SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

バカが二人で大馬鹿三昧 ( No.40 )

日時: 2015/11/15 20:07
名前: 夢精大好きちんぽ丸
参照: https://twitter.com/Toremoro1467



「レディース&ジェントルメェン! さぁ今宵もみなさんお元気お気楽御調子絶好調、ぶっちぎりハイテンションぶっ殺し隊隊長、尊大絶対偉大広大、三奈木山詞花様だよぉ!」
 やかましい声と共に、阿呆な名乗りで、黒いコートを着た女が突然に表れる。
 場所は【街】の中心地、【岸峰財閥】の本部ビルの屋上。
 そう、屋上である。
 女性にしては埒外な長身とスレンダーな肢体、その体を黒いコートに包む、年齢は二十とそこそこといったところだろう。。
 そんな彼女、三奈木山 詞花(みなぎやま しか)は、手に拡声器を持ちながら、吹きすさぶ強風の中、屋上のフェンスによじ登って叫んでいた。
「今からぁ! 悪ど〜〜〜い事して稼いできた、この岸峰財閥のォ、その社長さんの首をぶっ狩りに行くぞぉ! 死にたくなかったら逃げろォ! 死にたくなくても逃げろぉ! とにかく逃げて逃げて逃げまくれ、私が殺す、ぶっ殺す。躊躇なく、万遍なく、懺悔も何も聞かないまま、丁寧に丁寧に、跡形もなく粉微塵に――」
「だぁ! うっさいわボケェ!!」
 と、軽快に軽妙な宣言らしきものをしていた詞花を、横っ飛びハイキックで誰かがフェンスの内側にまで蹴り飛ばした。
「がヴァりヴェハヴっ!?」
 人間が出しちゃいけない音を出しながら、盛大に転がる詞花。怪我はしていないようだが、鼻から出血していた、なんとも絵面的にバカっぽい。
 そしてなんとも重要な事だが、詞花は本物のバカなのである。
「詞花ぁ! テメェはなんでそう、バカなの⁉ 私言ったよね! 私確かに言ったよね! 隠密行動だって、ステルス・スニーキングしてこうって! 言ったよね!?」
 詞花を蹴り吹っ飛ばした誰か。彼女もまた黒いコートをした女性だ。
 ただし、詞花と違って、そのサイズはかなり小さい。
 低身長の少女。年齢はまだ十代を半ばと言ったところか。
 性別以外を詞花と反転させたかのような印象のある少女は、名を、可松 葉木(かまつ はもく)と言う。
 

 説明しておこう。
 この二人の職業は暗殺業。
 人を殺し金を貰う。依頼理由は様々、受ける理由は金一つ。
 この世で尤もクソな人間の職業の一つ。
 人類が生んだ、愚かに過ぎる生業の一つ。
 コンビの殺し屋、情無し、籍無し、生きる価値無し。
 それが、詞花と葉木の簡単な概要で、全てである。


「葉木ゥ! ひでぇよ、ひでぇよ、つれぇよ、つめてぇよお姉さん泣いちゃうよ! 詞花様が何したって言うんだよォ!」
「大声で騒いでただろうがボケ! 殺すぞ!!」
「ひゃぇっっ、葉木怖いよォ」
 屋上で強い風に吹かれて、大声で叫び合う二人。
 と、そんな姦しく騒いでいて、【岸峰財閥】の本部ビルの警備が黙っている訳もなく、次の瞬間には怒声が辺りに響いた。
「なんだ貴様等ぁ!」
 怒気を孕んだ、男の声と共に盛大に屋上にあるドアの一つが開かれる。そして、その屋上出入り口から次々と人が入ってくる。
「お前ら、動くなッ!」
 鋭く響く通る声。
 紺色の警備服を来た男たちが、数名構えを取って二人の馬鹿に臨戦態勢を取る。
 銃を持っている者や、警棒を構えている者。二人に叩きつけられる、確かな殺気。
 どう見ても正規の警備員が持つ兵装を越えており、ここがアングラな場所だと実感させられる。
 だが、バカ二人には関係が無い。
「あへへぇいー、やべぇの来たァ……」
「おめーが呼んだ様なもんだボケ!!」
 倒れていた姿勢から立ち上がる詞花、その隣に場所を移す葉木。多少なりとも命の危機にさらされている二人だが、焦る様子は微塵も感じられない。
 顔に浮かぶのは、笑み。
 無邪気な子供と、冷徹な大人の、デカい子供と、小さい大人の、正反対の、だが熱量は同じだけの、鮮烈な笑み。
 
