SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
手紙。 ( No.11 )
- 日時: 2016/02/08 18:06
- 名前: のれり
俺は、これから手紙を書いてみようかと思う。
俺は国語なんか大嫌いだし、文才だってこれっぽっちもないけれど、それでも頑張って書くから。
君に伝えたい事、全部手紙に詰め込むから。
読んでもらえたら、嬉しいと思う。
君に、この手紙が届くことを願います。
『君へ。
まずは、字が汚くてゴメン。これでも、頑張ったつもりなんだけどさ(笑)
ま、そんなことは一旦置いといて。
君は、俺らが初めて会ったときのこと、覚えてるかな。
病室のベッドに横たわる君の顔は青白くて、俺、今だから言えるけど正直、君はもう死んじゃってるのかと思った。びっくりした。
「南無阿弥陀仏ーっ!!」
って俺が叫んだら、君はすごい形相でベッドから起き上がって、俺のことぶん殴ったよなぁ……。あの時はマジで痛かったよ。
君が俺を睨みつけながら目に涙をいっぱいためて…………。
君の力の全く入っていないこぶしは、本当に胸が締め付けられるみたいに痛かったんだ。
それからだね。
俺たちがよく話すようになったのは。
君は、こんな俺のことをどつきながら励ましたり、笑わせてくれたよね。
今となっては、そんな時間がずっとずっと昔のことみたいだ。
結局俺たち、最期まで名前を呼び合わなかったね。
俺は君のことを「君」と呼んでいたし、君も俺を「オマエ」って呼んで……。
俺のほうが歳上なのにさ(笑)
俺、今まで君に言えなかったことがある。
俺さ、ホントは知ってたんだ。君の名前。
病室の表札があるから、知ってた。
だけど、どうしても君に自分から名乗ってもらいたくて、ずっと知らないふりしてた。意地張っててごめん。
ごめんね。君が好きだよ。
好きで、好きで、大好きだった。
君の笑顔も、怒った顔も、泣いてる顔も。全部かわいくて、大好きだ。
本当は、ちゃんと口で言いたかったんだけどさ、ダメだった。
時間なかったし……やっぱ面と向かってじゃ恥ずかしいじゃん?(笑)
あー……。
そろそろ、書くのも限界っぽいな。
今まで、本当にありがとね。
いつかまた、あいたいなぁ……大好きだよ。またね
君を宇宙でいっちばん大好きな男より』
アイツの手紙と日記を読んだ。
手に力が入らなくなり始めたアイツが、一生懸命書いた、私宛の手紙を。
ミミズのような汚い字でも、ストンと自分の中にアイツの言葉が落ちてくるようで、不思議とスラスラと読めた。
アイツが、死んだ。
そんな知らせを聞いたのは、私が退院して、2日がたった雨の日の事だった。
病院からの電話を切ったあと、私は何時間もの間、受話器を握りしめたまま床に座り込んでしまっていた。今でも、その時聞こえていた雨の音が、私の耳にこべりついて取れない。
アイツは、私よりもずっと重い病に侵されていた。
こんなことになるなら、アイツと一枚ぐらい写真でも撮っておけばよかった。
今私の手元にあるのは、アイツが息を引き取る数時間前に書いたという手紙だけだ。
「……ったく……。今更だよ。私だって、オマエの名前ぐらい知ってた。
オマエが、私のことを好きだってことも知ってた!」
でも、私だってオマエの口から、オマエの名前を行って欲しかったんだ。
だけど、どうしても私からは言いたくなかった。これは、私の意地だ。
「好き勝手私の事好きって言っておいて……勝手に居なくなんなよ!私の気持ちはどうなるんだ!私だって、好きだったんだよっ!」
どんなに歯を食いしばっても、ポロポロポロポロ目から涙が溢れてくる。
アイツの手紙の、カラカラに乾いた涙の跡に、私の涙が重なって、余計に文字が読めなくなる。
クシャクシャになったアイツの手紙に顔をうずめると、懐かしいアイツの匂いがどこからかしたような気がした。