SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

愛してしまったことを、謝らなければなりません。 ( No.31 )

日時: 2022/08/02 08:35
名前: 月喪靄

幸福な家族がいました。
優しくてきれいなお母さん。少し頼りないけど自慢のお父さん。
僕は二人に愛されていてとても幸せでした。

お母さんが病気で死にました。
さらさらと雨降る穏やかな朝のことでした。
お父さんは沢山泣いてました。僕はびっくりしてその様子をただ見ていました。

段々とお母さんはもういないんだとわかったとき、僕はお母さんを取り戻したくて堪らなくなりました。
お父さんは天才なので、お父さんならできるんじゃないかと思って、頼みました。

一瞬だけ目を輝かせて、でもお父さんは直ぐに頭を振って否定します。

「それは、やっちゃ駄目だよ。命の冒涜だよ」

ぼうとくという言葉をよく知らないから、僕は食い下がります。

母の生物としてのそんげん。せいめいのことわり。ぼうとく。命の法則。お父さんは訳のわからない言い訳で逃げようとしてばかりでした。

「お父さんはお母さんのこと愛していなかったの」
「……そんなわけ、無いだろ」
「僕も、お母さんが大好きだよ。三人の時間がすごく、幸せだったよ」
「そうだね」
「お父さんもそう思うなら、僕と同じ気持ちなら、どうして駄目なの?」

お父さんは、すごく悲しそうに目を逸らしました。僕の、お母さんと同じ色の目を見ていられなくなったみたいです。

「愛を免罪符に犯す罪は、最も穢らわしいものだよ」
「わかんないよ! 穢れることの何が悪いことなの。愛することの何が罪だというの?」

お父さんは一瞬固まりました。

「家族を愛することの何が悪いことなの? わかんないよ。お母さんを大好きでいることが悪いことなの? お母さんを大好きでいるだけで、罰が下るの?」

お父さんはもう一度僕の目を見て──違う。僕の瞳の奥に、誰かを見ているような、そんな顔をしていました。
とても優しい目で、なんとなくふわふわした顔。それがお母さんを見るときの顔だと、気付きました。

だからもう一度、僕は頼みました。

「お父さん。お母さんを……“造って”よ」

こうして、お父さんはお母さんを造って、家族三人がまた揃って、幸福な家族はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。











──なんて、なる訳無いことくらい、わかってたはずなのにね。

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