二次創作小説(新・総合)
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- ざくアクZ外伝 ヅッチー神話(完結)
- 日時: 2023/06/17 23:11
- 名前: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (ID: VOI/GMTL)
【これは、人知れず国を救い、王を超えて神話になる妖精の物語】
【注意】
初期の名残でクロス要素があります
一応『ざくアクZ』シリーズの作品です
【はじめからあとがき】
今回、非常に話が迷走しました。
最初はMMオールスターに向けてカグラギを筆頭に色んなキャラを出して戦わせる予定でしたが
それだとオールスターと内容被るので直後に路線変更した結果こうなりました。
- Re: ざくアクZ外伝 ヅッチー神話 ( No.1 )
- 日時: 2023/06/17 22:51
- 名前: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (ID: VOI/GMTL)
時空の全てを歩き、全てを繋ぎ
稲妻のように過ぎ去って 梅雨明けのように晴れやかに平穏が訪れる
小さな小さな紫電の女王
その名はヅッチー。
これは後に神話のように語り継がれる女王戦記である。
――――――
『……』
そこは薄暗い洞窟であった。
その奥深くには光が差し込む空洞がある。
そこにいるのは巨大なドラゴンだ。
少し前からそこに鎮座し、表の場に降り立っては暴れまわっている。
今もそうだ。
「やべッ やべぇぞっ!帝都に向かってる」
「すぐに召喚士協会に連絡を入れろ!」
ドラゴンが翼を広げ、街へと向かっていく。
そのスピードは飛行機にも遠く及ばない。
このままでは帝都まで1時間もかからないだろう。
だが、
「ぬぅオオオオ!!!」
突如、ドラゴンの頭部を斜め上から横切るように何かが激突しそのまま地面へと叩き落とされる。
ドラゴンが止まったのを確認すると横切ったものは再びとんでもない速さで空へと消えていった。
「今のは……?」
「流星か?」
「いや、虫みたいに小さく見えたが……」
「…………」
「クロダさん!」
「はっ、お呼びですか」
「今龍を横切ったものを捕捉するのです!あの先に、龍以上の物があると見ます!」
「はっ、おまかせを……」
「カグラギ殿!」
この男、カグラギ・ディボウスキ。
自らの手で国を掴み、王殿となり『農業国』トウフを自らの手腕と口で発展させてきた1人の王。
今回、彼は偶然にも異世界に下見をしていただけなのだが……
「おお!」
街を出て、森を抜け、奥へ進む。
気がつくと日は暮れて月が上り。
今宵彼は、この世界の『王国』を見る。
「蝶が……蝶が月と舞っている!」
妖精の……王国を。
後にカグラギ・ディボウスキは語る。
普段二枚舌で、彼を知る他国の王はあまりにも現実味が無さすぎて耳を傾けることも無かった言葉だ。
「豊かな森の深部には……花の妖精が独自の文化を築き上げ、王国を作っていた!」
それは、ただの夢物語だと言われていた、だがカグラギは…
使えると思った。
――――――
森の中を駆け抜ける。
夜中だというのに、木々はざわめき、鳥たちは逃げ惑う。
あれからひと月、カグラギは大勢の人間を連れて森の奥へと入ったのだ。
トウフの優秀な国民を招き、正式に国同士として話を付けて、あわよくば互いに利益のある関係を築こうとしていた。
「お待ちしていました、カグラギ・ディボウスキ王殿」
「!」
「農業国トウフ……交易交渉、我々妖精王国も辺境の何も知らぬ国ではない故、そちらの噂や情報も耳に入れています」
「貴方が、この国を率いている王ですかな?」
「いえ、私はあくまで参謀……ヅッチー、この国の王は、多忙ですので」
「こういった交渉・示談は任せてもいいとお墨付きを頂いています」
トウフ国を待っていたのは……今までとは一線を画す風貌の青い妖精。
その妖精は他の子供のような風貌の物と違い、異様なことに大人の見た目。
雰囲気は氷のように冷たく、しかし何処か暖かさを感じる不思議な存在だった。
「私はヅッチー様の側近……プリシラ、以後お見知りおきを」
「…………ほう、これはまた異様……」
「……?」
「いや、失礼しました。此度はこのような場を設けていただき誠に感謝します」
……
「この国の王はどちらに?」
「妖精王国は…私の経営とヅッチーの交易によって広がりました」
「ヅッチーは自ら馬車を走らせ、世界を回り、その土地でしか取れない作物や鉱物などを見つけ、貿易をしてきました」
「その結果、多くの国や町と交流を持ち、妖精王国は発展を遂げたのです」
「なるほど……それもあり、今回のトウフとのの交易も了諾したと、誠にありがたい話ではあります」
「いえ、こちらとしても異世界の王国と何かしらの縁が出来るのであれば」
この世界において、カグラギがやってきたことは、この世界の文明レベルでは到底考えられないことだ。
それはつまり、この世界でカグラギが得たものは計り知れない価値を持つことになる。
それがもし、この世界でも有効ならば……
「それで、トウフ国からは何を出せるのですか?」
「よくぞ聞いてくれましたとも!」
「トウフの民が腕によりをかけて築き上げた野菜、果実、そして麦!」
「無論!織物から魚類まで全てが産地直送!どの国にもどの世界にも引けを取らない一級品でございます!」
「ふむ………私としては、どの世界にも引けを取らないと言ってくれる方が助かりますけど、ブランドは引き付けやすいですからね」
「おや?」
「ヅッチーが交易、言わば物々交換で国を広げるとするなら、私は商売で国を広げる」
「ただ国で得るのではなく、ヅッチーが回収した交易品や輸入品を商会を展開しあちこちに行き渡るように采配する、それが妖精王国参謀としての仕事です」
この世界には魔法がある。
魔力を込めればどんなものでも作れるし、それを燃料にして動く車もある。
だが、そのどれもが多数の世界には無かったものばかりだ。
例えば、ガソリンの代わりになる魔石や、電気を生み出す発電機、水道水を作る浄水器、ガスや灯油の代替となる魔導エンジン。
この世界でプリシラはそれらの物の購入権利を1部買取り、時空のあちこちに輸出と輸入を繰り返している。
「こちらからは輸出品として加工品の農具や季節外れでも栽培出来た野菜を送れます、更にトウフ国の野菜が売れた時には最大四割の金銭をそちらに」
「……………」
「いやぁ!商売上手な国にはとてもかないませんな!」
この異世界にはカグラギの世界にはないものがある。
それはカグラギにとって喉から手が出るほどのものだった。
それを今、この手で掴もうとしている。
「では、妖精王国の方にも何か利益が欲しいところですね……」
「えぇ!もちろん!何でも言ってください!」
「なんでも……と言いましたか?」
「はい!私共に出来ることであれば何なりと!」
「そうですか……じゃあ……」
……
「雷神トゥルギウス……とな?」
「はい」
「ヅッチーが言うには……同じ稲妻の力を宿していることから本能のように感じたというのです」
「雷神がこの地に降り立ち、この妖精王国を殲滅する……と」
「ほぉ……」
「まぁ、私も信じられない話ではありましたが、ヅッチーは嘘をつくような子ではありませんし」
「実際に雷神が被害を巻き起こした事例は?」
「………」
「おもそ四件、いずれも雷神の起こしたと思われる落雷の被害が」
