二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【月姫二次創作】儚き死と無垢なる視線
日時: 2025/02/22 15:45
名前: きのこ (ID: ovLely7v)


プロローグ

遠野志貴は、降りしきる雨の中、足音を忍ばせて歩いていた。

冷たい風が吹き、都市の雑踏が遠くにぼやけている。

普段通りの静かな、どこにでもある日常のようだ。

しかし、この日の空気は何かが違った。

どこからか視線を感じる。無意識に目を細め、眼鏡を少し調整する。

「……?」

雨に濡れたコートの裾を引き摺りながら現れたのは、黒い振袖に革ジャンという異彩を放つ人物だった。

姿に目を奪われるのも束の間、志貴は彼女――両儀式の眼差しを受け止めた。

式は、彼の視界に入り込むことなく、ただ冷徹な視線を向けている。

まるで、彼を見透かすように。

志貴の「直死の魔眼」は、相手の死を視ることができる能力だが、それがどうにも不気味に感じられる相手もいる。式がその一人だった。

「お前が遠野志貴か。」低い声が耳に届く。

式の声には感情がないように響くが、逆に志貴を引き寄せる何かを持っている。

志貴は無意識に一歩下がり、手にしたナイフの柄に指を絡ませた。

まるで、彼女との距離が縮まるたびに、手元の刃が震えるように感じた。

「まあ、そうだが。あなたは……?」

「俺の名前など、どうでもいい。」彼女の目がじっと志貴を捉える。

どこかで何かが弾けるような音が聞こえた気がした。

それは単なる気配のようなものだったが、志貴の中で何かが反応した。

今、この瞬間、彼が知っている死という概念が、彼女の存在そのものに干渉しようとしている。

これは戦いの予兆だと、志貴は瞬時に理解した。

「お前が死ぬ番だ。」両儀式の目が一瞬、鋭く輝く。

その瞳が、今まさに殺すべき死を視ているのだ。

志貴の目にはその「線」が見えない。

しかし式は、確実に彼の死を見据えている。

彼女の「直死の魔眼」から放たれる死の線は、志貴の体を縦横に切り裂こうとしている。

一瞬、志貴は足を止め、周囲の景色を一瞥した。

雨音が途切れ、静寂が支配する。

両儀式の鋭い目が、志貴の動きを捕らえた。

そして、志貴は微かに笑った。

「なるほど、そうか。」

彼はナイフを構え、体を低く沈める。

両儀式の「線」の中に身を投じるか、それとも――。

その時、両者の死を視る魔眼が、交錯した。

二人の距離が一気に縮まった瞬間、志貴はナイフを振るう。

式もまた、剣のようにその手を動かし、空間を切り裂く。

「お前も、結局、死を見ているんだな。」

両儀式は、志貴の目をじっと見つめる。

その瞳に宿る冷徹さと、見えない死の線に、志貴は心の中で頷く。

彼女もまた、死を視る者だと知っていた。

だが、二人の「死」の視点は、どこか異なる。

互いに死を殺す力を持つ者同士、交わることのない死の線が交錯するこの瞬間。

誰もが予測し得ない戦いが、今、幕を開ける。

彼らの戦いは、決して互いを殺し合うことなく終わるだろう。ただし、その代償として、両者は一生、死を見続けることになるのだ。

だが、それが良しとされる戦いであった。

Re: 【月姫二次創作】儚き死と無垢なる視線 ( No.1 )
日時: 2025/02/22 15:47
名前: きのこ (ID: ovLely7v)


第一章

雨が冷たく地面を叩きつける中、二つの魔眼が交錯した。

遠野志貴はナイフを構えたまま、眼鏡越しに両儀式の瞳を覗き込む。

彼の直死の魔眼は、世界の死を視る。

物体の寿命を示す「線」や「点」を捉え、それを断つことで即座に破壊する力を持つ。

しかし――

式の目に映るのは、彼の視るものとは異なる死の形だった。

「お前が死ぬ番だ。」

式の言葉とともに、彼女の身体が一瞬にして消えた。

志貴の背筋が凍る。視界から消えたわけではない。単純に速いのだ。

――来る。

感覚だけが先に警鐘を鳴らし、志貴は咄嗟に横へと跳ぶ。

背後の雨粒が何かに裂かれたように消えた。

「……っ!」

瞬時に振り返ると、式の手刀が雨を裂いていた。

その爪先ほどの距離で、彼女の指が空を掴む。

「やるな。」式は微かに口の端を上げる。

志貴は無意識に歯を食いしばった。

ただの手刀。だが、あの軌道には「線」がない。

つまり、彼女の攻撃は単なる物理的な打撃ではない。

「俺の魔眼では、お前の線は見えない。」

式が言葉を落としながら、一歩前へと踏み出した。

「だが、"殺す"ことに変わりはない。」志貴は息を呑む。

彼の魔眼は相手の死の「線」を断つもの。

しかし、目の前の両儀式は違う。

彼女は死を「認識」し、概念として殺す。

同じ魔眼を持つ二人。しかし、その在り方がまるで異なる。

『このままでは……』

思考が巡る間にも、式の身体が再び霧のように消えた。

「……っ!」今度は、真正面から殺気が迫る。

志貴は即座に足を踏み込んだ。迎撃するしかない。

ナイフを逆手に構え、眼鏡を外す。

世界の死が視えた。

雨粒の一つ一つが、細く、脆く、滅びる運命を抱えていた。

そして、その中に――

両儀式の存在があった。

「はぁっ!」志貴のナイフが空を裂く。

しかし、刃は式に届くことなく、彼女はわずかに体をひねるだけでかわした。

「遅い。」次の瞬間、志貴の視界が揺れた。

鋭い衝撃が脇腹を打ち抜き、身体が宙を舞う。

『……速すぎる。』

地面に転がると同時に、志貴は転がりながら距離を取った。

Re: 【月姫二次創作】儚き死と無垢なる視線 ( No.2 )
日時: 2025/02/22 15:49
名前: きのこ (ID: ovLely7v)



