二次創作小説(新・総合)

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無限泡影 【逃げ上手の若君】
日時: 2025/04/04 23:05
名前: 酒杯 (ID: ir9RITF3)

【はじめに】
この作品は【逃げ上手の若君】及び南北朝時代の様々な書物を参考にした二次創作です。アニメ勢の方は思いっきりネタバレのため注意してください。登場人物や地名には敢えてルビを振っていないため、調べてみて、深めて頂けたら幸いです。この作品を読んで【逃げ上手の若君】ひいては歴史に興味を持ってくださると嬉しいです。
【あらすじ】 時は鎌倉時代末期。約150年続いた鎌倉幕府の地盤が揺らいでいる。時代は変わり始めている。これはその激動の時代を駆け抜けた若武者共の物語である。
【登場人物】
〔朝廷側〕
 〘相模三浦氏〙
 三浦高通⋯この作品の主人公。相模の没落した名家、相模三浦氏の分家。非常に理知的な性格だが傲慢で周りは自分より劣っていると思うフシがある。
 三浦八郎⋯相模三浦氏の本流。一族でも煙たがられている高通を気にかけている
〘足利氏〙
 足利直義⋯源氏準嫡流である足利氏の三男。かなりの頭脳派で、幕府の政を引き受ける。理性的だが兄のことになると感情的になる。
 足利尊氏⋯室町幕府初代将軍。戦が滅法強く神がかっていると言われる。性格は温厚だが、何を考えているか分からない部分もある。
 高師直⋯足利氏を取りまとめる執事。狡猾な手も辞さない冷酷な性格をしている。料理が得意で彼の作るうどんは絶品である。
〘京極氏〙
 佐々木(京極)道誉⋯婆娑羅と呼ばれる武士の筆頭、様々な謀略や策略で高氏の手助けをする。
 魅摩⋯道誉の娘。神力を扱う。乱暴な口調が特徴。
 〘新田氏〙
 新田義顕⋯新田義貞の長男。武術は平凡だが人の能し悪しを見分ける能力に長けている。全体的に脳筋な新田氏をまとめる影の功労者。
 新田義貞⋯源氏準嫡流として尊氏と共に北条を滅ぼさんとする。お頭はお世辞にも優れているとは言えないが、武力は上澄みである。
 脇屋義助⋯義貞の弟であり新田氏の中で理性的な人間。兄のストッパーとして新田一族に頼られている。
〘朝廷〙
 後醍醐天皇⋯ 何度も倒幕を試みては流罪にされている。学が高く、大らかな人物。
 〔幕府側〕
 北条時行⋯北条得宗家嫡流であり唯一の生き残り。打倒足利に燃える。心優しい性格で仲間思い。

Re: 無限泡影 【逃げ上手の若君】 ( No.1 )
日時: 2025/04/02 23:36
名前: 酒杯 (ID: ir9RITF3)

第一章【海千山千】

磯の香りは好きになれない。
三浦次郎(後の三浦高通)は顔を顰めた。
次郎は海が嫌いであった。
彼にとっては、何時も気まぐれで気がつけば引きずられるような恐怖の象徴のようなものであった。
だが、相模三浦氏の所領は海の近く故、いつも嗅がねばならなかった。
しかし、海と組みたくもない縁のある次郎が海から唯一逃れられる時があった。
それは、足利氏の所領に参る時である。
足利氏は北条を除く鎌倉幕府の中で最も広大な所領と武力を持っていた。
その足利氏所領の下野は内陸、つまり海がない。
それに加え、次郎が数少ない好意を持っている相手に会える至極の時でもあるのだ。
口うるさい親父殿にも顔を合わせずに済む。
齢十の彼にとってこれ以上に嬉しいことはなかった。