「この辺り一帯を焼き尽くしたと聞きました」
「それは……確かに見過ごせない事態でしょう、ヅッチー殿のあの様子も伺える」
「というのも!私共が初めて見たこの国の王の姿は……街を襲う龍を沈めた時が最初だったもので」
カグラギは語る、ドラゴンが街に来たかと思えば頭上に流星の如く落ちてきた巨大な光。
その一撃は一瞬にして竜の鱗を貫き、肉を切り、骨を断ったという。
この妖精王国に住まう妖精達は、今は皆自ら国を作り、広げたヅッチーの事を尊敬している。
「この間は大蛇を、その前は3つ首の犬を」
「ふむ……なるほど、事情は分かりました」
「私共もある事情故、神の怒りは見過ごせませんな、ヅッチー殿のお力となりましょう!」
「カグラギ殿……」
「何、殺し合いや戦争をするわけではありません、ちょっとした鍛錬でありますとも」
「では、こちらに」
「はっ」
「プリシラさん、お願いします」
プリシラの案内で、二人は城の地下へと続く階段を降りる。
その先は真っ暗で何も見えない、プリシラは懐から出した蝋燭に火を灯す。
「此処に」
「おぉ……」
「……最近国に帰ってきてからは、ずっとここに」
地下にある開けた空間、そこにあったのは無数の剣と槍、斧、弓に鎧と様々な武具が並んでいる。
壁には木刀や竹刀など、訓練用の武器も揃えられている。
そこは、この妖精王国の兵士の訓練場であった。
妖精達の中でも精鋭の兵士達が日々鍛え上げている場所だった。
その奥に居るのが……
「ヅッチー……」
紫色の髪……他の妖精たちと風貌は似ているが、覇気が違う。
あれこそ妖精の王、ヅッチー。
「プリシラ、その男はなんだ?」
「これはこれはお初にめにかかる!私はこの度妖精王国と交易関係並びに行く行くは一生の同盟関係まで結ぶ為降り立った、トウフ国の王殿カグラギ・ディボウスキでありまして……」
「……まあ、いいよ、別世界だのなんだのには色々あって慣れてる」
「ここに来た理由は?」
「お付き合いしますとも、貴方の鍛錬、悪しき雷神トゥルギウスへの打倒」
「このカグラギ・ディボウスキ、存分に貴方と戦いましょうとも」
「…………」
「好きな武器を取れ、初対面の王を黒焦げにする趣味は無い」
ヅッチーが指差したのは、壁にかけられていた一本の大剣。
柄や刃には細かな装飾が施され、一目で業物だと分かる代物。
カグラギはそれを持ち上げる、見た目より遥かに軽い。
カグラギはその大剣を両手で構え、ヅッチーに向けて突き出した。
「なるほど、ひと握りで分かります、この国には腕利きの鍛冶職人が居るようですな」
「当然だ、国としては野菜しか出してないが、鉄製品においても遅れをとるつもりははい」
「ですが……このお気遣いは無用、誠意を込めて、この剣を使わせていただきます!」
そう言ってカグラギは腰に差していた剣を抜き……
『Hatch it!』
「これは……」
「いきますぞ、ヅッチー殿……」
「王鎧武装!!」
『You are the KING, You are the You are the KING!』
『ハチオージャー!!』
カグラギは剣を鞘に収めると、胸の前で手を組み、詠唱を始める。
すると、カグラギの体が輝きだし、その光が収まると……
そこには黒の甲冑に身を包んだカグラギの姿があった。
全身を覆う甲冑、手に持つのは巨大な盾。
その大きさはカグラギの顔よりも大きい。
そして何より目立つのは、狩りを行う蜂の如き威容。
「では参りますぞ、ヅッチー殿!」
「ああ……そうこなくちゃな」
「そうでなくちゃ雷神以上は超えられない」
………
プリシラは地下の扉を閉め、上へ上がると二人の戦いを見守る。
二人の戦いは壮絶を極めた。
カグラギが巨大な盾を正面から叩きつければ、ヅッチーは拳で受け止め、蹴りを放つ。
ヅッチーが雷を纏った一撃を放てば、カグラギは受け流し、反撃の隙を与える。
邪魔をしては悪い、というより邪魔出来ない。
「……………」
「今日も合戦ですか、あの子は」
「かなちゃん……」
釣れない顔のプリシラの前に現れたのは……ほぼ、この国から生まれ、この国の武器を全て担っている妖精の神『かなづち大明神』だった。
「あれから……なのかい?」
「ええ」
「ヅッチーは久々に妖精王国に帰ってきたかと思えば、ああして修行や戦いの繰り返し……」
「国に顔を出したかと思えば、勢力や発展の為に無茶もするようになって……」
「私も貴方から聞いて帰国した時は流石に驚きましたよ」
「………芯がある子とは思ってましたが、あそこまで修羅の顔をするような王では無かったはず」
「ヅッチー……どうしてそんなに………」
「……きっと、昔の事で貴方や妖精王国に引け目がまだ残っていたのでしょう」
「自分が、過去に自分の国を蔑ろにしたから貴方がそんな風になった時のように……」
「そんな昔のことを……」
「無論これだけでは無いだろうね」
「妖精戦争、第二次ハグレ戦争、魔王タワー、ヘルプエンド、魔神戦、魔導界戦争、リュージン達との戦い、異神カーレッジの侵略、そして破壊生物」
「色々あり、あの国でなんとか問題を解決して来た今、くすぶっていた彼女の1つの思いが雷神の予知によって爆発したのでしょう」
「自分が、この身でこの国を守らなくてはならないと」
「……でも、今の彼女を見てると、まるで別人みたいに……」
「だからなのですよ」
「……?」
「今の彼女は、この国を守る為に、妖精王国の為だけに戦う戦士となったのです」
「それが、彼女が妖精王国の王として生きる事を決めた道」
「………」
「分かってますよ、貴方が見てきた、貴方が追ってきたヅッチーの背中はそんなものじゃない」
「私達に出来ることはヅッチーを止めることじゃない」
「ヅッチーを後戻り出来ない方まで変えさせないことですよ」
これは、戦いの末に心が磨り減りそうな稲妻の妖精と、それを支える国民達の時空を超えた物語。
- Re: ざくアクZ外伝 ヅッチー神話 ( No.2 )
- 日時: 2023/06/17 23:00
- 名前: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (ID: VOI/GMTL)
「プリシラ、貴方はどう思いますか?」
「どう思うって、何が?」
「最近のヅッチーの傾向……雷神トゥルギウスとやらがどんな力を持っているのかは我々には想像だに出来ませんが、その存在に対抗すべく……とにかく時空から異世界人を招いて、それにぶつかり稽古している」
「これを見てください」
大明神は、袋詰めにされた剣、槍、斧などの武器類を机の上に置いた。
「この武器類は、全てヅッチーが私に作るように命じたものです」
「ハグレ王国と出会ってから初めての私への国王命令でした」
「……このままじゃヅッチーは」
「ええ」
「これまで以上に取り返しのつかない所まで行ってしまう」
そして、そんな妖精王国の心配が的中するかのように、事態は急速に悪化していった。
「…………」
ヅッチーの玉座には非常に分厚い辞書が置いてあった。
「アクトジン、アザカ・トンネッレ、ハイキリ、タケミカヅチ、ホラガルレス、スサノオ、トラロック、ソヴィオソ……」
「あいつの持ってる辞書、1つの世界にすらこれだけの雷神が伝わっているのか」
妖精王国との謁見後、ヅッチーは再び目的の為ハグレ王国へ戻ってきていた。
そして今 ハグレ王国から借りたある世界の雷神の本を読んでいる最中だった。
しかしそれは、ただ読むだけでは済まなかった。
