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SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
狂わずの歯車 ( No.5 )
- 日時: 2016/01/12 18:59
- 名前: 翌檜
私には、名前が無い。
いや、名前は確かにあり、そこにちゃんと存在はしていた。しかし、時が経つに連れ、名前は徐々に消えていった。そして、私は人々から忘れ去られる。名前も存在も。私は名前を呼ばれた頃を思い出す。しかし、もう名前を呼ばれた頃の記憶はほとんど無くなっていた。それでも、私は懸命に思い出す。私が私でいられるように。しかし、そのたびに現実が私を呼ぶ。「お前」 「貴様」等と。
私は社会の歯車の1つ。せかせかとゴキブリの様に動き続けている。しかし、動けなくなったら捨てられる。呆気なく、それこそゴキブリの様に。私は時々思う。ああ、そうか。私は自ら歯車に成り下がる為に、こんな所へ来ているんだと。歯車にでもならないと私は生きていけないと。しかし、私の居場所は其処には無い。生きている甲斐が無い。私は、物では無い。私は、害虫では無い。私には、名前があり、笑って生きる権利があるはずだ。私は、死ぬ時に、生きていて良かったと思えるような人生を送ってもいいはずだ。居場所を求めてもいいはずだ。
しかし、それは所詮きれいごと。私は所詮、歯車。言われた通りにしかくるくる動けない、歯車。
結局、悪いのは私だ。勇気も実力も名前も存在も金も友達も恋人もモラルもセンスも何も無い私が悪い。そんな世界に生まれた私が悪い。
そして、今日も私は無機質に回る。クルクルと……。
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