「久しいな」
随分と大きくなったものだと独りごちるのは足利高国(後の足利直義)である。
浅葱色の狩衣が彼の精悍な顔立ちによく似合っていた。
次郎は深々と平服する。
「お久しゅうございまする高国様」
「して、其処許の話上手くいっておるか」
「芳しゅうございまする」
次郎は力強く頷く。
其処許の話とは北条追討の件である。
昨年、京の後醍醐帝が反乱を起こし隠岐に流罪されたのである。
また、悪党と呼ばれる領を持たぬ武士も後醍醐帝に連なり反旗を翻した。
その鎮圧を収めたのが高国の兄、足利高氏(後の足利尊氏)であった。
幕府では高氏の評判は鰻登りであり、義経公以来の軍神の再来だとも言われている。
「高氏様が後醍醐の帝と心近しいというのは真にございますか?」
次郎は問うた。
最近、その軍神が都と繋がっているのではないかという噂が流れているのだ。
高国は首を縦に振りながら
「兄上の詠まれた歌が帝のお目に適ったのだ。あれから兄上は帝に忠義を誓っておる」
ため息をついた。
「もう鎌倉幕府は崩壊する。その時おそらく兄上は討伐の将に選ばれる。その際、私も兄上と共に京へ向かおうと考えている」
「六波羅にございますか⋯」
六波羅探題は朝廷を監視する役目を司っている役所である。
そこには北条の分流である名越流の人間がいる。
確かに、京で反旗を翻せば鎌倉への連絡が遅れる。
そこで鎌倉でも同じことをすれば⋯
「お待ちを。鎌倉は誰が受け持つのでございましょうか」
「そこだ。故に我らは二本の矢を放つ。一本は我が足利。もう一方は⋯」
まさか。
「新田様、にございますか⋯」
新田氏とは足利氏と並ぶ源氏準嫡流の氏族である。
「そうだ。お前には新田殿についてもらいたい。こちらの息のかかった者が必要ゆえ」
策は単純である。
京と鎌倉で同時に反乱を起こす。
「承知致しました。直ぐに取り掛かります」
次郎が立ち上がった時そうだ、と高国は手を打った。
「お主が新田の所領、上野に行くことは親父殿に伝えてあるそれと⋯」
「それと?」
「そちらには兄上のご嫡男を預けるつもり故、任せたぞ」
ゴチャクナン⋯ご嫡男!?
「はぁあ!?」


Re: 無限泡影 【逃げ上手の若君】 ( No.2 )
日時: 2025/04/03 15:43
名前: 酒杯 (ID: ir9RITF3)

「何故私が⋯」
これは上野に向かう道中である。
次郎は項垂れながら馬に揺すられる。
それにしても随分と大胆な策を投じたものだ。
嫡男が死ねば家は没落の一途を辿る場合も多い。
それを源氏準嫡流といって足利とは比べ物にならないほど格下、ひいては分家の家に預けるとは。
高氏の嫡男、千寿王(後の足利義詮)は後より合流する算段らしい。
「まだ年の瀬二つか三つじゃなかったか?」
存外、高国様は肝の据わっている方だと認識を改めたのだった。

上野は現在の群馬県と埼玉県の一部にあたる。
新田氏の領地は群馬と埼玉の県をちょうど跨いでいる。
しかし上野を治めているのは北条氏。
数々の御家人を粛清してきた彼等にとって新田を滅ぼすことは造作もないだろう。
「成程、そちらではそのような算段であるか」
どかりと胡座を組んだのは色黒の大男、新田義貞である。
視界の端に?が見えるのは気の所為であろうか。
次郎が事のあらましを説明した次第である。
「遠路はるばるご苦労であった。ところで何方は幾つじゃ?」
「十にございます」
義貞は手を打った。
「そうか、俺の息子と年が近いな。この機会に是非仲良くしてやってくれ」
そして、奥に向かって声をかけた。
「小太郎!来てくれ」
「父上、私は既に元服した身にございます。義顕とお呼びくださいませ」
奥からでてきたのは、父に比べると線が細く、やや色白な青年である。
「我が名は新田義顕と申す。以後宜しくお頼み申します」
深々と頭を下げる様は豪快な義貞とは対照的であった。

上野は次郎の故郷と違って山が多い。
足利領下野とも異なる新鮮な環境である。
次郎は義顕に連れられて辺りを散策していた。
年は十五、この時代であれば立派な大人である。
義顕は歩きながら言った。
「私は父と違い、武芸に長けておりませぬ。故に策を使い父上をお支えしていく所存」
「⋯」
「何故に新田なのですか」
義顕が問うた。
準嫡流以外に理由があると分かった上で聞かれている。
「今はお答えできませぬ。誰そに聞かれると困ります故」
ここは正直に答えた。
嘘を付くのは次郎の矜持が許さない。
「⋯私も武芸に秀でておりませぬ」
次郎は言った。
「しかし、わが恩師に言われたのです。太刀が振れぬのならここを使えと」
次郎が指さしたのは
「頭か」
次郎は頷く。
「そうか⋯」
「こちらには武は義貞様がおります。知は我々が力を振るうべきかと」
「父上の武は心配無用ですから」
義顕は胸を張った。
打倒北条を掲げ時代は動き始めていた。

