SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

僕とシチューとタコの煮物(仮題) ( No.18 )

日時: 2015/11/08 18:54
名前: 表裏 ◆w2Agp5Gh4I

 僕は目を覚ました。一面にただ真っ白な世界が広がっている。
一体、此処は何処だ?じんじん痛む頭に鉛の様に疲労している肉体。
ふっと再び夢の世界へ落ちて行ってしまいたいと意識が告げている。
「やあ。いまお目覚め?」
 声の方を振り返ると長身の、きっと同年代位であろう青年が立っていた。
白いボディスーツの様なものを着ている。白い世界にポツリと彼の紫色の短い髪の毛が靡いている。
「……おい、お前。此処は一体何処だ。俺は誰だ?」
 低い声が僕の口から出てきた。その声に自分でも少し驚く。
青年は翡翠色の瞳を大きく開き僕の顔を驚いたようにしばらく見てからくすくすと笑った。
「此処が何処か、君が誰か何て、そんなに大事なの?」
 今度は僕が驚く番だった。青年は不思議そうに首を傾げている。
「何でって、そりゃあそうだろう。……例えば、俺が人間である事。お前が人間である事。もし此の二つが違うとするなら……?それは、とても……悍ましい事なんだ」
 青年の俯いて顔にかかった紫の髪が小さくぶるりと震える。そう言った僕もぶるりと震えた。
「でも、たとえ僕や君が人間で無かったとしても僕も君も生きている……其れだけじゃダメなのかい?」
 青年が何事もなったように続ける。僕はその問いに大きく首を振った。
「だって、異種族は野蛮なのさ。俺達が、そう、俺達が正しい方に導かねば……!」
 グッと拳を握り締めるがお腹からぐぅ……と言う何とも気の抜けた音がしてカッコよさが半減、いや其れを通り越してマイナス化した気がする。
顔が熱くなるのを感じて俯くとすぐ傍から楽しそうな笑い声がした。
「丁度、僕もお腹が空いていたんだ。……僕が作ったご飯だから自信は無いんだけどね」
 そう言う優しい声に、僕は慌てて上を向いた。ほかほかとした湯気が立つお盆をいつの間にか彼は持っていて、僕は思わず拝んだ。
「そ、そうか。まあ、食ってやらん事も無いな」
 拝んだ姿のままそう言うと渡されたお盆を受け取った。嬉々としてお盆を見ると、其処には青い液体に沈んだタコの足のような煮物がどっしりと鎮座していた。むわっと何処か嗅いだことも無いような何とも形容しがたい匂いがする。
お腹を空いている事も忘れて隣を見ると料理は苦手で……と申し訳なさそうな顔をしていた。
 ご飯の恨みは怖いのだ。僕は取り敢えずその腹に鉄拳を入れた。
「イタッ何するのさ!」
 お腹を押さえて蹲る青年を見下ろしながら思った。ふっ。青年よ。これが社会の理不尽だ。此れでまた一つ大人になったな。……まあ、同い年位だけど。
「酷いよ……僕、料理が苦手なのに……そんな事するなら自分で作ってよ……」
そう言う青年に少し申し訳なさを感じる。すまん、すまん。つい、ショックでな。そう伝えてからふと青年の言葉に引っ掛かる物を感じた。
「え?此処で、料理出来るのか……?」
すると青年は埃を払い立ち上がると得意げに笑んだ。紫の髪がさらりと舞う。
「出来るよ。君が望めば」
 まずは、君の欲しい調理道具を目を瞑ってイメージしてみて。と続けられた言葉に、首を傾げながらもイメージする。
そうだな……コンロにしよう。大体の料理は火が無いと出来ないからな。後、雑菌とか危ないし!換気扇とかも付けよう。最近主流のIHじゃ無くてガスにしよう。そう思い描いていると隣から不意に話しかけられた。
「おお……。出来たみたいだよ」
 そう言われて目を開けると何かが物足りないガスコンロが出来ていた。ん?これ、グリルが無い。あ、しまった!グリルを付け忘れていた。再び目を瞑ろうとした視界の端に苦笑する青年が映った。グリル料理はなぁ、美味しいんだよ!僕は心の中でそう叫んでから再びガスコンロを完成させ、他の器具も完成させた。
 後は食材だが、これも出てくるのだろうか。思い描いてみたら目の前に新鮮な食材が溢れていた。
「凄いな。まるで夢みたいだ!」
そう叫びながら慣れた手つきで料理を作る。皆食べるだろうから多めに作ろう。そう思いながらシチューを作った。
「ほーら、美味しそうだろ?」
青年は苦笑している。如何やら僕のシチューがあまりにも美味しそうで委縮してしまったらしい。其れもそうだ。グリルで一度お肉を焼いているのだからな。其の儘僕と青年は食卓を囲んだ。申し訳なかったのか彼は僕の料理を2回ほど口に運んで其の儘自分の料理だけを食べ始めた。




 人間、何にもする事が無いと色々考えてしまうモノである。
「相変わらず、今日も平和だな……」
 宙に浮いたグミキャンディをもぐもぐと食べながら青年を振り返って見る。彼は何やら古めかしい一枚の紙切れを見つめていた。
「ちょっと見せろよ」
 覗き込もうとした時彼は苦笑した。覗き込んでから僕は後悔した。今、一人ぼっちで居る青年には考えも付かない様な家族がそこに居た。
小さな彼と、彼の手を繋ぐ両親。今の彼はもう俯いてしまって表情が見え無かった。
「お前さ、見せるの嫌だったら嫌って言えよな。僕達は、白い世界に住むたった二人の人類で、友達なんだからな」
 友達と言う言葉を言うのは何時ぶりだろう。何時も良い思い出が無いけれど、そう形容したくて。照れ臭く感じて僕は其の儘そっぽを向いた。





そんな生活が何日か続いたある日だった。彼が紫の液体をまき散らしながらこの部屋に来たのは。
「……君の、星が攻めてきた」
彼は肩で息をしていてとても苦しそうだった。
「どういう……」
ブツン。
途端に僕は全て思い出した。いつの間にか頭に付いていたヘルメットの様なものが落下する。白い部屋はコンクリート様な重い灰色の冷たい部屋になっていた。いや、元からそうであったのが正しかったように、酷く無機質であった。
とおくで、爆発音とどこか懐かしい無い形容しがたい何かの香りがする。
 俺は僕の脳が命じるままに銃を思い描き作り上げると青年に銃を突きつけた。青年の紫色の頭に押し付けた銃が何度も消えては構成するを繰り返している。
彼は手負いのためか抵抗らしい抵抗を見せなかった。
「俺は、第3次宇宙大戦にこの星を地球の傘下に入れるためにやって来た。地球出身の者である。異星人よ、何故俺を生かした。何が目的だ!」
 異星人はその翡翠の様な無機質な瞳でじっと僕の顔を見つめていた。
「僕の星は地球に住む種が持つ感情と言うエネルギーを研究している……君はその被検体だ、よ」
足音がする。部下の、俺の名を呼ぶ声がする。きっと助けに来たのだろう。急がなくては。
「お前の種族は感情を持たない、非道な種族だと聞いた……その様子じゃ、そうなんだな……」
 早い所始末を付けなければいけないのに、手が震えて引き金を引く力すら入らない。
「……そうだよ。全ては僕の星のためさ」
強い目が僕を射抜いた。
「うううああああああああああ!!!」
……夢なら良かったのに。
彼の口元が薄く笑んでいるのをみて僕は結局あのタコの煮物を食べれなかったことを悔やんでいた。

2015/11/08 加筆修正

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