二次創作小説(新・総合)

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ご都合血鬼術 ~水・恋の入れ替わり~ 3(最後)
日時: 2022/07/08 23:17
名前: ハル (ID: EDXcI6jL)

「ああ~、美味しかったわね、伊黒さん」
「ああ、そうだな」
伊黒と甘露寺は昼食を終え、店から出たところだった。その時、甘露寺は地面に転がっていた少し大きめの石で足をくじいてしまった。
「きゃっ!!」
「…!!甘露寺っ…」
甘露寺はバランスを崩し、右側によろけた。たまたま右側を歩いていた伊黒は、倒れてくる体を受け止めようとした。

「……ごちそうさまでした」
冨岡は、とうとう100本全ての団子を食べ終えた。それでも満腹感は少なかった。
「あー、美味しかったですね、甘露寺さん。……あれ、顔に何かついてますよ」
炭治郎が冨岡の顔を見ながら言った。冨岡は食べるのが下手だ。食後の彼の顔にはいつもご飯粒が付いている。
「…あっ、本当だ…」
「ああ、待ってください。俺が取りますから」
そう言って炭治郎は立って顔を近づけ、口元に手を伸ばした。

瞬きをした。いつも何気なくやっている瞬きだ。今、自分の目の前には炭治郎がいた。ところが、瞬きをした瞬間……目を閉じて開けたあの一瞬で、冨岡は別の景色を見た。まず、自分の体が傾いているのが分かった。そして何も考える暇もなく、次の瞬間には、冨岡の体は伊黒の腕の中におさまっていた。ここまでの時間、約1秒。
(…何故俺の体は伊黒に吸い込まれていったんだ。何故抱かれている…)
冨岡は、あまりの突然の出来事に頭が追いつかなかったが、徐々に整理できてきた。血鬼術が解けて、体が元通りになったこと。少し足が痛むことから、おそらく自分はこけそうになっていたんだということ。そして、そこを伊黒が助けてくれたこと。
「…甘露寺、大丈夫か!?怪我はないか?痛そうなら無理に歩かなくてもいいからな。俺が家まで送っていこう…」
そこまで言って顔を見たとき、伊黒は驚いた。さっきまで表情豊かだったのが、まるで表情を忘れたかのように無表情になっていた。
「…!?えっ、か、かか、甘露寺?…ど、ど、どうしたん…だ…?」
伊黒はパニックになった。
(…まずいまずいまずい!!何か気に障るようなことをしてしまったか?もしかして、抱いてしまったからか?…いや、でもこれは仕方のないことだ。だいたい、いつもの甘露寺ならむしろ顔を赤くして感謝を伝えてくれるだろう。だったら……いや、待てよ…。この顔、この雰囲気……、どこかで感じたことあるぞ。いや、何回も感じている。周りに一切興味が無そうな、いつ見ても腹の立つこの感じは…)
「……貴様、冨岡!!!」
「……伊黒、状況を確認させてくれ」
「ふざけんなっ!!!」
そう言って、伊黒は冨岡を蹴とばした。そして、冨岡を置いて歩き去ろうとした。
「待ってくれ。助けてくれたんだろう、感謝する」
「フンッ、誰が貴様なんかを助けるものか。飢えていようが燃えていようが俺は放っておく」
冨岡は、目も合わせずに言い去ろうとする伊黒を追いかけた。
「おい、何故ついてくる。貴様の家は反対方向だろう」
「……家まで送ってくれるんじゃなかったのか」
「~っ!!!」
まさかの回答に、怒りが頂点を通り越してめまいがした。そして、全集中の呼吸で爆速で家に帰った。歩けるとはいえ足がくじいた状態の冨岡には、伊黒を追いかけることなど不可能だった。

甘露寺も同じく瞬きをした。パッと目を開けると、目の前に炭治郎の顔があり、彼の手は甘露寺の口元にあった。
「きっ、きゃ~~~~!!!!!」
「えっ、か、甘露寺さん!?」
甘露寺はあまりの驚きで、転げるように退いた。
「何これ、何これ、どうなってるの!?…ってあれ、元に戻ってる…。ああ、よかったあ~~」
「……」
突然の甘露寺の意味の分からない行動に、炭治郎は言葉も出なかった。
「……えーっと、甘露寺さん?」
「あっ、炭治郎くん!!あのさ、えっと、その、……どういう状況なの?」
(それはこっちが聞きたいです。)
そう思いながらも、炭治郎はこれからやろうとしていた事を話した。
「あ、いや、その、口元に付いているものを取ろうと思いまして…」
「…口元?」
何の事かと思いながら鏡を見てみると、そこには、口周りに食べカスをたくさん付けただらしない自分の姿があった。
「いやっ、な、何よこれ!?ヤダ、恥ずかしいわ~」
(だから、それを取ろうと思っていたのにな…)
甘露寺はせっせと口周りをふいた。
「……あの、甘露寺さん…」
甘露寺が振り返ると、いまだ何が起こっているのかさっぱり分かっていない炭治郎が、困ったような顔で立っていた。
「ああ、炭治郎君。ごめんね、急に変なこと言っちゃって。なんかね、ボーっとしちゃってたわ」
甘露寺はいつもの明るい声でそう言った。炭治郎は甘露寺の行動を謎に思っていたが、いつも通りに戻ったみたいなので、もうあまり深く考えないようにした。

その晩、甘露寺は夕食をいつもの倍以上食べた。
(冨岡さん、あまり食べてなかったみたいね。お腹すいてなかったのかしら……)
それに対して、冨岡は夕食どころではなかった。
「しのぶ様、水柱様が…」
アオイに呼ばれて部屋を出ると、廊下で冨岡がうずくまっていた。
「……!?冨岡さん、大丈夫ですか?」
冨岡の顔は見るまでもなく真っ青だった。冨岡は胡蝶の肩を借り、何とかベッドまでたどり着くことができた。
「……これは、食べすぎですね」
「やはり…そうか……うっ……」
胡蝶は苦しそうにしている冨岡のために、水や桶を持ってきた。
「こ、胡蝶……、このこと、甘露寺には……言わないでくれ……」
「……分かりました。冨岡さんは優しいですね」
(それよりも、なんだか表情が動きやすくなっているのは気のせいか……)
そんな冨岡が次にお腹を空かしたのは、それから二日後のことだった。

この翌日、炭治郎が、冨岡と甘露寺から話を聞いた伊黒に意味も分からず襲われるというのは、また別のお話……。                               (終)


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