Re: 無限泡影 【逃げ上手の若君】 ( No.3 )
日時: 2025/04/04 23:14
名前: 酒杯 (ID: ir9RITF3)

1333年6月12日、この時代では元弘三年四月二十九日。
時代の転機が訪れる。
足利高氏が寝返ったのだ。
事のあらましはこうである。

元弘三年閏二月二十四日、後醍醐天皇が配流先の隠岐を脱出して京へ向かう。
それを討つため、名越高家、足利高氏が鎌倉の総大将として京都へ向かった。
名越高家は北条家一門の一党、名越流の人間である。
弱冠二五歳若武者である。
きらびやかな鎧は鎌倉武士団の士気を上げただろう。
そして軍神、足利高氏。
この二人が揃っているならば負ける筈がなかった。
そう、負ける筈がなかったのだ。
 
三日後、四月二十七日、名越高家が死んだ。
討ったのは赤松円心という朝廷側の老将だ。
足利高氏含む足利氏は援軍を出さなかった。
そして裏切りを宣言したのだ。
この知らせは瞬く間に鎌倉へ伝わった。
鎌倉の目が京に向いている時、ついに時代が動き出す。

事の発端は幕府からの徴税の使者を義貞が切り捨てたことだった。
無論反逆と見なされ所領の没収にあった。
この事件の際、次郎はとある人間との情報交換のために不在であった。
「⋯殺したんですか」
「?⋯嗚呼、そうだ」
屈託のない笑みで義貞が答える。
イカれてる、次郎は得体のしれない恐怖を感じた。
あの時の様に。
「まぁ、過去には戻れませぬ故、計画を早めましょう」

「策は二つです」
次郎は新田邸で集まった武士たちに二本の指を立てた。
「順を追って説明します。まずは鎌倉の防衛についてです」
正直に言って鎌倉の防衛は弱い。
「鎌倉がか?そんな風には見えんが」
義貞が首を捻る。
「そもそも、鎌倉が攻められたことはありません。攻められたことのない城を堅城と言うべきでしょうか」
次郎は首を振る。
「そこで二つの策を用います」
一つ目は七つの切通しを防ぐ策だ。
鎌倉を覆う山を部分的に開き、人が通れる様にした箇所だ。
「ここを塞ぎ逃げられないようにします。その配置は義貞様にに」
「?俺がか?⋯承知した!」
義貞は頷いた。
「そして二つ目、この件に関しては義顕殿にに」
「⋯私が?」

海は嫌いだ。
なのに何故策に海戦を組み込んでしまったのだろうか。
次郎は自分の馬鹿さに頭を抱えた。
上野を東側には利根川がある。
船を使って下り、海から鎌倉を攻めるのだ。
つまり陸と海で挟み撃ちにする。
最も合理的で勝率が高い。
「で、あなた様は⋯」
面をかぶった男に声をかける。
「師直様の天狗ですか」
男は答えない。
「千寿王様と合流致しました。こちらは問題ありません。あなたもご自身の持ち場に戻られては」
次郎が一瞥すると男は海の中に消えた。
「次郎殿、このまま進めば見つかってしまうのでは」
義顕が尋ねた。
相模湾にたどり着く前に陸から見えてしまうのだ。
「心配ありませぬ。この船団を最も早く発見できる土地は我が三浦の領地。報告を遅らせる算段です」
そうかと神妙に頷く義顕であった。