なんと、雷神達の力を借りて、その力を試すという試みが行われていたのだ。
八百万の神とは言うが、雷神に分類される物だけでもその規模は膨大である。
しかも、それをヅッチーはたった一人で相手にするという無謀な事をしようとしていた。
「うおおお!!」
ヅッチーは手始めに自分の持つ武器の中から長柄の棒を選んだ。
そして、それを振るい、まるでダンスでも踊るように軽やかな動きを見せる。
「……ッ!」
すると、突如として激しい雷撃が棒から放たれ、避雷針のように伝わりヅッチーの中に入っていく。
「まだ足りない」
「雷のエネルギーをどれだけ溜め込んでも、貴方では変換出来ませんよ」
「………」
「大明神」
かなづち大明神が棒を取り上げて、ヅッチーの傍に座る。
「今日は外に出るなって言っただろ」
「そうは言われましても、1度追放された身とはいえこの国の守護神でもありますので」
「追放……か、もうだいぶ昔とはいえ今でも鮮明に思い出すよ、プリシラと国が私を討ち滅ぼしに来たあの日を」
「この際だから直球で言います、今の貴方はあの時よりも深刻な状況ですよ」
「……かもな、ローズマリーでもそんな事を言いそうだ」
「雷神トゥルギウス……貴方がそれくらいする程ですから規模は私達の計り知れない物ではないでしょう、しかし貴方の相棒達と組めば出来ないことなど……」
「ダメだ」
「確かに相棒は強い、ハグレ王国は強い」
「でもいつまでも頼る訳にはいかない、あの国に気遣ってるわけじゃない、王としての私の意地だ」
「………それも悪く言えば、ただの私の我儘なのは理解している」
ヅッチーはふぅと息を吐いて、玉座に深く腰掛けた。
まるで疲れ切った老人のような様子だ。
だが、ヅッチーはそれでも諦めようとしない。
いや、既に心の中で答えが出ているのだ。
だからこそ、彼女はここへ帰ってきた
この妖精王国へ。
「かなちゃん、プリシラ、そしてこのヅッチー」
「もうハグレ王国にも滞在して長かったからこそ分かる、あの国の強さ」
「相棒はどこまでも『人脈』が強かった、時空に進出する前から数多の種族と結んでいるし、沢山の街や集落とも縁がある、ウチだってそうだ」
「……この国は違う、プリシラが派閥を利かせて色々手を回してくれているがそれはあくまで商売上の繋がりでしかない」
「あの戦争以降、皆も色々成長したがそれはほぼ経営学や加工術の商材側だ……元々戦いが得意な奴らじゃない」
「城の近くの大砲は貴方が作らせたのですか?」
「いや、私達が居ない間に妖精達で作ったらしい、カタパルトからあそこまで発展したものだ」
「………なあ、かなちゃん」
「ここもいい国になったよな」
「発展とかは私はあまり手助け出来なかったが……その分、私が国王として意地でも守り通さなきゃならない」
「誰1人死なせたくないからこそ、誰にも頼らない」
妖精王国、玉座の間。
そこには2人の影があった。
1人はヅッチー、そしてもう1人はかなづち大明神。
2人とも、真剣な表情で向き合っていた。
そんな2人に、新たな訪問者が現れた。
ヅッチーはそれに気づくと、扉の方へと振り向く。
来訪者は、ケモフサ村の村長マーロウだった。
「おや、珍しい組み合わせですね」
「私も呼んだわけではない」
「事情は全て聞いているよ、雷神トゥルギウス……強大な力がここに来るかもしれないという予知にも似た感覚」
「実は私の所にも同じものが来た」
「………やっぱりな」
同じ雷を司る者として通じ合うものがあったのだろうか、あるいは大きな戦争の生き残りとして勘が冴えていたのか……ヅッチーと同じものを感じていたようだ。
「とすると、ハグレ王国でも動きがあるのか」
「ええ、今の所電撃の力を宿す物は皆」
「…その中で1番過酷な特訓をしているのは君だと聞いて、今回は上に立つ者同士として下見を」
「お互い突っ走っちまうな、守るべきものがある奴は」
ヅッチーが雷神トゥルギウスに対抗する為の力について……
しかし、そんなヅッチーの考えてる事に、かなづち大明神が待ったをかけた。
「恐らくだが、今こう考えたね」
「自分もプリシラのように変異出来ないのかと」
プリシラは過去に魔力を増幅させて、その身を成長してしまった事がある。
ヅッチーも同じような現象が起きないかと。
かなづち大明神はヅッチーの思考を読み取ったかのように言った。
「そうだな、その通りだ」
「あれくらい成長出来れば……」
「しかし貴方もプリシラも妖精としては特殊な部類であり、その性質も全く異なります」
「プリシラがあの大人びた姿になっていたのは、彼女が後天的な天才型であり、欠乏していた魔力を大量に得たことによる急成長が原因と考えられます」
「ですが貴方の場合は逆に先天的、最初から充分に魔力が行き渡っており……逆に言えばここから変異することは無い」
かなづち大明神はヅッチーの考えを読み取りながらそう告げる。
それに対してヅッチーは、どこか納得したような表情を浮かべて、小さくため息をついた。
プリシラの時は、プリシラ自身が魔法に関して知識を与えられたので、自分でも制御出来るようになれたがヅッチーにはそれが無い。
更に言えば、プリシラと違って、自分の力を完全にコントロールする事は難しいだろう。
「そもそも貴方の場合、妖精王国の女王という立場もありますから、迂闊に変身などしたら国が混乱しかねない」
「ただ、私も貴方も、もう1つだけ忘れている事がありますよ」
「もう1つ……?」
「それは……そう、あの時の事です」
「あの時……ああ、そういえば相棒も…」
過去にハグレ王国でも似たようなことが起きていたことを思い出した。
王より強い家臣たちに自分の立場が不安になった王は、手を尽くして家臣達を見返したいと願っていた。
そんな時に、相棒である王は、願いに応えようと自らを犠牲にし、己の存在そのものをかけて家臣達に勝負を仕掛けた。
結果は、引き分けに終わったが、その時の相棒の行動により、王の気持ちは晴れ、結果オーライとなったのであった。
だが、ヅッチーと相棒の関係ではそれは叶わない。
ヅッチーは、ふと疑問に思った。
「雷神の事で騒ぎになっているのは私だけじゃない、マーロウはそう言っていたな」
「この国に帰ってからしばらく外の様子は見てなかったが、一体どうなってる?」
「それはもう結構な騒ぎになってますよ」
「サイキッカーのヤエさん」
「普段やらない滝行に瞑想までしてます」
「帝都召喚士協会のメニャーニャさん」
「もう3日も徹夜して何十m長のゴーレムを開発しています」
「星の守護者マリオン」
「数年ぶりに宇宙船を調整し、自身も時空の力を得て数百年越しのバージョンアップをしているとか」
「今挙げたのを並べた通り、電撃に特化した方々全てがヅッチーと同じように雷神の接近を予知しています」
かなづち大明神はヅッチーの質問に対して、ヅッチーの知らない情報を次々に挙げていく。
まるでそれは、ヅッチーがハグレ王国へ帰る前に、既に調べ上げていたかのようだ。
ヅッチーは、感心するように何度も首を縦に振った。
同時に、これだけの生物や規模で察知し行動に移している事からも深刻さが伺える。
「かなちゃん」
「私は一体どうしたらいい?」
「どうしたらいいなんて、それこそヅッチーらしくもない」
「決まれば稲妻のように、何も考えなくてもやり通して一直線で決して信念は曲げない」
「それがこの国を作った貴方だったじゃないか」
ヅッチーはかなづち大明神の言葉を聞いて、ハッとした。
そして改めて自分が何の為にここに戻ってきたのか、思い出す。
