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SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
禁句 ( No.5 )
- 日時: 2016/05/11 22:10
- 名前: 桧 譜出子
幼い時の懐かしい思い出、、、、、。
甘い本の匂い。
そうか、あの子の家は古本屋だったのか。
─ねぇ、みさきくんは、わたしがここからいなくなったらどうする?─
─えっ?そんなのいやだよ!!─
─もしもだってばぁ。─
─うーん…。かんがえたくないよ。─
一分くらい、考え込んだあと、僕は答えた。
─わすれないよ。─
するとあの子は、
─うれしい!! じゃあみさきくんにはみせてあげる!─
そしてあの子は画用紙を出して、僕に見せてくれた。
─きんくってだいめいなんだよ。─
そこには、透き通った猫が描かれ、よくみると、猫の腹部の辺りになにか赤い物がいる。
これはなに?と聞こうとしたとき、あの子は笑って、
─それがわかったら、もどってくるね─
そう、あの子は笑った。
名前も、顔も、よく覚えてない。でも、約束だけは覚えている。
そろそろ考えなければ。
そう考えれば考えるほど、答えが出てこない。
禁句…。
あの子はなにを伝えたかったのか。
そんなときでも、時の流れは止まることを知らない。
─そうか。
あの子は、それを伝えたかったのか。
どんなに印象深いものでも、いつかは忘れ、気持ちは薄れ、
存在は消えてしまう。
でもそれは、この世界では、発してはいけないタブーであり、
禁句なのだと。
何処かで風がそよいだ。
「ただいま。」
「お帰り。」
「よく、できました。」
「だから言ったでしょ。忘れないって。」
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