二次創作小説(新・総合)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【fate二次創作】優雅なる支配者の戯れ
- 日時: 2025/03/02 19:26
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
ロンドンの空はいつものように灰色だった。
時計塔の重厚な建物の中、グレイは静かに歩いていた。
ローブのフードを深く被り、アッドを手に携えながら。
「グレイ、今日はいつもより遅かったじゃないか。」
ライネス・エルメロイ・アーチゾルトが気だるげに声をかけた。
いつものように豪奢なソファに座り、足を組んで紅茶を片手にしている。
彼女の傍らには、見慣れた銀色のティーセットが揃っていた。
「申し訳ありません、ライネスさん。」
グレイは一礼しながら、ライネスの向かい側に腰を下ろした。
その動作ひとつにも、墓守の一族としての慎ましさがにじんでいる。
「まあいいさ。君がここに来るまでの間、私はとても退屈だったんだからね。」
ライネスはカップを持ち上げながら、からかうような笑みを浮かべた。
「それは…申し訳ないです。」
「ふふ、冗談だよ。でも、グレイ。君はもう少し自分の時間を持つべきだと思うよ。」
「私の時間、ですか?」
ライネスは湯気の立つ紅茶を一口飲み、満足げに微笑んだ。
「そうさ。君はいつも兄上のことばかり考えている。けれど、君自身のことを考えたことはあるかい?」
「私は…その…」
グレイは言葉を探しながら、視線を落とした。
確かに、彼女の生活の中心はロード・エルメロイⅡ世であり、師のために動くことがほとんどだった。
ライネスはその様子を見て、意地悪く微笑んだ。
「たとえば、私との時間をもう少し大切にしてみるとかね?」
「……?」
グレイは困惑したように顔を上げる。
ライネスはゆっくりとカップを置き、その瞳をグレイに向けた。
「君は真面目すぎるんだよ、グレイ。だからこそ、私は君といるのが楽しいのさ。弄り甲斐があるしね。」
「そ、そんな…」
「でもね。」
ライネスは足を組み直し、グレイの目をじっと見つめた。
その視線は、冗談の色を帯びているようで、しかしどこか真剣だった。
「君とこうして過ごす時間は、退屈しのぎのつもりだったけれど、気づけば私にとって大事なものになっていたみたいだよ。」
「……ライネスさん?」
「だから、もう少し私に甘えてみてもいいんじゃないかい?」
グレイは言葉を失った。
ライネスの言葉はいつも冗談めかしているが、それが完全な嘘でないことはわかる。
静かな時間が流れる。
やがて、グレイはそっと手を伸ばし、ライネスのカップに自分のティーポットから紅茶を注いだ。
「……では、お茶のおかわりをどうぞ、ライネスさん。」
「ふふっ、それでいいのさ、グレイ。」
ライネスは満足そうに微笑みながら、再び紅茶を口にした。
その時、時計塔の重厚な扉がゆっくりと開いた。
「やれやれ、こんな時間までお茶会か」
低く響く声とともに
――ロード・エルメロイⅡ世が姿を現した。
グレイは驚いて立ち上がりかけたが、ライネスは涼しい顔でカップを傾けた。
「師匠、珍しくお暇なんですね?」
「お前が暇すぎるだけだ。」
エルメロイⅡ世はため息をつきながらグレイに視線を向ける。
「グレイ、たまには自分のことを考えろ。弟子である前に、一人の人間なんだからな。」
「……はい。」
グレイは少しだけ微笑み、再び椅子に腰を下ろした。
ライネスはそんな彼女を満足げに見つめ、そっともう一度カップを持ち上げた。