ヅッチーは、玉座から立ち上がり、大きく息を吸い込む。
そして、力強く、宣言する。
玉座の間に響き渡るように、大きな声で。
「誰か!!誰でもいいんだよ!!」
「ヅッチーはこの国を守らなきゃなんないんだ!ハグレ王国にも頼らず、この国の力で!」
「誰でもいい!!なにかしてくれよ!!」
「…………本当に誰でもいいなら、俺がここに居る」
「あっ、お前!!」
「たくっちスノー!」
「よっ」
いつの間にか背後に居たのは、マガイモノ王国国王、たくっちスノー。
その彼の手には、小さな木箱があった。
ヅッチーは、彼がそれを持っているのを見ると、目を丸くした。
しかしすぐにヅッチーは、彼に詰め寄る。
ヅッチーは、珍しく怒った様子を見せる。
「んだよ、なんかヤバそうだってかなちゃん様が言うんで菓子折りつけて、わざわざ国王としてお前の国にやって来たんじゃねえか」
「次から次へと変な王様がここに来るよなこの場所は……」
「ああうん、カグラギ・ディボウスキがここに来て同盟結んだんだって?」
「おや、知ってましたか」
「だって俺、ぶっちゃけるとカグラギと共謀して同盟国になるように仕向けたもん」
「この国の王は天才的な交易の才能があるから手を組んで損は無いって」
「異世界の国がたまたまヅッチーを見て同盟交渉までするなんてそういう事だろうと思ったよ」
ヅッチーは、かなづち大明神の話を聞いていた。
彼女は、かなづち大明神とたくっちスノーの会話に、聞き覚えのある名前が出てきた事に反応を示す。
トウフ王国の王殿にして、今はかなづち大明神の弟子であるカグラギ・ディボウスキ。
同盟を結んだ数日後も今も尚目を光らせており、話を聞いていることは確かだろう。
「でもお前が来てくれてちょうど良かった、聞きたいことがある」
「雷神トゥルギウス……だろ、元よりその為にかなちゃん様に呼ばれて来てるのでな」
………
「雷神とか女神とか、極たまに神様でもうっかり歴史に残っちまうやつはいる、雷神トールも全能神ゼウスも皆目立つ真似をしちまったうっかりさんだ」
「トゥルギウスもメイドウィンなのか?だが……」
「お前の考えてる事も分かる、けど実際は創造するだけがメイドウィンじゃない」
「時々、ほんの時々だが別世界に降りたってその世界を気分で破壊して回るようなメイドウィンもこの世には存在する。」
「そして、全て消滅しきれずにうっかり歴史に残っちまった奴はこう呼ばれる」
「『破壊神』……と」
「だが破壊神が歴史に残る奴はほんのひと握りだ、俺の世界でも伝わっているのはシヴァやマハーカーラ等、簡単に数えられる程度だ」
「………トゥルギウスはどうだ?」
「そうだな………俺の見た限りじゃ、絶対に後は残さないタイプだ」
- Re: ざくアクZ外伝 ヅッチー神話 ( No.3 )
- 日時: 2023/06/17 23:03
- 名前: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (ID: VOI/GMTL)
ギイイ……
召喚士協会の地下深く。
メニャーニャは5日間も外に出ず整備と作成を繰り返していた。
そこに入ってきたのは、茶髪に染めて白衣を着て女装したフェイス・ジスクード准将だった。
「相変わらず研究詰めか、立場的にアンタは過労死されたら困るんだよ」
「とりあえずなりきってみたが、アンタの真似は出来んな、特に身長を伸ばすことは出来ても縮ませることは………」
「フェイス准将、余計な事しか言わないなら出てってください、殺しますよ」
「はいはい……エステルの事は分かっても相変わらずお前の事は分かんないな」
「猿真似しか出来ない貴方には先輩の事も理解出来ませんよ、私だって分かりませんから」
「…………雷神トゥルギウスってのがどんだけやばいのかは知らん」
「が、それを予知程度でデカいゴーレム作って防衛計画とは、現実主義者のお前らしくもない」
全長20m超、これが命令一つで自在に動くとなると数年かかってもおかしくない、それを今80%までこぎ着けている。
「あの国にはメイドウィンも居ます、その方から色々聞きました」
「メイドウィンが他の世界を滅ぼすことは、成功してしまえば犯罪にならないと言いました」
「逆に言えば失敗すればお縄になるのか……どうしてそんなルールになっていると言っていた?」
「世界1つと言えど規模は人口数百万、それを1人で滅ぼすのは面倒だから、普通はやらない事の方が多いから……だそうです」
「ふーん、要するに食い止めちまえばいいと」
「………なんでどこもかしこもこんな調子なのか、は〜」
「エステルから伝言だ、暇が無くても飯食いに来いだと」
「聞いてるといいが」
………
そして妖精の森では、かなづち大明神がマガフォンで連絡を受けていた。
「ああ、はい……そちらも無理しないでくださいね」ピッ
「メニャーニャの奴本当に5日間徹夜で家にも帰らずゴーレム作ってるのかよ」
「どこもかしこも1人で突っ走って……他の人に無理をさせないようにするのはどの国も変わらないみたいですよ」
「皆なんとなく感じてるんだな、今までのように奇跡すら起こる気配もないと」
ヅッチーとたくっちスノーは空を眺め、いつ起こるかも分からない『それ』を不穏に感じていた
いつもより静かな妖精の国。
妖精達もどこか不安そうな顔で森を見つめている。
「トゥルギウス自体は既に世界で反応はある、いつここに来るかも分からない」
「流石に妖精達も不安になってきている……ヅッチーがなんとかしなくちゃならない」
「それでお前も数日間もめっちゃくちゃな修行してんのかよ……」
「ま、本気でメイドウィンとタイマンする気ならそうもなるか」
たくっちスノーは納得しつつも呆れ気味に言う。
ちなみに現在時刻は深夜。
普通の人間なら寝静まった頃合いである。
メニャーニャが寝ずにゴーレム作成を続けている間のように、ヅッチーを初めとした雷属性を扱うものはいつ何が起きてもいいように、特訓をしていた。
「そうだ!この前見た一撃、あれを習得したい!」
「あれを?あれはちょっと難しいと思うぞ?」
「それくらい出来るようにならなきゃダメだ!それに……」
「出来るはずなんだ、ヅッチーだって、プリシラぐらいの成長が……」
……
メニャーニャがゴーレム作成に勤しみ始めて6日目。
それは唐突に現れた。
ゴゴゴッ……!! 地震のような揺れと共に大地が震える。
木々がざわめき、鳥達が慌てて飛び立つ。
そしてメニャーニャが作業をしていた場所からは、遠く離れているはずの妖精王国がはっきりと見えるほど巨大な何かが近づいている。
大地が持ち上がっているのだ。
「あれは……!?」
「うっわ、流石ハグレ王国を1番リスペクトしてるマガイモノ王国のやることだ、派手だね」
「フェイス准将……?」
「お前はずっーと篭もり切りだったから気付かなかっただろうが、3日前からあの調子だ」
「…………」
「こりゃ、あっちもどうなるか分かったもんじゃないな」
「お前、外見てこい」
「私を外に出す口実にしては短絡的過ぎますよ」
「バン」
その瞬間、メニャーニャは後ろから頭上へ弾丸が打ち込まれた。
少し仰け反りながらも、振り向き、煙が出たばかりの魔銃を見る。
「いつもだったら背後でこんな至近距離でも避けられるお前がこの始末だ」
「更に魔術ってのは2日3日寝ない集中力の低下だけでここまで耐性が落ちる、炎、氷、雷なんでも耐えられたのがお前のはずだぞ」
「今回は准将として言わせてもらうが、無理してレベルが落ちるくらいならもう何もするな」
