コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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「未来」の神様 お知らせありますよ
日時: 2011/03/08 19:50
名前: 神村 (ID: 5Yz4IUWQ)

こんにちは。はじめまして。神村です。
ジャンルに「複雑・ファジー小説」が出来ましたので引っ越します。
この物語はファンタジー小説です。神様ってどんな生活を送っているのでしょうか?色々と大変なようです。たまに意味不明な話があるかもしれませんが、伏線だと思います。多分。
※No.3から作者名のトリップ機能を使用します。
目次
用語・設定紹介>>3
人物紹介 >>1
零話 >>2
壱話「落ちこぼれ神様見習い」>>5 おまけ>>6
弐話「変人神様と落ちこぼれ」>>7 >>10 >>11 >>12
参話「試験といのちと」>>16 >>24 >>29おまけ >>30
肆話「教え子見習い」>>33 >>41 >>48 >>49
伍話「トラブルメーカー」>>50 >>52

※お知らせ >>51

★お客様☆
神無月様  あいすくりーむたべたいな様  虎々かれーらいす

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第肆話「教え子見習い」 ( No.48 )
日時: 2011/01/22 18:53
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
参照: 誠心誠意、書きます。

毎回毎回、見ていただいて作者冥利につきます。ありがたいです。……閲覧数が500超えたら何かやろうかな?ではどうぞ。






「それよりもほれ、もう決着がつきそうだぞ」

 来歌が戦っている方向を指差した。







 来歌は必死に走っていた。時折、邪《よこしま》による黒の魔弾を器用に避けながら。来歌は分かっていた。普段使っている術の威力では邪《よこしま》は倒れないことを。

 黒の魔弾は地をえぐり、石を飛ばしながら小さい傷ながらも確実に来歌を痛めつけてくる。腕や足に徐々に増えてくる傷に顔をしかめながらも来歌は神力を練りながら反撃の機会を待っていた。来歌の神術の習得数の少なさには訳がある。

 そして反撃の機会は訪れた。邪《よこしま》の攻撃に一瞬の隙が出来たのである。来歌は邪《よこしま》の横に光の蝶を見た気がしたが気にする余裕はなかった。

「私の必殺。いっくよーー!!全てを浄化する聖なる炎よ。神術『浄火』!最大出力!!」

 来歌が大きな声で唱えた。すると伸ばした手から先程の浄火の炎とは比べ物にならないくらい大きい炎が出て、それはいとも簡単に邪《よこしま》を飲み込んだ。

 この『浄火』は来歌の全力の一撃。来歌は自分の分というものをわきまえていた。全くもって才能のないのならば、広く浅く覚えても意味がない。一撃に百の威力を持たせなければ生きていけない。一種の悟りにも似た考えだった。それだけ、『神』とは厳しい。

「ギィイヤアアアアァアァアアァアア!!」

 公園の地面を焦土と化す勢いの一撃をうけた邪《よこしま》は耳障りな声でけたたましく断末魔を上げてそのまま塵となって空気に霧散して消滅した。

「やったーーー!!先生!!見ましたか!?いまの!」

 かっこ良くなかったですか!?と、うざったいほど
に浮かれまくる来歌に我は、

「すまん。見ておらぬ」

 とそっけなく答え、邪《よこしま》を惑わした光の蝶の姿をした己の式を小さく呪を呟いて消した。光の蝶は光のりんぷんを散らしながら空に溶けるように消えた。来歌と山田は気づかない。

「えーーーー!?そ、そんな……。くっ。や、山ちゃんはみてくれたよね!!?」

「や、やまちゃん!??いつの間に!?」

 うなだれたかと思うと次の瞬間には山田に詰め寄る来歌。山田はいつの間にかに付いた『山ちゃん』なるあだ名に戸惑うばかりだ。いつまでもじゃれ合う二人(正確には片方が突っかかっているだけなのだが)を我はいささか呆れた目で見た。割とあっさりと片付いてしまったことに多少の違和感は感じたが。











