SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

君はいつも美しかった。 ( No.12 )

日時: 2016/05/20 17:16
名前: 主人公には、なれない。

チーンという音を聞きつつ、私は正座していた足を伸ばしたいと思った。
葬式は、このような葬式は嫌いだ。
お香をあげたら、親族の会には参加しないでおこう。

「ーーー様葬儀」
とある小さな会館の、とある小さな部屋。
あいつに慕う人は、当然先生だったんだから多い。
だから、親族だけで葬儀を送ることは叶わなかった。

お香をあげた後、顔を一目見る。
菊の花に囲まれて、彼女はとても嬉しそうな顔だった。
「行こうか。」
そう、その寝顔に囁く。


通夜のあと、私はすぐに階下の駐車場に降りた。
少し塗料の禿げたハーレーに跨り、スターターを回す。
喪服なんて知ったことか。
ただ走ればいいんだ。
ギアを一気に2段入れ、スリップさせるかのように車道に滑り出る。
目指すは河原、あの草原に。

バイクをとばすこと10分弱、橋の近くに乱暴にバイクを止める。
初めてデートした時、財布を川に落としちまったんだっけか。
それでパーになった予定の間、ここですごしたんだ。
歩いて石垣のようなつくりの段に腰を下ろす。



見ると、流れついたのか、人工皮革と錆びた金具のボロボロな何かが目に映った。
手に取ると、ガラス製の勾玉らしきストラップが付いているのがわかった。
「はは、あの時のが流れてきたのかよ…」

二人なら、笑い合えたのに。
破れた皮の隙間から見える、バイトで作ったなけなしの5000円札が見えている。
夏目漱石は何も言ってくれない。
「くそっ、」
私は財布を川に投げた。
「くそっ、くそっ!」
そして叫ぶ。
「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!…」

…くそっ…

貴方は、なんでもない時を過ごしてなどいない。

いつだって、なんだって。
貴方の1日は、自分の中の「時」になる。

だから、1日1日を大切に。
そう伝えるしか、私にはできないのだ。


end

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