SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
exc)迷宮 -前編- ( No.23 )
- 日時: 2016/02/13 16:38
- 名前: かたるしす
「待てひったくりオラああああああ!!」
「待つわけあるかボケっ!」
超人的なスピードで、制服のスカートを翻し追ってくる少女。
振り返らずともわかる、激しい殺意とオーラ。般若のように歪められた顔。
(このままじゃやべぇな……捕まる……!)
俺は、咄嗟に落ちていた小石を拾い、投げた。
目くらましのつもりなので、傷つくことはないだろう。
少女の目が歪む。
「精神歪んでるわね! こんなものっ!」
スピードに乗って投げられた小石は、少女の手によって弾き返された。
その動きだけで、小石の威力が何倍にも増していることが分かる。
次の瞬間、こめかみに鈍い痛みが走る。俺は転び、その場に崩れ落ちた。
少女に見下ろされている中で、意識が遠くなっていく。
俺はあることに気づいた。
「お前……白なんだな。意外。」
「死んでしまえ。」
少女が足を振り上げた。
「ぐあっ!!」
脇腹にも、強烈な痛みをくらい、失いかけていた意識を取り戻す。俺は腹を押さえて起き上がった。
「何すんだよ痛ぇなぁ!」
「当たり前の事よ……ひったくった上に人の下着覗くなんて……!」
また足を持ち上げたので、俺は慌てて横に転がる。木の葉や土が服についた。
「分かった! カバンは返す! それでいいだろ!?」
少女は舌打ちをし、無言で頷く。俺が抱えていたカバンを奪い、きびすを返す。長いポニーテールが揺れた。
「おい、待てよ。どこ行くんだ?」
「はぁ? 家に決まってるじゃない。バカなの?」
「いや、方向分かってるのかなって……一応ここ……」
「山奥だし。」
少女は目を見開き、きょろきょろ周りを見渡す。そして、呆然とした。
「嘘……こんなとこまで来てたの……?」
「気付かなかったんかーい。」
辺り一面、緑。
木々が生い茂り、木漏れ日の充満する、一見するとステキな空間だが……
「俺達、すでに遭難者じゃね?」
今となっては地獄のサバゲー空間だ。
「というか気付かないとか。お前、もしかしてアホの子?」
「ち、違うわよ! あんたが道なき道を逃げるから悪いんじゃない!」
と、叫ぶ少女をまじまじと眺める。
制服は、近所の高校のブレザー。細っこい脚。こんな脚からあんなスピードが出るだなんて。
「どこ見てんの変態!」
「ぐおあ!?」
……脚のチカラは侮れない。
「お前も大概だろ! 女子高生が殴る蹴るなんて、野蛮にも程がある!」
「殴ってないわよ!」
俺と少女は睨み合い、まさに一触即発。
無言の火花を散らしていると……
「……何やってんの?」
何処からか、声がかけられた。
exc)迷宮 -後編- ( No.24 )
- 日時: 2016/02/14 19:46
- 名前: かたるしす
声のする方へ首を向けると、木の間に、気だるそうに立っている少年が一人。
「あれ、帰宅先輩! どうしてここに……」
なんだなんだ、知り合いか?
よく見ると、少年の着ている制服も、少女と同じ学校のものだ。
少年が、ヘッドフォンを外しながら答える。
「いや……近道通って帰ろうとしたら道に迷って。お前も?」
「違います! このひったくりを追いかけていたら、こんな所に来てしまいました。」
「ふうん……?」
首をかしげた少年の黒髪が揺れる。そして、俺達の方へと近づいてきた。気だるそうな雰囲気は変わらない。
俺はこそっと、少女に耳打ちした。
(知り合い? 彼氏?)
(違うわドアホ! 近所の先輩よ! 結構凄い人なんだから。)
この、地味な少年が凄い?
(帰宅部全国大会でベスト4なの!)
