二次創作小説(新・総合)
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- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】
- 日時: 2023/04/19 18:11
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
「みんな知ってる? 無数の世界線があるという説で那由他の大量の世界には違う自分がいーっぱいいるらしいよ」(保登心愛)
!!WARNING!!
こちらは、『逃走中 オリジナルストーリー』及び『ご注文はうさぎですか?』の二次創作クロスオーバー小説です。
両作品(逃走中OSは1,2,7巻)及び拙作『逃走中 ~あつまれ1年生!~』の強いネタバレ、さらにそれに基づく独自設定を多分に含みますのでご注意ください。
また、先に『ご注文はうさぎですか?』第9巻収録エピソード『CLOCKWORK RABBIT』をお読み頂くとよりお楽しみ頂けるかもしれません。
準備はよろしいでしょうか?
それでは、オレンジペコの1周年記念小説、お楽しみいただければ幸いです。
令和5年4月19日 オレンジペコ
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.1 )
- 日時: 2023/04/19 18:14
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
「う、うそ!」
背後のハンターに気づき、慌てて駆け出す。
逃げる。
逃げる。
「こ、こないでよ、バカッ! だ、だれか! だれか助けなさいよバカーッ!」
叫ぶ。
でも、本当は分かってる。
いくら叫んだところで、ここでは誰も自分を助けてなどくれないと。
それを示すように、ハンターの手が工藤結愛の肩にかかった。
「……っ!」
まだ、ゲームが始まって3分と経っていないのに。
ミッションに挑むことも、それどころか誰かと話すことすらしていないのに。
「こんなの、だから、ハンターなんかに見つかったら、逃げ切れるわけないじゃない……」
恐怖、悔しさ、寂しさ、無力感。そのすべてが入り混じった涙が、結愛の大きな瞳からこぼれ落ちた時。
――ぴちゃ。
「なに……?」
結愛の頬に何処からともなくお湯が降りかかる。
と同時に、巨大な木桶が結愛目掛けて落ちてくる。
【逃走中】お馴染み、確保者への罰ゲーム演出だ。
「ち、ちょっと、なによ、なんなのよもう……! いやぁぁぁっ!!」
渋谷の時はハンターの影に吸い込まれ。
中華街では巨大な肉まんに飲み込まれ。
かつての恐怖を脳裏に呼び起こしてしまった結愛は、既に半狂乱に陥っていた。
「やだ、やめて、怖い、だれか――」
結愛の姿が悲鳴ごと木桶にかき消され。
『仮想・草津温泉』を舞台とした、結愛にとって3度目となる【逃走中】は、あっさりとその幕を閉じたのだった。
★★
「……ゅあ、起きて、ねえ結愛」
誰かに体を揺すられる感覚で、あたしは意識を取り戻した。
【逃走中】が終わり、元の世界に帰されたのだろうか。
そういえば今はパパとママと温泉旅行の途中だった。
折角の温泉旅行に、よくも水を差してくれたな。
何が「初回参加者との比較対象」だ。そもそも浴衣姿のまま転送するなんて、初めから月村はあたし1人だけにとんでもなく不利な条件を押し付けているではないか。
止め処なく溢れる呪いの念をどうにか押し殺し、顔を上げると。
「おはよう、結愛。もう放課後だよ?」
渋谷での【逃走中】以来、一言も口をきいていない幼馴染が、笑顔で立っていた。
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.2 )
- 日時: 2023/04/19 18:16
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
「……は?」
城之内かなえ。
地味で、暗くて、クラスのはじっこで本ばかり読んでいる幼馴染。
幼稚園の頃は一緒に遊んだりもしたが、小学校に上がったくらいからは、可愛いもの好きで男の子を従えることに夢中になっていったあたしとはすっかり疎遠になった幼馴染。
2人で出場させられた渋谷での【逃走中】で、決定的に仲違いをしてしまった幼馴染。
そんな彼女が、見たこともないような爽やかな笑顔であたしの前に立っている。
「なんで、かなえが……待って、ここどこ!?」
おかしいのはそれだけではなかった。
あたしは温泉旅行に来ていたはずなのに、目を覚ました場所はどう見ても学校の教室。それも、あたしのいる小学校とは比較にならない程にピカピカで、窓から見える景色もまるで違う。
「何、ここ……まるで外国みたい」
