SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

「赤」 ( No.59 )

日時: 2016/04/03 20:07
名前: ゆきしま ◆BV.fqgxxRU
参照: http://以前、自身のブログにあげたものをほとんどそのままですが。

 「君が肉を喰えないのと君のなくなったその左腕、もしかしたら何か関係があるのかい。」

突然そう言いだしたのは自分の友人であるレオだった。

 「ふむ、その質問に答えない理由はないが、しかし、今はさすがに食事中だ。大方血生臭い話となるのは見えているだろう。」

色彩豊かな野菜たちをフォークで刺して口に運びながら僕はそう答えた。彼の言ったとおり本来あるはずの左腕はとうに昔になくなっている。

 「言っても、もう君の食事も終わるじゃないか。ほら、その赤いのを早く口に運んで飲み込み給え。久しぶりに僕が興味を示しているんだから。」
「言われてみれば。君から質問を受けるなんて大分久しいな。が、せっかちは早死にするぞ。」

僕の言葉に機嫌を害したのか少し眉をひそめてパプリカを手づかみで無理やり僕の口に押し込んだ。僕は別段驚くこともなく、相も変わらずに落ち着きのない奴だと押し込められたパプリカを食べた。さあ話せと視線を向けてくるレオを横目に僕は食器を片付け、ホットミルクを二人分注いでまた席に着いた。

「さあ、どこから話したものかと思ったけれどやはり何故今この腕がないのか簡単に、一言で、分かりやすく、伝えよう。」
 
無言でホットミルクを奪うように手にとったレオは片眉を上げながら話を聞く体勢になっていた。その様子を一瞥した後、窓の外を眺めながらその時の様子を鮮明に思い出す。そう、雨だったんだ。今日と同じような雨の日。だけど、赤だったんだ。雨が、景色が、僕が、世界が。
 
 「腕を喰った。」

僕が自分を喰った日は、世界が赤くて。多分、それは自分の汚いところを隠そうと、赤がしたのだろう。
さも当然のように言い放つ僕を有り得ないとでも言いたそうにレオがこちらを見やる。

 「喰った? なんだ、てっきり君は僕と同じ民族の人間かと思ったけれど生憎ながら僕の民族にカニバリズムがあった覚えない。それも自分の。で、それが君の菜食主義と何か関係があるの。」
「……ふむ、まだ何か必要なのか。そうだな、僕は菜食主義なわけじゃない。肉が好きなんだ。」
「じゃあ、肉を喰えばいい。」
「抑えられなくなる。」
「何を。」

ここまで言っても分からないとは思わなんだ。仕方なく僕は飲みかけのホットミルクを手に「よいしょ。」と立ち上がる。そして、疑問符を浮かべるレオの右手を取り、その人差し指をホットミルクに突っ込ませる。

 「あっ……つ。何を――――」

その先は言わせなかった。人間にしては鋭い歯をたて、相手の人差し指をくわえ込むとそのまま噛み千切る。

 「痛いな、僕には痛覚というものがあるんだよ。それに折角のテーブルクロスが赤くなってしまった。でもわかったよ。君が肉を喰わない理由が。」



「それは結構。御馳走様でした。」

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