SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

はづかし ( No.47 )

日時: 2016/10/29 00:29
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ここらで見ない顔だ、ほれ、顔を見せてみなされ。
おやおや、随分汚れとるの。
あの水で清めてき。

*


さく、さくと黒い土を踏みしめ、茂る青を刈る。
日照りは容赦なくわたくしを射すが、かまわない。
ふよふよと、豊かな地に生い茂る若葉は、大切な作物の栄養までうばいとる、ゆえに刈らねばならない。
つやつやと光るなすびの照りにほう、とため息をつきながら、「わたしも、もっとこんなきれいになりたい」となんとなしに口に出す。

うしろから、声が聞こえた。


「ほれ、そろそろ」


朱色の盆の上では、あぶらげで包んだおむすびに、その上に昆布がのって、湯気を立てている。


「わあい、いただきます」


まったく、考えもなしに頬張った後に、上を見上げてしまって、少し恥ずかしかった。白く美しい狩衣がゆらめき、中の赤いさし色が見える。
わたくしがあまりにもとぼけた顔をしているものだから、おかしくなったのか、ほほ笑むところを見て、それでまた恥ずかしくなって、またおむすびにかぶりついた。

こんさまだ。


「ワ子はやっぱり、おかしいねえ」

「すいません」


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