 所かわって公園から500メートル離れた上空。その男は上手く久遠たちに見えない位置にいた。

「クククク。ちゃんと仕掛けは効いているようですね。長年かけて準備した甲斐がありますよ」

 その姿は見る者に不審をあたえる姿だった。黒一色のボロボロの古ぼけた和服に、首から下には乾いた血痕が付着したこれまたボロボロの包帯が巻いてあった。腰まである不ぞろいの黒髪はぼさぼさで輝きを失っていた。肌は死人のように青白く、瞳だけがギラギラと欲望で輝いている。

 数百年前の幽霊を思わせるその男は背が高く体つきも一般の人よりもがっしりとしていた。口調と外見にここまでギャップがあるの人も珍しい。

 恐ろしいまでに低いその声で男はさも愉快そうに、

「じっくりと壊してあげますよ。神様。その未来を視るその目を絶望だけを映すようにしてあげますよ」

 にたぁと口角を持ち上げ哂(わら)った。見るだけで寒気がするような笑みだった。

「あの時以上に楽しくなるといいですねぇ」

 凶悪犯罪者だって震え上がるような声音で男は告げた。

 下にいる「未来」を司る神とその教え子へとむけて。

    

第肆話「教え子見習い」 ( No.49 )
日時: 2011/02/02 20:58
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
参照: 遅れててごめんよ。がんばります

続き。第肆話終わり。どうぞ。




「あの時以上に楽しくなるといいですねぇ」

 凶悪犯罪者だって震え上がるような声音で男は告げた。

 下にいる「未来」を司る神とその教え子へとむけて。










 ぞくりと戦慄にも似た感覚に我はほぼ反射的に振り向いた。しかし、そこには何もなかった。

「?」

「どうしたんですか?先生」

「いや、なんでもない。それよりも山田よ」

 我は少し何もいないはずの空を凝視し、来歌の声で我に返った。まあ、今詮索しても仕方ないため山田に声をかける。

「はい、なんですか?」

「うむ。先程起きたことを他の者に話さないで欲しいのだ。我等は本来この世界にいないことになっておるのでな。もちろん、忘れたいと言うのであれば忘れさせてやるぞ」

 どうする?と山田を促すと、

「わかりました。この事は誰にも言いませんよ」

 即答だった。迷う必要もないと言っているようだった。

「ほう?よいのか?今ならば何も知らないただの一般人になれるのだぞ。それに、知っているだけで我々神の協力者としてかりだされるかも知れぬ」

「そうそう。山ちゃん、普通の人なんだから無理しちゃ駄目だよ?」

 我の言葉に来歌は心配そうに付け足した。山田の不憫さに拍車をかけることには流石にためらわれるのだろう。

 山田はそれにうっと答えと詰まらせたが、それでも決意は変わらないらしく、

「無理に決まっているじゃないですか。貴方達みたいな人達を忘れろなんて。俺は一応これでも貴方達に命を救われたんですよ?命の恩人を忘れろって言うんですか!?そんなの酷いじゃないですか!」

