SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
ちょっと変わった恋 ー始まりー ( No.43 )
- 日時: 2015/11/22 01:31
- 名前: cinnamon
…あ、今日も朝から笑ってる。
海沿いの、とある小さな高校。
そんな何の変哲もないここで、私は、
『ちょっと変わった恋』をした。
「よし、これで今日の一大イベントは終わりーっ!」
「花乃ー次って何だっけー」
「先生…これで聞くの何回目ですか?次は数学ですよ…っていうか次、先生の授業ですからね!?」
テストが終わって解放感溢れるこのタイミングで、先生のボケ到来。
折角の解放感を邪魔されたのは感に触るものの、私は心の何処かでいつも、この瞬間を待っている。
何故なら…
「あー…次、数学?よし、地獄前の天国だ」
「あーあ、天国の前の数学って本当に地獄だよねー(怒)」
ある男子との、いつも通りの自然な…っていうのは嘘。
本当は話せたことが嬉しくて、口調では拗ねてるけれどやっぱり顔は笑顔になってしまう。
心拍数も(次が数学だから)どんどんと下がってきているテンションに比例して小さくなる…小さくなったら身体的にマズイね。…おとなしくなるはずなのに、今は反比例もいいところで、どんどんうるさくなっていっている。
…そう。(これだけ反応しているのだから、分かってしまうだろうけど)
私が待っているのは、決して先生のボケなどではなく、この会話だ。
うん、神に誓ってそれだけはないって言い切れる。
ちなみに話しているのは、
数学が大嫌いな私の前で、完璧に嫌味にしか聞こえない言葉をサラリと発したある男子。
その人は、
眼鏡をかけていて体つきはヒョロヒョロで。
決して頑丈そうには見えないけれど、人懐っこい笑顔だけは何故か妙にカッコよく見えて。
それでも普通の人なら、そんな彼の笑顔も10人中7人の女子は『うーん、別に…』と答えるだろう、そんな人。
「あ、そうだ優奈」
「ん?どうしたの?」
…それでも、私にとっては初恋の相手で、ちょっとカッコ良く見えてしまう。
性格は、面白いけどかなりのイジワルで。
勉強は、お世辞にも出来るとは言えなくて。
運動は、その細身の何処に力があるのか分からないけど、それなりに出来て。
普段は、ゲームしてダラけてばかりいて。
マンガに出てくるような、とまではいかなくても、普通の女の子が好きになるようなタイプとは、かけ離れた変わり者。
そんな変わり者を好きになっちゃうなんて、私の方が変わり者なのかも…
でも。
それでも。
たとえどんなに変だな、と思っても。
たとえ想いがなかなか届かなくて、辛すぎても。
もう、止まらない。
自分でも、この想いを振り切ることは出来なくなった。
それほどまでに、想いは暴走しているから……
それにね。男子の中で私のことを「優奈」って名前で呼んでくれるのは、貴方だけなんだよ?
そんな『貴方だけ』にいちいち嬉しくなっちゃって、
舞い上がっちゃう私だけど。
いつか、時の流れがタイミングを教えてくれたときに。
今でも弾けそう…というよりも振り落とされそうな想いを伝えるから。
それまでは、心拍数がすぐにうるさくなっちゃうこんな毎日をずっと、続けていきたいな。
今はもう目の前にいない彼の背中に、心でそう語りかけてから、
私は数学の分厚い教科書を鞄から引っ張り出した。