路面には石畳が敷き詰められ、建築物は木組みのものばかり。どう贔屓目に見たって日本の街並みじゃない。
「どうしたの結愛? 早く帰ろ? 今日はラビットハウスでパン祭りやってるからダッシュで帰ろうって言ってたの結愛じゃん」
おまけに目の前ではキャラが違う幼馴染が訳の分からない事を口走っている。
「……ちょっと待ちなさい。ねえかなえ、ここ一体どこ?」
「? どこって……学校の教室だよ? あ、ひょっとして結愛まだ寝ぼけてる? じゃあ……ぴとっ!」
「ひっ!?」
よく冷えた水筒を首筋に押し当てられ、思わず飛び上がる。どうやら夢、というわけでは無さそうだ。
ならば【逃走中】? いや、だったら現実世界の人間が転送されてくるわけだから、こんなアグレッシブなかなえがいるはずがない。ふとあたりを見回し、いつも一緒に【逃走中】に参加させられてる3人の6年生の先輩の姿を探すがそちらも見当たらない。となればこの線もナシだ。
「何なの、これ……」
「ほら結愛行こ! 早くしないとココアさんのパン無くなっちゃうよ!」
「だ、誰よココアさんって!?」
訳も分からぬまま、あたしはかなえに呼ばれるままに、教室を後にしたのだった。
★★
「……でね、そしたらシャロさんが出てきてあの人込みの中から卵2パック取ってきてくれたんだ! 結愛も来ればよかったのに~」
かなえの話を上の空で聞きながら、あたりの様子に目を向ける。
川にはボートが行き交っているし、それに何故だかそこかしこで野生のうさぎを見かける。
やはりここは日本ではない。でも街の人たちは……
「じゃあもう1回練習するよ! まず部屋に入ってきたところから……」
「トントン。失礼しま~す」
「ダメ! 語尾伸ばしすぎ! あとノックは3回!」
「むー、ナツメちゃんスパルタ~」
「エルがのんびりしすぎなんだって! はいもう1回!」
明らかに日本語を話している。観光客、というわけでもなさそうだし、この街の公用語は日本語で間違いないのだろう。
ならここは一体どこ? まさか異世界? それとも……
「ねえ、結愛聞いてる?」
「! え、ええ聞いてるわ」
「……なんか今日結愛ヘンだよ? もしかして体調悪い? あ、それかもしかしておトイレ我慢してる?」
「だ、誰がよ! あんたじゃあるまいし!」
「ご、ごごごめん! でも結愛、辛かったら無理しないでいいからね?」
「……ええ……」
かなえのことも気がかりだ。例の渋谷での一件を考えると、もともと引っ込み思案で自己主張ができない彼女が、その事を綺麗さっぱり忘れて今こうしてあたしに友達ムーブをかましてくるなんて図太いことができるとは思えない。
「あ! おーい結愛、かなえー!」
「2人もラビハに行く途中ー?」
背後から声がかかる。知らない女の人の声だ。
「あ、マヤさんメグさん! あの、なんか、結愛がちょっと体調悪いみたいで……」
「え! 結愛大丈夫なの!?」
「と、とりあえず近いしこのままラビハに行こう! チノちゃんに言えばお部屋とかに寝かせてくれると思う!」
女の人2人……自分たちより若干年上だろうか。かなえの知り合い……? いや、かなえにそんな知り合いがいるなんて話は聞いたことがない。それに、2人ともまるであたしとも顔見知りのようなことを言っている。
「じゃあおんぶしようおんぶ! 私背負うからマヤちゃん荷物持ってあげて!」
「オッケー! あ、そしたらかなえ結愛の尻後ろから上げてあげて? そしたらメグ持ちやすいから」
「は、はい! ちょっと結愛ごめんね、よいしょっ……メグさん大丈夫ですか?」
「大丈夫……っと! よし、じゃあラビットハウスまで急行だー!」
あれよあれよという間に、「メグ」と呼ばれた赤髪の女の人……童顔だが発育的に恐らく年上なのだろう、に背負われ、ラビットハウスなる場所に運ばれていく。
その多すぎる情報量におんぶというシチュエーションも重なり、彼女の背中であたしの意識は再び薄れていった。
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.3 )
- 日時: 2023/04/19 18:18
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
次に目を覚ましたのは、ボトルシップが並ぶ小さな部屋だった。
「……ここは……」
どうやら自分はベッドに寝かされているらしい。ここがさっきかなえが言っていた「ラビットハウス」とやらだろうか。
「あ、結愛ちゃんおはよう。もう大丈夫?」
ベッドの脇に座っていた赤髪ツインテールの女の人が話しかけてくる。
「えっと……」
さっきまでの記憶を総動員し、どうにか彼女の名前を思い出そうとする。確か……
「……メグ、さん……でしたっけ……?」
「!?」
女の人の表情が強張る。間違えた……?
