SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

君にまた会える日を、僕はずっと待ち続けよう。 ( No.4 )

日時: 2015/11/02 19:17
名前: 瀬ノ島 凛音

僕は、雨が好き。

雨の音は気持ちを落ち着かせてくれる。

雨の匂いも。雨の温度も。

雨が、好きだ。

涙を隠してくれるから。


『周りのカラフルな傘に埋もれ、一人で佇む僕の姿は貴方にどう写っていますか?』


そんな言葉も、雨の音がかき消してくれる。

空を見上げると、雨が目に入ってきた。

涙と雨が一緒に、僕の体を冷やす。

そのまま、前に進んでみた。

歩くと下を向いてしまうのが僕の癖。

右足、左足、右足、左足。一定のリズムで交互に見える自分の足。

黄緑色が点滅している横断歩道を渡る僕。

その時左から、僕を照らす光がすごい速さで近付いてきて――


                   **


――だんだん遠のいていく意識の中、僕は仰向けになって空を見つめていた。

体中が痛い。

目だけを動かして横を見てみると、左ヘッドライトあたりが凹んだトラックが止まってあった。

ああ、あれに轢かれたのか。

…ははは、あの子と一緒の逝き方をするのか、僕は。

でも、ちょうどいいかもな。

これが…あの子を殺した僕の罰か…。皮肉なもんだ。

そんな事を考えてみる。


「ユウマ!!?」


遠くで僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。

聞き覚えがあるこの声はきっと…リョウかな。

あの子がいなくなってから僕を避けていたのに、今更何だよ。

今更友達ごっこですか。今更僕の心配ですか。

…ああ、もうなんかどうでもいいや。

きっと、あと少しで僕はいなくなるんだ。

きっと、あと少しで佳奈のところへ行けるんだ。

あの子の元へ。

カ…ナ………ごめん…

僕の意識は、そこで途切れた。


                   **


「―――……ま……ゆう……………ユウマ!!」

「――………!!」


あれ…生きてる…?

体中を見回してみるけど、どこにも外傷は見つからない。

僕の寝ていたベッドの周りには、何一つない。

ただただ真っ白の部屋で、何も…無い。

いや…ただ一つだけ…ベッドの隣りに――


「か、カナ!!?」


カナが、いた。

あの日、無くしてしまった笑顔のまま君は何も言わずに笑いかけてくれた。


「お前…どうして……っていうか、なんで僕は生きているんだ…?」

「そんな細かい事はいいじゃん!それよりあんたさ…」


ぺちっ!

叩かれた。カナは力が弱いから、痛くは無い。


「…なんで叩くんだよ。」

「なんでって…ユウマ、あんた私が死んだ事を自分のせいにして自分を責めてるでしょ。」


なんでそれを…

…あれ、今カナ、自分で死んだって…ということはやっぱり僕は死んだのか…?

…あ〜〜〜!!もうわけ分かんねぇ!!考えるの止めよう…


「あはは、すっごい混乱してる表情してるね、ユウマ。」

「そりゃ混乱もするだろ…」

「あはっ、そうだね、ごめんごめん。…それより本題。
私が死んだのは、ユウマのせいでもリョウのせいでもない。
ユウマもリョウも、私が死んだのは自分のせいって考えちゃって…そんなわけねぇだろ!って感じ。」


