SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

琥珀の時に身をまかせ。 ( No.3 )

日時: 2016/05/09 17:04
名前: 翌檜

「……こんな所で何の用なの?」

「此処は、二人で初めてデートした公園だよ。覚えている?」

「勿論よ」

「私は、誰からも望まれなかったとしても、君を幸せにするよ」


「それって、プロポーズ?」


「ああ……そうだね。ほら、ダイヤの指輪。綺麗だろ?」

「……ええ。輝いているわね。けど、琥珀の方が好きよ?」

「何言っているんだ。ダイヤの方が、輝いているよ」





これが、二人で最初の時だった。



夫と妻は、二人で人生の時間を歩く事を決めた。



「私は、宝石が好きだ。ダイヤにルビーにエメラルド。私に相応しい装飾品だ」
男は、笑いながら、沢山の宝石を家に飾っていた。
この男は、既婚者で、本日、結婚記念日三年目。
男は、この日を決して忘れる事無く、日々、仕事に精進していた。朝から晩まで働き、妻には何不自由ない、理想な生活を送らせていた。

いや、送らせないといけなかったのだ。



妻の両親は、男を嫌っており、結婚も反対されていた。

「君では、私の娘を幸せには出来ない。お前のような、中身が空っぽの男にはな。だが、娘は君を愛している。その事に関しては何も言わない。ただ、私は君が離婚するのを、待ちかまえている事にしたよ」

「……お父さん。私は、沢山の宝石が変える程の金を持っています。私は彼女を幸せに出来ます!」

「もし、もう一度、同じ言葉を発したのならば、私は君を許さない」

男は、自身を妻の両親から信用されていないと思った。
男は、結婚式以外の時を、労働に使った。
妻も自由に、欲しい物を買い、美しい宝石も買えた。
男の会社内からも、人望が厚く、未婚者からの憧れだった。

「……素晴らしい輝きだ。これなら彼女にも、ご両親にも喜んでもらえるな」



男に電話が入る。


「すまない。社内でトラブルが起こってね。急きょ、来てもらえないか?」

「……あ、はい……」



男は、急いで身支度を始める。



すると、玄関の扉から妻がゆっくりと入る。


「あなた……?」


「……今日は、結婚記念日だったね。すまない、会社に戻らないといけないんだ。この美しい宝石を見て待っていてくれ」


「……また、仕事?」


「そうだ。それじゃ……」


妻は、高笑いしながらプレゼントを投げつける。


「……外面だけで、満足してさ……私の事、一度も見てくれなかったよね。この三年の時の間に」


「……おい、どうした?」


妻は、家を飛び出す。



男は、プレゼントを持ち、妻を追うが、見失う。



男は、プレゼントが、妙に軽いと思う。


「いつもは、琥珀の装飾品なのに……」



男は、プレゼントを開けると、離婚届が入っていた。

「そんな……どうして!?私は、こんなにも頑張ったのに!」


同時に手紙を同封されていた。

「貴方へ


貴方が見ていたのは、私じゃ無くて、両親と仕事の評価だけだったね。安っぽい宝石で必死に外面を固めるのなら、私にもっと、構って欲しかった。

私が欲しかったのは、ダイヤでもルビーでも無い。


あなたとの、時。


貴方と、琥珀みたいに、あの優しい輝きで、私を包んで欲しかった。

琥珀の時に身を任せ、あなたとゆっくり、過ごしたかった」





琥珀は元々、地質時代の植物樹脂が地層にうもれていた化石。ダイヤのような宝石とは違い、化石である。



だが、何万年と掛けて、とても美しいモノへと変貌する。



妻は、生命が終わっても、とっても美しい人生だったと、感じていたかったのだ。








男は電話をかける。


「……おい、会社に着いたのか?」


「もう少しだけ待って下さい。失った時を取り戻したいので」


「は?」





夫は、妻の元に走る。







そして公園で二人は、また出会い、琥珀の時に身を任せ、互いに持っていた琥珀の装飾品を身につける。



決して、失った時は戻せないが、これからの時は、きっと琥珀のように、優しく明るく、輝いているだろう。

夫と妻は、二人で人生の時間を歩く事を決めた。

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