SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

螺旋 ( No.14 )

日時: 2015/12/02 20:10
名前: ろろ

 夢を見ていた。君を追いかける夢を、長い長い螺旋階段を君は上っていく。だから、僕も上っていく。

 螺旋階段は終わりなんてなかった。ずっとずっと、延々に続いていた。君は体が弱いから僕は君にすぐ追い付く、けれど、追い付かない。
 なぜなら、あともう少しというところでいつも夢が覚めてしまうから。

 いつからだろう、こんな悲しい夢を見るようになったのは、いつからだろう、君を見るのがこんなにも辛くなったのは、いつからだろう、君はこうしてベットに身を置いて人間の作った医療機器に繋がれているのは、いつからだろう、君の声を聞けていないのは。
 あの日、君は突然倒れた。なんも前触れもなく、いつものきれいな、太陽のような笑顔をしてたのに、君は倒れた。目を閉じた。いまは笑顔なんて言葉は君にはない。ずっと目を閉じて呼吸音だけならしている。
 僕は猫の毛ように柔らかな君の髪を撫でる。ふわふわしている。君の雪のように白く、木の枝のように細い腕をとる。暖かかった。こんなに白いのに、君の手は僕よりも暖かいんだね。
 不思議だ。
 なんでこんなに暖かい手をしているのに君はもう何年も目を閉じているのだろう。君はこんなにも近くにいるのに、遠くにいるように感じるのだろう。
 頬に暖かい線が通る。しかし、暖かい線は、冷たくなっていく。冷たくなって、また、暖かい線に塗り替えられていく。繰り返していく。
「僕は、もっと君の声が聞きたいんだよ、何か答えろよ、悲しくなるだろ」
 そう僕が言っても君は目を覚まさない。大抵の物語は、この台詞をはいたらほぼほぼ目が覚める。けど、君は目を覚まさない。冷たく、瞳を閉じている。

 僕は微笑む。自分の言った言葉を思い返して微笑む。何度あの言葉を口にしただろう。毎日毎日この真っ白い部屋に来て、君の手をとって。
「この白い部屋には窓がないから外の話はできないね」
 そう、無意識に僕はその言葉を口にした。
「そんなことはないよ」
 誰かの声が聞こえた。とても暖かい声で、懐かしい声。その声は続ける。
「そんなことはないよ、たとえ視界に外の世界が見えなくとも、君は私の思出話はできるよ」
 声は僕がとっている細い腕のほうから聞こえた。僕は慌てて下を見る。するとその声の主は、君は、目を閉じていた。しかし冷たく、ではない。笑っていた。とても幸せそうに。暖かく笑っていた。
 けれど、その反対に君の手は、さっきよりも冷たくなっていた。

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