 と一息でまくし立てる。言いたい事を言い終わり、一息で長い台詞をまくし立てたせいか肩で息をしている山田に、

「山ちゃん……」

「山田、お主……」

 このまま感動的な場面に突入するかに思われたが、我と来歌は、

「「喜んでパシリになるとは……」」

 と打ち合わせたように同時に呟いた。

「はいぃ?!」

 素っ頓狂な声を上げ、コントに出ている芸人よろしく山田はずっこける。

 混乱状態にある山田に止めを刺すように我は、

「いやいや、お主がそこまで神を信仰しているとは知らなかったな。なかなかに見上げた根性よ。流石は山田。なあ?来歌よ」

 我のわざとらしい口調に来歌は気づき、頷いた。

「はい!流石だよ!!山ちゃん!」

「え?ちょっ」

 そのまま、ずるずると山田を流すことにする。

「パシリ決定、おめでとう。山田。さて、それについての詳しい話だが……」

「だから、ちょっと待」

「おめでとう!山ちゃん!空から手紙が来るかもね☆」

「人の話を聞けよ!あんたら!!スルーって結構心が傷つくんだぞ。知っているかぁああああ!!」

 山田、全力の突っ込み。しかし、それを我は聞き流す。

「ちなみに空から手紙が来るって言うのは本当だぞ?」

「え?マジ?」

「うむ。協力して欲しい時にな。そう滅多に来る物でもないから、安心するがいい」

「あぁ、そうなんだ。よかったー」

「紙飛行機でくるんだよ。山ちゃん」

 にこにこと笑顔で来歌が付け足す。

 その言葉にギョッと驚愕の表情を浮かべた山田に我は、

「夢があっていいだろう?」

 と言ってやった。

 山田は大きく息を吸い込み、

「そんな夢いるかぁああああァアアアア!!!!」

 渾身(こんしん)の突込みを入れる。その後の山田の突っ込みの嵐は凄かったのは言うまでもない。これだけ元気があるのだから、自殺など馬鹿げた考えは無くなったはずだ。我は心の中で少し安堵の息を吐いた。









 山田の突っ込みの嵐が終わった後、山田と別れとすまし、我と来歌は人の世から神の住まう世界へと戻って来た。こちらの空も夕焼けが美しい時間になっていた。我の『未来の間』にある鏡を使って誰にも見られる事もなかった。見られたら少々厄介なのだ。神という者は人の世など滅多に降りない。特に我のような者は。

 まだ消してない『具現』で出現させた応接室にある様な椅子に我と来歌は腰掛けた。

 お茶を再び精霊に淹れてもらい、来歌がくつろいだところで、

「さて。初めて人を救い、邪《よこしま》に勝利した気持ちはどうだ?」

「え?あれって救ったに入るんですか?」

「一応はな」

 一応自殺を阻止したであろう?と我が言うと来歌がそういえば……と呟いた。

「うーん……。そうですね……。私は難しく考えるのは苦手なんで素直によかったなとかやったー!!ぐらいしか思いませんけど?」

「そうか。まあそれぐらいが丁度いいだろうな。素直な気持ちを忘れるなよ?」

「了解です!」

 笑顔で敬礼する来歌を我は少し眩しく感じ、目を軽く細めた。

「ああ、そうそう。忘れるところだったな。ほれ」

 我は懐から小さなバッチを来歌に軽く投げた。来歌は慌ててそれを受け取った。

「なんですか?これ?」

「『教え子見習いバッチ』だ。それがあれば弟子と同じような権限を持つことが出来るぞ。大抵の部屋には入れるだろう」

「おおっ!RPGみたいですね!ありがとうございます」

 来歌の手の中にある小さなバッチは銀色のひし形で三センチぐらいの大きさだ。中央には漢字で『見』の文字が書かれている。

 来歌はそれを右胸に付け、ご満悦な笑みを浮かべていた。

「では、改めてよろしく。神門 来歌よ。お主は今日より我の教え子見習いだ。精進するがよいぞ」

「はい。私、精一杯頑張ります!!先生ッ!」

 来歌は元気よく頷き、我の手を力強く掴んでブンブンと上下に振った。その若さ特有の必死さが微笑ましくて我は少し笑った。















 この時、心の片隅で感じていた確信めいた予感は悪くも当たる事になる。

 誰もが望まない運命の歯車はゆっくりと回り始めた。

軋んで嫌な音をたてながら。

第伍話「トラブルメーカー」 ( No.50 )
日時: 2011/03/06 18:54
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
参照: 亀よりもアリよりも遅い更新。

