SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

茜色の雫が滲んで、 ( No.24 )

日時: 2015/11/03 19:06
名前: Garnet

 太陽が空に溶けて、世界を真っ赤に染めている。
 何年ぶりかの河原にやって来て、わたしは草の上に寝転がった。薄っぺらい風が頬を撫でていく。
 家から歩いていっても直ぐのところだし、小学生の頃は数え切れない位遊びに来ていたのに、気が付けば足が遠退いていた。
 枯れていく匂い、柔らかい感触、視界に残る紅い残像。遠くに聞こえる自転車のベルの音が、何処までもこだまする。
 懐かしい。なつかしい。

「おばさん、何かあったの」

 突然耳元で、幼く高い声がした。おばさんとは何事だ。わたしはまだ高校生だぞ。
 無礼な言葉に、わたしは無視を決め込んだ。
 我が家の布団の上に居るかのように、ころんと右へ寝返りを打つ。

「うそうそ。take2、お姉さん、何かあったの」

 背を向けられて流石に焦ったのか、声の主は急いで訂正する。

「わかったならよろしい。けれど少年よ、わたしは何も悩んじゃいないさ」
「悩んでるかどうかなんて、ぼくは聞いてないけど?」

 はっとして、身体を起こす。太陽の欠片で川の流れが金色に輝いて、目の奥がつんとした。

「お姉さん、此方」

 礼儀というものを知らない、ヤツの面を拝んでやろうと、その高い声のほうへ振り向いた。
 しかしそこには、堪能な日本語とは裏腹な金髪碧眼の男の子がいたのだ。歳は小学校3・4年生ほどだろうか。とても綺麗な顔をしている。
 冬を連れてきそうな冷たい風が吹いて、彼の前髪をさらさらと揺らす。

「驚いた、って顔してるね、お姉さん」
「そりゃあ、まあ」
「ぼくね、そういう顔を見ると、まだまだなんだなって思うの」
「まだまだ、って?」
「よくさ、大人が言うでしょう?"差別はいけない。肌の色や髪の色が違っても、皆と同じ仲間だ"って。でも、現実はこうだから。国際化なんて言ったって、まだまだなんだなーって」

 筋が通りすぎていて、素直に頷くほかなかった。

「すごいね、君」
「そう?」

 少年は屈託なく笑う。前歯が1本抜けているのが可愛らしい。
 これじゃあ、どっちが高校生なのかわかったもんじゃない。

「やっぱりさ、お姉さん、何か悩んでるんでしょ」

 彼は笑うのをやめると、身を乗り出して、わたしをじっと見つめた。何でも見透かしてしまいそうな青い瞳で。

「……わたし、将来の夢が、何もないの」

 やっと絞り出した言葉は、なんとも情けないものだった。

「中学校はへらへら過ごして、高校も、親の言う通りに選んで。大学も、その辺の私立でいいかなってさ。塾の先生は、今やりたいことが無くても、大学で見つければいいって言うけど、そうこうしてるうちに大人になってしまいそうで、怖いの」

 彼は何も言わずに、相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
 金色の短い睫毛が時折静かに上下する。

「小さい頃に戻りたい。未来が眩しく見えた、何も考えずに夢を言えた、あの頃に」

 夕日は、刻一刻と沈んでいく。でこぼこな地平線の向こう側で、金色の朝日に生まれ変わる為に。それは毎日繰り返されること。
 わたしなんて………っ
 時なんて歪められないのに、わたしはそれを望んでる。
 引っ越してしまった友だち、叶わなかった初恋、しょうがないわねと許してくれた親。今は全てが夕陽の向こう側に吸い込まれてしまった。

「ぼくも、同じことを考える日が来るのかな」

 彼は、細い膝を抱えてじっと遠くを見つめながら言った。そのせいで声が曇っている。

「それは無いと思うよ。君、しっかりしてるし」
「ぼくは、お姉さんみたいにいい子じゃないよ」
「……え」

 何だろう、今の。グサッと来た。

「ぼく、そろそろ帰るよ」
「あ、うん。色々ありがとう」

 彼は金髪を風になびかせて立ち上がった。さりっ、と、靴が草と擦れる。

「……素直になりたいや」

 わたしが溢した言葉に、少年は。

「今、なってるよ」

 そう言って、太陽に呑みこまれていった。


─────東の空から、美しい闇が押し寄せ始める。





【あとがき】

先ず謝罪しておきます、御目汚しすみませんm(__)m
……って言う癖に投下するんです。

特に制限は無いということで、好きに書かせて頂きました。
秋の深まる夕陽の河原。
わたしの家の近所にも川が流れているので、其処を想像しながらイップク(笑)
何気に綺麗なんだよなー。

書くのはすごく楽しかったです(*^▽^)/
巧拙云々はどうでもいいとして、やっぱり『楽しさ』って大事ですよね!

此のSS小説大会を通して、文を書く楽しさを知って下さる方が 一人でも増えれば嬉しいなあと思います。


Twitter 小説お題botさまより「落とし物、なんだっけ。」

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