SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
荷物 ( No.33 )
- 日時: 2016/03/02 23:04
- 名前: りあむ*
私はひたすら歩いている。
重い。
背中が重い。とても重い。
私にとってそれは重圧だ。拷問だ。
彼は私に荷物を授けた。ほい、と放った言葉の軽さ。
そんな軽いもんじゃない。この荷物は重すぎる。足がこんなに震えてしまう。
仕事も手につかない。遊びだって出来ない。声すら上手く出なくて、私は前を睨みつけている。
一歩踏み出した。
これが最後だ、もう歩けない。片膝をついた。
駄目だ、駄目なんだ。この荷物は私には重すぎる。
きっと私はこのまま潰れる。
バランスをとることすら怪しくなって、どんどん前のめりになっていく。
荷物は私には大きすぎて、私にどんどん覆い被さってくる。黒い影になって、私を呑み込むのだ。
子どもが現れて私を指差した。
私を不思議そうに見て、けらけらと嗤った。荷物に押し潰されて死ぬのさ、そうさ、私は。
思えば何も面白くない人生だった。
地面を這い蹲れば、そして進めば、いつか辿り着くと、そう思っていた。そして私は這い蹲り続けて死ぬ。地に伸びる。
ずっと歩き続けた己よ馬鹿馬鹿しい。お前は荷物に押し潰され死ぬのだ。全て諦めてしまえ。
荷物を私に授けた彼は、私の目の前でにこにこと笑っていた。子どもはけらけらと軽快に嗤っていた。
彼らは私の敵だ。敵だったがもう死ぬのだ、どうだっていい。
最期に睨み付ければ真顔になった。音が無くなった。
真の顔がふたつ、私に突き出された。眼前を塗りつぶす顔が言った。
お前の背中の荷物は翼だよ。背中の重い荷物は大きな翼だよ。
私は目を瞑る。
もうすぐ、私の身体は死をもってして荷物を受け止めるだろう。何を思うことがあるのか。地面はもう目の前じゃないか。私は、私はこのときを迎え、諦めるのだ、全てを。
目を開ければまた彼はにこにこと笑っていた。子どももけらけらと軽快に嗤っていた。
諦めるのか。
翼を持つ私は。地を這い蹲って、地に伸びて、死ぬのか。
目指したものは何だったか。辿り着いたか。
いや、私は。
私にはこの荷物は重すぎる。
足を無理矢理出せば、転がる様に前に進んだ。一度倒れかけた私は前のめりだった。
重すぎる、重すぎる。
私にとってそれは重圧だ。拷問だ。
彼は私を見下ろして笑っていた。子どもは私を指差して嗤っていた。
一心に足を運んだ。がむしゃらだ。
どんどん景色が過ぎていく。景色が飛んでいく。
私の荷物はあまりにも重い。背中を押し潰す。
しかし私は加速していく。
飛ぶために。
辿り着くために。
使い古した足が最後の地面を踏んだ。
さあ今。飛べ。
子どもの差した指はどんどん上を向いた。
私は彼を見下ろした。彼らは笑っていた。
彼らは私の敵だ。彼らは私を助長する。
前を向けば先が見える。私の眼前には先があった。
あれほど重かった背中が今は軽い。
最期を踏み切った足は、より強靭になった。私には翼もある。
背中の重い荷物は、私の大きな翼だった。
訪れた試練は、大きな好機であった。
目指したものはまだ遠い。しかし私は死ななかった。まだ辿り着ける。
私は進める。進むのだ。
私は翼をはためかせた。