SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

夏の日の物語。 ( No.16 )

日時: 2016/09/19 23:59
名前: レオン

『ねぇ、煉…。覚えといてね?私は……xxx。』

さぁさぁと流れる波の音に混じり、君の声は僕の耳に届いた。それは鈴の音のように安らぎを与えるような綺麗な声で。

でも…何で忘れてしまっていたんだろう?

大切なある夏の日の思い出。小さい頃毎年忙しい両親が、たった三日間だけ休みを取って…家族旅行に連れてってくれる。その海岸で一日だけ遊んだ…長い髪を揺らしながら微笑む名前も忘れた一人の少女。ただ、僕が勝手に“そらちゃん”と呼んでいた事だけは覚えてる。理由は覚えてないけど。

「…ここか。ここが、赤崎海岸。ここで“そらちゃん”と遊んだんだ…。」
「おーい!煉!!コッチだってよ!早く行こうぜ!海が俺を待っている!!ひゃっほう!」
「あのバカ、今日はバイトだって…煉。何かあったのか?顔が暗いぞ。水いるか?」

友達の双子。光夜(馬鹿騒ぎしてる奴でも真面目)と京夜(いつも心配かけてる奴でも天然)と一緒に海の家のバイトに来ていた。理由は母親の父方にあたる伯父さんの息子。つまり親戚が、海の家を経営してて今年は人手が足りないらしく、その手伝いと夏の思い出を作ろう!と言うことで仲間を誘いはるばる電車でやってきた。そして…

今、どうして忘れかけていた“そらちゃん”の事を思い出したのか真剣に考えていたのに…京夜の水いるか?で一気に現実に戻ってきた。暑い。さっき天気予報を見たら三十度は軽く越えていたし、流石は夏の海だ。体感温度はそれ以上かもしれない。

「あぢぃ。夏の海舐めてた。ぎょうや〜、水と日焼げ止めくれねぇ?」
「はぁ。だから言ったろ?海を舐めてちゃ危ないと。それと、日焼け止めは自分にあったの使え。お前は焼けると真っ赤っかになるんだから…いや何かもう見てられないくらいに」
「サンキュー。てか、お前は日焼け対策バッチリだな!?女子かよ?!」

隣をよく見ると、帽子に長袖のパーカー、さらに日焼け止めをたっぷりと塗っている京夜。本当に日に焼けたくないんだなと思うし、あの駆けていったバカもそれなりに日焼け止めは塗っていた。焼けると痛いし、大変だけど焼けたからこそ夏を楽しんだって気になってたガキの頃後が懐かしい…はぁ。歳とったな。

「歳とったとか思ってんだろ?なに言ってんだよ煉!俺たちはまだ花の高校生だぞ?青春を謳歌しようじゃないか!!あと、おじさん呼んでたぞ?」
「うわぁっ…ビックリした。危うく耳でs……ってこるやはエスパーかよ!何で俺の考えてたこと分かりゅんだ!?!?」
「そりゃあ、煉の顔見てたら分かる。お前わかりやすいし、おい。というか、名前間違えるぞ、こうやな?てか最後が一番大切だろ!」
「そうだよ!おじさん所早く行こ!じゃないと殺される〜!!」
「えっ、おいっ!待てって!お前足速いんだから!置いてくな〜!煉、京夜待ってくれよ〜」

煩い光夜を置き去りにして海の家に急ぐ。案の定、おじさんはカンカンに怒ってて、遅いと全員頭に拳骨を一発食らった。それからは水着に着替えて…“そらちゃん”の事を考えることすら出来ずに、大忙しのバイトが終わったのは、そろそろ夜の帳が下りて来る時刻だった。

「クソ〜。今日はバイトさっさと片付けて可愛い子ちゃんとおもっいっきり遊ぶ予定だったのに…」
「お前はバカか?はぁ、俺は言ったからなちゃんと、とっても辛いバイトだと。しかし、俺も結構日に焼けたな。まさか日焼け止め塗る時間さえないとは…はぁ」
「相変わらず日に焼けるの嫌なのな。てか、明日もあるんだろ?いじめだろ。」
「まぁまぁ。てか、勝手に付いてきてその言いぐさはないだろ?それでもおじさん助かったって言ってたし…はぁぁ……そろそろ民宿に戻る?それとも、夜の海ても眺めるか?」
「男三人で夜の海眺めるとか…まあ、疲れたし今歩きたくないしいいけど?」

とか何とか言ってるのにその目は真っ直ぐに海に向けている。夜の海は、昼とは打って変わって静けさと波のさぁさぁとした音しか聞こえない。真っ直ぐ見つめても大きな岩か水平線かこれから漁に出かける船しか見えない。

「ふふ、ツンデレだ。変わらないよなこの三人も…初めてあったのもこの浜辺だっけ?」
「そうだな。たしか、俺と光夜が遊んでたところに……」
「そう言えば、煉。あの子のこと覚えてるか?長い髪の確か…“そらちゃん”だっけ?可愛かったよな〜。」

俺は耳を疑った。えっ、光夜も憶えていたのか、もしかして忘れていたのは俺だけなのか?そんな考えが俺の頭をグルグル回っていたところに京夜が追い打ちを駆けた。

「そらちゃんか。懐かしい名前だな。確か、この近く住んでいると言っていた。たしかここから歩いてそうかからない場所だ。」
「よく覚えてるな〜。俺はうろ覚えなのに…でも確か、泳ぐのとっても上手いって言ってたな?えっ…煉?どうしたんだよ?泣いてるぞ?!」

