SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

彼は未来を見る研究をしていた ( No.24 )

日時: 2016/09/25 20:28
名前: 葉桜 來夢

彼は未来を見る研究をしていた。
そんな彼の机の上には機械類が散乱していた。
パソコンや測定器など、仕事柄必要になってくるものである。
彼はそれを使って未来を見る研究をしていた。

そしてある日、ついに彼は未来を見ることに成功した。

◆ ◆ ◆

今見ているのは近い未来なのか。

人類は、自らの仕事を全て機械に任せてしまっている。

行き過ぎた快適化になんの意味があろうか。
行き過ぎた快適化になんの疑問も持たないのか。
ただ人類は椅子に座っているだけだった。
一歩も動かずに生命活動をとっていた。

彼はとても驚いた。
自分が今見ている世界の姿に驚いた。
「便利」が暴走してしまった世界の姿に驚いた。

そして嘆いた。
伝統が崩れ去ってしまった世界を嘆いた。
ただ人類が惰眠を貪るだけの世界を嘆いた。

人類は、知識を持ち過ぎた。持ち過ぎてしまった。
既に動物を遥かに超越していた。
動物という領域の外に出てしまった。
世界のルールブックを、破ってしまった。

そして人類は機械を造った。
自分の言いなりになる機械を造った。
これでもっと生活が豊かになると。
これでもっと生活が便利になると。

それなのに。

それなのに。

この未来を見る限り職業は随分と減ってしまっている。
遊園地の入口でチケットの半分をもぎ取っていた人は。
レストラン店内の案内をしていた人は。
スポーツには欠かせない筈の審判は。

みんな、いなくなってしまった。

自動車はもうドライバーを必要としていない。
名前の通り、自動で動くようになってしまった。

人類はさらに動物味を失ってしまった。
でも、誰もそれに気付かない。
気付こうとしていない。

彼は怯えた。
これは果たして生きていると言えるのだろうか。
全てを機械に任せて、苦労一つしない姿を。
全てを機械に任せて、生きる為に行動しない姿を。

そして彼は考えた。
自分達の未来の姿は果たしてこれでいいのだろうか……。

◆ ◆ ◆

―彼は、未来を見る研究をやめた。

それから彼は、一体なんの研究を始めたのだろうか。

ただ、彼の机の上にあった機械類は全て姿を消して。

ノートと鉛筆だけが彼の机の上に置かれていた。
そして、窓際に置かれた小さな小さな観葉植物が、太陽の光を浴びて輝いていた。

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