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二次創作小説(新・総合)
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- さよなら、春の中で
- 日時: 2024/12/14 16:32
- 名前: きのこ (ID: sbAJLKKg)
- 参照: kakiko.info/profiles/index.cgi?no
春の終わり、校舎裏の小さな庭に古い一本の桜が咲いていた。風が吹くたびに、花びらが舞い散り、地面には淡い紅色の絨毯が敷き詰められている。
「お兄ちゃん、見て……桜、綺麗だよ」
黒桐鮮花は、古びた木製ベンチの隣で無理に笑っていた。その笑顔の奥に隠した涙を、幹也は見逃さなかった。
「ああ……綺麗だな」
幹也の声がかすかに震える。隣に立つ両儀式は、黙って桜の木を見つめている。
「時間だな」
蒼崎橙子の静かな声が現実を突きつけた。式の目がわずかに揺れた。
「……行くんだな」
幹也が絞り出すように言う。式は桜の枝を見つめたまま、淡々と答えた。
「もう決めたことだ」
彼女の声は冷静だが、その指先が制服の裾を握りしめていた。
「式!」
幹也の叫びが春風に溶ける。式が振り向いた。彼女の瞳はいつも通りの冷静さを保っていたが、どこかに微かな迷いが滲んでいる。
「……今までありがとな」
式の言葉は短い。それでも、その一言に彼女のすべてが詰まっていた。
「バカ……お兄ちゃん、泣かないでよ」
鮮花が唇を噛み、幹也の袖を掴む。涙がぽつりと落ち、桜の絨毯に吸い込まれていく。
「式、元気でな」
幹也の声は震えていた。式は小さく頷き、わずかに唇を緩めた。
「……じゃあな」
それだけ言い残し、式は踵を返した。桜の花びらが舞い、彼女の後ろ姿を霞ませる。
校門の錆びた鉄扉がゆっくりと閉まる音が、心に深く響いた。
――春は終わった。もう戻らない日常が、静かに散っていく。
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