二次創作小説(新・総合)
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- 【fgo二次創作】ひと夏の思い出
- 日時: 2025/03/09 19:58
- 名前: きのこ (ID: /.YWlUQc)
カドック・ゼムルプスは、じりじりと肌を焼く太陽の下で死にかけていた。
いや、比喩ではなく本当に死ぬのではないかと疑うレベルである。
「……無理だ……。なんで僕がこんな目に……」
砂浜に座り込み、遠い目をする。
白い肌には既に赤みが差し、汗が頬を伝っている。
「カドック、大丈夫?なんだか顔が死にかけてるわよ」
隣でパラソルの影にすっぽりと収まりながら、アナスタシアがのんびりと微笑んだ。
彼女はいつもの優雅なドレスではなく、白と青を基調とした軽やかなワンピース姿。
髪を纏めたせいか、涼しげな印象すらある。
「……アンタが平然としてるのが信じられない。皇女ってのは、暑さにも強いのか?」
「まさか。暑さには滅法弱いわ。ええ、信じられないくらいにね。でも、パラソルの下は涼しいのよ」
カドックは恨めしそうにパラソルを見上げた。
「なら、僕にも少しは入れてくれたっていいだろ……」
「ええ、もちろん。……でも、カドックはせっかく海に来たのだから、ちゃんと夏を楽しむべきよ?」
アナスタシアはくすりと笑うと、彼の肩をぽんぽんと叩いた。
「……この地獄で、どう楽しめと?」
カドックはぐったりと肩を落とした。
砂は熱を帯び、足元からも容赦なく灼熱が襲いかかる。
さらに潮風が吹くたびに熱気がまとわりつき、全身が蒸し焼きにされている気分だった。
白い肌が焼けていくのがわかる。
「なあ……もう帰ろう……。ロストベルトより過酷だ……」
「ダメよ。せっかくの海なのだから、楽しんでいきなさいな」
アナスタシアは優雅に貝殻を拾いながら言う。
無邪気な表情にカドックは思わず頭を抱えた。
「お前は楽しそうでいいよな……。暑さが苦手とか言ってたくせに」
「ええ、本当に嫌いよ。でも、こうして砂浜でカドックと過ごしているのは楽しいもの」
にっこりと微笑む彼女を見て、カドックは反論できなくなる。
「……まあ、お前が楽しそうなら……いいけどさ……」
「そうそう。ほら、カドックもちゃんと水分を摂らないと倒れるわよ?」
アナスタシアは手元のグラスを差し出した。
カドックは訝しみながら受け取る。
「……何を入れた?」
「フローズン・モスクワミュール。カドックも好きでしょう?」
「いや、酒はこの暑さじゃ危ないだろ……」
カドックは呆れながらも、一口だけ飲む。
冷たい液体が喉を滑り、ほんの少しだけ生き返る気がした。
「……はあ、僕は本当に、お前には勝てないな……」
「ふふ、当然よね?」
そんな他愛もないやり取りをしながら、カドックは結局、アナスタシアの隣に腰を下ろすのだった。
「ほら、海風が気持ちいいわよ?」
アナスタシアが穏やかに微笑みながら言う。
カドックは半信半疑で目を閉じる。
確かに、さっきまでの灼熱地獄に比べれば、日陰の風は少しだけ心地よく感じた。
「……まあ、これくらいなら……まだ耐えられるか……」
「ふふっ、それなら良かったわ」
アナスタシアは満足そうに頷き、また砂の上で小さな貝殻を拾い始める。
カドックはぼんやりと彼女の動きを眺めながら、冷えたグラスを手のひらで転がした。
しばらく静かな時間が流れた。
「……ねえ、カドック?」
「ん?」
「せっかくだし、海に入ってみる?」
「……無理。僕はここから一歩も動かない」
即答するカドックに、アナスタシアはくすくすと笑う。
「じゃあ、少しだけでも足をつけるのは?」
「……それなら……まあ」
「ふふ、それじゃ決まりね。さあ、行きましょう」
結局、彼女に押し切られる形でカドックは渋々立ち上がるのだった。