SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

起きなきゃいけないんだ ( No.34 )

日時: 2016/03/04 04:11
名前: あかさ

ここはどこだろうと、いつも思う。
今は確かに、この手で掴み、この脚で歩いているけれど、もしかしたらと思う。
楽しい時にそれを考えると、急に不安になるけれど。
悲しい時にそれを考えると、急に安心できるけれど。

結局は自分の中の空想なんだとも思うけれど。
でも本当はそうじゃないかなんて思うけれど。

何度も確かめたいと思ったけれど。
確かめる術なんて無かったけれど。

たまにあるんだ、この世界を、上から眺める事が出来る、いい気持ちが。
あれはなんていう感情なんだろう? 喜びかな、嬉しいのかな。それともただの、優越感なのかな。

すごく気持ちいいんだ。
上に広がる風が、青空が、白雲が、遠くまで続く街が、そのまた遠くに見える海が。

すごく愛おしいんだ。
遥か過去に帰ってしまった、優しさが、愛が、恋が。

すごく憎たらしいんだ。
今ぼくの体に這いずり回る、非情さが、憎悪が、痛みが、吐き気が、嘲笑が、白い目が。

すごく気持ち悪いんだ。
今ぼくを見上げる期待が、無関心が、平常心が、緊張が、面倒くささが。


ここは夢の中なんだ。
現実では、目覚ましがうるさく鳴っていて、家族が起こしに来て、目を覚まして、美しい空を見て、ベッドから降りて、居間に行って、家族で昨日の話でもして、ご飯とお味噌汁を飲んで、兄弟姉妹がパン一枚咥えて、慌てて出て行って、そしてぼくがゆっくり余裕を持って、学校に行くんだ。

学校では、みんな優しくぼくを迎い入れるんだ。
楽しく談笑するんだ。
先生が欠席を取るんだ。
誰も休んでいないんだ。
授業が分かりやすいんだ。
平和な日常なんだ。

そんな黄金色の毎日が、ぼくを待ってるんだ。


この夢はぼくには小さすぎたんだ。
次はもっと大きな夢がいいな。
どんなぼくでも包み込んでくれる、優しい夢がいいな。

もう起きなきゃ、家族が起こしに来ているんだ。



僕を見る人達が何か言っている。
僕を目覚めさせない気だ。
この小さすぎた夢は、僕を必要としている。
でもね、ぼくに君たちはいらないんだ。

だから出て行くよ。
前に一歩踏み出せば、この夢は壊れる。
みんないなくなる。
ちょっと痛いだろうけどね。

さぁ、行くぞ。

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