「自分が迷走していることくらい俺が言わなくても分かっているんだろう」
メニャーニャは黙ったまま俯いている。
フェイス・ジスクードはその姿にため息をつく。
そして頭を撫でようとしたが、その手が途中で止まる。
今のメニャーニャの表情は、まるで泣き出しそうで。
今にも壊れてしまいそうな程に脆く見えたからだ。
「フェイス准将」
「私達は神と戦った経験が無いわけではありません」
「この世界の八百万の神の数体、メイドウィンだってありますし……何より、私やハグレ王国は魔導戦争でその中の頂点であるカーレッジ・フレインにも2度勝利しています」
「雷神トゥルギウス……メイドウィンとしては過去に倒したカーレッジよりも明確に格下の存在にも関わらず……」
「私は恐怖を感じています」
「このままでは全員勝てないかもしれない、そう思っているのです」
「……」
「だからと言って、私が諦めたら、先輩が帰ってこない気がするんです」
「……はぁ」
「お前、まさかとは思うが、エステルが死ぬと思ってんのか?」
「そんな事、思ってません」
「ただ、私にもこの街を守る責任があるんですよ、おちおちと泣き言吐いて国にも先輩にも頼っていられますか」
「………協会の悪魔も、随分と丸くなったもんだ」
「古代、恐竜は環境崩壊によって絶滅し変わり果てた大地から新たな生命が芽生えた」
「今回のことはきっと世界の為になるな……なんであろうと」
……
「なあ、どうにか出来ないか?」
「流石に種族の限界を超えることなどは……」
「限界を超えたいなら、限界を作らないことだ」
「!」
「俺が管理している世界の、あるスポーツ選手の言葉だ」
「たくっちスノーさん」
「他所の世界のメイドウィンに対抗する為に各々で立ち向かわないといけないんだろ?」
「何より、今あいつは……でち王の奴は運悪く他所の世界まで行っちまってる、時空ってのは2日3日で帰れるような場所でもない」
「………今回はデーリッチやハグレ王国の大半抜きでやるからこそ、お前や帝都共が焦ってるのも分かるけどな」
妖精王国の首都。
そこでたくっちスノーは妖精達に事情を説明をしていた。
妖精達も事態の大きさに戸惑いつつも、今まで通りでいいというたくっちスノーの話に安心しているようだ。
たくっちスノーは妖精達の不安を取り除きつつ、同時に自分の不安も取り除くためにここに居た。
そして妖精達の前では平静を保っていたものの、内心はたくっちスノーも軽く不安視していた。
(俺はメニャーニャが不安がっていた理由も、プリシラが不安がる理由も、妖精達が不安がる理由も全部分かってる)
「……」
妖精達には、どうすることもできない。
メニャーニャが徹夜続きで寝不足であるように、たくっちスノーが睡眠を取れていないように。(まあこいつは寝る必要無いのだが)
自分達も、他の誰かを心配する余裕など無い。
………
「時空のデパートからデッカい発電機と避雷針を買ってきた」
「セッティングすれば雷よりずっっとデカいエネルギーがここから出てくる、お前は魔力を吸うよりこっちの方がいいだろ」
「ああ、雷には何度も直撃したことはあるが全然足りないくらいだったからな」
「たくっちスノー!こんなもの与えて、もしヅッチーに何かあれば……」
「何かあれば、のリスクで止まるような王様じゃないんだろコイツ」
「安心しとけ、妖精王国は俺が浮かして被害が及ばないようにしておくから」
……
「あれから3日か……ヅッチー見てないが、どんな調子なんだろうか」
あれから3日。
たくっちスノーが最後に見たときから、ヅッチーは姿を現さない。
時々発電機から電撃が落ちてくる音はしてくるのだが、それっきりだ。
だが、妖精王国はいつもと変わらない。
街も、森も、空も、そして城も。
そして、それは突然現れた。
ゴゴッ!! 大地が揺れ、木々がざわめく。
その瞬間、妖精王国を覆っている結界のようなものにヒビが入り、砕け散った。
その瞬間に、たくっちスノーは妖精王国の至る所から人の感覚を感じ取った。
「トゥルギウスですか!?」
「いや違う、ただの盗賊団共だ……どっからか留守の噂聞いたな」
「ヅッチーの邪魔になるような事はしたくねえ!ちょっくら俺がドクロ丸で……」
「問題はありません、たくっちスノーさん」
「プリシラ……?」
「ヅッチーは今この国の為に、私達の為に命を懸けている」
「でもこの国は私達の国でもあり、ヅッチーも私達のもの、黙って見ているわけにはいきません」
「………」
「お前らは何が出来るようになった?」
「私はただ体と魔力が成長しただけで強くなったわけではありません」
「これが妖精王国流、ハグレ王国にも帝都にも貴方にも真似出来ない私の戦い方です」
そう言うと、プリシラは手をかざす。
すると、彼女の体の周りが光り輝き、やがて光が収まるとそこには先ほどまでの彼女とは違う姿があった。
そして、手には大きな弓を持っていた。
彼女はそれを軽々と構えると、矢を放つ。
ヒュンッと風を切る音が聞こえて、数秒後に遠くで悲鳴が上がる。
「……!」
「今何を飛ばした?」
「ただの信号です、今頃大砲の雨と傭兵が盗賊団へ向かっているでしょう」
「…………」
「傭兵!!?」
「雷神トゥルギウスの話は世間にも知れ渡っています、戦える妖精が少ないなら他所から借り出せばいい」
「私が国と共に作り上げてきた『プリシラ商会』」
「金の切れ目が縁の切れ目……なら、常に金貨を握れていればその縁をずっと維持することが出来る」
「金が人を買い、力を買い、壁を買い、暮らしを買い……命を買う」
「金という力を握り続ければ、国も人も永遠に離れることは無く、常にコントロール出来る」
「……」
「私は元々、国を守る為に手に入れた」
「国を富ませ、国民に豊かさを与え、国の治安を維持する」
「それが参謀の私の役目であり、妖精王国の戦い方」
「だから、私は国とヅッチーと運命を共にする」
「プリシラ、貴女いつここまで……」
「いつかを想定して、何回も何回も投資した結果です」
「改めてこの国、敵に回したらめんどいかもしれな」
その時、誰も目を開けない程の眩い閃光が周囲を襲った。
「何!?」
「また雷が落ちたのか……にしては規模がデカすぎるぞ!!」
「まさかトゥルギウスが!?」
「いや……あれ、森からだ!!」
「ヅッチーの所!」
たくっちスノーが森の方へ視線を向けると、巨大な木が生えている。
その木から放たれる電撃は周囲の木をなぎ倒し、辺り一面の草花を燃やし尽くしていた。
木の幹には大きな穴が開いていて、そこから妖精達が飛び出してくる。
そして、妖精達はたくっちスノー達を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。
「森が……周囲の森が!」
「あの馬鹿!!最大出力を超えてぶっぱなしたな!?半分の出力でもジャングル一帯を黒焦げにするレベルだぞ!!」
「づ……ヅッチー!!」
「ヅッチイイイイイイ!!!!」
- Re: ざくアクZ外伝 ヅッチー神話 ( No.4 )
- 日時: 2023/06/17 23:05
- 名前: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (ID: VOI/GMTL)
×日。
巨大な雷が森を襲い、全てが焼け野原になった。
妖精王国は宙に浮かせていたので被害は一切無いが、雷が落ちてきたところにヅッチーが居た。
流石に帝都も召喚士を向かわせ、フェイス准将もメニャーニャを引っ張り出して焼け跡に向かわせた。