…………返す言葉が見つからない。そもそも帰宅部に全国大会なんてあるのか。
「別にそれはどーでもいいけど。音速、コンパス持ってる?」
「NとSがあるやつなら、ありますよ。」
そう答え、俺が引ったくったカバンをガサゴソする少女。
……ん?
「……お前、本名『音速』っていうの?」
「んなわけあるかボケっ!」
「俺がつけたあだ名だよ。ほら、こいつ速いだろ?」
なるほど。確かに、納得できる。帰宅先輩、意外とやるな。
音速が、コンパスを帰宅先輩に手渡し、俺を睨みつける。
「アンタの名前は何て言うのよ。」
「え、他人に本名はちょっと……」
「…………ひったくりお。」
黙ってコンパスをいじくっていた帰宅先輩が、口を開いた。しかし、何だそのダッサい名前は?
「引き出しの引に、田んぼの田。刺がある栗に、男……ひったくりだから。」
音速は、一瞬ポカンとしていたが、直ぐに笑い始める。俺をあざけきっているような笑い方なのは気のせいか。
「く……ひっ……引田栗男……ださっ……くくっ……栗男さ〜ん?」
「るせぇ!」
恥ずかしさで顔が真っ赤になる。もう嫌だ。
「二人とも。喧嘩してないで行くよ。」
「あ、待って下さい!」
もう既に先に進んでいる帰宅先輩。
音速は笑うのをやめ、その元へ駆けていく。俺も、帰り道など分からないため、二人についていく事にした。
「ここから俺らの街まで、南に進めば出れるはずだ。とにかく真南。」
「はい。」
「うっす。」
俺達は歩き出した。
歩き始めて、十分。
三人の、地面を踏む音が響く。
前方を覗いても、まだ並ぶ木しか見えない。
「栗男、もっと早く歩きなさいよ!」
「うるせえな、足がとられるんだよ。」
土に敷き詰められた、枯れ葉のせいで転びやすい。さらに、注意して歩かないといけないため、想像以上に体力を使う。
音速は平気だとして、俺より体力が無さそうな帰宅先輩が、息一つ乱していないのが不思議だった。
「理不尽だ……」
「何言ってるの。帰宅先輩は、誰より早く帰れるように毎日鍛えてるんだから。」
「マジで……?」
相変わらず無表情を崩さない彼は、ずんずん進んでいく。
その歩みが、やがて止まった。
「……壁だ。」
急に立ちはだかった崖。かなり高く、登ることは不可能そうだ。
一気に落胆する。
「まだ諦めるには早い。周辺を見てみよう。」
右に左に、岩肌や地面をじっくり観察する。だが、足場や、抜け穴などは無さそうだ。
「こっちは何もないぞ。」
「こっちもです!」
「……参ったな。」
悔しそうに唇を噛み締める帰宅先輩。初めて感情らしいものを見た。
ここまで来たのに。漂う疲労感は拭えない。
肩を落とし、諦めよう、といいかけたその時。
「ねぇ、何か洞窟っぽいものがあるけど……?」
音速が気付いた。
「!? さっきまで無かったぞ!」
「でも、あるわよ? ほら……」
音速が指差したそのすぐそばに、黒々とした穴が空いていた。人が一人、充分通れるぐらいの広さの。
「ここを通れば……!」
「この壁を、抜けられるかな?」
そして、帰ることができる。危険だが、懸けるしかない。洞窟の前に立つ帰宅先輩の手には、コンパス。
その針は、洞窟に向かって伸び、真南を指し示していた。
「……行くか。」
「「おおっ!」」
俺と音速の声が被る。音速は俺を見て、一瞬嫌な顔をした。
その後に、不敵な笑顔。
帰宅先輩も、うっすら笑っている。
「うっし……突入っ!!」
俺達は踏み出した。
*ミニ後書き
微妙なところで終わりましたが、後は皆様の想像力次第です(笑)
SSは初めてだったのですが、楽しく書けました。ありがとうございました!