遅くなってすみません。もう、この小説は一ヶ月に一回見ればそれで事足りると思います。チッ、屑作者め。しょうがねぇ、見てやんよという宇宙よりも御心が広い方はどうぞ。







第伍話「トラブルメーカー」

 神と人との違いはそんなでもない。結婚だってするし、子どもだって持てる。実は神にも種類があって「成神《なるかみ》」と「至神《ししん》」の二つだ。「成神」は夫婦となった神達の子に創造主がお創りになった魂を持たせた者。今生まれている神の大部分はこれにあたる。そしてもう一つが「至神」。至る《いたる》神と書いて至神と読ませる。人の魂が生前厳しい試練を乗り越え、磨きをかけ、輝きが唯一無二の物になったらなると言われている。それ故に稀少だ。噂によると最初に創造主がお創りになった「第一世代」と呼ばれる神もこれに該当するらしい。「至神」には天才も多いとされるが。

 そして来歌もその「至神」の一人だ。まぁ、出来は残念だが。ああ、この世はそんなに優しいわけではないらしい。

 『執務舎』と呼ばれる建物の一室。いわゆる食堂のテーブルに来歌は突っ伏しながら唸る。食事が必要ない神々だって食事をとる。娯楽としてだが。長いテーブルではなく、小さい最大四人で使う四角いテーブルが広いこの部屋にたくさん置かれていた。ちなみに今丁度朝食の時間で泊り込みの神々が食べに来ていた。無論来歌は違うが。

「ゆず〜。どうしよう?私、駄目かも」

「何よ、今更。いつもの事じゃない。あなたのそのピンチは。よかったわね、学校一のトラブルメーカーの名は執務舎一に早くもレベルアップしそうよ」

「うぅ……。ちはや〜、ゆずが酷いよ」

「何を……今更。柚璃葉の毒舌は……標準装備だから……」

 来歌に「ゆず」と呼ばれた少女は神里 柚璃葉《かみさと ゆずりは》と言い、腰まである艶やかな黒髪と切れ長の目が印象的な優等生だ。かつて学生だった時は常に成績トップだったある意味来歌とは真逆の少女だ。そして来歌に「ちはや」と呼ばれ、ややゆっくりとした口調の少年は神田 千早《かんだ ちはや》と言い、柔らかい癖のある短い黒髪と常に眠たそうな目が特徴的だ。

 この三人は幼馴染で学生時代も様々なトラブルという名の事件を巻き起こし、解決し、もはや学校の伝説と化していた。とんでもない経歴の持ち主達である。

 仕事が始まるこの朝の時間に食堂に集まるのが三人の間で自然と決まった約束事である。

「それにしても、あなた凄いわね。かの有名な『未来』を司る神に弟子入りだなんて。意外な才能があったのかしら?」

「え?そ、そうかな?」

「うーん……。どう……だろ。あの人って『変人』のレッテルが……強いから。気まぐれかも。それよりも……来歌」

「ん?」

「何故……未だに学校の制服の……ままなんだい?」

 とても気になるんだけど、と服を指差された来歌は目を見開いた。そして何やらぶつぶつと呟く。別に私だって好きで着ているわけじゃ……とかこれも先生のせいなんだからとかなんとか。とても同情を誘う姿だった。

 来歌の姿は上は和服、下はミニスカートという中々に奇天烈な格好をしていた。対して幼馴染の二人の方はそれぞれ弟子衣装と呼ばれる和服を身にまとっていた。それぞれの役割の部屋にそれぞれ弟子の衣装が存在する。見分けるためとからしい。

「あなた弟子衣装はどうしたの?まさか……貰えなかったとか」

 柚璃葉の止めの一言で来歌はグハッと胸を押さえた。サクッという音が聞こえたのはあながち幻聴ではないだろう。

「ふ、フフフフフフ。ああ!そうですとも!!この来歌ちゃんは弟子ではありませんともさぁ!弟子になるまでお預けなんだから!イッエーイ!!来歌ちゃんは永遠の十五歳☆」

 不穏な笑い声をしたかと思うと変な口調とともにハイなテンションに陥った。キラッと効果音がついたピースをおまけに。

 すかさず柚璃葉はどこからともなく出したハリセンで来歌の後頭部を、

「早く弟子になればいい話じゃない!!馬鹿、ちょっとは落ち着きなさい!!」

——スパァアアァン!!

