる。はずだった。
しかし、何も起こらない。
「らぁ!?らるうー!?(なんで?どうして?サイコキネシスも使えないよう!)」
わたわたと取り乱すラルトス。
そんなラルトスの頭を、男性が足で抑えつけた。
「ぴぎゃ!」
ギリギリと体重をかけられ、悲鳴をあげるラルトス。
かろうじて動く手だけをバタつかせていると、麻痺して動かない足にも強烈な痛みが走った。
「ギャン!」
女性が足で、ラルトスの足を踏みつけた。
二人の人間に踏み潰され、ラルトスは完全に身動きがとれなくなる。
「馬鹿ねー、ほんと。あんたの危険な技なんか、とっくに忘れさせたに決まってるでしょ」
小馬鹿にしたような女性の声が、男性に踏まれたラルトスの頭部へと届く。
ラルトスは悟った。"テレポート"も"サイコキネシス"も失った私に、もう出来ることなどない。
できるだけ二人を刺激しないようにしよう、と、ラルトスは暴れるのをやめた。
だが、今度は男性がラルトスの頬を掴み、力いっぱい引っ張った。
体を踏まれ、顔を引っ張られたラルトス。不定形な体が、あり得ないほど伸びてしまっている。
「ムギュア!ムギャアアアア!!アーアー!!」
泣き叫ぶラルトス。
ふいに、ラルトスの体を踏みつける力が抜ける。男女がそれぞれ、ラルトスから足を離したようだ。
それと同時に、ラルトスは空中へと放り投げられる。
綺麗な放物線を描き、宙を舞うラルトス。
惨たらしく痛めつけられ、息も絶え絶えの小さな体に向かって、炎を纏った拳が一直線に突き刺さる。
「パギャ!」
ゴウカザルの炎のパンチ。
灼熱の拳を食らったラルトスは、反対側の壁に勢いよく叩き付けられる。
凄まじい勢いで跳ね返ったラルトスは、ぐったりとフロアに倒れてしまった。
ラルトスの灰色の肌が、ほのかに光る。小さな命を絶やすまいと、本能が"自己再生"を発動させる。
男女がそれぞれ、手持ちのポケモンをボールへと戻した。
ラルトスを襲う暴力は、どうやら一時的に治まったらしい。
「わかった?私たちに歯向かうとこうなるのよ」
女が冷たく言い放つ。
「気の毒やけど、先に仕掛けたのはそっちなんやで。大人しく研究所で飼われてたらよかったものを・・・」
呆れたような男性の声が聞こえる。
「ほんとにね。あんたが誰かに見つかって、マスコミにでも食い付かれたら、組織は一貫の終わり。1000人規模の大組織の従業員が、下手をすれば皆路頭に迷ってしまうところだったのよ。悪く思わないでよね」
「いやー、この歳で無職、しかも再就職厳しいとかやってられんわ。ほな、お仕置きもこの辺にして行こか。そろそろ昼メシの時間や。ヤマブキの美味しい店教えてや」
「おっけー。じゃあ、出るわよ。せーので例の合言葉だからね」
「は?なんや、入る時は身分証で認証やったのに、出る時は違うんか」
「うん、この倉庫も即席でこしらえたものだから、昔ジョウトで使ってた認証システムを一時的に流用しているのよ」
「ジョウトで使ってた・・・ああ、チョウジやったかなぁ。うわーなつかし」
「あの時、私たち何歳だっけ。あの子供よりもちょっと年下ぐらいだったかしら?」
「そんなもんやな。あの頃は伝説の子供に感化されて、正義の味方に憧れた子供が多かったなぁ」
「皮肉よね。昔の私たちが、今の私たちを見たらどう思うかしら」
「なんで悪の組織に就職しとんねん!って悲しみそうやな」
「でしょうね。世の中、何が起こるかわからないものよね」
「ホンマやで。でも、俺はここに入ったことは後悔しとらんで」
「奇遇ね、私もよ。じゃ、合言葉を合わせるわよ。せーの」
"サカキさま バンザイ"
灰色のラルトス 完
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以上で完結となります。ありがとうございました。
今更ながら、昔流行った(?)ラルトス虐待モノです。凄く好きでした。
ラルトス好きな方、申し訳ございませんでした。私もラルトスは好きです。信じてください。
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