「え、もしかして違いました……?」
「ど、どどどどうしちゃったの結愛ちゃん!? いつも『メグお姉ちゃん』って呼んでくれてたのに!?」
「お、お姉ちゃん!?」
この人は一体何を言っているのだろう。
そもそもあたしにお姉ちゃんなどいないし、そうでなくてもこのあたしが誰かの妹分になるなんて、そんなはずはない。
あたしは常にほかのだれより可愛くて、一番男の子にモテる存在。年上だからといって、こんなどんくさそうな女の人を「お姉ちゃん」と呼ぶだなんて、そんなのあたしのプライドが許すはずがないのだ。
「あ、結愛起きた!」
「メグさん、結愛大丈夫そうですか?」
とそこに、かなえとさっきの青髪の女の人……マヤさんだったか、が入ってきた。
「う~ん、それが結愛ちゃんなんだか様子がおかしくて……私のこと『メグさん』って呼ぶし」
「ええ!? あの結愛がメグにさん付け!?」
マヤさんが仰天する。どうやら彼女にとっても、あたしがメグさんをお姉ちゃん呼びしないのは相当驚くべきことらしい。
「うん……ねえ結愛ちゃん、もしかして何か嫌なことあった?」
「え、いや、嫌なことも何も……」
「遠慮なく言って! もし私達が原因なら全力で謝るから!」
2人がどんどんあたしに詰め寄ってくる。
近い。
あたしが男の子の気を引く時でもなかなかやらない程の近さだ。
「だ、大丈夫だと思います……結愛、本気で嫌いになったら口もきいてくれないから……」
かなえが口を挟む。……確かにそうだ。事実、かなえとは渋谷での【逃走中】以来会話をしていない。
あたしが湊くんと逃げ切った時の話をしている横で1人でぶつぶつ文句ばっかり言った挙句、大声をあげてハンターを呼び寄せ、あたし達をピンチに陥れた。
当の本人はその後あっさり確保されたものの、あの時のかなえの行動がその後の湊くんやあたしの確保に繋がってしまったのは間違いない。小学校に上がったくらいからの気持ちの乖離もあって、今では彼女とは絶縁状態だ。……そのはずだ。
「あ、まあ確かにそっか! 私たちと初めて会った時とか、結愛ったらかなえ相手に1時間近く黙ってたもんね」
「はい……あの時お2人が仲直りに協力してくれてなかったら、私今でも結愛と話せないままだったと思います……」
「ちょっとマヤちゃん、かなえちゃんに辛いこと思い出させちゃめっ! ……ごめんね結愛ちゃん、ゆっくりで大丈夫だから、嫌なことあったらお話してね? 私達はいつでも結愛ちゃんの味方だよ?」
近づいてきたメグさんが、とうとうにこやかな笑顔であたしの両手を自分の手で包んできた。
……あったかい。思わせぶりで男の子と手を繋いであげたことはあっても、誰かからこんなふうに手を握ってもらったのは久しぶりだ。……味方。どうしてだろう、何故だか、その言葉が脳裏に焼き付いて離れない。
「……ごめんなさい、あたし、ちょっとトイレ……っ!」
その感覚に耐えられず、あたしは部屋を飛び出した。
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