そして……
それを見つけた。
…………
「いや………いやいやいや」
「なんで貴方が絡むといつもよく分からない事になるんですか」
「こればっかりは俺のせいじゃねーぞ」
メニャーニャとたくっちスノー、フェイスの三人がかりで見下ろしているのは、1つの黒い物体だった。
「ハグレ王国の奴らはいつ戻ってくるよ」
「随分遠くまで行ったので……マリーさんには連絡は入れましたが、トゥルギウスがここに来るまでには間に合わないと断定できます」
「確かシュゴッダムって国まで行って時空王国同盟に行ってるんだったよな、あれは大分かかるぞ」
帝都の外れで、メニャーニャは腕を組んで考える。
目の前には黒い何かがあるのだが、これは何なのかさっぱり分からなかった。
それは黒くて四角くて、真ん中に小さな穴があって、上の方が少しだけ出っ張っている。
しかしそれがどういう形をしているのか、どう使うものなのかが全く分からない。
「……あ、面倒くさそうなのが来たので暇なら相手してくださいたくっちスノーさん」
「え、俺かよ……なんだよその目、分かったよ言ってくりゃいいんだよ」
……
「ヅッチー……」
「うおっ」
プリシラはほぼショックでやせ細……いやもう棒人間とかそういう領域になっていた。
「ヅッチー……」
「よくここまで歩いてこれたな、ちょっと俺でも同情する、担いでやるから乗れ」
……
「おお、なんか栄養を吸われた花みたいになってますね……いつもなら皮肉の1つでも言いたいところですが、状況が状況ですからね」
「マジで氷みたいに死にかねない状況だから優しくしてやれよ」
「まあ、呼んだの私ですしね……ちょっと見てるだけでとりあえず分かりましたよ」
「先に結論から言っておきますが、彼女生きてますよ」
「えっ!!?」
「うわっ急速に栄養取り戻した気持ち悪っ!!」
急に元気になったプリシラを見てメニャーニャはドン引きしたが、一応説明する。
そして彼女は自分の状況を把握できたらしい。
プリシラは改めて辺りを見回してから、ようやく落ち着いたようだった。
「通常の落雷のおよそ100万倍のエネルギーを持って降り注いだ落下地点に置かれていたこの黒い物」
「十中八九ヅッチーで間違いありませんが、これを軽く調べたら」
「心臓の鼓動音が聴こえました」
「は!?」
「この中に居るんです、遅くなったり早くなったり、大きくなったり小さくなったり、日に日に表現が変わっています」
「表面を触ってみると汚れも何一つない上に非常に硬い……この黒い部分は焦げではなく、黒曜石にも似た膜なんです」
「膜……って、お前それ………」
「そうです……生物学上信じられない状態なのですが……」
「あの黒い物体は…………言うならばヅッチーの蛹なんです」
妖精は主に花から生まれ花に還る。
昆虫のように幼虫や蛹といった段階を踏むことは通常なら有り得ない。
しかし妖精という存在自体がそもそも通常ではないのだ。
メニャーニャもたくっちスノーも、その可能性について考えなかったわけではない。
だが妖精女王であるヅッチーが、自らその可能性を否定していた。
しかし目の前に確かに存在する黒い物体が蛹のように鼓動をしているのが分かる、そしてそれの中に入っているものなど……
「あの野郎……マジで限界を超えやがった」
「超えるのはいいですが問題は山ほどありますよ」
「通常の蝶でさえ、蛹から羽化して殻を破るまでに10日以上はかかるといわれています」
「妖精といえど、それは同じでしょう」
「この生き物は……恐らく2週間近く、いやそれ以上……下手したら1ヶ月近い時間、この中で生きている可能性があるんですよ」
「雷神襲来に余裕で間に合わねえじゃねえか!!」
「流石にこういうものにさっさと目覚めろとも言えませんからね」
「けど、アイツは今までの妖精にも……下手したらプリシラ以上の活性化をマジでやっちまった」
「この中から出てきたら……想像だにしない『妖精』という範疇を超えた物が出てくるぞ」
「あくまでそれが間に合えば……の話ですけどね」
「ああ……なーんでエステルもシノブもハグレ王国ついてっちゃうかな〜!!あの国に縁があるのも分かるけど取り残された俺らの始末も考えてくれよ!」
「私に関してはフェイス准将が残るように言ったんじゃないですか」
「士官までついてかれたら上が回らん」
「正直ヅッチーやお前らの件が無かったら俺もデーリッチの所行きたかったよ」
プリシラとメニャーニャ、そしてたくっちスノーと別れて、帝都に戻った二人はすぐに帝都防衛軍司令室に顔を出した。
そこには帝都防衛軍のトップである中将と少将、それに将軍たちが集まっていた。
帝都の守りは彼らに任せておけば問題無いだろう。
何より今は各国への救援が最優先事項だった。
「そっちの国から誰かしら援軍は出せないんですか、貴方一応マガイモノ王国の王じゃないです」
「もうやってるよあちこち……ハグレ王国残党ですら不在の間に何かあったら俺の首が飛びかねん……いや首無いけど!」
「が、相手は1人とはいえ神がその力で本気で世界を滅ぼそうとしている、本気じゃなかったらそもそも滅ぼしになんて来ない」
「少しづつ小さいところから潰しに来てるのはマメだが、被害が酷くなるのは俺がこの世界の神の立場なら御免だな……」
「なるほど、だからまずは妖精国を……というわけですね」
「そういうことだ」
「しかし……この世界の神様、世界樹の神や福の神とか見てきたので今更な話ですが…」
「言いたいことはわかるよ、この世界のメイドウィン何してるんだってことだろ」
「俺も創造神になって気付けば結構経つが、この世界のメイドウィンを見た事は1度もない、雪でも見たことないくらいだ」
「まあここは他所の世界から沢山召喚されて置き去りなんて事件が何千年も続いてたような場所だ、時空になんかした所で助けは来ないだろう」
「だからこうやって我々だけでなんとかしなくてはならないんですよね……大事な戦力が欠けている時に」
メニャーニャは帝国から持ってきた物資を確認しながら、そう愚痴った。
プリシラは安心で吹っ切れて妖精の国へ行ってしまった。
帝都には現在、黒い蛹だけが残っている。
………
「聞きましたよ、ヤエさんを超能力て妖精王国浮かせて酷使したそうですが」
「無理矢理やらせたみたいに言うな、あいつも鍛錬の為だからな」
「…………お前のゴーレム、俺が見てみたら無駄な要素を省いて100%完成までこぎつけられそうだな」
「そうですか、本番も無しに導入するのでそれでも勝てるか怪しいですが……いえ、勝てなくちゃ困るんです」
「ここは先輩の、ハグレの、私達の」
「時空の1つの居場所ですから」
「私達は絶対に死ねない、先輩が安心して帰ってくる為にも」
「私達は世界を守り、生き延びなければならない」
「ああ、何せ相手はカーレッジみたいに舐めプで世界規模で戦争してきた訳じゃない、本気の神だ」
「ある世界の言葉なんだが……神を崇める者。神を否定する者。神とはなんの関わりもない者。神はどれを見逃すと思う?」
「答えは全て殺す、だ。」
「だから破壊神は歴史には基本残らない、遺す為の導すら跡形もなく消えてしまうのだから」
メニャーニャが机の上に広げたのは、今までの黒い蛹に関する資料。
たくっちスノーが調べた内容。
そしてたくっちスノーがまとめた考察。
メニャーニャがまとめあげた、妖精の蛹に対する対策。
それら全てが、ここに集まっている。
帝都に、帝都防衛軍に、そして世界中に。