第二章

雨は依然として降り続いていた。

遠野志貴と両儀式の視線が交差し、一瞬の静寂の中で互いの呼吸音すら聞こえるほどだった。

「……お前も死を視る者だろう?」

志貴はナイフを構えたまま、式の目を見つめる。

その瞳の奥に潜む冷徹な光を感じながら、彼は自身の中に沸き上がる奇妙な興奮を抑え込んでいた。

「お前の魔眼……気に入らないな。」

式は静かに呟き、次の瞬間、彼女の体がぶれた。

人間離れした動きで間合いを詰め、一閃の軌跡を描く。

志貴は咄嗟に身を翻し、間一髪でその刃を避けた。

「速い……っ!」

彼の頬をかすめた風圧が、その一撃の鋭さを物語っていた。

志貴は一度距離を取るが、式は追撃の手を緩めない。

まるで、彼が“死”そのものと戦っているかのような錯覚を覚える。

「お前の『線』、俺には見えない。でもな……」

式は小さく息を吐くと、再び構えた。

「死は、等しく訪れるものだ。」

次の瞬間、二人の刃が激しくぶつかり合った。


第三章 

「…やめるんだ」

鋭い声が響いた瞬間、二人の動きが止まる。雨の中、傘も差さずに駆けつけた青年が、息を切らしながら立っていた。

「幹也……?」式が小さく呟く。

彼女の表情がわずかに揺らぐのを、志貴は見逃さなかった。

「式、なんで戦ってるんだ?」

黒桐幹也は二人の間に割って入り、両腕を広げるようにして制止する。

「そいつが、俺と同じ魔眼を持っている……」

式の声には、まだわずかに敵意が残っていた。しかし、幹也は静かに首を振る。

「誤解だよ。彼は……殺すためにここにいるわけじゃない。」

志貴は息を整えながら、ゆっくりとナイフを下ろした。

「……確かに、俺も一瞬、思った。でも、戦う理由がどこにもなかった。」

雨が静かに降り続ける中、式はじっと志貴を見つめる。

その視線には、わずかに迷いが滲んでいた。

「……お前がそう言うなら、そうなのかもしれない。」

幹也が頷くと、式はナイフをしまい、背を向ける。

「ただし……気に入らないことには変わりない。遠野志貴、また会うことになるかもしれないな。」

そう言い残し、式は闇の中へと消えていった。

志貴は幹也と顔を見合わせ、小さく肩をすくめる。

「なんだか、とんでもない夜になったな……」

雨は、静かに二人の上に降り注ぎ続けていた。

Re: 【月姫二次創作】儚き死と無垢なる視線 ( No.3 )
日時: 2025/02/22 15:51
名前: きのこ (ID: ovLely7v)


エピローグ

雨は止み、夜の街には静寂が戻っていた。

街灯が濡れた路面を照らし、点々とした光の輪が続いている。

遠野志貴は、額に滲む汗を拭いながら息を整えた。

式の姿はすでに消え、まるで最初からそこにいなかったかのように思えた。

「……まったく、大変な目に遭ったな。」

そう呟くと、隣に立つ幹也が苦笑しながら肩をすくめた。

「いや、驚いたよ。まさかこんな風に君と式が出会うなんてね。」

幹也の温かい眼差しが、緊張していた志貴の心を少しだけ和らげる。

誤解が解け、戦いは防がれたが、それでも彼の胸には妙な感覚が残っていた。

――あの瞬間、確かに「死」が交錯していた。

あのまま戦っていたらどうなっていたのか。

志貴には分からない。だが、一つだけ確かなことがある。

「彼女は……俺とは違う。」

ぽつりとこぼした言葉に、幹也は微かに目を細めた。

「そうかもしれない。でも、君たちはどこか似ているとも思うよ。」

志貴は何も言わず、夜空を仰いだ。

雲の切れ間から月が顔を覗かせ、その光が静かに街を包む。

両儀式のことを思い浮かべる。あの鋭い眼差し、感情の読めない声。

彼女もまた、「死」を視る者。

けれど、その眼が映すものは、きっと志貴のそれとは違う。

「また、会うことがあるのかな。」

ぼんやりと呟くと、幹也が微笑む。

「式のことだからね。君が望もうと望まなかろうと、またどこかで会うんじゃないかな。」

志貴は小さく笑い、静かに歩き出した。

夜の街は静寂を取り戻し、彼の足音だけが響く。

その背中を見送る幹也も、ふと夜空を見上げ、目を細めた。

どこかで、両儀式もまた同じ月を見ているのだろうか。

彼らの「死の眼差し」が再び交わる日は、そう遠くないのかもしれない。

夜風が静かに吹き抜け、志貴は足を止めることなく、その先へと歩いていった。


Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。