SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
Love me only ( No.25 )
- 日時: 2016/10/10 00:29
- 名前: ユリ
■□■□■Love me only・U■□■□■
「”月がキレイですね”」
彼からの告白はその言葉だった。
いつかの誰かが”I love you”を間違えて
翻訳したとされている言葉だ。
彼がそれを知っていて言ったのか、そ
れは分からないけれど。
私がその夜に身を委ねようと思ったの
は確かにその言葉があったからだ。
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「ねぇ、君は今どんな気分?」
仄暗い寝室に、男女がベッドで”戯れて”
いる。
引き締まった身体をしている彼が訊く。
「そうね、とても幸せよ」
私は微笑んでそれに答える。
「…そうか」
彼のはだけたシャツの中の、パッと見気
付かない様な脇腹や腰の辺りには、多数
のキスマーク。そして、”自分の物”ではな
い花の香水の香り。
「なら、貴方は今どんな気分なの?」
私は彼の質問をオウム返しにした
彼が答える
「もしも、もしも何だけれど」
彼が言葉を濁しながら、目を伏せる。
間をおいて、悲しそうに眉を八の字にして
彼が言った。
「自分だけを愛して欲しいって言ったら、
君はどうする?」
■□■□■Love me only・T■□■□■
「はい、happybirthday!」
今日は僕の誕生日だ。
付き合い始めてまだ日が浅い彼女からプレ
ゼントを貰った。中身は花の香水だった。
試しに匂いを嗅いでみて、彼女に言う。
「有難う、大事にするよ」
どういたしまして、彼女は微笑んだ。
**
目を覚ますとベッドの中にいた。腕の中に
は彼女が眠っている。
起こさないように腕をはずし、水を飲みに
行く。
鏡を覗くと、気付きにくいところにある無
数のキスマークが見えた。彼女はいつもこ
こらへんにしか印を付けないので案外助か
っていたりする。
ピロリン ピロリン
スマホの音が鳴る。彼女のスマホだった。
好奇心で手に取ってみると、知らない男性
らしき人から、あられもない言葉が送られ
て来ていた。
From-健
今会える?
××ホテルで待ってる
簡潔な、それだけのメール。だけど、僕に
衝撃を与えるには十分だった。
驚きで声も出ない。もうそのまま寝ようと
ベッドに寝転んだ。
**
「おはよう、もう朝よ」
朝になって、彼女の声が頭から聞こえる。
目を開けると、僕の上に乗っている彼女が
いた。
そして僕は彼女に訊いてみた。
■□■□■□■□■□■
「月がキレイですね」
男性が訊いた
「でも、月って案外ボコボコしていて汚い
のよ」
女性が応える
「だけど、やっぱり僕にとっては月はキレ
イだ」
彼女は儚そうに微笑んだ。夜空を仰ぐ横顔
に見とれていると、彼女がゆっくり振り向
いた。
「そう、なら私、死んでも良いかもしれな
いわ」
ふふっと、彼女は楽しそうに笑った。
それに、つられて、僕も微笑んだ。