そしてそれは同時に、全世界が雷神トゥルギウスへ対抗する準備を整えたという事でもあった。
……
「ただ、1つ妙なことがあります」
「なんだ?」
「貴方が妖精王国と組ませたくて連れてきたというトウフ国のカグラギ・ディボウスキという男」
「調べてみればあの王や国はシュゴッダムと同じ世界であり、同盟も結んでいる」
「ハグレ王国をシュゴッダムへ向かうように命じたラクレス・ハスティー王にも連絡入れましたが、素っ気ない返事しか来ていない」
「カグラギとラクレスの関係は分からなくもないが、それが雷神トゥルギウスの件は偶然の一致で無関係だろう」
「ともなれば、カグラギがわざわざ妖精王国をほぼ観察して、せっかくの同盟を潰すような真似はしない」
「カグラギ王殿は確かに二枚舌だし、自国を守るためなら手段は選ばない男だが、王としての筋は見せる男だ」
「妖精王国の件は本当に偶然だろう、むしろそれならそれで良い、俺達がやる事は変わらない」
「しかし、そうなると別の問題があります」
「別の問題?……ああ」
「雷神トゥルギウスを倒したところで、この世界は問題が全て終わる訳では無い……という事にもなりかねない事です」
と、その時たくっちスノーのマガフォンが鳴る。
「どうした?」
「カグラギでございます、周囲の探索をしていたクロダさんより通達が」
「雷神トゥルギウスが………遂にこの地の周辺で確認なされました!半日もせずこの妖精王国やそちらの帝都へと向かわれるとのことです」
「………ちっ、いよいよ来やがったか、おいカグラギ、お前も一応チキューに帰る準備しておけ」
「ヅッチー殿はどうなさりましたか?」
「…………あいつなら大丈夫だ、もうちょっとしたら」
ブツッ
その時、突然マガフォンの通話が切れた上に電気が全て切れた。
突然の停電だ。
「停電!?一体何が……」
だが、次の瞬間、妖精王国上空に巨大な魔法陣が現れた。
そこから現れるは……
空を埋め尽くすほどの雷の竜。
轟音と共に現れたのは……
雷神と呼ばれた存在が見えた……
「ついに現れやがったか!」
「総員戦闘配備!!」
「しかしこれは……」
「予想以上にデカいぞ…………」
「こんなの、どうやって倒すんだ」
「とにかく、やるしかないだろ!」
「砲撃隊構え!!目標雷神トゥルギウス、撃てぇええ!!!」
召喚士達は遠くにいる雷神へ攻撃を放つ。
放たれた炎や氷、風や光、様々な属性の攻撃が、その全てが届く前にかき消された。
まるで、見えない壁に阻まれているかのように。
そして、雷神がこちらを見据える。
雷神から、幾千もの稲妻が走った。
それは召喚獣や兵士達を焼き焦がし、一瞬にして命を刈り取る。
そして……
「……うっ……」
「なっ……」
「そんな……」
召喚術師達は、皆倒れた。
「…やはり、桁が違いすぎる」
「メニャーニャはあのゴーレム引っ張り出せ!!俺はヅッチ―の繭の方を見てくる!!」
たくっちスノーが駆けだして奥へと向かっていくが…最後のドアノブに触れたとたんはねっかえる。
「っ…今のは、静電気?あんな遠くからとんでもない量だ…」
そして、たくっちスノーが扉を開けると……そこには。
黒い繭に無数の工具や機械が吸着された姿があった。
「マジかよ…電力が強すぎて蛹が巨大な電磁石になってやがる」
「一体…中はどんなことになってやがるんだ…」
たくっちスノーが、黒い繭に触れようとした時だった。突如、電撃が走り、触れた手が激しく弾かれる。
思わず、彼は手を離してしまった。そして、繭が揺れる。
中の蛹が動き出したのだ。
黒い蛹が、割れる。
中から出てきたのは……
- Re: ざくアクZ外伝 ヅッチー神話 ( No.5 )
- 日時: 2023/06/17 23:08
- 名前: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (ID: VOI/GMTL)
「蛹が割れるぞッッ!!ヅッチ―が出てくる!!」
黒い蛹は強い電力を発しながら少しずつ、少しずつその殻を割っていきました。
そしてついに中から出てきたのは……。
――妖精
妖精といっても羽の生えた小さな子供ではない。
背中に蝶のような透き通った四枚の翅を持ち、髪の毛は乱れながらも背中まで伸びきっていた。
顔立ちはまだ幼さが残るものの、大きな瞳と口元には意志の強さを感じさせる力強さがあった。肌の色は白く、手足や胴体などは華奢な印象を受ける。
そして…体は、成人した女性のように成長しきっていた。
「ヅッチー」
「よう、上手くいったみたいだ、間に合ってるか?」
「…ギリギリ間に合ったって感じだな、話してる暇もありゃしねぇ」
「雷神トゥルギウスは?」
「妖精王国に向かってる」
「そうか、なら急がないとな」
その時だった。
――パキィンッ! 甲高い音が響いた。
外で何が起こっているのか分からないが、何か良くないことが起きたに違いない。
その証拠にこの家の中で、窓の外を見つめる人影が二つあった。
「たくっちスノー、ちょっと頼んでいいか?」
「どうした!まだ足りんって言うんじゃないだろうな!」
「私が出てきたあの黒い蛹の抜け殻…あれ全部持ってってかなちゃんに渡してくれないか?」
「まだ、使えるかもしれない」
それは、妖精達にとってみればあまりにも巨大な存在だった。
その体躯は妖精達の数十倍の大きさを誇り、その巨体を揺るがしながら妖精の森へと侵入していたのだ。
だが、妖精達は恐れることもなければ逃げ惑うこともなかった。
妖精達がその怪物に立ち向かっていく様はまるで……騎士そのもの。
森の入り口を守るように陣形を組み、勇敢にもその怪物に立ち、無謀にも雷神トゥルギウスに立ち向かう。
「私の国でプリシラ達が戦っている、私を待っている」
「全てこの時の為にやってきたんだ…」
「おや、意外と早い目覚めですね」
「!」
「かなちゃん様!?」
後ろを見ると、かなづち大明神がいつの間にか後ろに待機していた。
「うん、スタイルもいいしいい女の体つきになりましたね」
「勿論、精神も」
「ああ、なんか進化してから悩みがぶっ飛んだ気がするんだ」
「うん、それでこそヅッチーの顔だ」
「………それでかなちゃん」
「ええ、任せてください、2分で仕上げてきますので」
「よし、行ってくる」
ヅッチーは羽を広げ、目にも止まらぬ速さで彼方まで飛んで行った。
「………へっ、やるな」
「たくっちスノーさん、あの時ヅッチーに用意したのただの発電機じゃありませんね?」
「当たり前だろ、相手は破壊神だぞ?」
「普通にやらせるんじゃとても勝てねーよ」
「私もあちこち回ってアプローチは大変でしたよ」
「マーロウさんの武器を新調し、ヤエさんの超能力を促進させ、マリオンさんのアップデートまでして、貴方もゴーレムを弄ってきました?」
「おう、ここまでやればもう俺らが手出する必要も無い」
「勝つぜ、この戦い」
「そうですね、そう信じたいですね」
雷神トゥルギウスは妖精の森の上空を旋回し、やがて雷雲を呼び込み、徐々に空を覆いつくしていく。
その様子はまさに天変地異、空に浮かぶ黒雲から幾つもの稲妻が地上に降り注いでいった。
その光景を見ていた妖精達は恐怖に怯え、中には泣き出す。
プリシラも応戦していたが、既に傭兵のストックも尽きて、満身創痍の状態だった。
「くっ……このままじゃ……」
雷神トゥルギウスへの意思疎通は出来そうにない。
文字通り大きな災害が人の形をして襲い掛かっているようなものなのだから。
その時だった。
――パキィイインッ!!
――バリィイッ!!!!
