SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

「カラス」 ( No.46 )

日時: 2016/03/22 12:38
名前: はずみ

「カラス」
また、ささやかれている気がする。あの集団の中心で笑っているのは、そう。
───白鳥。
チャイムがなって、周りのひよこたちが散っていく。背筋を伸ばした彼女と、わたしの目があった。あわてて首を前に向けるけど、鼻で笑われた。醜いと思われているに違いない。悔しい。
悔しい悔しい悔しい悔しい。
ほんの三日前まで、あの席には私がいた。この席には、彼女がいた。そして私が鼻で笑ってた。「カラス」って。
この学校では踊りがすべてだ。席替えで、成績の順位は丸わかりになる。一番優秀な生徒は、教室の一番後ろの真ん中の席。そこに座ればランクは白鳥。前から二列目と三列目、それから一番後ろの真ん中以外がランクがひよこ。一番前は、カラス。カラスになれば、みんなから笑われ、下僕としてつかわれる。そのカラスがたとえ、前回の白鳥だったとしても。
運が悪かっただけ。彼女が白鳥になったのも、まぐれ。何度言い聞かせても、心からは血があふれだしてくる。血がにじむほど手を握りしめ、後ろで笑っているであろう白鳥を呪った。
次の試験は、明後日。絶対に、絶対に、負けない。

明後日は明日になり

明日は今日になり

試験が始まった。
まずは、白鳥がおどる。ひよこもほかのカラスたちも、すごいすごいと騒ぎ立てる。でも、私にはひどく醜く見えた。
────プレッシャー、でしょ?
この白鳥という最高の立場を維持するためには、ここで最もうまく踊らなければいけない、という思いにあがらうように体が固まっていくことを、私は知っている。前回がそうだった。でも、今回は違うから。貴方を、絶対抜かす。


一番最後に、私の番が来た。先生はきつい目で私を見るけれど、にらみ返してやる。見てなさい、私の実力を。
音楽と体が重なり合った滑らかな動きは、想像以上だ。
彼女がこちらを赤い顔で見ているのは、きっとおびえているのでしょうね?くるくると回り最後のポーズを完ぺきに見せつけてやった。
これで私の勝利は確実。明日の朝が楽しみね。

次の朝、部屋をノックする音でめざめた。ママがいそいで入ってくる。まぁ、もしかして白鳥になったお知らせを聞いたのかしら。もう、せっかちなんだから。

「なぁに、ママ」

「早く学校に行きなさい、まぁどうしましょう」
何かあったのかと考える。そういえば試験中ずっと不思議な人がいたのを覚えている。確か頭のよさそうな女の人。もしかして、私、スカウトされちゃった?!
ふわふわとして学校に着くと先生が校門で待ている。おでむかえ?今更いい顔したってなにもあげないわよ!先生につられて校長室にいった。お祝いの言葉でもあるのかもしれない。ふふふ。

「ごきげんよう、校長先生」
優雅におじぎをすると、頭から声がかかる。

「君は退学だ」

「えっ」
なんで。頭を上げると昨日の女の人が、難しい顔をしている校長先生の横に立っている。
「昨日の白鳥の踊りを覚えているかね?」
なぜかわからないけどきれいに答えておく。

「よかったとおもいます」

「ちがうだろう」
いや、それはそうだけど。確かに汚い踊りだったけど。

「きみが白鳥を脅して最低の演技をさせたんだろう?」
え……

「違います!そんなこと、絶対にしません!」
私は必死で抗議した。それを校長は大声で遮る。

「秘書が、ずっと見ていたのさ。汚い真似はやめてくれ。君は、白鳥の踊りをずっとにらんでいたんだろう?」
秘書、という言うところでよこにいた女の人を指さし、校長先生は息切れしながら言い切った。

「さぁもう出て行ってくれ。金輪際この学校に来ないでくれ!」
先生に引っ張られて校長室を出て行き、校門の前におかれる。先生は残念です、と言い放ち、門をぴしゃりと閉じた。

「違うんです、何かの間違えです」
なんどもそういって、門を揺らしたけれど、先生は一度も振り返らずに校舎へ消えててしまった。

「わたしも、クラスメイトとして残念だよぉ、カラスさん?」
いやな声がして後ろを振り返ると、白鳥がいた。

「カラスさん……」
白鳥がうつむく。本気で残念と思ってくれたのかもしれない。協力して疑いを一緒に晴らそうよ、と言おうと、息を吸おうとした時、白鳥がバぱっと顔を上げた。

「ばっっかじゃないの?あははは、はは、はぁ、おっもしろ!」
涙を流し、指をさしておなかを抱え笑っている白鳥をにらみながら、震える手を後ろに隠した。すごく気持ちが悪い。いやなよかんがする。

「みぃんな騙されてやがんの!全部私が仕組んだんだょ。すごくない?カラスさん、あなたの踊りきれいだったね。ほんとに危なかった。ねぇ、カラスさん、あなたはもうこの門を超えられないよね。でも私は超えられる。白鳥として」

立っていられなくなり、しゃがんでしまった。あたまがいたい。手も足も震える。

「ばいばい、カラスさん」
門を開きまた閉じる音を聞いたら、吐きそうになった。
でも、私は立つ。よろめいて、門に手をかけた。スキップする後ろ姿を見つめる。

────見てなさい。





絶対に、絶対に、わたしはあなたの超えられない門を超えてみせる。そして、世界の白鳥になるわ。
世界ではカラスにしかなれない貴方を鼻で笑うの。

「カラス」

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