SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】
好きだから。好きじゃないけど。 ( No.48 )
- 日時: 2023/02/11 07:51
- 名前: 優羽
少し色気のあるリップ音がそこには響いた。
1度離れて、また触れた。
男の人の唇も、柔らかいんだ。
震えて、すぐ離れちゃう。きっと恥ずかしいんだろうな。
そんなことを考えている、まるで恋人かの様に。
感覚が麻痺してしまう。彼は、私の事が好きなんだと。
感覚が鈍ってしまう。興味本位でこんなことをしてしまった。好きか分からない人と。
彼女は絶対に彼に「私の事が好きか」と聞いてこなかった。
彼女の心に何かしらあるからだろう。
そんな彼女を、彼は友達として、好きだった。
恋愛感情と言われても納得できない、でも好き、そんな感じ。
この関係に体まで付いてきてしまえば、もうただの体を重ねるのみの関係である。
自分のことが好きかも分からないのに触れてもらえる。彼女はその事に幸福を覚えていた。しかし、その幸福は現実に引き戻されると深い傷となる。
「彼は私の事が好きな訳では無い」と。
深い傷は、ぽたぽたと血を流した。
痛いって。直してって。責任とってって。
しかし彼女はその痛みを間接的に伝えることはあっても直接伝えたことは1度もなかった。
彼は彼女に傷を作ってしまったことには薄々勘づいていた。でも、何をしても、傷をえぐる事しか出来ない気がした。
だからほっといた。知らないふりをした。
痛かったら、頼ってくれるだろう、と根拠の無い信頼を胸に。
かさぶたにはなれなかったその傷は今も尚血を流している。
いずれ彼には本当に好きだと言える人が出来るだろう。
私が居ると恋愛出来ないよね。ごめんね。
ふと、貧血に陥った。
この傷、早く治らないかな。
「体調悪い?」
1番に異変を感じたのは、彼だった。
ずるいよ。誰のせいだと思ってんの。
怒りが溢れてくると同時に、彼に縋りたくなった。深さが悪化するだけなのに。
痛い。痛いよ。
ぐりぐりと掘られていく傷は血を流した。いつも以上に。
癒えない傷に触れながら彼はこう言った。
「痛いなら離れたらいいのに」
責任は感じていないらしい。まぁそうか。勝手に好意抱いて、邪魔だったよね。
「離れたくない」
体は正直だった。
封印していた行為をした。深く、熱く。
しかし、彼女は唇に触れただけ。この先は彼が感じさせているのだ。
もう、分からないよ。
この2人は傷から流れる血を無視し、傷を深掘りし続けた。