SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
飛べない小鳥 ( No.2 )
- 日時: 2015/11/01 23:16
- 名前: 冬野悠乃 ◆P8WiDJ.XsE
とべないことりは つぶやいた
どうしてあなたはとべるのです?
とべることりは さけんだ
わたしはせかいをしっている
***
――どうして、わたしはいつもドジを踏んでしまうのだろう。ふとしたときにいつも考える疑問には、いまだに答えられずにいた。
わたしの名前は凪那(なぎな)ミナ。どこにでもいる平凡な少女だ。
わたしは今日も帰り道を一人寂しく歩いている。でも、別に寂しくなんかない。だって昨日買ったCDを聞こうって決めた日だから。
(風斗(ふうと)さん――)
それは“FUUT”の名で知られる、有名なアイドルの名前だった。通称、フウくん。まだ高校生らしいそのアイドルは、わたしの大好きな人。もちろん、アイドル的な意味で。
(アイドル的な意味で、ってなにさ……)
思わず溜息を吐いてしまう。空はいつも綺麗だなあとか、そんなどうでもいいことを呟いてみる。
でも、なにも変わらない。
……そう、なにも変わらない。
食べられない人だっているんだよ。そんなの知ってるよ。
貧しい人々のためになにかできないの。募金ぐらいしかできないし、そんなの本当に貧しい人たちに届くかわからないじゃん。
そう思いながら生きてきたわたしは、いつも通り家のドアを開ける。きっと、玄関には愛犬の“いもた”がいるなあ。そんなことを考え始めて――固まった。
「こんちは♪」
――――は?
目を見開いて驚いても、どんなに頬をつねっても――そこにいるのは大好きなあの人。
わたしとほとんど年が変わらない、あの人。
茶色い髪と瞳が綺麗な、あの有名アイドル――風斗!?
「え、あの、まって、うそ――?」
「風斗だけど?」
(――いやいやいやっ! そんな漫画みたいなことあるわけない! 突然あの、あのあのあのっ――)
「……まだ、困惑してるのか?」
「い、いえ。あ、いや……して、してるけど、その」
開いた口が塞がらない。どういうことか全然わからない。
わたしは風斗さんを見つめる。突然すぎて、なぜか、うっわあ、綺麗だなあ……とか考えてしまった。
「おい、落ち着けよ。とりあえず聞いてくれ。俺、今すっげえこと考えてんだ!」
「な、なんです……か?」
「それは――“ドリーム・ロスト・スタート・プロジェクト”!」
夢のない、虚ろな子供たちをキラキラ輝かせてほしい。
だから、なにか役に立つようなことをやらしてほしい。
そして――最後に歌を歌ってほしい。
「というのがその、ドリームなんとかプロジェクト?」
「ああ、そうだ。そんで、夢のない人たちに夢を持たせてほしい――それが偉い人の言ってたことなんだぜ」
(夢がなくて悪うござんましたね……)
「で、な? ミナ、お前には俺と一緒に仕事をやってほしいんだ!」
「仕事?」
「ああ。……ダメ、か――?」
そんなの、いいに決まってる。わたしは一つ頷くと、風斗さんはにかっと笑った。その笑みがとても素敵で、わたしは頬を赤く染めて見惚れてしまう。
「ん、ゴメン」
「あ、す、すみませんっ」
「いや? 俺が悪いじゃん、今の。なんで赤くなったのかはわかんねーけど」
「……仕事ってなんです?」
少し怒りを含ませた、どこか不貞腐れてる声音で尋ねる。風斗さんはまた謝って、説明しようと口を開いた。
「風船配り!」
「ふ、ふうせんっ?」
「ああ。俺とミナ、二人で配るんだ。子供たちの笑顔が見れるぞ〜!」
――子供たちの笑顔、ねぇ。
(そんなの)
わたしは溜息を吐いた。それを見た風斗さんが不思議そうに首を傾げる。
それが可愛かったのだけど、今度は見惚れないでわたしは顔を俯かせた。
(――どうせ、小さなことだ。無駄だよ)
***
俺は一つ思うことがある。
世界の人たちを笑顔にするには、まず自分自身が楽しかったりしなくちゃダメなんだってこと。
それと、もう一つ。
“ココロ”で歌ったりすれば、必ずひとは応えてくれるってこと。
……足りないんだよな、彼女には。さあて、どうしよっかなー。
呟きながら彼女を見やる。
「風船配り――」
どこか空っぽな声音で、そう呟いていた。
***
「よしっ。配り終わったな!」
「……はい」
なんでこんなこと、してるんだろう。
明日、平日だから学校あるのに。暇じゃないのに。
いろいろなドロドロした思いが混ざりあって、なんだか気持ち悪い。疑問がいっぱい湧き上がってしまって、怖い、とも思える。
わたしはそれを和らげるために、意味のない溜息を吐いた。
「んー。なんか溜息吐いてばっかりだな?」
「……」
「だんまりかよ」
「意味……あるの……?」
「え?」
――え? じゃ、ないよ……質問してるんだよ……意味、意味は……あるの?
