SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

閑かさの中で ( No.13 )

日時: 2016/02/08 14:42
名前: Garnet

変わらず笑ってた
変わらず隠してた

静かにおちてくる天気雨の中で、訊いてみたけど
かえってきたのは


"うん
だいじょうぶ"


またそうやって
困ったように笑ってた

静かすぎて
嬉しくて
悲しすぎて

目が覚めたら
桜色の朝焼けしか見えなくて

ひとりぼっち。
ひとりぼっち。
何も聴こえない夏の朝。
喪失感が、わたしのすべてを支配した。

あの子のことを放り出してでも
どうしてもききたかったんだ


"前、向けてる?"



闇の中
もういちど横切ったその瞳は

とても哀しい色だった


また
訊くときがきたら

今度はちゃんと笑っていてほしい




立ち尽くすわたしに降りつける雨は、まだまだ止みそうにないよ。






【あとがき、的なもの。】

太陽の向こうに見た悲しい夢を、そのまま、ぎゅっと搾って。
甘くて苦くて切ない、この気持ちは何だろう。


。。。



"閑かさの中で"
この詩は、コメディライト板で作成しております、『あい。』という短編集からひと欠片もぎ取って、少々傷のあるところをなおしたものです。

淡い青空に消え掛けの虹が架かって、雨の匂いが立ち上るアスファルトの上を、買ったばかりの透明なビニール傘に隠れて、ふたりで歩いていった、あの幻想。
他には何も音が聴こえない。
わたしと、彼の声だけ。
それだけが、あの幸せな空間を作っていました。

昔、笑えなかったわたしを、いつも然り気無く笑わせてくれた彼に。
名の無い世界で捧げます。

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