(手強い⋯)
陸上で指揮を執るのは義貞と脇屋義助である。
相対しているのは鎌倉幕府十六代執権、北条守時である。
七つ全てを防ぐのは諦め、小袋坂・化粧坂・極楽寺坂の三方から攻撃することとした。
その中で小袋坂を受け持つ守時が異常に強かった。
「兄上は中央の化粧坂へ向かって下さい。ここは俺が引き受けます故」
「そうか?では任せたぞ!」
義貞は刀を振りかざし、敵を薙ぎ払いながら馬を走らせていった。
「全く兄上は⋯」
義助は頭を働かせる。
小袋坂で前線を張っているのは新田氏の支族、堀口貞満である。
「貞満殿、我等の軍勢は増えつつある。ここまで来たらならば、相手を自害に追い込むしかあるまい」
「北条が滅ぶのですか⋯」
貞満が顔を険しくする。
どうかしたのかと尋ねると
「いえ、私が生まれてから⋯いや、生まれる前からずっと北条が天下を治めていたので実感が沸かなくて」
「それは滅ぼしてから言ってくれ」
言いながら義助は敵の喉元に刀を刺した。
正面にいるのは敵将、北条守時だ。
後方の弓隊に指示を出す。
「放て!」
銀の雨が降り注ぐ。
守時は刀を回して矢を弾くが、すり抜けた矢が彼の肩に刺さる。
堪らず後ろに下がった守時勢を追おうとする貞満を義助は止めた。
「邪魔をしては駄目だ」
首を振った。
暫くし、音がしなくなった守時勢を追った。
元弘三年五月十八日、北条守時自害。
義助は腹を切った守時の首を切り、掲げた。
「貞満殿、貴殿はそのまま小袋坂を抜けてくれ。俺は兄上の元に向かう」
「承知」
ハッと声を上げ馬の腹を蹴り、義助は駆け出した。

『強い』
義貞を表すならばこの言葉で十分である。
獅子のような豪快な刀さばき。
一振りで五人、二振りで十二人と北条兵が倒れていく。
後方で伝令の声がする。
「大館宗氏様に討死です!」
(宗氏が⋯)
大館宗氏は極楽寺坂の攻略を任せていた筈だ。
義貞は体を捻り敵の攻撃を躱す。
「兄上!」
「っ、義助か!」
よく来たと満面の笑みを見せる兄に義助は苦笑する。
「よくぞご無事で」
「俺がこんな奴等殺されると思うか」
「その辺りは信頼しております。それより宗氏殿の報は間違いないか」
義助は伝令に確認を取る。
「はい、しかし極楽寺坂抜くことには成功した模様です」
(良くやってくれた宗氏⋯)
しかし感傷に浸っている場合ではない。
「極楽寺坂の指揮系統、俺に任せて下さいますか」
「嗚呼、死ぬなよ」
弟を見届け、義貞は声を上げた。
「本陣を移動する!極楽寺坂へ全軍前進!」
新田勢がうねりを上げて動き出した。

三浦半島の沿岸。
別働隊を率いた義貞は向こう岸を見入った。
海を渡れば由比ヶ浜。
ここまでたどり着ければ義顕、次郎と共に鎌倉へ攻め入る事が出来るのだが。
「あの海沿い、歩いて渡れば北条共の背を付けないか?」
「無理ですよ⋯歩ける水深ではありませぬ」
部下の一人が首を振る。
暫く思案した後、義貞は海に向かって刀を投げた。
「海よ、刀をくれてやる故浅くなれ」
しかし何の変化もない。
「⋯駄目か」
「何がしたいんだこのバカ殿は」
部下たちの心情が一致した。
すると
「!?」
海が音を立てて引き始めたのだ。
「今なら渡れるぞ!続けぇ!!」
義貞は刀を掲げた。
「何と、本当に海が引いて浅くなるとは」
「バカ殿、お見事だ」
部下たちも後に続いた。
(?バカ殿って誰だ⋯?)
一人首を捻る義貞であった。

その様子を次郎は船上から見ていた。
周りは義貞の武勇を褒め称えるが次郎は訝しんだ。
(本当に人間か?あの娘は)
まさか自然をも操る力があるとは。

数刻前、千寿王と共に乗船してきたのは佐々木道誉と名乗る悪党であった。
その道誉と連立っていたのが魅摩という少女だ。
「あたしは魅摩。この佐々木道誉の娘よ」
「道誉様ということは高氏様の指示に御座いますか」
「そうだよ。っていうか堅っ苦しいね、あんた。まぁ任せてよ新田はどうにかしてやるからさ」
グイグイ来るなこの娘。
「ねぇ、ここから船出して」
「⋯小舟で宜しいですか」
「うん。⋯あんた名前は?」
「三浦次郎に御座います」
三浦か、と頷く魅摩。
「次郎ちゃん」
「ちゃんはお止めください」
「次郎ちゃんってさぁ、強運?」
無視か、コイツ。
次郎は苛ついている自身を抑える。
「⋯どうでしょう。考えたことも無かったため」
敬語は崩さない、崩さない。
「じゃあさ、これ振ってみて」
そう言うと魅摩は懐から二つの賽の目を取り出した。
「はぁ⋯」
言われた通りに賽の目を左手で放った。
ここは顔を立てて外すべきか、しかしこの娘にだけは舐められたくない。
出た目は六と六だ。
「へぇ、運良いじゃん」
「偶々かと⋯」
魅摩が目を細める。
探られている。
あの人にアレの事は話すなと言われている。
次郎は目を逸らし立ち上がった。