や、やめろ…


「あの日、私が死んだのは…」


やめてくれ…


「私が道路に飛び出しちゃったせいなんだし。」

「やめろ!!!!!」


僕が唐突に大声を出したせいか、カナはとても驚いた顔で僕を見つめてきた。


「なんだよそれ…お前が死んだのは僕とリョウのせいじゃない?なに言ってんだよ!!あれは…あれは……!!」



                   ++



僕とリョウとカナは幼馴染で、すごく仲が良かった。

亮はいつも僕たちを笑わせてくれる。

佳奈はいつも僕たちを引っ張ってくれる。

そんな二人に僕、悠馬はなに一つ敵わなかった。

僕は面白い事も言えないし、本音をいつも隠してしまうし、正直自分でも一緒にいて楽しくないと思う。

それなのに二人は、いつもこんな僕を引っ張って、笑わせてくれた。

僕は、二人の事がとても大切だった。

リョウは頼りになるし、カナには…特別な感情も持っていた。

つまり、僕はカナの事が好きだった、という事。

その事を、僕はリョウに言おうとした。だけど…言えなかった。


――リョウが、いつもカナの事を見ていた事に気付いていたから。

でも…あの日。…カナがいなくなってしまった日。


「カナ、俺…お前の事が好きだ。」


リョウは…自分の気持ちをカナに告げた。

僕とカナとリョウで、一緒に帰っている時に。

なんで僕もいる時に言うんだ…

なんて考えていたら、リョウは僕に、


「お前も…なんだろ?」


と言ってきた。

――…一瞬、頭が真っ白になった。

気付かれていないと、思っていた。


「な、なんで…」


僕の口から出たのはそんな言葉だけ。


「幼馴染なめんな。お前もカナの事、ずっと見てた事くらい直ぐ分かるわ。」

「……………」


リョウの言葉も僕の言葉が聞こえているはずだけど、カナは何も言わない。

下を向いているからどんな表情をしているのかも分からない。


「わ、私…は……この関係を…壊したくない…」


カナはそう言うと、僕たちを置いて走り出した。


「か、カナ!!待てっ!!」


リョウはカナを追いかけようとしたけど、途中で愕然とした表情で足を止めてしまった。

その理由は、前方を見たら直ぐに分かった。


「カナ!!!赤信号だ!!!」


キキィ〜〜〜!!!ドンッ!!!

その音が、とても印象に残ってしまった。



                 ++


「あれは…僕とリョウが…幼馴染の関係を壊そうとしたせいで…」

「……」


そうだよ。僕が…カナを殺したんだ。


「……ばかっ!!」

「――…!!」

無意識のうちに下を向いていた顔を上げると、そこには涙をボロボロと流す、カナの姿。


「あれは、私が逃げちゃったから悪いの!私が…関係を壊したくないからって…二人から逃げちゃったから…ごめんね……ごめんね…!!」

「なんでカナが謝るんだ…。僕こそ…本当にゴメン…」


僕がそう言うと、カナはゆっくりと顔を横に振った。


「ユウマにも…リョウにも…苦しい思いをさせて、本当に辛い。
でも、それは私だけじゃなくて、二人はもっと苦しんでる。
見てたんだ、ずっと。二人の事を。」


…あ…れ……だんだんと目が…見えなくなってきた。

いや、目が見えなくなってきたのではない。

僕の、意識が…だんだんと遠のいているんだ…


「そろそろ時間みたいだね…。
…私は、いつまでもずっと、二人の事を見てるから。」


――それが、僕の聞いた最後のカナの言葉だった。


                    **


「ユウマっ!!」

「うぉっ!?」


僕は高校への登校途中、後ろからリョウに抱き着かれた。


「お前…いつも言ってるだろ。いきなり抱き着くの止めろよ。」

「はは、悪い悪い」


僕とリョウは、そのまま一緒に駅まで歩いて行く。


――僕が事故に遭ってから早一年。

幸いな事に当たり所が良かったらしく、ちょっとのリハビリだけで退院出来た。

その間、リョウはずっと、僕の傍にいてくれた。リハビリの応援だってしてくれた。

最初こそぎこちなさはあったものの、時間が経つにつれて僕たちは前みたいに戻っていった。

カナがいない、二人で。

あれからカナの話を一度だけした。

やはりリョウもカナの事を気にかけていたようだ。

二人で話し合って、一度思っていた事をお互いにぶちまけてみた。

今までずっと胸の中にあったモヤモヤが、その事でスッと軽くなるのを、僕は感じた。


                     **


…あの日体験した、カナの事はなんだったのかは分からないけど、僕の心の中にとても強く残った。

僕は、カナが好きだ。

それは今でも変わらないけれど、あの日のように雨に濡れながら一人泣く事は無くなった。

――窓の外を見ると、先ほどまで雨が降っていたせいか、綺麗な虹がかかっている。

その大きく輝く虹が、なんだかカナの眩しい笑顔を思い出させて、僕は一人で笑ったんだ。

カナの事を思い出しながら、虹を見上げた。

…僕は雨の日が好き。

だけど…これからは晴れの日も、好きになれそうだな。

大空を見ると、カナが僕の事をどこかで見守ってくれている気がした。

少し薄くなってきた虹に、僕はもう一度笑みを返す。


「さようなら、カナ。また会える時まで――」



〜fin〜

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