 と叩き(殴ったの方が近い)爽快な音を繰り出した。

「いたぁああい!」

 来歌は本気で痛かったのか涙目で訴えた。

「つまり……どん底の人間見れば元気になる?」

 千早の突然過ぎる提案に二人は騒ぐのをピタリとやめた。

 なぜそうなる?と二人の心が一つになった瞬間だった。

お知らせ ( No.51 )
日時: 2011/03/06 19:28
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
参照: 謝罪。よろしければ今後もお付き合いいただければ幸いです。

こんにちは。神村です。もう誰も見ていないような駄目小説ですが、この機会に「複雑・ファジー小説」のジャンルに引っ越そうかと思います。

何言ってんの?おまえ?と思う方もいるかと思いますが、作者の駄目っぷりがたたり少しずつシリアスに傾きつつあるこの小説。

元々この小説はライト:シリアスの割合が6:4の小説でした。どうやって明るくしよう?とかこれってセーフ?アウト?と悩むときがとても多かったです。だったら書くなよと思うでしょう?これ、リハビリなんです。ブログでオリジナル小説を書いてはしゃいでいたんですけど、すぐにスランプに陥ってしまってコレじゃ駄目だと思って始めたのがこの「未来」の神様なんです。あまり進歩していませんが。なんでライトの方にしたのかという理由は結末がハッピーエンドだからでした。単純馬鹿なんです、作者は。

ぐだぐだと乱文失礼しました。五話が終了次第ロックをかけ、引越しを完了させます。最後に、ここで応援・温かいお言葉をかけて下さいました神無月様、あいすくりーむたべたいな様、虎々様。本当にありがとうございました!あなた方の言葉でどれだけ救われたか分かりません。そしてこんな駄目小説にもかかわらず読んでくださった読者様方、感謝しています!

第伍話「トラブルメーカー」 ( No.52 )
日時: 2011/03/08 19:48
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
参照: 土下座。よろしければ今後もお付き合いいただければ幸いです。

続き。五話完結。






「つまり……どん底の人間見れば元気になる?」

 千早の突然過ぎる提案に二人は騒ぐのをピタリとやめた。

 なぜそうなる?と二人の心が一つになった瞬間だった。












 いつも通りに穏やかに始まる朝。今日も頑張るとするかと久遠が山積みの書類を神力で整理していた時。来歌が扉を勢い良くあけ、久遠に大股で近づいてきた。

「先生ッ!!人助けって必要ですよね!」

「は?何を泣きそうになっておる。頭大丈夫か?」

「中身残念ですけど、大丈夫です!それよりも先生ッ、来てください!!」

「中身が残念というのを知っていたとはな、驚きだ」

 久遠の嫌味にも動じず(というか聞いていないに等しい)、久遠の腕をむんずとつかむと来歌はそのまま『未来の間』を走って出た。久遠の制止の言葉も来歌は右から左へと抜ける。

 久遠はため息を一つ吐き、

「おい!どうでもよいが事情ぐらいは話せ」

「グズッ。そんな余裕はないんですよ!!」

「ああ、これが噂に聞くアレか。トラブルメーカーという奴か。トラブ
ルに巻き込まれるのはよく聞くが、自分で作る奴は稀だぞ」

「来歌ちゃん、ダーッシューー!!」

「聞こえてない、か」

 久遠はなんか悟った諦めの声で呟く。来歌に腕をつかまれ来歌共々全力疾走中だ。元々『変人』として名高い久遠はまあ、いいかと今の状況を楽しむ事にした。今更落ちる評判などないに等しい。











 もう、暗闇が空を覆い、星々と月の淡い光が照らしている深夜。徹夜組の神々が各自の部屋で黙々と仕事を終わらせようとしている時間。辺りをうろつく神など居なく、昼間の賑やかさとは打って変わって静寂が辺りを支配していた。