「船の用意が出来ました。我が三浦兵もお供させて頂きます」
「ありがと、次郎ちゃん」
「⋯」
魅摩と道誉は小舟に乗り込んだ。
「待たね。どうせ会うだろうから」
ひらひらと魅摩は手を振り、舟は進んでいった。

(あの人が天候を操る力を持っているのは知っていたが⋯)
まさかあの少女も同族だとは。
魅摩は潮を操り新田勢が進めるようにしたのだ。
「もうすぐ上陸するよ」
義顕が声をかける。
「はい」
次郎は右腕の包帯を巻き直しながら言った。
鎌倉滅亡は目の前である。

Re: 無限泡影 【逃げ上手の若君】 ( No.4 )
日時: 2025/04/07 22:33
名前: 酒杯 (ID: ir9RITF3)

倒幕軍が鎌倉になだれ込んだ。
全ての切通しを突破され、自刃する者、討死する者、降伏する者、それぞれであったがそれはもう悲惨なものであった。
次郎は船から飛び降り、勢いのまま敵兵を斬りつける。
「火を放て」
義顕は火矢を放させる。
北条兵も死に物狂いである。
突き出された槍を最小限の動きで躱しながら、次郎は駆け出す。
敵の喉元を的確に切り裂きながら進む。
鎌倉のあちらこちらから火の手が上がる。
「貴様ら⋯斯様なことをして許されると思っているのか!」
北条兵の一人が斬り掛かってくる。
「知りませんよ。許すか許さないかを決めるのは我等ではないでしょう?」
軽く左腕を振るい敵の手を切り落とし、かえしがたtで首を落とす。
切断面の血が飛び散り頬にかかった。
それを親指で拭う。
(別にアレを使うほどの相手じゃないか)
「おお、次郎殿!無事だったか」
声をかけてきたのは義貞である。
「ん?其れは怪我か?」
義貞が指を指したのは右腕の包帯である。
「いえ、此度の戦の傷ではありませぬ」
「其れは良かった。⋯⋯鎌倉が滅んだな」
「ええ、これで終わりです。義貞様は早く京へ行かれては。論功勲章は面倒らしいですよ」
「そうだな。高氏殿にも世話になったと言っておいてくれ」
次郎が頭を下げると義貞は去っていった。
(後は事後処理か⋯)
千寿王様の身柄の確保と、北条が滅んだかの確認だ。
「失礼、そこのお方。北条は何処へ」
「東勝寺という場所で自害したそうだ」
教えてくれた親切な武士に感謝を述べ、次郎は東勝寺へ向かった。

緩やかな坂を登ると寺が燃えていた。
ほとんどは既に炭化していたため、臆することなく中へ入る。
(此奴が北条高時⋯)
北条一族の長である彼は腹を搔き切って死んでいた。
顔を見たことがないからわからないが、着用している着物の質からして、そうなのだろう。
(死ぬ時まで贅沢か)
死体に興味はない。
外にいた新田兵に任せ、義顕と合流すべく歩を進めた。

「北条高時は死んでおりました」
「そうですか。まだ生き残りがいるかも知れませんね、ここ五日程は見張るように指示を出しておきましょう」
義顕は疲れたように笑った。
「私はこれが初陣でした。初めて、人を、殺した」
半ば独り言なのだろう。
義顕はぽつりぽつりと呟く。
次郎は何も言わない。
「これが武士か⋯窮屈なものですね。見たところそなたは初陣ではなさそうですが」
「まぁ⋯」
「とにかく、ご無事で良かったです」
義顕は弱々しい微笑むと去っていった。
⋯⋯あの人は無事に鎌倉を脱出できただろうか。
心配無いとは思うが、やや不安が残る。
(私も本陣へ行くか)
今日は一段と疲れた。



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