――ピシャアアアンンッッ!! 突如として降り注いだ落雷、そしてそれと共に響き渡る轟音と閃光。
その場にいた妖精達は皆耳を押さえ、目を瞑る。
そして、妖精達は見た。
空に浮かんでいた黒い影は、その姿を消していた。
そして……妖精達の前に立っていたのは、妖精でもなければ人間でもない。
そこに居たのは――妖精女王ヅッチー。
「ヅッチー……なの?」
「よう、待たせたな」
「その姿は……本当に」
「ばっちり仕上げてきたぜ、よく私の国を守ってくれた」
「やっぱりお前は、よく出来た私の参謀だよ」
「お前らもよく頑張った、後は任せろ」
「づ……ヅッチー……❤」
プリシラは涙を浮かべながらヅッチーに抱き着く。
「おや、彼の言っていた通りだ」
「随分変わったのねー」
「それはマリオン達も同じだがな……」
(……ああ、電気信号を通して分かる、遠くに居るあいつらの感覚)
(あいつらも順当に強くなってる……そして、自分の番を待機している)
「その前に、ヅッチーがブッ倒しちまうけどな」
(………凄い、ヅッチーの電力が何倍も増幅してるのが分かる、溢れかえって盛れ出している)
(………というより、静電気が常に盛れ出してて、滅茶苦茶痛い)
――――
妖精王国は妖精達の住処であり、自然と妖精達のエネルギーが集まってくる。
妖精達の意思とは関係なく、無意識のうちに、勝手に集まってくる。
妖精達もそれを理解しており、それを自然に還している。
「たとえ相棒がいなくても、この世界を、この国を…」
「災害だろうが、魔獣だろうが……神であっても」
「私はこの手で守り抜いてみせる」
「行くぞ、雷神トゥルギウス!!」
ヅッチーの体からは膨大な量の電流が流れ、それが更に膨れ上がっていく。
「おお……ヅッチー……!」
「私は強くなるために魔力の限界を……いや」
「電力の限界を作らず、その先を追求して……電撃まで進化させた」
「!?」
ヅッチーを中心に色んなものが引き寄せられていく。
鉄製品、数多くの武器が回って集まる。
「こいつがヅッチーが進化して、脳内でも必死にシミュレーションして得たこれまでの電力を超えた電力」
「『電磁力』だ」
「さあ、雷神トゥルギウス……この国の王である私を怒らせたことを後悔させてやる!」
「いくぞぉお!」
「ぐおおおおっ!」
ヅッチーは両手で剣を握り締め、そのまま雷神トゥルギウスに突っ込んでいく。
「おりゃあああっ!」
磁力の反発で剣を弾丸のように飛ばし、トゥルギウスに突き刺す。
砂や水ですら高速で放てば石のように威力のある弾丸になる、これを磁石を放す力で武器を放っているのだ。
「………まだだ、メニャーニャ」
「お前の作ったゴーレム、しっかり使わせてもらうからな」
………
「ちょっとたくっちスノーさん!!」
「100%の性能を出すようにゴーレムを弄ったって……」
「部品が大体抜き取られているじゃないですか!!」
「そうカリカリすんなよって、それでもヅッチーに合わせて動くようにしといた」
「はあ!?中身も足りないのに起動するわけが……」
「め、メニャーニャ様!」
「ゴーレム………勝手に動いていきます」
「…………!!」
「凄いね♡電磁力♡」
「では、私も完成したアレを投げておきますかね!」
…………
「お……届いた届いた」
ヅッチーは磁力で帝都から投げ込まれた黒い剣を掴む。
それは自分の抜け殻から加工させた、黒曜石のように鮮やかな結晶。
「電磁石の刀!!」
「なあ、刀ってただ相手に当てても斬れないんだってよ」
「刀を敵に当てて……押し当てて引く、これで初めて斬った事になるらしい」
「だから………」
「敵の方から刀に押し寄せたら後は引くだけでいいんだよなあっ!!」
ヅッチーの体から発せられる高エネルギーの電力は、触れたものを静電気だけで軽い電磁力を生み出すように変換できる。
その力を存分に使い、迫り来る雷神トゥルギウスの攻撃をいなしていく。
「ふっ、はっ!!」
「ヅッチー……何してるの?」
「いや、見せ場は与えておきたいからな……来るぞ!」
「来るって……何が?」
…………
そして外では………
「流石にデーリッチの奴よりは万能じゃないから、沢山中間挟んでのテレポーテーションになるけどごめんね」
「問題はありません、トゥルギウスの雷を防げるだけでも新しい剣は大したものです……ふっ!」
雷を弾きながら、ヤエとマーロウが少しずつ近づいていくと………
「これは……」
「なにかに引き寄せられる!?私達じゃなくて……私達の剣と道具が!?」
…………
「おい、雷神トゥルギウス」
「この世界に喧嘩売ったのが間違いだったな!!」
ヅッチーは電磁力で全て引き寄せる。
宇宙戦艦も、ゴーレムも、剣も、鉛玉だって全て………
「一斉重力攻撃!!」
――ズオオオオッ!!
「なんだあれは……!」
「まるでブラックホールみたいに……全てのものを吸い寄せてる……」
空に浮かぶ巨大な黒い球体、それは徐々に大きくなりながら地上に降り注いでいく。
それはまるで天変地異。
妖精達は皆その光景に目を奪われていた。
――ゴオオォッ!!!!
そして、雷神トゥルギウスに直撃した瞬間、それは更に巨大化して………………
……
「トゥルギウス・メイドウィン・雷牙」
「別世界滅亡に失敗したお前は時空法に乗っ取り、ロストメイドウィンへ降格」
「自身が管理していた世界は責任を持って……」
【死んでもらった】
「……………」
…………
「いやはや!この度のご活躍は見事でしたヅッチー殿!」
「私共が開発した電磁力の剣は気に入ってもらえましたかな?」
「……カグラギ、私はかなちゃんに剣を作るように頼んだが」
「ですが!このカグラギ・ディボウスキ、かなづち大明神様へ自ら鉄加工の手ほどきを貰い、このまで発展するに至りました」
「これも妖精王国とトウフとの……」
「本当はハグレ王国が狙いだったろ」
「!」
「雷神の件は無関係なのは分かる、だがお前は本当は私たちと仲良くして、ハグレ王国と同盟を結ぶ口実が欲しかったんだ」
「なんせあらゆる生物、あらゆる分野が入り乱れてる国だ、甘い汁でも少しは欲しくもなる」
「………」
「けど、私が数日見ただけでも分かる、アンタはいい王様だ、相棒も気に入るだろ」
「こういう小手先使わないで、ちゃんと相棒に正面からぶつかってみろ」
「………アンタの国民が作った野菜、美味かったよ」
「………お気遣い、感謝いたします」
……
「あー、終わった終わった!」
「まるで予防接種を終えてきた後みたいなスッキリ感だ」
「………この国を、守れた」
ヅッチーは満足そうに呟く。
しかし、まだ戦いは終わっていない。
またいつこの世界が狙われるかも分からない、デーリッチ達が不在という隙を狙ってくる時空犯罪者だっているかもしれない。
ヅッチーの脳裏には、トゥルギウスの生物と思えない顔がちらつく。
(……まだ、まだやれる事はある)
ヅッチーは拳を握り締める。
この国を自分が守っていくのだ、軽い気持ちから始まり、大きく広がったこの妖精王国を……
「………が、ヅッチーは少し疲れた!ちょっと温泉にでも入ってくるか」
……
ヅッチーが温泉旅館に入ろうとすると、先客が居た。
「あ」
「ああ……貴方、デカくなったとは聞きましたが本当に生意気な体になりましたね」
「なんだ、メニャーニャも温泉入りに来たのか」
「ええ………そういえば私、雷神の件から1週間も風呂に入ってなかったので」
「流石にこんな状態で先輩に顔見せられませんので」
「そっか、じゃあ2人揃って電気風呂だな」
「洒落にならないこと言わないでください、私じゃなかったら殺人現場ですからねそれは」
ヅッチーはメニャーニャの隣に座り、肩を並べる。
すると、ヅッチーはふと思い出したかのように、自分の体を見回した。
………
「ヅッチー!!?デーリッチ達がいない間、世界にとんでもない事がって!!」
「あー大丈夫だ!ヅッチーが居たし、お前の国民も凄かったからな!」
「ヅッ……」
「おかえり相棒ー、なんかお土産とかあるか?こっちは土産話は山ほどあるけどな」
「…………えっ、どなた?」
雷神を打ち倒して、【神話】になった
妖精女王の数日の物語であった。
【ざくアクZ外伝 ヅッチー神話】
【END】
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