二次創作小説(新・総合)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【fate二次創作】白い吐息の向こうに
- 日時: 2025/02/15 17:27
- 名前: きのこ (ID: nZYVVNWR)
寒さが肌に突き刺さるような夜だった。
アイリスフィールは、薄暗い部屋の中で一人、窓の外を見つめていた。
外には細かな雪が舞い、静かな冬の風が家の隙間をすり抜けていく。
彼女の心もまた、この冬のように静かで冷えたものだった。
「セイバー、まだ戻らないの?」アイリスフィールは小さく呟いた。
その声は、どこか切なさを帯びていた。セイバーは何時も彼女を守り、支え続けてくれていた。
しかし、時折その心の中で、セイバーが抱える重責にアイリスフィールは苦しむことがあった。
王としての使命と、彼女としての人間らしい感情との間で引き裂かれているように見えるセイバーに、アイリスフィールはどう接すれば良いのか分からない時がある。
だが、その心配とは裏腹に、セイバーはいつも全力で彼女を守り、支えてくれた。
「戻りました。」セイバーの声が、冷えた空気を切り裂くように響く。
アイリスフィールは振り向くと、セイバーが扉を開けて部屋に入ってきたのを見た。
セイバーは冬の冷気を一緒に運びながら、アイリスフィールに微笑んだ。
その笑顔は、どこか寂しさを湛えているように見えた。
「セイバー…」アイリスフィールは立ち上がり、セイバーの元へ歩み寄った。
彼女の瞳は、セイバーを見つめるその瞬間、深い思索に沈んでいた。
セイバーは王として、アイリスフィールに優しく接し、常に彼女を守ろうとしてくれた。
だが、彼女はその優しさが、セイバーをどれほど苦しめているのか、理解していた。
「私たちは、どうしてこうも遠くなるのでしょうか?」
アイリスフィールの問いかけに、セイバーは少し驚いた表情を見せるが、すぐに冷静さを取り戻す。
「遠く、という意味は分かりません。」
「あなたは、王としての責任を背負っている。だから、私たちの間にあるものが、どうしても薄れていく気がしてならないの。あなたが私を守りたいと思うほど、あなたは自分を犠牲にしていくのよ。」
アイリスフィールの言葉には、深い苦しみが込められていた。
セイバーはその言葉を静かに聞き、無言で頭を垂れる。
彼女の心は揺れていた。それが彼女の力であると同時に、彼女を傷つける原因でもあると、セイバーは知っていた。
「私が選ぶべき道は、王としての道だけです。それが私に与えられた役目なのです。」
セイバーの言葉は、どこか冷徹でありながらも、その中に無限の悲しみを湛えている。
アイリスフィールはその言葉を聞き、胸が締め付けられる思いを感じた。
彼女はセイバーの痛みを理解していた。しかし、その痛みを癒す術は見つからなかった。
アイリスフィールは、セイバーの手を取る。
「あなたがどんなに苦しんでも、私はあなたのそばにいるわ。あなたがどんな選択をしても、私はそれを受け入れる。それが私の役目だから。」
その言葉を聞いたセイバーの顔に、ほんのわずかに涙が浮かぶ。
それでも、彼女はアイリスフィールに微笑んだ。
「ありがとう。」
その瞬間、アイリスフィールは心の中で何かが崩れ落ちる音を聞いた。
それは彼女の涙腺が崩れる音だった。
アイリスフィールの優しい言葉が、セイバーの心に深く突き刺さった。
彼女が自分に微笑むたび、セイバーの中で「王」という存在がどれだけ重いかを再確認していた。
アイリスフィールは、セイバーがどれほどの苦しみを抱えているか理解し、その中で彼女のそばにいてくれようとしている。
しかし、それがどれだけセイバーを縛るものかもまた、セイバー自身が痛感していた。
だが、今はそのことに深く悩んでいる場合ではなかった。
アイリスフィールの心の中に潜む不安も、また無視できない。
その夜、切嗣は二人の元に戻ってきた。彼は静かに扉を開け、部屋に入った。
彼の顔にはいつものように疲れがにじみ、目の奥に深い決意を感じさせた。
アイリスフィールとセイバーは、同時に切嗣を見た。
その視線に込められた思いを、切嗣は理解している。
しかし、彼はそれに答えることはなかった。
