SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

color ( No.32 )

日時: 2016/10/07 22:18
名前: 蒼衣


秋を感じさせる冷たい風が吹き抜ける。そんな中、僕は一人学校の屋上に佇んでいた。
すると、誰かが話しかけてきた。

「こんにちは。」
「…こんにちは。」
曖昧な態度で僕は返す。だって僕には君が見えないから。
僕は聞く。
「君は誰?」
「…さあ。誰だろうね。」

「君には僕が見えているの?」
「もちろん。君には見えてないんでしょう?」
「うん。なんでわかるの?」
「わかるさ。今の君には見えないはずだから。」
「ふーん。…なんか不思議だね。」
「僕からしたら、見えない人の話に答える君の方が不思議だよ。」

クスクスと見えない君が笑う。
…それもそうか。

「…さっき“今は見えない”って言ったよね?それならいつか僕にも君が見えるようになるの?」
「見えるさ。君が“あるもの”を取り戻したらね。」
「あるもの?」
「…そう。君が捨てたもの。」
「僕が…?」
「そうだな…少しヒントをあげよう。じゃあ、君笑ってみて。」
「…え?」
「じゃあ怒ってみて。」
「…えっと…」

なぜだろう。そんなことを急に言われて、僕は行動に移すことができなかった。普通ならできるはずなのに…。

「できないだろう?それが答えだよ。君が捨てたもの。」
「…感情?」
「そう。君は笑うことも、怒ることも、泣くことも忘れてしまった。だからこんなところにいるんだろう?」
「…。」
「君は考えるべきだと思う。今どうすればいいか。」
「僕が…?」
「君には色がないんだ。自分を表す色が。君は真っ白だ。」
「僕の色?真っ白だといけないの?」
「少なくとも、君に僕は見えないよ。」
「僕はどうすればいいの?」
「簡単さ。君自身が君に色をつければ良い。」
「…つまり感情を表せってこと?」
「そう。君は今、どんな気持ち?」

…えっと、僕の気持ち…。ここ最近は何も考えずに塞ぎこんでた。自分がなんでこんなことになっているのかわからないまま…。あれ?そういえばなんでそんなことするようになったんだっけ?
ーそうだ。僕は…
その瞬間、目から涙が溢れでてきた。
「…やっと君に色がついたね。」

僕の両親が数週間前に亡くなった。事故死だった。僕をおばあちゃんの家まで迎えにくる途中だった。僕が一人でおばあちゃんの家にきていなければ…こんなことにはならなかった。僕はその時から部屋に引きこもるようになった。

「悲しい時には泣いて良いんだ。無理矢理我慢しなくたって。」
僕は泣きながら君に問う。
「…ねえ、今僕は何色?」
「…そうだな。青色かな。とても悲しい…でも、暗くない。例えるなら、ちょうどこの青空みたいな感じかな。」
「…ずいぶんと爽やかなんだね。」
「まあ、君が感情を取り戻したある意味おめでたい日だからね。それよりどうだい?今なら君に僕が見えるんじゃないか?」

そうだ。本当に見えるようになったのか確認しなくては。
涙で濡れた目をこすり、顔を上げた。

「そうか…君は…」
ー“未来の僕”だ。
僕が見上げた先には正真正銘「僕」がいた。

「…どうやら見えたみたいだね。それなら僕はそろそろ行かないと。未来の自分が見えるなんて、見えない誰かと話すよりもっと奇妙なオカルト現象だろ?」
「…ああ。そうだな。」
そう言って君は僕の前から消えた。最後に見せた笑顔が自分の顔のはずなのにとても印象に残っていた。








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