いつの間にか…泣いていたらしい。何で俺だけ覚えてないのか、何で思い出せなかったのか……。俺だけ仲間外れのようでとても悲しかった。何でなんだろう?何で俺だけが忘れていたんだ?理由が思い当たらない。ただ、ただ涙があふれ出て止まらない。すると、光夜がハンカチを差し出してきた。


「でもさ、俺達が再会したのはビックリだよな。まさか、同じ町に住んでたなんてな……」
「煉。泣くな。知ってるか?そらちゃんがサヨナラ言ったのお前だけなんだぞ?俺たちは煉の口から聞いて初めて知ったんだからな。…それだけそらちゃんはお前を大切に想ってたんだよ。」

サヨナラはお前だけ。京夜の言葉は俺の胸に刺さった。サヨナラが俺だけ?そのときのことをあまり思い出せないが、確かにコレだけは言っていたのは憶えている。

『…煉。京ちゃんにも光ちゃんにも内緒だよ?私と会ったこと。だって2人に言ったら…絶対泣いちゃうもん、涙でサヨナラは私は嫌だから。そんな顔しないで笑って?』

振り返り笑顔で俺に言った言葉。確かにあの頃の二人だったら絶対に泣いていただろう。今はどうか知らないけど。でもそらちゃんは涙が嫌いだった。嬉しいときに流れる涙もあるのに…泣いている人を見るのは嫌だったらしい。

「…俺。“そらちゃん”のこと忘れてた。最近になってやっとこ思い出したんだ。大切な子なのに……」

俺の胸の中にあった想いが溢れ出した。そしてなぜ忘れてたのかも思い出した。







そうだ俺は…ずっとずっと。あの髪の長い少女に……






「…恋、してたんだ」







「やっとこ思い出したんだ。もう待ちくたびれたよ?」

その鈴の音のような安らぎを与えるような綺麗な声がまた聞こえた。えっ、でも、待って。その声は少し大人びていても“そらちゃん”の声だと分かる。俺は辺りを見回した。でも浜辺にいるのは…俺たち三人だけ。どこにもいない人の声が聞こえるなんて、俺もそろそろ重症かも…いやでも。

「煉のバカ。覚えてといてって…言ったじゃん。私が……だってこと。コッチだよ。よく目を凝らして?」

その声は京夜達にも聞こえていたらしく、光夜と京夜も辺りを見回す。そして俺は見つけた。海にある一つの大きな岩の上に……足のない、しかしその代わりに尾ひれがあるあの髪が長い“そらちゃん”が座っていた。

「そら、ちゃん?えっ、う、そ。足が、ない?…人魚って本当だったの?!」
「煉。なに言ってんだ?どこにいんだよ?そらちゃーん、俺だよ俺!光夜だよ!どこにいるの〜?」
「光夜。お前は本当バカだな?そっちにはいないぞ。多分……向こうの岩の上だ。俺達には見えないがな」
「…マジか。クソ〜俺も見たかったなぁ。煉の話によると人魚なんだろ?きっと可愛いんだろうなぁ…」
「ここは普通なら信じないと思うんだが?人魚なんて架空の生き物。まぁ、でも煉がいるからな…信じるしかないか。煉。耳と尻尾出てるぞ」

京夜達の前にいるのは、耳と尻尾が生えている俺。そう俺は…妖。妖狐と人間のハーフ…だったりする。だから、他の人よりも目と耳がいいし、運動神経もそれなりに。でもハーフだから、耳と尻尾が出てしまうので苦労もあるし、自分ではその他は他の人と余り変わりはないと思っている。妖術使えるけど。

「ねえ、言ったよね?私が人魚だって事。だからなんだよね?煉が私のこと忘れちゃったの…」
「うん。たぶん母さんが…俺を苦しませないようにって。記憶を封じたんだと思う。」
「まぁ、終わったことはほっといて、遅いよ?何年たったと思ってるの?!もう十年だよ?十年!」
「うわぉ。結構怒ってるな、煉。頑張れ〜女の子怒らせたら怖いぞ〜。」
「あはは。そう怒らないでよ。しょうがないじゃん?思い出したの、と言うか解けたの最近だから?」
「解けるのに時間かかりすぎ!!そんぐらい頑張って早く解きなよ!…煉のバカ」

ものすごく怒られてしょぼーんとする。勿論耳も下がってしまうし、尻尾も。これだから、尻尾があると不便だ。

「なぁ。煉。煉の本当の気持ちを伝えれば機嫌が良くなると思うぞ?なぁ?京夜」
「俺にふるな…まぁ、でも俺もそう思う。がんばれよ」

二人の応援に腹をくくる。大切なとても大切な子へ。この言葉を…



『もう二度と忘れない!ずっとずっと一緒だよ。俺…そらちゃんのこと…ううん、xxxの事…大好きだ!』





風でかき消されそうになっても叫んだ。それを

空色の髪をした人魚は涙を浮かべた笑顔で見ていた。














「だから言ったじゃん。“遅いよ”って。」
















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