SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

僕の絵の具 ( No.9 )

日時: 2020/11/21 16:54
名前: ぶたの丸焼き

「『僕』は優しいね」

「いつもありがとう」

 母さんの言葉が、僕をこの世界に繋ぎ止めてくれる。

「お礼なんてしないでよ。僕がそうしたいだけなんだから」

 優しい桃色で、僕は母さんに笑いかける。

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「ねえ、『僕』」

「なに?」

「話があるの」

 母さんは僕に言った。その顔は真剣そのもので、僕は悟った。

「もしかして、父さんの話?」

 母はこくりと頷く。

「まだあの人とは話はしていないの。だけど、……離婚しても良い?」

 僕は用意していた言葉を母さんにあげた。

「うん。僕は良いよ。母さんの人生なんだから、好きに生きて」

「本当に?」

 母さんの瞳は揺れていた。

「『僕』、それは『僕』の本心?」

 僕はいつも胸の内を秘めている。時には嘘だって吐く。それを母さんは知っている。
 僕は暖かな橙色でそっと言った。

「本心だよ。僕は父さんと家族でいたいとは思っていない」

 そう。嘘ではない。だって、

 僕は、なにも思っていないのだから。

 父さんと家族でいたいと思ってはいない。家族でいたくないとも思わない。母さんが何をしようと構わない。幸せになろうが、不幸になろうが。

 どうでもいい。

 どうだっていい。

 なんなら、面倒臭い。

 僕の絵の具は万能だ。赤に青に黄。そして、白。どんな色でも作ることが出来る。
 幼い頃から使い続けてきたから、もう、残り少なくなってしまったけれど。

 あれ。

 ない。ない。ない。ない。ない。








 ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。ない。

 絵の具が、ない。

 使いすぎた?

 赤と、黄と、白。

 柔らかな色を作る絵の具が、もう、ほとんど残っていない。

 そんな。

 青じゃ駄目だ。青は『賢』。優しい色には使えない。

 そんな。

 それじゃ、僕は、









 どうやって生きればいいの?

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