彼にとって、今はただひたすらに進むべき道を歩むことが最も重要なことだった。
「アイリ」切嗣は簡潔に言った。「準備は整った。」
「もう、戦いが近いのね…」アイリスフィールの声に、どこか覚悟を決めた響きがあった。
彼女は切嗣の決意を知っているからこそ、今は何も言えない。
言葉で止められることがあれば、どんなに嬉しいだろう。
しかし、アイリスフィールは知っている。切嗣は、止められない。
「ああ。」切嗣は短く答え、ふっと息を吐いた。「すぐに出発する。」
セイバーは切嗣を見つめるだけだった。
彼女の目には、言葉にしない怒りと無力感が混ざり合っているのがわかる。
彼女は、切嗣に対して一度も求められたことのない答えを期待している。
しかし、切嗣はその目を無視して、冷たく視線を逸らす。
セイバーの胸に、再び怒りと痛みが込み上げてきた。
切嗣は、彼女を無視し続けている。
その視線を受け入れることが、どれだけ辛いことか… セイバーは何度も口に出そうとした言葉を飲み込んだ。
彼女がどれほど心の中で叫んでも、切嗣は一度も振り向かない。
それが、彼にとっての「正義」なのだろう。
アイリスフィールがセイバーにそっと手を差し伸べると、セイバーはその手を軽く握り返した。
彼女の目に涙が浮かんでいるのが見えたが、セイバーはそれを無視することなく、彼女の温もりを感じた。
アイリスフィールの存在だけが、今の切嗣とセイバーの心を支えている。
その夜、家の外では激しい風が吹き荒れていた。
雪はさらに強く降り、まるで世界が閉ざされてしまったかのような感覚を与える。
切嗣は部屋の隅で黙々と準備をしていた。
その姿を見ながら、アイリスフィールは少しの間、言葉を探していた。
「切嗣…」アイリスフィールは、ようやく口を開いた。
「あなたがどれほど辛いのか、私にはわかる。でも、あの戦いが終わったら、私たちがどれだけ傷つくか…それを、私は怖い。」
切嗣は手を止め、振り返ることなく答える。
「それが、僕の選択だ。アイリ、君もわかっているだろう。僕が選んだ道は、間違いなく孤独だ。だからこそ、君にはこれ以上心配させたくはない。」
「でも、あなたは一人ではないわ。」アイリスフィールの声には、強い決意が込められていた。
「私が、セイバーが、あなたと一緒にいるわ。」
切嗣はその言葉に返事をしなかった。ただ、静かに目を閉じ、もう一度、未来を見つめた。
彼の中で何かが動いているのは確かだった。
しかし、それをどうしても口にすることができなかった。彼にとって、選択肢はただ一つしかないのだ。
その夜、セイバーとアイリスフィールは、切嗣と共に静かに過ごしていた。
だが、二人の心の中にはそれぞれの葛藤と不安が渦巻いていた。
翌日、切嗣が出発の準備を終えたとき、アイリスフィールとセイバーは彼に同行することを決めた。
切嗣が何も言わずに背を向けようとしても、アイリスフィールはしっかりとその手を握り、セイバーは決して彼を見放すことなく支える覚悟を持っていた。
「行きましょう、セイバー。」アイリスフィールは、セイバーに向かって言った。
セイバーは頷き、静かにその場を離れる。
「私たちも行く」アイリスフィールがその背を追いかけると、セイバーはただ黙って歩き始めた。
彼女の瞳には、過去の約束を守るための強い決意が込められている。
切嗣は前を向き、歩みを進める。
彼の背中はどこまでも遠く、アイリスフィールとセイバーの気持ちを引き離していくように感じられる。
しかし、アイリスフィールはその背を追い、セイバーもまた、彼女の側を離れない。
彼らの物語は、もう後戻りすることができない地点に達していた。
それでも、アイリスフィールとセイバーは、切嗣と共に歩む道を選ぶ。
どんな未来が待ち受けていようと、それが彼らにとっての「正義」なのだと信じて。
次の朝、アイリスフィールはふと目を覚ました。
その目の前には、すでに準備を終えた切嗣が立っていた。
セイバーもまた、その隣で静かに立っている。
「行こう。」切嗣は低く言った。
アイリスフィールとセイバーは頷き、歩き出した。
どんな運命が待ち受けているのか、誰も知らない。しかし、二人はただ、切嗣と共に進むことを選んだ。
その先に待つ、どんな結末でも――。