SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

誰か自由を ( No.18 )

日時: 2021/09/02 11:34
名前: ねむねむ  ◆ImDwVl1n2.

「私に自由をくれ。」

彼女がそう言ったとき、僕は驚いた。
彼女は金も権力も持ち合わせている。
不甲斐なくて申し訳ないが、僕という彼氏もいる。
僕が彼女を縛り付けているのだろうか……
そんな不安を彼女は見抜いたのだろうか。
詳しく話してくれた。

「私は周囲の期待にいつも怯えていた。
 期待に応えられなかったら、どうしようと。
 仕事は早く正確にこなして、信頼を高めて。
 そうすればするほど、周囲にどんどん期待されて。
 正直、その期待が重かった。
 怖いんだ。
 きっと社長なら大丈夫だからと言われるのが。
 責任をすべて負わなければいけない立場が。
 全部、こわい……」

社長っていいよなー、すごい儲かってそうだし。
そう思っていた、僕の浅はかさを突き付けられた。
僕がしてあげられること、それは何なのだろう。
救ってあげたい。その重みから。
「社長」でも、僕にとっては彼女なのだ。
か弱い、一人の女の子なのだ。
男として、救ってあげたいと思うのは、何もおかしいことではない。
それがたとえ、身分に格差があったとしても。
どうすればいいんだ、どうすれば彼女を救ってあげられるんだ。
必死に考える。

「だから、私は自由が欲しい。
 みんなが当たり前に飲んでいるジュースだって飲んでみたい。
 社長だから、そういうのを飲んでいたらかっこ悪いと思われる。
 そうやってずっと思っていたんだ。
 たまには休みを取って、君と二人で野原でピクニックとかだってしたいんだ。
 あいにく料理は下手でね。上手な君に任せてしまうが。
 そんな平和でのどかな日を、一日でいいから過ごしたいんだ。
 でも明日には決済だの会議だの、たくさんの予定が詰め込んである。
 とても休みたいなんて言えないんだ……言えないんだよ……」

社長って、大変なんだ。と改めて思った。
今までも社長は大変だと思ったことがあった。
でもそれでもその分儲けがすごいし、と気に留めていなかった。
本人にとってそれがどんなに苦しいか、知らなかった。
考えもしなかった。

僕は、彼氏失格だ。

「愛する人を手に入れることができて、私は十分幸せなんだ。
 だけど、その次を求めてしまう。
 一緒にお出かけしてみたい、と。
 我儘なんだ、私は。」

僕は、うつむいていた顔をあげて言った。

「僕は、君の彼氏だよ。
 我儘を言われる立場であり、言われたいとも思う。
 君はずっと我慢してるんだろ?
 じゃあ、僕には我慢しなくていい。
 僕は、君のそんな我儘を、喜んで受け止めるさ。
 一日くらい休んだって、社員のみんなはいいと思うと思うよ。
 だって、一番近くで君の仕事を支えてるんだ。
 君がどんなに大変か、分かってると思う。
 それで、さ。僕と一緒に、ピクニックに行こう。
 行きたいんでしょう?ほかにも行こう、二人で、たくさんのところに。
 美味しいサンドウィッチを作ってあげるよ。」

彼女は目を見開いている。そんな彼女の驚いた顔も、好きだ。
だって、彼女は僕の彼女だから。
心から愛する、大切な人だから。

ずっと一緒。

独りじゃない。

大好きだよ。

一番近くで、君と過ごす。

一生、この手を離さないから。

笑って。

君の笑顔が、何より大好きだから。

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