SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

最後の英雄 ( No.4 )

日時: 2016/09/09 11:41
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc

【B/F超時間記録装置と共に回収された文書】

 第一地球に望みを託し、この手紙を綴る。
 もしかしたら第一地球の奴じゃないのが読んでるかもしれないし、人間でないナニカが偶然拾ったのかもしれない。この言葉が読めない奴が読んでるのかもしれない。
 でも、それでも、何時かきっとこの手紙が解読され、大団円の糸口になることを願う。

 この手紙が読まれている頃、きっとそっちにも化け物が来ていることだろう。それがそっちで何と言い伝えられるのかは知らないが、俺達はこれを『星喰い』と呼んでいる。
 俺達は――惑星Auberの住人は、残された技術と力を使ってこの星喰いの背にこの手紙をねじ込む。こんなことしか出来ないのが悔しいが、俺達の技術では市民を脱出させるだけで精一杯だったんだ。笑ってくれ。
 この手紙を書いている最中も、星喰いは暴れている。Cyclo超深度生存圏が抉られるのも時間の問題だろうし、何より俺達の手に残った紙がこの一枚しかない。あまり詳しくこっちの状況を書けないのが残念だ。

 さあ、手短に話そう。
 そいつは元々、俺達と電信をしていた惑星の一つ、第二地球だ。それの上にはきっとあんた達と同じ人間が住んでいて、俺達と文化交流をやっていた。この状況じゃ信じられないかもしれんが、これで結構人間とは仲良くやっていたんだ。
 おかしくなったのは、俺達との交信歴が二百年を越したくらいの時だったか。
 電信の内容に「環境汚染が深刻で対応に追われてる」「電力を供給するための資源がない」ってのが混じって、それから段々と電信の頻度が落ちていった。元々青く見えていた第二地球が、だんだん赤茶けた色になり始めたのはその頃からだ。
 必要な物資や技術は提供する、と提案した。俺達の星は、まあ色んな淘汰や紛争があったとは言え、持続可能な環境の維持に成功していたから。
 だが、彼等は「その提案は受けられない」としか返答してこなかった。多分、同族殺しを受け入れられなかったんだろう。そこで多少脅しつけてでも俺達のやり方を勧めてたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。今更すぎるか。

 最後の電信はよく覚えている。こうなるほんの十数時間前だった。
 五年近く途絶していたのが、いきなり復活したんだ。
 その頃の第二地球は……何というか、冒涜的な何かだった。真っ黒で、ピンボケした可視光映像越しにも不気味に蠢いていた。そんなもんで、もう生き物なんか生きちゃいられないだろうって思ってたから驚いたよ。最初に通信の復活を見た奴は、椅子から転げ落ちて腰を強かに打った。転げ落ちなかった奴も、次の電信で全員そいつと同じ運命を辿った。
 ――音声メッセージ。声が、俺達に届いたんだ。
 音声の受信機能は無論装備してたけど、第二地球から送られてくる電信は全部文章だったからな。人間も何もかも死滅したと思ってたところから声が送られてきて、俺達はチビるほど驚いて、それから必死に電信機へかじりついた。
 まだ生きてる奴がいたのかと。でも違った。

 きっと気が付いただろう。その声の主が星喰いだ。
 いや……正確には、星喰いになる前の“主”とでも言おうか。それは第二地球のありとあらゆる事象や力を管理する存在であり、同時に第二地球そのものであるとも言っていた。惑星Auberにも、当然第一地球にも、似たような存在はいるんじゃないだろうか。
 しかし、それは最早ソレではなくなろうとしていた。人間の出したゴミの処理がとうとう間に合わず、正気を失いそうになっているのだと。ノイズだらけの声がそう言っていたよ。
 ゾッとしたね。汚染問題の対応に追われてるとは言ってたが、まさかその対応とやらがソレに丸投げとは。第二地球の人間は、どうやら人間の間だけで問題を解決することはおろか、問題を注視することすら止めてしまっていたらしい。怖気だって、驚いて、それから憤りを感じた。
 だが、俺達は更に恐怖した。電信の声がだんだんおかしくなり始めていたからだ。文章がぶつ切りになり、単語だけになり、しまいには飛行機のエンジンみたいな重低音だけになった。
 ――そして、重低音ばかりの電信を続けながら、それは惑星Auberに向かって突進し始めた。

 対応なんか間に合うものか。対惑星迎撃砲Keraunはフル充填に二十四時間かかる。第二地球の直径は概算で六千三百キロ、Keraunのフル充填でも壊しきれないし、ましてたかだか十数時間の充填で何ができる? その分のエネルギーを市民の脱出に使う方がマシだろう。
 実際、惑星Auberの市民はKeraunの充填用エネルギーを使って脱出した。俺は、突進の間も続く電信を聞き届けるために、惑星に残った。俺達、と言いたいところだが、生憎俺以外のメンツは脱出艇に載せちまったものでね。今頃宇宙を旅してるといいが。

 そろそろ紙面が危うくなってきた。
 こうして手紙を書いている今も、電信機から重低音は流れ続けている。それが一体何を意味しているのか、正直な所俺には解読しようがない。人間の暗号を使ってくれるなら分かり易かったのに、正気を失った星喰いはもう、人間の言語を何一つ操ってくれないんだ。星喰いのあるかどうかも分からない意志は、もうあんた達が読み取ってくれるのを期待するしかない。
 そんな俺にも、あんた達に言えることがある。
 あの星喰いの、本当の名前。いつか誰しもが、そう星喰いそのものさえも忘れてしまうだろうから、此処に書き記しておこう。どうか忘れないでやってくれ。人間の為に身をなげうった、憐れで優しい星の名を。

 [*****]を。

 どうか、思い出してくれ。

  ――Proxim星間情報管制室室長 Procyon


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    匆々、遥かに遠き英雄へ。
    貴方の遺志、確かに受け取りました。

          ――通りすがりの旅鳥より

                            【ヘンドリクス墓地から発見された返書】

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