二次創作小説(新・総合)
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- 【fate二次創作】月と花束
- 日時: 2025/01/10 22:04
- 名前: きのこ (ID: evrYa.Q3)
- 参照: kakiko.info/profiles/index.cgi?no
夜の闇が深く、空には満月が浮かんでいる。その月の光が、ネロの胸の奥に潜む悲しみを照らし出す。彼の心は、あの温かな日々と、二度と戻らない約束を思い出すたびに、波のように押し寄せる痛みに包まれていく。
かつて彼が最も愛していた人は、今や遠くに消えた。あの頃、彼の手の中にあった花束のように、色とりどりの幸せが、あの人の笑顔と共に咲き誇っていた。しかし、すべては壊れてしまった。月光のように静かで、冷たいものに変わったその夜から、彼の世界は一変した。
ネロは思う。もしもあの時、あの言葉を口にしていなければ、もしも違う選択をしていたら、あの人はまだここにいてくれたのだろうか。彼女の手は、空に浮かぶ月を見つめる。あの月も、彼の心の中の絶え間ない孤独を知っているかのように、じっと静かに見守っている。
花束はもう枯れ果て、手のひらで崩れ落ちるように散り散りになった。それでも彼は、あの人が生きていた証を一瞬でも感じたくて、その花を握りしめている。どんなに時間が経とうと、どんなに思い出が遠くに流れていこうとも、ネロの中ではあの人の温もりが失われることはない。しかし、彼はわかっている。過去を抱きしめることは、もう何も解決しないことを。
「月よ、どうか教えてくれ。」彼女は涙が溢れそうになるのを必死で堪えながら呟く。「あの人がまだ私を覚えていてくれるだろうか。」
月の光は優しく、その問いに答えるように、ネロの肩を照らし続ける。しかし、何の答えも返ってこない。それが、最も辛いことだとネロは感じていた。答えがないということ。それでも、彼は何度も問いかける。月が冷たいだけでなく、世界が冷たいと感じるからだ。何もかもを失い、ひとりぼっちになった心に、少しでも温かさを求めているのだ。
「花束が散った後、私は何をすればよかったんだろう。」ネロの声は、小さく、しかし確かに夜の闇に響く。「どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。あの人が私を必要としていたことを。」
彼女の中で、過去の記憶が鮮明に蘇る。あの人が微笑んでいた顔、二人で歩いた道、そしてお互いに交わした約束。あの瞬間、すべてが永遠に続くかのように感じていた。しかし、現実は無情で、約束を守ることなく時は過ぎ去り、残ったのは後悔と痛みだけだった。
ネロは肩を震わせながら、月を見上げる。今、彼にできることは、過去の自分を許すことだけだ。しかし、それがどれだけ難しいことか、彼は知っている。許すことができたとしても、あの人はもう戻らない。花束も月も、戻ってきてはくれない。
涙がこぼれ落ち、冷たい風がその頬をなでる。ネロはそのまま立ち尽くし、ただ静かに涙を流す。それが、彼にとって唯一できる儀式だった。花束のように、過ぎ去った幸せを、月の光の下で、ほんの少しだけでも感じたくて。
「ごめん。」ネロはただ、静かに、そして心から呟く。「本当に、何もかもが遅かったんだ。」
その言葉は、あの人への最後の謝罪だった。もう二度と届くことはないその言葉を、彼は空に向かって吐き出す。月は、何も言わずにその言葉を受け入れる。優しく、しかし冷たい光で彼を包み込んでくれるだけだ。
そして、ネロはその夜、再び一歩を踏み出す。過去を背負いながらも、前に進むしかないことを知っているから。月と花束が示すように、愛するものを失った痛みは永遠に消えない。しかし、それでも彼は生きていかなければならない。涙を流し、胸の奥であの人への想いを大切に抱きながら、彼は歩き続ける。
月が照らす道を、ネロは一人で進んでいく。それが、彼の選んだ未来だから。