 人殺しの笑顔。
 
「貴様等、何処から入ってきた。何故こんな、屋上などに居る!」
 その二人の態度に不気味さを感じたのか、銃を構えるリーダー格の警備員は語気荒く質問する。
「あー、何処から、ねぇ。まあ、アレよ。下から」
「は?」
 返答を寄越す詞花の言葉を理解できずに聞き返す警備員。
 何故ならここは屋上だ。下からというのなら、入り口から入ってきたのだろうが、このビルに入るには社員証などが必要であり、上の階に上がれば上がるほど警備機能は格段に上質になる。
 屋上に立ち入る事など、見回りの警備員か、他数名程度の重役が気分転換に来られる程度で、他の人間には不可能だ。
 だから、下から自然に入ってくるなどと言うのは不可能。警報機が作動した様子も無い。警備員は理解が出来なかった。
 だが、違う。
 詞花の言う、下、とは。入り口から入ってきた、という意味ではない。もっと純粋な意味。


「だから、下は下だってヴぁ。下の、【地面から、ビルの壁伝いに走って上まで来たんだよ】」


「……」
 空気が一瞬凍る。
 そして、凍解。
「バカにしているのか貴様!」
 激昂する警備員、何を言っているのか分からない、だが、虚仮にされていると、そう感じた。
 だが、詞花にその感情は無い、彼女は純粋に返答しただけだ。
「まあ、詞花は存在自体がバカバカしいからな。私はこいつの背中に乗って此処まで一緒に来たわけだが」
「誰が馬鹿だ!!」
「お前だ」
 やんややんやと言い争う二人、そんな二人に業を煮やしたのか、警備員は決める。
「なんだか分からんが危険だ、危険は排除する。責任は俺が取る、殺せッ!」
 法治国家に有るまじき人間の命の軽さを感じさせる号令で、他の警備員たちは、未だ争っている二人に銃口を向け引き金に指を掛ける。
「撃て」
 リーダー格の言葉の元、部下数人が引き金を引き、発砲音が―――。
「あっ……?」
 ―――聞こえない。

「銃は良くないよォ、銃はァさぁ」
 何時の間にそこに居たのか、詞花はニコニコと笑いながら、警備員達を見やっている。
 彼女の手には、血に濡れた銃が五丁。
(あれ? あの銃俺のだよな、なんで血が銃について?)
 一人の警備員が疑問を抱く、だがその疑問はすぐに氷解する。
 ああ、なんだこれは。手の感覚が無い。壮絶な喪失感がある。
 無くしてはいけないモノを、亡くして居る事に、失くして……、消失。
 警備の一人は目を向けた、自分の手に目を。そして、手首から先が、冗談のように無くなっているのを見――
「えぁ……? あ、あぁ、ぎぁひぃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 絶叫が数人から響く、血濡れの叫びが。だが、その叫びすらも、長くは許されない。
「うるせぇ! もうちょいミュート気味で叫べや、ご近所迷惑だ!」
 無茶苦茶を言いながら、詞花同様、何時の間にか近づいてきていた葉木が、叫ぶ警備員の顔面に片っ端から拳を蹴りを叩き込み、気絶させていく。
 いや、おそらく、そのまま永遠の眠りにつく可能性大の昏倒、気絶なんていう生易しいモノではない死への誘い。
「あ、ああ、お前ら、貴様等、なんだ、コレ……」
 部下が目の前で倒れていくのを何もできず見ながら、リーダー格の男は詞花と葉木を見る。
 それに対して、二人は馬鹿みたいに大きな口をあけながら、愉快痛快二人そろって楽しく宣言し始めた。
『殺し屋だぁよ! お前ら全員逃げてくりゃれぇな!!』


 さてはて、バカ二人が馬鹿みたいに人を殺す、そんな地獄が、開演する。

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