SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
掲示板 ( No.1 )
- 日時: 2016/01/05 21:57
- 名前: 古紙 ◆PXyHeqz3ps
「台風あったけど、どう思う?」
「最近の台風はどんどん勢力が大きくなっているし、被害も大きくなっているよね」
「自分のところにやってこないでほしい(´ω`)」
パソコンと呼ばれる液晶の前に座り、泰仁は手元にあるボタンをカタカタ押している。今見ているのは掲示板。一つのことがらに対し、皆がさまざまな意見を出すところだ。
基本的に泰仁は夕方、この掲示板を見ている。でもみんなはもう少し前から意見を述べ合っている。気象から政治まで、ありとあらゆることをみんなは話す。
しかし、液晶のむこうの彼らは、実にいろいろな知識を持ち合わせている。
たとえば、歴史で言うならば、自分では見も知りもしない古文書を読んで、その内容を出して話を進めている。しかも驚くべきことに皆それを何事もなかったかのように話に組み込んでいく。かと思えばその古文書の信憑性を突いてきたり、新しい資料でその正当性を崩したりと、真実の追求のためにはさまざまな情報を引っ張り出してくる。そら恐ろしいところだ。
(自分には到底発言はできなさそうだ)
泰仁はいつもこの場所を見て、ぼんやりと思っているぐらい。
その点ではニュースを語る場所では、話についていけている。テレビやパソコンを使って知った情報を元に、みんなと話せる。専門的な知識を持ち合わせず、でもみんなと楽しくしゃべりたいと思う泰仁にとってはもってこいというべきなのかもしれない。
「総理大臣辞職なんだね」「もとからオンナ関係悪かったらしいし」
「次は誰なのかな?」 「また選挙いくの…」
「そういう事件多いよね」 「もっとしっかりしてほしい」
いろいろな意見が交錯するから、当然議論も起こる。
「なんで総理大臣が辞職することをそう軽く思ってるの?その総理大臣の下にいる国民として恥ずかしいと思わないの?」
「でも考えたところでなにか変わるわけでもないじゃん。政治関連の話にいちいち過敏になるべきではないと思うし。そもそも場違いも甚だしいだ
ろ」
こんな議論で掲示板は溢れ返る。不思議なことにこういう議論にみんなよってたかって、また今までの歴史を振り返って話す。ここまで来るともう自分には流れにのることができないし、他のニュースを調べようにも同じ議論ばかりになってしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまうこともしばしばであった。
でも最近、この「みんな」が不思議に思える。みんな、豊かな思考を持っている。みんな、どこまでも情報を知り得ている。その手の専門家が集まっているとはどうも思い難いのだ。だってこんなヘボそうな掲示板に、そんな何十人何百人と専門家がたむろしているわけではあるまい。
インターネットで調べる限り、他の掲示板もみんな専門家のような話をしている。形態は違えど、話題はいっしょ。みんな好きな分野というものがあるのだな、としみじみ思わせているばかりだった。
しかし、今度という今度はおかしいなと思った。昔から個人個人がつけることができるニックネーム制度というものがある。掲示板のなかでも何人か、そういうニックネームを持つ人がいた。ところが、同じニックネームの人が生物学カテゴリと文学カテゴリ、さらには数学のカテゴリまで出没しているようなのだ。そんな博識な人がついにはニュースのところにもやってきた。これはもう全知全能の天才がこの世に降り立ったのかと泰仁はビックリした。
「実際 カ は無害な動物。こうこういうリスクがあるが予防が可能。正直人間の営みに関わる範囲でない」
「三角比ならこの式を使えば解ける。この場合ならこうこうこうして解ける。」
「伊勢物語はそもそもこういう経緯があって出来た、源氏物語とは対象が違う」
泰仁にはわからないものの、そんなこと細かに考えられる人物がいるのだろうか、これは明らかにおかしいのではないか、と思った。
そこで、泰仁はニックネームで掲示板の書き込みを調べ、どんなことがらに意見の述べているのかと覘いてみた。
彼は早朝から深夜まで、一日中書き込みを続けていた。
そうか、人工知能か。
でも、話相手になるなら申し分ないな、泰仁は天井を見て、そう思った。