二次創作小説(新・総合)

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【fgo二次創作】アーチャーのバリスタ講座
日時: 2025/03/09 21:01
名前: きのこ (ID: /.YWlUQc)


「おい、士郎。お前、コーヒーをなんだと思っている?」

アーチャーは腕を組みながら、じっと士郎を見下ろした。

キッチンのテーブルには、無造作に置かれたコーヒーメーカーとインスタントコーヒーの瓶。

そして、おそらく士郎が適当に淹れたのであろう黒い液体が湯呑み茶碗に注がれていた。

「え? いや……普通に、眠気覚ましとか、料理の風味付けに使ったりとか……」

「違うな。コーヒーとは、一杯に魂を込めるものだ」

言い切るアーチャー。

その眼差しは、どこか遠くを見ているようだった。

まるで「経験者」の顔である。

士郎は若干面倒くさくなりながらも、彼の講義に付き合うことにした。

「まず、お前のその適当な道具を捨てろ」

「捨てるって、いやいや、普通に使えるし……」

「使えるかどうかではない。美味いコーヒーを淹れられるかどうかが問題だ」

そう言いながら、アーチャーはいつの間にか完璧に揃えたコーヒー器具をテーブルに並べていた。

ペーパードリッパー、温度計付きのケトル、豆挽き用のミル、さらにはこだわりのカップまで完備。

士郎は目を丸くする。

「お前……どこからこんなものを?」

「衛宮邸の備品だ」

「そんなのあったか……?」

「なかった。だが今はある」

「……増えてるってことかよ」

士郎は小さくため息をつきながら、観念してアーチャーの指示に従うことにした。

「まず、コーヒーの味を決めるのは豆だ。質の悪い豆からは、質の悪い味しか生まれない」

アーチャーはそう言いながら、複数のコーヒー豆を並べる。

深煎り、中煎り、浅煎り……

それぞれの特徴を丁寧に解説しながら、士郎に香りを嗅がせる。

「お前は料理をするから分かるだろうが、素材の質を見極めるのは基本中の基本だ。だが、どんなに良い素材でも、扱い方を間違えれば台無しになる。それは食材も、そしてコーヒーも同じだ」

「なるほどな……」

「次に、豆を挽く。挽き方にも種類があるが、今日はペーパードリップ向けの中挽きでいく」

そう言って、アーチャーはミルを回し始めた。

カリカリという心地よい音が響き、辺りには芳醇な香りが広がる。

「……この作業、なんか落ち着くな」

「ふん、ようやく分かってきたか」

「お湯の温度は、92℃前後が理想だ。沸騰したばかりの湯は温度が高すぎて、苦味が強くなりすぎる」

「そんなに細かく管理するのかよ……」

「当然だ。お前は肉を焼く時、火加減を適当にするのか?」

「……しない」

「ならばコーヒーも同じだ」

士郎は渋々納得しながら、温度計を確認する。

「さて、注ぎ方だが……一気に注ぐな。中心から小さな円を描くように、ゆっくりと」

アーチャーの動作は滑らかで、無駄がない。

まるで戦場で弓を引く時のような、静かで洗練された所作だった。

「なるほど……ドリップも戦いってわけか」

「違うな。これは芸術だ」

数分後、カップに注がれたコーヒーは、見た目からして明らかに士郎が適当に淹れたものとは違っていた。

芳醇な香りが漂い、深みのある色をしている。

「……飲め」

士郎は一口含み、驚いたように目を見開いた。

「……うまい」

「当然だ」

「いや、本当に美味いな……香りもいいし、苦味と酸味のバランスがちょうどいい」

「だから言っただろう。コーヒーとは、一杯に魂を込めるものだとな」

アーチャーは満足げに腕を組み、どこか誇らしげな表情を浮かべた。

「しかし、お前にこれを毎回再現できるかは別の話だがな」

「……くそ、覚えてやる」

「ふっ……ならば、これから毎朝俺が叩き込んでやろう。覚悟しろ、衛宮士郎」

「な、なんでさ……!」

こうして、士郎の朝の時間に「アーチャーのバリスタ講座」が組み込まれることとなった。