ドロドロした思いは広がって大きくなってとまらなくて――遂になにかが壊れたような感じになった。とまらない。大好きなアイドルを、わたしは思いきり睨みつける。
「意味、あるの?」
「うおっ――」
「なんでこんなことしなくちゃいけないの? コンビニにある募金とか、わたし、たまにやってるけど、不安になるよ。届いてるの? ホントは大人の都合とかそういうので、勝手に別のところで使われてたりするんじゃないの?」
「……んー、そーかもしんねーけど……」
「わたし、わからない。コドモだからかもしれない。でも、それをヌキでもそうなんだ。非力で無力で情けない、平々凡々なわたしじゃ……どんなに頑張ってどうせ、平凡なだけでしょうっ? どうせ、わたしの努力なんて届かないでしょう?」
「……そうかな?」
「そうだよ。どうせ悪用とかされてるんだ。大人も子供も変わらないよ。みんな少しでも悪いことしてるんでしょ。……どうせ役立つことだって、あとには嫌なことに変わるんだよ」
「……それは、お前の努力が足りてねーだけじゃねーの? 俺は知ってるぜ、本当の“小さなこと”をさ。いや、俺が知ってることは、もしかしたら大きなことかもしれないけど――」
風斗さんがにかっと笑う。
――とても綺麗な笑みだった。
(あ……わたしとは、大違い……)
「俺さ、今から歌うんだけど――! 聞いてくれねえっ!?」
マイクから流れる、風斗さんの声。
――周りに集まる人々と雑音。
「うしっ」
「……あの、ふう――」
「ミナ!」
「はいっ!」
「――見てろよッ!」
マイクから通って流れる、心地よい雑音に包まれて――風斗さんは口を大きく開く。
そして、その歌声が――。
とべないことりは つぶやいた
どうしてあなたはとべるのです?
とべることりは さけんだ
わたしはせかいをしっている
俺だって知ってるぜ どんなにサイズが違くとも
童話や物語の中のハナシ きれいごと? それでもいいさ
ファンタジーはリアルで通用するものもある
知ってる? どんなに小さなことでも
世界を揺るがす歌声 響かせろ
俺の歌は世界一…… ココロに向かって届ける歌さ!
飛べなくてもいい 飛ばなくともいい
どっちでも届けられるそれは とても明るい曲なんだ
小鳥の羽は何色? 白色だけじゃないだろ
世界を広げて 自分を狭めないで きっと待っている新世界
だいじょうぶ 聞こえるよ
キミにもその 小さなことが
「――それは、どんなに小さくともココロに届けようと、精一杯頑張る者が主なら……きっと聞こえるはずなんだ!」
どんなに小さなことでもいい 例えば募金とかでもいい
頑張ってもそれにキモチがなけりゃ ムダになってしまうんだ
まずば自分からだろ 精一杯広げよう
言葉にオモシをとか そういうのなんだ
飛べなくてもいい 飛ばなくともいい
どっちでも届けられるそれは とても静かな曲でもさ
小鳥の羽は何色? 白色だけじゃないだろ
世界を広げて 自分を狭めないで きっと待っている新世界
だいじょうぶ 見つかるよ
キミにもその 小さなことが
***
「とべないことりはつぶやいた、どうしてあなたはとべるのです――それは、キモチがあるから……か」
――そうだね。まあ、確かにその通りかもね。
(……でも、ちょっと強引? それにしても、歌ったらすぐに帰っちゃうなんてね――)
……ま、いっか。
わたしは空を見上げる。相変わらずの綺麗な青空だった。
ただ、今は夕焼け空だったけれど。
(……今度募金するときには、“キモチ”を入れてみなくちゃな)
わたしの名前は凪那ミナ。どこにでもいる平凡な少女だ。
わたしは今日も帰り道を一人寂しく歩いている。でも、別に寂しくなんかない。だって昨日買ったCDを聞こうって決めた日だから。
――キモチがこもった、彼の歌声を聞こうって。そう決めた日だから。