 執務舎の3階にある『医療の間』で久遠は『医療』の神に会っていた。白を基調としたこの部屋は『医療』の名が相応しく壁側にある棚に薬がズラリと並んでいた。部屋の隅々まで整理整とんがさせており、塵一つさえない掃除が行き届いている感じがした。

「お久しぶりだね」

「ん、まぁな。夜遅くにすまないな」

「それはいいけどさ。随分昔に君に定期的に来るように言ったんだけどね?」

「む……。す、すまない」

 言外に、来るって言ったよね?と得も言えぬ威圧感を醸し出す医療の神に流石の久遠もたじろぐ。彼、医療の神は命を粗末に扱うと怖いという噂が有名なのだ。のんきなイメージと穏やかな容姿に騙されてはいけない。

「ボクだって分かっているよ。君は未来を視ることが出来るから、こういう注意は不要だって事ぐらいは」

「おいおい。随分と我を買いかぶっている様だな。我の未来を視るというものが万能ではない事ぐらい、我と同期であるお主なら分かっているだろうに」

「それでも、これまでに一度しか失敗していないだろう?ボクはそれは凄い事だと思うけど」

「ふん。その一度が世界の危機だったとしてもか?」

 自嘲的な笑みを浮かべ久遠は問いかける。医療の神は痛々しいものを見たように目を伏せた。その表情は眉は下がり、眉間に皺がよって苦悶の表情になった。

「それは君のせいではないというのに。まだ自分を責めているの?」

「愚問だな。聞かなくても分かっているだろう?」

「そうだね……。君は昔からそういう人だったよね。性格は……まぁ、曲がったと言うかねじれてしまったけど」

 諦めと呆れが混じった苦笑を浮かべ、医療の神はため息を吐いた。

「文句を言うな。それよりも、我の検査の結果は?」

「ああ。未来を視ようとしたら物凄い頭痛がして視れなかったこと?」

「そうだ」

「んー……。結論から言うと……」

 告げられた言葉を聞いて久遠は目を見開いた。












「ほう、それで?」

「うぅ……。すみません。だって、千早が早く行かないと死んじゃうよ?っていうから……!」

「大丈夫だ。人間って意外に頑丈だったりするぞ?メンタル面的に」

 先程久遠は来歌を無理矢理止めて事情を聞いた。人の世に降りる的な事を言ったからだ。流石に久遠が正面きって人の世に降りるのは立場的にまずい。久遠はこう見えて偉い神の部類にあたるからだ。

 来歌の話によるととある少女がいじめを受け、今自分の命を絶つか絶たないかの瀬戸際らしい。

「でも。でもッ!」

「仕方ないな……。昨日使ったあの鏡で行くぞ」

 久遠はやれやれといった具合で肩をすくめ、来歌の人助けを了承した。

「え゛?」

「なんだ?人助けしたいのだろう。だったら、どんな事でもやるよな?」

 来歌は久遠の笑みに今更やらないって言わないよな?という文字が見えた気がした。

「誠心誠意やらせてイタダキマス!!」

 シャキッと背筋を伸ばし何故か敬礼をする来歌。

「よろしい」

 ああ、またスカイダイビングか……。パラシュートなしの。フフフ……と来歌がぶつぶつと呟いているのを久遠は無視して『未来の間』へ行く。その後に来歌の待ってぇーと言う情けない声が聞こえてくるのは言うまでもない。

 昨夜の事を思い出して久遠は苦々しい気持ちになった。

『んー……。結論から言うと……これは呪いだよ。それも、とびっきり強烈なやつだね』

(呪いだろうと関係ない。我は今ある全ての者の為に尽力するまでよ。それが誓いであり、約束だからな)

 久遠の瞳に決意の光が宿った。それは誰にも邪魔をさせない苛烈さが僅かににじんだ光だった。








 トラブルメーカー。それは騒ぎを起こし、巻き込まれる者。明るさをもってか、決意をもってかで意味は違う。



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