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SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
この感情は。 ( No.43 )
- 日時: 2016/10/25 01:46
- 名前: みりぐらむ
長い睫毛が僅かに震えて、伏せられるとき。
俺は何とも言えない感情に駆られる。
この気持ちは…どう表現したらいいのか。
脳髄が焼き切れそうに、甘く苦しく蕩けていく。
初めてだった。
相手の全てを奪いたいと思ったのは。
…この感情が何を意味するのかは、分からない。
自分に分かるのは、襲い来る激情に飲まれてはいけないということだけ。
自分の中の『正解』を見出だせずに、必死で押さえつけることだけを考える。
なのに、視線はこいつに縫い止められたまま、動かない。
さら、と零れ落ちる艶やかな黒髪。
透き通るような肌。
華奢な体躯。
少し強く抱き締めたら途端に壊れてしまいそうだ。
…決して女の子のように柔らかいわけではないけれど、どこに触れても痺れるような快感を覚える。
それと同時に、激しい衝動が身体中を駆け巡る。
思わず喉が鳴る。
めちゃくちゃにしてやりたい。
閉じ込めて誰の目にも触れさせたくない。
危険な衝動が、目の前を真っ暗にさせる。
その儚さを汚してみたい。
今すぐに。
手が、届く距離ーーーーーー刹那、
長い睫毛が、僅かに開く。
黒い感情に支配された手が止まり、やがてだらんと下ろされる。
求めてやまない妖しく煌めく漆黒の瞳が、ゆっくりと自分を捉えていく。
憂いのある、虚ろげな瞳が光を取り戻す光景は、いっそ背徳的だった。
紅に染まる唇が、何かを紡ぎ出そうと少しずつ開いていく。
あぁ…
その甘く掠れた声で。
俺を、呼んでくれ。
「ーーーーーー遊」
この感情は、恋に似ている。
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